すぐに被害者面をする義妹が、本当に被害者になるだけのお話

睡蓮

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第3話

「というわけだ。理由はもう言わなくても分かっていると思う。メレリナ、君との婚約は今日をもって終わりにさせてもらうことにしたよ」

ルナの言葉によってアルクが決心を固めた次の日の事、アルクは自身の部屋にメレリナを呼び出すと、突然に婚約破棄の言葉を告げた。
それは大胆に、かつ計画的に。

「…一応、理由をお聞きしてもいいですか?私には全く婚約破棄を受けるだけの心当たりがないのですが…」
「まぁいいだろう。君がそう言うのなら、あえて教えてあげようじゃないか」

アルクはルナから告げられたことをすべて本当の事だと思っているため、メレリナの言葉はただただ彼女がとぼけているだけなのだろうと考えた。
だからこそ彼は、この場でメレリナの事を断罪するべくあえて婚約破棄に至るまでの理由を説明することとした。

「メレリナ、婚約破棄の理由など単純だ。僕のたった一人の妹であり、僕がなにより大事にする存在である、ルナ。彼女の事を傷つけたからだとも」
「……」
「ルナは泣いていたぞ?自分がどれだけ君との距離を縮めようとしても、君はいつもひどい言葉を返してきて全く気持ちを返してくれなかったとな。メレリナ、その自覚はあるのだろう?」

自信満々にそう言葉を発するアルクであるが、それはルナの作り上げた架空の話であるという事には全く気付いていない…。
だからこそメレリナはそれを受け入れることが出来ず、納得のいかない表情を浮かべて見せる。

「アルク様…。それはすべてルナの作り上げた嘘ですよ?むしろいじめられているのは私の方なのですよ?婚約者の言葉を信じてくださらないのですか?」

メレリナの反論はもっともであった。
しかし、それを受け入れられるほどアルクはルナの事を疑うことが出来なかった。

「それもただの言い訳なのだろう?もう婚約破棄は決まった話なのだから、最後くらい素直になったらどうなんだ?」
「素直、といいますと…?」
「ルナが僕に嘘をつくはずがないじゃないか。それはつまり、君の方が僕に言い逃れるための嘘をついているという事になる。簡単な話だとも」
「…アルク様、では私の事は全く信用してくださらないという事なのですね…」

メレリナはどこかあきらめの表情を浮かべながら、その顔を少し伏せる。
もうこれ以上の話し合いは不毛だと感じたのだろう。

「私がどれだけルナから攻撃を受けていたのかも、その度にアルク様に迷惑が掛からないようにと痛みを我慢していたことも、全てはなかったことになるのですね。ここで私がどれだけその事を訴えたとしても、アルク様のお耳には全く届かないのですね」
「…何が言いたいんだ?」
「いえ、別に。ただの独り言ですから、どうぞお気になさらないでください」

もうすでに婚約破棄が決してしまっていることは、メレリナも理解している状況だった。
だからこそ彼女は、この際に言いたいことをすべて行ってしまおうと思ったのだろう。

「私が何を訴えても、すべてルナによってかき消されるだけなのでしょうね…。アルク様は私なんかよりも、ルナの事しか見えていないのでしょうから、仕方ないですね」
「開き直られても困るよ。メレリナ、君にはルナを傷つけたという大きな罪を背負って生きて行ってもらうことになるんだ。ただの婚約破棄だけで終わるわけではない」

それもまた、ルナがアルクに願った内容だった。
メレリナの事はただの婚約破棄で終わらせるのではなく、その先まで言ってほしいと…。

「君は貴族令嬢であるから、僕の元に残してあげてもいいわけだが…。だが、ここはあえて追放という選択肢をとらせてもらうことにする。ルナはもう二度と君と顔を合わせたくないと言って、泣いているんだ。そんな彼女の心をこれ以上、傷つけるわけにはいかない。それを実現するには、君には二度とここに戻ってきてもらわないようにする他ない。それが、追放という結果だ。この男爵家が管理する区域には立ち入ってはならない」
「……」

それは、これまでの婚約破棄における結果を考えれば非常に厳しい措置だった。
男爵家は貴族家であり、管理する区域は非常に広い。
そこに立ち入らないという事は、今後のルナの行動範囲は非常に制限されるという事を意味する。
ルナはそこまで願ったのだった。

「君がどう思うかは分からないが、これが決定事項だ。受け入れてもらおう」
「そうですか…。ルナはそこまで私の事を迫害するつもりなのですね…。自分の野望を叶えるためだけに…」

メレリナは以前から、ルナの危険な性格には気づいていた。
それは同性ゆえなのか、それとも婚約者と義妹の関係性だから見抜けたのかは定かではないものの、その直感に感じるものがあったのだろう。
…アルクはその事に全く気付いていないというのに…。

「分かりました、それじゃあ私はここから立ち去らせていただきます。皆さんが祖納望まれているご様子ですので、文句もありません。私がいなくなった後を、どうぞお楽しみください」
「あぁ、もちろんそうさせてもらうとも」

それが、婚約者としての二人の最後の会話だった。

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