5 / 6
第5話
しおりを挟む
――ユーゲント騎士とラフィーナの会話――
「…というのが、私が受けた婚約破棄におけるすべてです」
「やれやれ…。伯爵の奴、裏で何か考えているのだろうとは思っていたが、まさかここまで乱暴なやり口を…」
ブルック伯爵とエレシアがその距離を縮めている一方、ラフィーナは騎士であるユーゲントの元を訪れていた。
彼女が受けた婚約破棄が果たして正当なものであるのかどうか、それはユーゲント自身がその目で確認しておきたいと思ったようで、こうして直接彼女の話を聞く流れとなったのだ。
「ブルック様はおそらく、最初から私の事をエレシアへの踏み台としか考えていなかったのでしょう。だから最終的に私を追い出すことに何のためらいも持たず、同時にエレシアに近づくことを考えたのだと思います」
「はぁ…。これはもう黙って見過ごすわけにはいかないな…。ただでさえエレシアは貴族家の間でも問題児だと見られているのに、そこに伯爵が交わったならこれほど面倒なことはない。早めにくぎを刺しておくのが正解か」
ユーゲントは冷静に、それでいて的確に状況を分析し、ブルックの思惑を阻止するべく計画を始めた。
その計画こそ、ブルックを伯爵としての貴族家から追い落とすことになる。
――それからしばらくして――
「久しぶりだな、伯爵よ」
「ユーゲント騎士様!?!?」
誰かと何かの約束をしていたのか、街の中でなかなかに派手な格好をしているブルック。
そんな彼のもとに姿を現したのは、彼が約束していた人物ではなく、ユーゲントであった。
「ど、どうして騎士様がこんなところに!?!?」
「伯爵、生憎だがお前の待ち人はここには来ないぜ?」
「は、はい…!?!?」
事態が全くの見込めない伯爵に対し、ユーゲントは淡々と事実のみを口にしていく。
「伯爵、お前は今日エレシアと約束をしていたんだろう?大方、双方の今後の事について相談でもするつもりだったんだろうが」
「そ、それは…」
「不思議だよなぁ。ついこの間までラフィーナという婚約者を持っていたお前が、もう次の相手を見繕っているのか?もてる男はすごいねぇ」
「そ、そういうわけでは…」
どこか言葉を返しずらそうな雰囲気を見せる伯爵であるが、ユーゲントはそのまま言葉をゆるめない。
「ラフィーナから聞いたんだがな。お前は彼女の事を全く愛していなかったそうじゃないか。むしろそれどころか、彼女にエレシアになるよう命じ続けて、そのゆがんだ心を満足させようとしたとも」
「!?!?」
その事は他言無用であったはずのもの…。
それをすでにユーゲントに知られてしまっているという事実に、伯爵はその心をドキリと震わせる。
「ラフィーナを捨ててエレシアを選ぶだなんて、ちょっと俺には考えられないなぁ…。知らないのか?エレシアの本性がどんな人間であるのか…」
「ほ、本性…?」
ユーゲントはそう言葉を発すると、それまで自身の懐に抱えていた一部の資料をそのまま伯爵に向けて差し出した。
伯爵は何のことか理解できない様子だったものの、流れのままに差し出された資料を受け取り、その内容に目を通していく。
…すると直後、その体を大きく震わせながらこう言葉を発した。
「こ、これは…!?エレシアの過去に関するものですか…!?」
「彼女がどれだけ自分を偽り、どれだけその事で周りをだまし続けてきたのか、に関する書類だとも。それを見るに、エレシアは全く素直でも健気でもないようにしか見えないが?どこからどう見てもただの性悪な貴族令嬢にしか見えないが?」
「ま、まさか…こんなことが…」
それまでエレシアに対して抱いていた幻想が、音を立てて崩れていく。
しかし話はまだそこでは終わらない。
「ラフィーナはそんなエレシアの幻想にとらわれたお前を、助け出そうとしていたのになぁ。お前はそんな彼女の愛情に気づかず、それどころかその愛情にあだで返すかのような事をしたというわけだ。婚約破棄という名目のな」
「…!?!?」
伯爵は自身の体の震えを抑えることが出来ない。
それほどまでにユーゲントから告げられた事実は重いものだった。
「こんなろくでもない男に、伯爵としての座を与え続けるわけにはいかないよな」
「ちょ、ちょっと待ってくださいユーゲント様!!それはあまりに!!」
「あまりに?ラフィーナはお前がこうなる未来を防ごうとしていろいろと動き回っていたんだろう?そんな彼女の事を追い出すという事は、お前はすでに自分で伯爵の位から降りることになんの抵抗もないという事だろう?なのになんでそんな慌てているんだ?」
「う…」
「まぁ心配するな。エレシアの悪だくみもそのうちすべて表に出る。そうなった時、お前も一緒にそうなればいいだけの話。それを選んだのはお前自身なのだからな」
「……」
…一瞬にして自分の運命を狂わせてしまった伯爵は、その事を未来永劫後悔し続けることになるのだろう。
せめて自分の隣にラフィーナがいてくれればと思う伯爵のもとに、すでに彼女はいないのだから…。
「…というのが、私が受けた婚約破棄におけるすべてです」
「やれやれ…。伯爵の奴、裏で何か考えているのだろうとは思っていたが、まさかここまで乱暴なやり口を…」
ブルック伯爵とエレシアがその距離を縮めている一方、ラフィーナは騎士であるユーゲントの元を訪れていた。
彼女が受けた婚約破棄が果たして正当なものであるのかどうか、それはユーゲント自身がその目で確認しておきたいと思ったようで、こうして直接彼女の話を聞く流れとなったのだ。
「ブルック様はおそらく、最初から私の事をエレシアへの踏み台としか考えていなかったのでしょう。だから最終的に私を追い出すことに何のためらいも持たず、同時にエレシアに近づくことを考えたのだと思います」
「はぁ…。これはもう黙って見過ごすわけにはいかないな…。ただでさえエレシアは貴族家の間でも問題児だと見られているのに、そこに伯爵が交わったならこれほど面倒なことはない。早めにくぎを刺しておくのが正解か」
ユーゲントは冷静に、それでいて的確に状況を分析し、ブルックの思惑を阻止するべく計画を始めた。
その計画こそ、ブルックを伯爵としての貴族家から追い落とすことになる。
――それからしばらくして――
「久しぶりだな、伯爵よ」
「ユーゲント騎士様!?!?」
誰かと何かの約束をしていたのか、街の中でなかなかに派手な格好をしているブルック。
そんな彼のもとに姿を現したのは、彼が約束していた人物ではなく、ユーゲントであった。
「ど、どうして騎士様がこんなところに!?!?」
「伯爵、生憎だがお前の待ち人はここには来ないぜ?」
「は、はい…!?!?」
事態が全くの見込めない伯爵に対し、ユーゲントは淡々と事実のみを口にしていく。
「伯爵、お前は今日エレシアと約束をしていたんだろう?大方、双方の今後の事について相談でもするつもりだったんだろうが」
「そ、それは…」
「不思議だよなぁ。ついこの間までラフィーナという婚約者を持っていたお前が、もう次の相手を見繕っているのか?もてる男はすごいねぇ」
「そ、そういうわけでは…」
どこか言葉を返しずらそうな雰囲気を見せる伯爵であるが、ユーゲントはそのまま言葉をゆるめない。
「ラフィーナから聞いたんだがな。お前は彼女の事を全く愛していなかったそうじゃないか。むしろそれどころか、彼女にエレシアになるよう命じ続けて、そのゆがんだ心を満足させようとしたとも」
「!?!?」
その事は他言無用であったはずのもの…。
それをすでにユーゲントに知られてしまっているという事実に、伯爵はその心をドキリと震わせる。
「ラフィーナを捨ててエレシアを選ぶだなんて、ちょっと俺には考えられないなぁ…。知らないのか?エレシアの本性がどんな人間であるのか…」
「ほ、本性…?」
ユーゲントはそう言葉を発すると、それまで自身の懐に抱えていた一部の資料をそのまま伯爵に向けて差し出した。
伯爵は何のことか理解できない様子だったものの、流れのままに差し出された資料を受け取り、その内容に目を通していく。
…すると直後、その体を大きく震わせながらこう言葉を発した。
「こ、これは…!?エレシアの過去に関するものですか…!?」
「彼女がどれだけ自分を偽り、どれだけその事で周りをだまし続けてきたのか、に関する書類だとも。それを見るに、エレシアは全く素直でも健気でもないようにしか見えないが?どこからどう見てもただの性悪な貴族令嬢にしか見えないが?」
「ま、まさか…こんなことが…」
それまでエレシアに対して抱いていた幻想が、音を立てて崩れていく。
しかし話はまだそこでは終わらない。
「ラフィーナはそんなエレシアの幻想にとらわれたお前を、助け出そうとしていたのになぁ。お前はそんな彼女の愛情に気づかず、それどころかその愛情にあだで返すかのような事をしたというわけだ。婚約破棄という名目のな」
「…!?!?」
伯爵は自身の体の震えを抑えることが出来ない。
それほどまでにユーゲントから告げられた事実は重いものだった。
「こんなろくでもない男に、伯爵としての座を与え続けるわけにはいかないよな」
「ちょ、ちょっと待ってくださいユーゲント様!!それはあまりに!!」
「あまりに?ラフィーナはお前がこうなる未来を防ごうとしていろいろと動き回っていたんだろう?そんな彼女の事を追い出すという事は、お前はすでに自分で伯爵の位から降りることになんの抵抗もないという事だろう?なのになんでそんな慌てているんだ?」
「う…」
「まぁ心配するな。エレシアの悪だくみもそのうちすべて表に出る。そうなった時、お前も一緒にそうなればいいだけの話。それを選んだのはお前自身なのだからな」
「……」
…一瞬にして自分の運命を狂わせてしまった伯爵は、その事を未来永劫後悔し続けることになるのだろう。
せめて自分の隣にラフィーナがいてくれればと思う伯爵のもとに、すでに彼女はいないのだから…。
85
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので、あなたの国に関税50%かけます~最終的には9割越えの悪魔~
常野夏子
恋愛
隣国カリオストの第一王子であり婚約者であったアルヴェルトに、突如国益を理由に婚約破棄されるリュシエンナ。
彼女は怒り狂い、国をも揺るがす復讐の一手を打った。
『本日より、カリオスト王国の全ての輸入品に対し、関税を現行の5倍とする』
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
病弱令嬢…?いいえ私は…
月樹《つき》
恋愛
アイゼンハルト公爵家の長女クララは生まれた時からずっと病弱で、一日の大半をベッドの上で過ごして来た。対するクララの婚約者で第三皇子のペーターはとても元気な少年で…寝たきりのクララの元を訪ねることもなく、学園生活を満喫していた。そんなクララも15歳となり、何とかペーターと同じ学園に通えることになったのだが…そこで明るく元気な男爵令嬢ハイジと仲睦まじくするペーター皇子の姿を見て…ショックのあまり倒れてしまった…。
(ペーターにハイジって…某アルプスの少女やんか〜い!!)
謎の言葉を頭に思い浮かべながら…。
このお話は他サイトにも投稿しております。
婚約破棄は既に済んでいます
姫乃 ひな
恋愛
婚約者に婚約破棄を言われてしまいました。
私にはどうすることもできません。何故なら既に両家の当主で婚約破棄についての話し合いは済んでおりますから…
※説明不足の部分がありますが実際の会話のテンポ感を感じながら読んでいただけると嬉しいです。
※初心者のため手探りで始めています。よろしくお願いします。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは夫と婚姻してから三年という長い時間を振り返る。
その間、夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる