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第5話
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――ルーグルとリリアーナの会話――
「…お兄様、最近なんだか私たちを見る周囲の目がおかしいとは思いませんか?」
「そうか?僕は全くそうには見えないが…」
ある日の事、リリアーナはルーグルに対してそう言葉をつぶやいた。
それは、ここ数日に当たって彼女がその心の中に思い続けていたものだった。
「だってお兄様、以前までならお兄様の名前を出したらみんな私たちのいう事を聞いてくれたではありませんか。だというのに最近は、なんだか私たち兄妹の事を馬鹿にするような視線を向けてきてはいませんか?」
「ま、まさか…。伯爵であるこの僕に逆らえないのは、今も昔も変わっていないだろう?」
…ルーグルの雰囲気は、どこかリリアーナに対して隠し子を抱えているようなそれだった。
ルーグルがその心の中に抱くもの、それは…。
「(リリアーナに知られるわけにはいかないのだ…。まさかあの後、伯爵としての位を取り上げられることになってしまったなど…。しかもそのきっかけを作ったのが、僕らの追い出したエリナであるなどと…。絶対に知られるわけには…)」
そう、まるでエリナに任される形で決着してしまったこれらの出来事を、ルーグルはどうしても受け入れられないでいた。
だからこそその事をリリアーナに伝えることもできていないわけである。
「…ではお兄様、最近私のお願いをあまり聞いてくださらないのはどうしてですか?」
「き、聞いていると思うのだが…?」
「聞いていないじゃないですか。もしかして私の事が嫌いになったのですか??私がなにかお兄様のお気を悪くしてしまうようなことをしてしまいましたか??それならこの場で謝りますけれど…」
「そ、そうではないんだセレス!決して君が僕にどうこうしたというわけでは…」
「なら、きちんと話してくださいませ。私は心からお兄様の事を愛しているのです。にもかかわらずお兄様の方から冷たい態度をとられるのは、すごく寂しいです…」
「セ、リリアーナ……」
リリアーナからそう言葉をかけられたルーグルは、その心を大きく揺らされる。
というのも、じぶんのことを愛してくれているリリアーナであるなら、全ての真実を知っても自分の事を許し、受け入れてくれるのではないかと期待を抱いたためである。
「(…リリアーナが今僕にかけてくれた言葉は、それはそれは真実の愛からくるものだった…。これほどの思いを抱いてくれているなら、もうすべてを明かしても大丈夫なんじゃないだろうか…?たとえ僕が伯爵でなくなってしまっても、以前のように権力がなくなってしまっても、僕が彼女にとってたった一人の兄であることは変わりのない事なんだ。ならきっと、彼女は全てを受け入れてくれるはず。力を失ってしまった僕の事を見ても、変わらず接してくれるはず…!)」
そう期待心を抱いたルーグルは、それをそのまま口にすることとした。
…むしろそうなることを、彼自身の方から期待していたかのように…。
「…リリアーナ、実は君に伝えなければならないことがあるんだ…」
「…??」
非常にシリアスな雰囲気を見せるルーグルの姿を見て、リリアーナはむしろなにか期待するかのような表情を浮かべる。
「(…これは決まりだわ!きっとお兄様、私にとびきりのプレゼントを送ってくれるのよ!最近あまり私の願いを聞いてくれていなかったのは、この時のためだったのね!まったくお兄様ったら演技がお上手なんだから!最近あまりにも深刻そうな顔を見せることがあったから、もしかしたらなにかよくないことが起こったんじゃないかと心配していたもの!よかったわぁ、それがただの勘違いだったとわかって…!)」
まるでルーグルの心を先読みしているかのようなそのつぶやき、しかしそれは現実とは正反対であり、その思いはすぐに完全に裏切られることとなる…。
「リリアーナ、僕はもう伯爵ではないんだ…。僕と君が一緒になって追い出したエリナが貴族会に働きかけて、僕の事を告発したらしいんだ…。ほら、君がせがんで婚約破棄をしただろう?どうやらあれがきっかけになってしまって、僕らはそろって貴族会から見放されてしまったらしいんだ…」
「……」
「い、今まで黙っていたことは本当にごめん…。リリアーナ、君のことを思えば思うほどに言えなくなっていってしまったんだ…。だけど、それは間違いだったって今気づいた。リリアーナはこんなにも僕の事を思ってくれていたというのに、僕は君に嫌われることを恐れてなんにも言えないでいたんだ…」
「……」
「だからリリアーナ、もうなにも隠す必要はないんだ。僕たちは互いに真実の愛で結ばれたもの同士、お互いを偽る必要なんてもうないんだ!」
「……」
「だからリリアーナ、これからも僕の事を愛して」
「ふざけないでよ!!!!」
「っ!?!?!?」
…それまで静かに黙っていたリリアーナが、突然に大きな声を上げる。
その雰囲気はルーグルが期待したものではなく、むしろ正反対と言えるものであった…。
「ふざけないで!!はぁ??伯爵の位を取り上げられた??だからもう自分には権限がない??だったらあなたなんてなんの存在価値もない男じゃない!!」
「!?!?」
「私が今まであんたについてきたのは、ただただあんたが人よりも上の存在だったから!だから内心では嫌だった言葉も言い続けてきたし、我慢し続けてきた!なのに、それが今や何もなくなってしまったなんて、それじゃああなたには何の存在価値があるっていうわけ!?」
「だ、だからそれは何度も言っている通り、僕たちの真実の愛たる関係がそこにあるわけで…」
「真実の愛なんてあるわけないでしょ!!私が好きだったのはあんたじゃなくて、権力そのものなの!」
…それまで自分に見せていた物とは全く違うリリアーナの姿に、動揺を隠せないルーグル。
今まで信じてきたリリアーナの姿が音を立てて崩れていくその姿は、まさに自業自得であると言わざるを得なかった。
「気づいていたのはお姉様だけだったみたいね。だから邪魔な存在のお姉様をここから追い出したわけだけど、結局それでも同じ結末になるとはね…。まぁお兄様が馬鹿でいてくれたから、しばらくは良い夢が見られたけれど…」
「……」
「お兄様?やっと気づきましたか?私は最初からお兄様の事なんて好きでも何でもなかったんです。でも私の願いをなんでもかなえてくれていたから、ネコを演じてあげていい気持ちにさせてあげてきたのに…。それがもうできないのなら、お兄様に存在価値はやっぱりありませんわね。いっそのことここから消えていただく方が…」
「…!!!!!」
…夢を壊された男がどういう行動に出るのかを、夢見がちなリリアーナは知らないままだった…。
「…お兄様、最近なんだか私たちを見る周囲の目がおかしいとは思いませんか?」
「そうか?僕は全くそうには見えないが…」
ある日の事、リリアーナはルーグルに対してそう言葉をつぶやいた。
それは、ここ数日に当たって彼女がその心の中に思い続けていたものだった。
「だってお兄様、以前までならお兄様の名前を出したらみんな私たちのいう事を聞いてくれたではありませんか。だというのに最近は、なんだか私たち兄妹の事を馬鹿にするような視線を向けてきてはいませんか?」
「ま、まさか…。伯爵であるこの僕に逆らえないのは、今も昔も変わっていないだろう?」
…ルーグルの雰囲気は、どこかリリアーナに対して隠し子を抱えているようなそれだった。
ルーグルがその心の中に抱くもの、それは…。
「(リリアーナに知られるわけにはいかないのだ…。まさかあの後、伯爵としての位を取り上げられることになってしまったなど…。しかもそのきっかけを作ったのが、僕らの追い出したエリナであるなどと…。絶対に知られるわけには…)」
そう、まるでエリナに任される形で決着してしまったこれらの出来事を、ルーグルはどうしても受け入れられないでいた。
だからこそその事をリリアーナに伝えることもできていないわけである。
「…ではお兄様、最近私のお願いをあまり聞いてくださらないのはどうしてですか?」
「き、聞いていると思うのだが…?」
「聞いていないじゃないですか。もしかして私の事が嫌いになったのですか??私がなにかお兄様のお気を悪くしてしまうようなことをしてしまいましたか??それならこの場で謝りますけれど…」
「そ、そうではないんだセレス!決して君が僕にどうこうしたというわけでは…」
「なら、きちんと話してくださいませ。私は心からお兄様の事を愛しているのです。にもかかわらずお兄様の方から冷たい態度をとられるのは、すごく寂しいです…」
「セ、リリアーナ……」
リリアーナからそう言葉をかけられたルーグルは、その心を大きく揺らされる。
というのも、じぶんのことを愛してくれているリリアーナであるなら、全ての真実を知っても自分の事を許し、受け入れてくれるのではないかと期待を抱いたためである。
「(…リリアーナが今僕にかけてくれた言葉は、それはそれは真実の愛からくるものだった…。これほどの思いを抱いてくれているなら、もうすべてを明かしても大丈夫なんじゃないだろうか…?たとえ僕が伯爵でなくなってしまっても、以前のように権力がなくなってしまっても、僕が彼女にとってたった一人の兄であることは変わりのない事なんだ。ならきっと、彼女は全てを受け入れてくれるはず。力を失ってしまった僕の事を見ても、変わらず接してくれるはず…!)」
そう期待心を抱いたルーグルは、それをそのまま口にすることとした。
…むしろそうなることを、彼自身の方から期待していたかのように…。
「…リリアーナ、実は君に伝えなければならないことがあるんだ…」
「…??」
非常にシリアスな雰囲気を見せるルーグルの姿を見て、リリアーナはむしろなにか期待するかのような表情を浮かべる。
「(…これは決まりだわ!きっとお兄様、私にとびきりのプレゼントを送ってくれるのよ!最近あまり私の願いを聞いてくれていなかったのは、この時のためだったのね!まったくお兄様ったら演技がお上手なんだから!最近あまりにも深刻そうな顔を見せることがあったから、もしかしたらなにかよくないことが起こったんじゃないかと心配していたもの!よかったわぁ、それがただの勘違いだったとわかって…!)」
まるでルーグルの心を先読みしているかのようなそのつぶやき、しかしそれは現実とは正反対であり、その思いはすぐに完全に裏切られることとなる…。
「リリアーナ、僕はもう伯爵ではないんだ…。僕と君が一緒になって追い出したエリナが貴族会に働きかけて、僕の事を告発したらしいんだ…。ほら、君がせがんで婚約破棄をしただろう?どうやらあれがきっかけになってしまって、僕らはそろって貴族会から見放されてしまったらしいんだ…」
「……」
「い、今まで黙っていたことは本当にごめん…。リリアーナ、君のことを思えば思うほどに言えなくなっていってしまったんだ…。だけど、それは間違いだったって今気づいた。リリアーナはこんなにも僕の事を思ってくれていたというのに、僕は君に嫌われることを恐れてなんにも言えないでいたんだ…」
「……」
「だからリリアーナ、もうなにも隠す必要はないんだ。僕たちは互いに真実の愛で結ばれたもの同士、お互いを偽る必要なんてもうないんだ!」
「……」
「だからリリアーナ、これからも僕の事を愛して」
「ふざけないでよ!!!!」
「っ!?!?!?」
…それまで静かに黙っていたリリアーナが、突然に大きな声を上げる。
その雰囲気はルーグルが期待したものではなく、むしろ正反対と言えるものであった…。
「ふざけないで!!はぁ??伯爵の位を取り上げられた??だからもう自分には権限がない??だったらあなたなんてなんの存在価値もない男じゃない!!」
「!?!?」
「私が今まであんたについてきたのは、ただただあんたが人よりも上の存在だったから!だから内心では嫌だった言葉も言い続けてきたし、我慢し続けてきた!なのに、それが今や何もなくなってしまったなんて、それじゃああなたには何の存在価値があるっていうわけ!?」
「だ、だからそれは何度も言っている通り、僕たちの真実の愛たる関係がそこにあるわけで…」
「真実の愛なんてあるわけないでしょ!!私が好きだったのはあんたじゃなくて、権力そのものなの!」
…それまで自分に見せていた物とは全く違うリリアーナの姿に、動揺を隠せないルーグル。
今まで信じてきたリリアーナの姿が音を立てて崩れていくその姿は、まさに自業自得であると言わざるを得なかった。
「気づいていたのはお姉様だけだったみたいね。だから邪魔な存在のお姉様をここから追い出したわけだけど、結局それでも同じ結末になるとはね…。まぁお兄様が馬鹿でいてくれたから、しばらくは良い夢が見られたけれど…」
「……」
「お兄様?やっと気づきましたか?私は最初からお兄様の事なんて好きでも何でもなかったんです。でも私の願いをなんでもかなえてくれていたから、ネコを演じてあげていい気持ちにさせてあげてきたのに…。それがもうできないのなら、お兄様に存在価値はやっぱりありませんわね。いっそのことここから消えていただく方が…」
「…!!!!!」
…夢を壊された男がどういう行動に出るのかを、夢見がちなリリアーナは知らないままだった…。
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