愛せない婚約者だと言うなら、いなくなってしまってもいいですよね?

睡蓮

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第1話

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「ねぇユーレン様、セレーネとの婚約はいつまで続けられるおつもりなのですか?」
「あぁ、その事はもう決めたよ。君に言われた通り、明日にでもセレーネには婚約破棄を告げてやろうと思う。僕の隣に立つのは君の方がふさわしいという事は誰の目にも明らかなのだから、セレーネとて見苦しい悪あがきはしない事だろう」
「それは本当ですか!?」
「あぁ、本当だとも♪」

非常に豪華な装飾が施された一つの部屋の中で、二人の男女が互いにうれしそうな表情を浮かべながらそう言葉を発している。
男の名はユーレンと言い、この国を統制するもの達の頂点に立つ第一王子だ。
そしてそんな彼の隣でほんのりと顔を赤くしている女はフィーナといい、ユーレンとは古くからの付き合いになる幼馴染だ。
フィーナはなにか特別な生まれや能力を持っているわけではないものの、ただひたすらにユーレンの事を持ち上げて良い印象を与え続けてきた結果、今もこうして彼と近しい関係を築くことを許されていた。

「私、ずっと思っていましたもの。ユーレン様のような素敵な方に、ただの貴族令嬢であるセレーネは不釣り合いだと。ユーレン様の隣に並び立つには、もっともっと明るくて可愛らしい方でないと」
「君の言うとおりだとも、フィーナ。そもそもは僕だってセレーネとの婚約を進めたかったわけではないんだが、なんだか急にそう言う話になってしまって…」
「…そういう話?」

ユーレンは少しだけ前を気をした後、自分とセレーネがどうして婚約関係を結ぶに至ったのかを説明しにかかった。

「いや実は、僕らの関係はお父様が決めたことなんだよ」
「お父様……ロードリー国王様ですか?」
「そうそう」

ユーレンは第一王子のイスに座ってその立場を持っているわけではあるが、ソの父親ともなると当然なんの役職も持たないはずはない。
彼の父であるロードリーは国王のイスに座っており、その直接的な権力こそ現役の第一王子には劣るものの、長らく国を支え続けてきた彼の事を崇拝するものは多く、現実的な事で考えればその権力は本気を出せばユーレンの事をしのぐことさえ可能であると見られていた。

「お父様に逆らう事なんてできないだろう?だからあの時は渋々セレーネとの婚約を受け入れることにしたんだが…」
「確かに、国王様は今だに多くの人々から慕われていますから、ご機嫌を損ねることはできませんしね…。でも、国王様は一体どうしてセレーネなんかを婚約者に?」

セレーネは貴族令嬢ではあるものの、それほど特筆するべき性質や能力を持っているわけではなかった。
ユーレンとの個人的な付き合いなどがあったわけでもなく、二人に接点といるようなものは特に何もなかった。
にもかかわらずロードリーはどうして二人を結び付けることを決めたのか、フィーナはそこを素直に疑問に思っていた。

「お父様いわく、セレーネはこの国の中で最も心優しい女性なんだってさ。貴族令嬢って言ったら、普通は傲慢で自分の事ばかり考えるのが普通の人種。だけれど彼女は、自分の事よりも周りの事を気にして気遣いを行うことが出来る数少ない人物、だと言っていたよ」
「へぇ……」

国王にはいろいろな協力者がいるため、水面下でユーレンを支えるにふさわしい女性の事を調査していたのだろう。
そしてそんな調査の結果、セレーネこそが第一王子夫人として仕事をするにふさわしい人物であると思い至った。
…が、フィーナはそんな国王の考えを素直に受け入れることができない。

「…こんな言い方はしたくありませんけれど、国王様も考えを間違えることがあるのですね。だって、普通に考えればおかしな話でしょう?私もレベッカ様の取り計らいでセレーネとは話をしたことがありますけれど、あれほど華のない地味な令嬢は見たことがありませんわ。あれを第一王子夫人にするだなんて、ちょっと現実が見えてないとしか言いようがないというか…」
「だよな??そうだよな??」

ユーレンはフィーナの言葉がうれしかったのか、彼女に乗っかる形で自分の考えを吐露していく。

「僕も同じことを思っていたんだ。セレーネには華がないんだよ。だから僕も彼女に言ってやったんだ。お父様はどうか知らないけれど、僕は君の事を愛するつもりはないぞって。そしたらセレーネ、それでも構わないですとか言い始めたんだ。それでみんなが幸せになれるのならそれでもいいですって。…お父様からどんな話をされたのかは知らないけれど、僕には彼女の性格は偽善者にしか見えなかったね。あんな薄気味悪い女と婚約するなんて、僕はやっぱりごめんだよ」

それが、ユーレンの抱いている本心だった。
セレーネの心のきれいさは、実際に王宮で同じ時を過ごした彼が一番理解しているのだろう。
しかし彼女とは反対にユーレンの心は到底綺麗とはいえるものではなかったために、かえって彼女の心が不気味なものに見えたのだろう。
それはフィーナにも同じことが言える。

「ともかく、セレーネとの婚約はもう終わりにすることに決めた。…その後はフィーナ、君に同じ言葉を言わせてもらうよ?」
「まぁ!!!!」

初めからそれが目的だったフィーナにしてみれば、この流れは完全に計画通りと言えた。
…しかし、この行動が自分たちを破滅させる第一歩であるということを、二人はまだ知らないのだった…。
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