70 / 204
第一章
幻影の瞬き 《五》
しおりを挟む
須格泉と琉格泉は下界から駆け上がり、此処仏界へと繋がる扉の前までやってきた。
天上界へ登るための扉は、大きくわけて二つある。一つは須弥山から道界へ向かう扉で、此方は上仙の許可がなくては開けることができない。そしてもう一つは、この仏界と繋がる扉で、この扉の向こうには道界に住む四方を護る霊獣とはまた違う白い聖獣達が護っている。
そしてこの扉を通された者のみが、四天王の待つ本当の扉へと進めるのだが、この扉を護る白の聖獣達は気位が高く融通がきかない。仏界で生まれたとは言え、既に道界に贈られ長い年月をそこで暮らしてきた須格泉と琉格泉が、この扉を通り仏界へ行くことが許されるのか。
だが、此処を通り仏界にたどり着かなければ沙麼蘿の命が危ない。須格泉と琉格泉にとっては、出逢いや幼い頃がどんな関係であったにしろ、今は皇と沙麼蘿は自分達の主人であり家族のように親しい関係だ。“何があろうとも、必ず幸泉の実を持って下界に戻る” そう決めていた。そして須格泉と琉格泉が顔を見合せ頷き合った時、その扉は開らかれた。
『大神か、何のようがあって此処へきた!』
扉から現れたのは四頭の獣。そしてその四頭の獣は、大神を取り囲む。
『大勢至菩薩に会いにきた』
須格泉がそう答えれば
『大勢至菩薩だと? お前達は、何処の大神だ!』
と、四頭の獣は訝しんだ様子で須格泉と琉格泉を見た。
『我らは、大勢至菩薩から観世音菩薩の手に渡り、道界の天帝に仏界の使者、あるいは友好の印として贈られた大神だ』
『観世音菩薩の手から、道界の天帝にだと?』
四頭の白い獣達は互いに顔を見合せたが、その顔は不信感でいっぱいだった。四頭の内の一頭が
『お前! 道界に贈られたなどといいながら、下賤の匂いがプンプンするぞ! みな、作り話だろう!』
と、厳しい口調で叫んだ。
『違う! 琉格泉は、天帝の甥である皇の命により、下界に赴いているだけだ!』
『どうだか、お前の言葉も怪しいものよ』
須格泉の言葉を、切り捨てるように聖獣が呟く。そして
『此処を通りたくば、高貴な道神でも連れてこい! さすれば此処を通そう』
と言った。“チッ” そう舌打ちしたのは須格泉だったか琉格泉だったか。二頭は顔を見合せ
『そう言われるのは覚悟の上だ!』
『我らには時間がない! 何がなんでも、此処を通してもらう!』
と言うと、二手に別れ走りだす。そして四頭の聖獣達も、二手に別れ後を追う。ここから、大神と聖獣達との壮絶な闘いが始まるのだ。
この扉を護る聖獣は、仏界にとっての砦。仏界を護るためならば、どんな手段を使おうとも許される。いや、この扉の守護獣となった時から、もう仏界の奥深くに足を踏み入れることさ許されない。
だからこそ、この扉を何処の馬の骨か知れない奴等に通らせるわけにはいかない。それは、聖獣に取って最大の恥だ。この扉を護るためには、例え殺生を犯そうともかまわない。
『早い!』
『やはりこいつら、ただの大神ではないぞ!』
『別れていては遅れをとる、まずはどちらかを捕らえろ!』
須格泉と琉格泉の動きは、聖獣達にまったく劣らない。いや、むしろ聖獣を遥かに越えていると言ってもいい。琉格泉を追う一頭の聖獣を残し、残りの三頭は須格泉を追いかける。
獣同士の激しい闘いの中、牙と言う牙、爪と言う爪を使って互いを傷つけ合う。抜きつ抜かれつの早さで扉の前を駆け回るその姿は、まさにライオンの群れが餌を求めて動物を追う姿に近い。
その時、須格泉の大きな遠吠えが響き、須格泉が聖獣に牙をむいた。その隙に、琉格泉は扉を目指す。どちらか一頭でもあの扉の中に入ることができれば、大勢至菩薩に会うことができる。だから須格泉は、自ら聖獣を引き付ける囮となった。
聖獣が一頭なら、琉格泉でも互角に闘える自信はある。そして琉格泉が扉の前までたどり着いたとき、須格泉の悲痛な声が響き渡った。思わず振り返った琉格泉が見たもの、それは片目を切り裂かれ血を流しながら横たわる須格泉の姿だった。
『貴様らーーー!!』
「どうした、女帝」
何かの音に気がついた女帝の動きが止まり、大勢至菩薩が声をかける。遠くを見つめ唸り声を上げる女帝の姿に、大勢至菩薩もその方向を見た。
「何か、あるのか?」
そんな大勢至菩薩の言葉も聞かず、女帝が一気に駆け抜けて行く。
「女帝!」
何があっても大勢至菩薩に忠実なはずの女帝が、大勢至菩薩の呼び掛けに答えない。心配になった大勢至菩薩が別の大神を呼び寄せその背に乗ると、急いで女帝の後を追う。
「何処へ行く気だ! 女帝!」
女帝がたどり着いたその場所。それは、四天王の管轄である下界に降りるための扉がある場所だった。突然現れた女帝の姿に、四天王の部下達は驚いてその場を後ずさる。そして女帝に追い付いた大勢至菩薩が、大神から降り近づく。
「この扉の向こうに、何かあるのか?」
「大勢至菩薩!」
女帝のみならず大勢至菩薩までのお出ましに、四天王の部下である門番達はその場で平伏する。大勢至菩薩は女帝の姿を見て
「此処を開けろ」
と言った。その言葉に門番達は顔を見合せ
「四天王のご命令がございませんと…」
と口ごもる。
「この勢至菩薩の命では不服か」
「とんでもございません!」
「直ちに門を開け!」
女帝のこの態度、ただ事ではない。四天王の許可がないことで開門を渋る門番達に、珍しく大勢至菩薩は大きな声を出し、門を開けることを迫った。
********
融通→その場その場で適切な処置をとるこてと
訝しむ→不審に思う
下賤→いやしいこと。身分が低いこと。また、そのさま
赴く→ある場所・方角に向かって行く。ある状態に向かう
何処の馬の骨→身元の確かでない者をののしっていう言葉
囮→相手を誘い寄せるために利用するもの
管轄→権限をもって支配すること。また、その支配の及ぶ範囲
平伏→両手をつき頭が地面や畳につくほどに下げて礼をすること。ひれふすこと
不服→納得がいかず、不満に思うこと。また、そのさま。不満足
次回投稿は24日か25日が目標です。
天上界へ登るための扉は、大きくわけて二つある。一つは須弥山から道界へ向かう扉で、此方は上仙の許可がなくては開けることができない。そしてもう一つは、この仏界と繋がる扉で、この扉の向こうには道界に住む四方を護る霊獣とはまた違う白い聖獣達が護っている。
そしてこの扉を通された者のみが、四天王の待つ本当の扉へと進めるのだが、この扉を護る白の聖獣達は気位が高く融通がきかない。仏界で生まれたとは言え、既に道界に贈られ長い年月をそこで暮らしてきた須格泉と琉格泉が、この扉を通り仏界へ行くことが許されるのか。
だが、此処を通り仏界にたどり着かなければ沙麼蘿の命が危ない。須格泉と琉格泉にとっては、出逢いや幼い頃がどんな関係であったにしろ、今は皇と沙麼蘿は自分達の主人であり家族のように親しい関係だ。“何があろうとも、必ず幸泉の実を持って下界に戻る” そう決めていた。そして須格泉と琉格泉が顔を見合せ頷き合った時、その扉は開らかれた。
『大神か、何のようがあって此処へきた!』
扉から現れたのは四頭の獣。そしてその四頭の獣は、大神を取り囲む。
『大勢至菩薩に会いにきた』
須格泉がそう答えれば
『大勢至菩薩だと? お前達は、何処の大神だ!』
と、四頭の獣は訝しんだ様子で須格泉と琉格泉を見た。
『我らは、大勢至菩薩から観世音菩薩の手に渡り、道界の天帝に仏界の使者、あるいは友好の印として贈られた大神だ』
『観世音菩薩の手から、道界の天帝にだと?』
四頭の白い獣達は互いに顔を見合せたが、その顔は不信感でいっぱいだった。四頭の内の一頭が
『お前! 道界に贈られたなどといいながら、下賤の匂いがプンプンするぞ! みな、作り話だろう!』
と、厳しい口調で叫んだ。
『違う! 琉格泉は、天帝の甥である皇の命により、下界に赴いているだけだ!』
『どうだか、お前の言葉も怪しいものよ』
須格泉の言葉を、切り捨てるように聖獣が呟く。そして
『此処を通りたくば、高貴な道神でも連れてこい! さすれば此処を通そう』
と言った。“チッ” そう舌打ちしたのは須格泉だったか琉格泉だったか。二頭は顔を見合せ
『そう言われるのは覚悟の上だ!』
『我らには時間がない! 何がなんでも、此処を通してもらう!』
と言うと、二手に別れ走りだす。そして四頭の聖獣達も、二手に別れ後を追う。ここから、大神と聖獣達との壮絶な闘いが始まるのだ。
この扉を護る聖獣は、仏界にとっての砦。仏界を護るためならば、どんな手段を使おうとも許される。いや、この扉の守護獣となった時から、もう仏界の奥深くに足を踏み入れることさ許されない。
だからこそ、この扉を何処の馬の骨か知れない奴等に通らせるわけにはいかない。それは、聖獣に取って最大の恥だ。この扉を護るためには、例え殺生を犯そうともかまわない。
『早い!』
『やはりこいつら、ただの大神ではないぞ!』
『別れていては遅れをとる、まずはどちらかを捕らえろ!』
須格泉と琉格泉の動きは、聖獣達にまったく劣らない。いや、むしろ聖獣を遥かに越えていると言ってもいい。琉格泉を追う一頭の聖獣を残し、残りの三頭は須格泉を追いかける。
獣同士の激しい闘いの中、牙と言う牙、爪と言う爪を使って互いを傷つけ合う。抜きつ抜かれつの早さで扉の前を駆け回るその姿は、まさにライオンの群れが餌を求めて動物を追う姿に近い。
その時、須格泉の大きな遠吠えが響き、須格泉が聖獣に牙をむいた。その隙に、琉格泉は扉を目指す。どちらか一頭でもあの扉の中に入ることができれば、大勢至菩薩に会うことができる。だから須格泉は、自ら聖獣を引き付ける囮となった。
聖獣が一頭なら、琉格泉でも互角に闘える自信はある。そして琉格泉が扉の前までたどり着いたとき、須格泉の悲痛な声が響き渡った。思わず振り返った琉格泉が見たもの、それは片目を切り裂かれ血を流しながら横たわる須格泉の姿だった。
『貴様らーーー!!』
「どうした、女帝」
何かの音に気がついた女帝の動きが止まり、大勢至菩薩が声をかける。遠くを見つめ唸り声を上げる女帝の姿に、大勢至菩薩もその方向を見た。
「何か、あるのか?」
そんな大勢至菩薩の言葉も聞かず、女帝が一気に駆け抜けて行く。
「女帝!」
何があっても大勢至菩薩に忠実なはずの女帝が、大勢至菩薩の呼び掛けに答えない。心配になった大勢至菩薩が別の大神を呼び寄せその背に乗ると、急いで女帝の後を追う。
「何処へ行く気だ! 女帝!」
女帝がたどり着いたその場所。それは、四天王の管轄である下界に降りるための扉がある場所だった。突然現れた女帝の姿に、四天王の部下達は驚いてその場を後ずさる。そして女帝に追い付いた大勢至菩薩が、大神から降り近づく。
「この扉の向こうに、何かあるのか?」
「大勢至菩薩!」
女帝のみならず大勢至菩薩までのお出ましに、四天王の部下である門番達はその場で平伏する。大勢至菩薩は女帝の姿を見て
「此処を開けろ」
と言った。その言葉に門番達は顔を見合せ
「四天王のご命令がございませんと…」
と口ごもる。
「この勢至菩薩の命では不服か」
「とんでもございません!」
「直ちに門を開け!」
女帝のこの態度、ただ事ではない。四天王の許可がないことで開門を渋る門番達に、珍しく大勢至菩薩は大きな声を出し、門を開けることを迫った。
********
融通→その場その場で適切な処置をとるこてと
訝しむ→不審に思う
下賤→いやしいこと。身分が低いこと。また、そのさま
赴く→ある場所・方角に向かって行く。ある状態に向かう
何処の馬の骨→身元の確かでない者をののしっていう言葉
囮→相手を誘い寄せるために利用するもの
管轄→権限をもって支配すること。また、その支配の及ぶ範囲
平伏→両手をつき頭が地面や畳につくほどに下げて礼をすること。ひれふすこと
不服→納得がいかず、不満に思うこと。また、そのさま。不満足
次回投稿は24日か25日が目標です。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる