天上の桜

乃平 悠鼓

文字の大きさ
141 / 204
第二章

夕景山の揺籃歌《十六》

しおりを挟む
☆次回、やっと終わります (^o^)


仙人について


仙人については諸説あるようですが、このお話では私の手持ちの道教の書籍から


◎仙人ランキング

上仙>高仙>大仙>玄仙>真仙>神仙>霊仙>至仙


◎仙人の区別

天仙・地仙・水仙


を参考に、『仙人ランキング + 仙人の区別 ÷ 2』で勝手に分けています。(^o^;)


仙人は基本、天上界へとつながる山・須弥山しゅみせんに住んでいる。須弥山は、天上界へとつながる長い階段のある高い高い山。そしてそれを取り囲む四つの山が、須弥山のふもとと言う位置付けになっている。
その須弥山では仙人の地位に応じて住む場所が決まっており、中央の天上界へとつながる階段のある高い山には天仙てんせんと呼ばれる上仙じょうせん高仙こうせんが、それを取り囲む山には地仙ちせんと呼ばれる大仙たいせん玄仙げんせん真仙しんせんと、水仙すいせんと呼ばれる神仙しんせん霊仙れいせん至仙しせんが住んでいる。


ちなみに、仙人とは

火に入っても焼けず、水に入っても溺れず、顔や形を自在に変え、姿を隠せ、様々な能力を持っている人。










********

此処ここから先は少し時空が歪む。視界も悪い、注意しろ。琉格泉るうの玉龍ぎょくりゅう
ぴゅ~わかったー

 眼前がんぜんに広がる乳白色の世界、濃い霧がかかったようで視界はほぼない。そんな中、玉龍の間延びした鳴き声だけが響き渡る。
 何かを思い出したらしい沙麼蘿さばらが “ついてこい” と言えば、阿修羅あしゅら眷属けんぞくたる飛天夜叉ひてんやしゃに拒否権などあるはずもなく、一家揃って住み慣れた巣とあばら家にも見えた家を捨て付き従うしかない。そこに、子供達の意見などあろうはずもないし、玄奘達と共に西の街に向かっていた親子にも、何かを言う暇などあるはずもない。
 玄奘は眉間みけんにシワを寄せ、八戒は桂英けいえいを片手で抱き、もう一方の手で明陽めいようの手を握りしめる。悟浄は、幼子を抱きかかえ飛天夜叉の巣で見つけた我が子の手をしっかりと握りしめ、おたおたとする女に “大丈夫だ、たぶん…な” と声をかけ横に立つ。

「じゃオレ、一番後ろ!」

 悟空は、眼前の乳白色の世界が何なのかよく知っている。育ての親であるじいちゃん、須菩提すぼだいがよく使っていたからだ。使い慣れた者でなければ、前が見えず道からそれたりはぐれたりしてしまうことも多々ある。
 沙麼蘿を先頭に玄奘、八戒、親子、飛天夜叉とその家族、悟空と並び、両横に悟浄、琉格泉と玉龍がつく。誰かが道から外れそうになっても、悟空と琉格泉と玉龍、それに飛天夜叉で何とかなるはずだ。





『子供の声がする。こんな所に子供がいるとは、どう言うことだ』

 そう言って沙麼蘿とすめらぎの前に姿を現したのは、まだ若い地仙だった。まさかこんな所に天帝の血筋である子供がいるとは思いもせず、美しい灰簾石タンザナイト色の髪をした子供達を見つけたその地仙は双眸そうぼうを見開く。
 この地仙、名を柏樹はくじゅといい仙人達が暮らす須弥山しゅみせんではなく、須弥山のふもとに近い山奥に住居を構えている。だがその場所は、人間がたどり着くには難しく、仙ですら足を運ぶことはほとんどない場所だった。
 幼い頃、いくさで家族を亡くし虫の息だった所を天仙てんせんに助けられ、仙としての教育を受け育ち地仙となったのが柏樹だ。片田舎で育ち、がくもなかった両親や兄姉達は何故なぜ自分達かいくさに巻き込まれ、その中でうにも困る生活を強いられ命を奪われなければならなかったのか、それすらもわからぬまま亡くなった。
 仙に育てられ仙としての教育を受けた柏樹は、全ては知るべきことも知らず、自分達に学がなかったからだと思う。ほんの少しでも学があったなら、誰かを助けることも、守ることだってできたかも知れない。
 だから柏樹は思うのだ。生きられなかった家族のぶんまで精一杯生きて、自分達のような人間を出さないためにも、戦のない世界を造るためにも、一人でも多くの子供達に生きて行くための知識を与えようと。
 そのために下界と、天上界に属する須弥山のちょうど中間地点に住まいを構えた。其処そこは下界でもなく須弥山でもない場所。仙術を使えば下界のいたる所ともつながることができ、柏樹なら須弥山に行くにも近い。にも関わらす、人が行くには難しく、戦に巻き込まることもない。
 仙の中には、行き場のない子供達に知識や武道を教え育てる者も多い。柏樹を助けた天仙は、柏樹を須弥山に連れて行き育てた。玄奘の親代わりでもある緑松りょくしょうこう丁香ていかを育てた地仙は、人里からは離れてはいたが下界で彼等かれらを育てた。そして柏樹は、下界とも須弥山とも近く、だが下界とも須弥山とも言えない場所で、行き場のない子供達を育てていた。





 沙麼蘿は思い出したのだ。あの日、沙麼蘿と皇が柏樹と出会った場所こそ、夕景山であったのだと。当時は人里もなく、あるのは獣道くらいだったように思う。
 だとすれば、この夕景山には仙術で作られた柏樹が住む場所へと進める道の入口があるはずなのだ。普通の人間には見つけられぬその道も、沙麼蘿なら見つけ進むことは容易たやすい。
 そうして乳白色の世界を抜けた先にあったのは

「うわぁー、おっきな門だ!」
「すごーい!」

 子供達が驚きに声を上げるほど、誰もが未だかつて見たこともないような巨大な門。その先には、まるで宙に浮くようななだらかな階段が続いており地面はない。沙麼蘿は、その階段をみなを連れて歩いて行く。
 すると、今度は華やかな道門のような門が見え、そこにはひざまずいたまだ少女にも見えるような一人の女性がこうべをたれて待っていた。

「お久しぶりでございます、公女こうじょ様」

 その女性は、沙麼蘿に向けニコリと笑顔を向ける。

「元気そうだな紅宝こうほう、柏樹はいるか」
「はい、おられます。ご案内を」

 そう言って歩き出すのは紅宝。哪吒なた幼馴染おさななじみである。柏樹が住む此処で様々な仕事をして働く数名は、哪吒と共に貧民街ひんみんがいで育った仲間達だ。
 哪吒が托塔天たくとうてんに拾われた際、”友達を助けて欲しい“ と言うその願いを聞き届け、托塔天の知り合いの地仙であった柏樹に子供達を預けた。それ依頼、哪吒の幼馴染達は此処でまなび仙となり働きながら、陰になり日向になり哪吒を支えている。

「哪吒は来るのか」
「はい。つい先日も、珍しい果物を沢山持って来てくれました」
「そうか」
「少し前には、皇子みこ様もいらっしゃいました」
「皇が」
「はい」

 沙麼蘿と紅宝が会話をしながら進んだ先には、いくつかの大きな建物があり、中からは子供達の声が聞こえて来る。

「お待ちしておりました公女様。師がお待ちでございます」

 柏樹の仙術で造られた道を通ったため、沙麼蘿が此処に来ることはすでにわかっていたのだろう。建物の前では、哪吒の幼馴染の中でもガタイのいい石榴せきりゅうと言う、柏樹の護衛役と子供達の守手まもりても兼ねている男が出迎えた。










********

間延び→間があくこと。転じて、どことなく締まりがないこと
眉間→眉と眉のあいだの部分。また、額の中央
おたおた→思いがけない事態に、うろうろするだけで何もできないさまを表わす語
虫の息→弱り果てて、今にも絶えそうな呼吸。また、その状態
片田舎→都から遠く離れていて生活に不便なところ。へんぴな田舎
容易い→わけなくできるさま。やさしい
未だ嘗て→今までに一度も
貧民街→都市の中で低所得階層の人々が多く集まって生活している地域。スラム
ガタイがいい→体格がいい人のこと
守手→守っている人。見張っている人。番人


次回以降は11月5日か6日が目標です。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...