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第二章
片時雨の村《九》
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「どう言うつもりなの、百花羞。まさか、白骨夫人を裏切るつもりじゃないでしょうね」
「私、は…」
百花羞が怪我を負い、隠れるようにして森の中に潜んでいた八戒を見つけだし、自分の家に連れ帰った時には既に、家の前には美后がいた。美后の周りには自らが操つる人間達がおり、まるで盾で囲まれようして守られているため、簡単には手出しできない状態だった。
「それとも何、その男達を全部自分のものにしようって言うの。あんたに、そいつらを殺れるだけの力なんてあったかしら。白骨夫人は、三蔵以外は生かしておくなと言ったのよ。そいつらを、私に渡しなさい」
美后は、白骨夫人に対しては従順だった。半妖だった美后は人間に追われ、息絶える寸前だったところを白骨夫人に助けられ、様々な力を与えられて周りの人間を操る力を得た。だが、百花羞は…。
「白骨夫人にさんざん世話になっておきながら、言うことが聞けないわけ」
「私は…」
「私は何!?」
「助けてもらった恩は、返したわ」
「はぁ、あんた何言ってるのよ。天界から落とされて、右も左も分からず死ぬ寸前だったあんたを拾って助けてくれたのは白骨夫人でしょう」
そうだ、身に覚えのない罪を着せられ、反逆者として下界に落された百花羞は、その時ボロボロの布切れのようだった。上界の天都で生まれ紫微宮で働き、天上界しか知らない百花羞は、下界で生きて行くための術など持たなかった。そんな百花羞を助け、面倒を見てくれたのが白骨夫人だ。でも…。
「だから、私は…」
「これだから、お高くとまった元天上人は困るのよ。あんたなんかが、恩を返せてる訳が無いでしょう!」
嫌だった、人を騙したり殺めたりすることは。天人として育ってきた百花羞には、耐えられないことだった。それでもただ黙って白骨夫人に従って来たのは、命の恩人だったからだ。だがそれも、今日まで。
長い間下界で重ねてきた罪も過ちも、全て自分が持って行く。長かった、とてつもなく長い歳月だった。嘗て想いを交わせ合い、将来を誓いあった捲簾が生まれ変わり目の前に現れ、蒼宮で暮らしていた沙麼蘿までが上界での生を終え蘇り、再び百花羞のもとに来てくれた。
もういい、嫌なことも苦しいことも全て捨てていい、何もしなくていい。そう言われている気がした。だから
「誰も、渡さないわ!!」
この身がどうなろうとも、百花羞は戦う。例えその力が自分にはなくても、誰一人として渡さない。沙麼蘿公女が、此処に辿り着くまでは。
百花羞が肩にかけていた披肩を片手で持ち振るうと、その披肩がフワリと巨大化し、美后の前で盾のように佇む人間三人に巻き付く。それは人間を締め上げるように動くと、すっと離れて行った。
締め上げられた人間は意識だけを失い、その場に崩れ落ちる。すると、役目を終えた披肩は百花羞の手に戻り
「お前!!」
と、怒りのまま飛ばした美后の攻撃を弾き返す。百花羞が白骨夫人から渡されたのは、この天女の羽衣だけ。この天女の羽衣はその名の通り、天人にしか使えない。いや正しくは、全ての使い方は天人しか知らないと言うべきか。
白骨夫人がどうやって天女の羽衣を手に入れたのか、それはわからない。手に入れても、白骨夫人や美后では使えなかった物だ。だから天人である百花羞が落ちて来た時、白骨夫人は百花羞を仲間にして天女の羽衣を使わせた。天界ではありえない使い方で、人を傷つけ陥れる道具として。
百花羞は次々と披肩を使う。とにかく操られている人間の意識を奪い、美后の命令を聞かなくていいようにしなくてはならない。操らている村人さえいなければ相手は美后だけ、格段に戦いやすくなる。だが
「あんたが、私に勝てるとでも思ってるの! そんな披肩程度で」
美后の鋭い攻撃が、百花羞の腕を貫く。“ウッ” とその場に蹲り、片手を押さえた百花羞を庇うように前に立ったのは、悟浄だった。
「いけません、その人と家の中へ入って!」
八戒に視線を送り、百花羞は叫ぶ。家の中なら美后の攻撃を防ぐ手立てはある。
「か弱い女に戦わせて、自分は見てるだけだってか。そんなこと、できるわけないだろう。八戒、やれるか」
「勿論、やれます。どこの誰かは知りませんが、助けてくれた人を見殺しにするわけがない」
悟浄が腕の臂釧を刀に変えると、八戒も指環を弓に変え悟浄の隣に並び立つ。その姿に、“あっ” と百花羞の声があがる。姿形はわかっても、嘗て百花羞は見たことがあった。こうして並び立つ、捲簾と天蓬の姿を。その時
「あっー、ごじょうとはっかいだ!!」
「なにしてるんだ、オレらもまざるー!!」
と、場違いにも聞こえる金角と銀角の声が響き渡り、木々の合間から金角と銀角、李子と月亮が姿を現した。
「お前達、いったい何処にいたのよ。いいわよ、逃げおうせたつもりかも知れないけど、また全員捕まえて連れて行くわ」
「できるのかね、もうお前が操れる人間はいないぞ」
「私の力が、それだけだとでも。いいわよ、役立たずの人間なんて、いてもいなくても同じよ。全員まとめて、とっ捕まえてやるわ」
「口だけなら、何とでも」
「そうそう、オレらつよい」
「あまえだけなら、やっつけてやる」
今此処で、美后と悟浄達の戦いの幕が切って落とされる。
********
従順→性質·態度などがすなおで、人に逆らわないこと。おとなしくて人の言うことをよく聞くこと。また、そのさま。
※次回の投稿は諸事情により少し遅れます。
次回投稿は12月12日か13日が目標です。
「私、は…」
百花羞が怪我を負い、隠れるようにして森の中に潜んでいた八戒を見つけだし、自分の家に連れ帰った時には既に、家の前には美后がいた。美后の周りには自らが操つる人間達がおり、まるで盾で囲まれようして守られているため、簡単には手出しできない状態だった。
「それとも何、その男達を全部自分のものにしようって言うの。あんたに、そいつらを殺れるだけの力なんてあったかしら。白骨夫人は、三蔵以外は生かしておくなと言ったのよ。そいつらを、私に渡しなさい」
美后は、白骨夫人に対しては従順だった。半妖だった美后は人間に追われ、息絶える寸前だったところを白骨夫人に助けられ、様々な力を与えられて周りの人間を操る力を得た。だが、百花羞は…。
「白骨夫人にさんざん世話になっておきながら、言うことが聞けないわけ」
「私は…」
「私は何!?」
「助けてもらった恩は、返したわ」
「はぁ、あんた何言ってるのよ。天界から落とされて、右も左も分からず死ぬ寸前だったあんたを拾って助けてくれたのは白骨夫人でしょう」
そうだ、身に覚えのない罪を着せられ、反逆者として下界に落された百花羞は、その時ボロボロの布切れのようだった。上界の天都で生まれ紫微宮で働き、天上界しか知らない百花羞は、下界で生きて行くための術など持たなかった。そんな百花羞を助け、面倒を見てくれたのが白骨夫人だ。でも…。
「だから、私は…」
「これだから、お高くとまった元天上人は困るのよ。あんたなんかが、恩を返せてる訳が無いでしょう!」
嫌だった、人を騙したり殺めたりすることは。天人として育ってきた百花羞には、耐えられないことだった。それでもただ黙って白骨夫人に従って来たのは、命の恩人だったからだ。だがそれも、今日まで。
長い間下界で重ねてきた罪も過ちも、全て自分が持って行く。長かった、とてつもなく長い歳月だった。嘗て想いを交わせ合い、将来を誓いあった捲簾が生まれ変わり目の前に現れ、蒼宮で暮らしていた沙麼蘿までが上界での生を終え蘇り、再び百花羞のもとに来てくれた。
もういい、嫌なことも苦しいことも全て捨てていい、何もしなくていい。そう言われている気がした。だから
「誰も、渡さないわ!!」
この身がどうなろうとも、百花羞は戦う。例えその力が自分にはなくても、誰一人として渡さない。沙麼蘿公女が、此処に辿り着くまでは。
百花羞が肩にかけていた披肩を片手で持ち振るうと、その披肩がフワリと巨大化し、美后の前で盾のように佇む人間三人に巻き付く。それは人間を締め上げるように動くと、すっと離れて行った。
締め上げられた人間は意識だけを失い、その場に崩れ落ちる。すると、役目を終えた披肩は百花羞の手に戻り
「お前!!」
と、怒りのまま飛ばした美后の攻撃を弾き返す。百花羞が白骨夫人から渡されたのは、この天女の羽衣だけ。この天女の羽衣はその名の通り、天人にしか使えない。いや正しくは、全ての使い方は天人しか知らないと言うべきか。
白骨夫人がどうやって天女の羽衣を手に入れたのか、それはわからない。手に入れても、白骨夫人や美后では使えなかった物だ。だから天人である百花羞が落ちて来た時、白骨夫人は百花羞を仲間にして天女の羽衣を使わせた。天界ではありえない使い方で、人を傷つけ陥れる道具として。
百花羞は次々と披肩を使う。とにかく操られている人間の意識を奪い、美后の命令を聞かなくていいようにしなくてはならない。操らている村人さえいなければ相手は美后だけ、格段に戦いやすくなる。だが
「あんたが、私に勝てるとでも思ってるの! そんな披肩程度で」
美后の鋭い攻撃が、百花羞の腕を貫く。“ウッ” とその場に蹲り、片手を押さえた百花羞を庇うように前に立ったのは、悟浄だった。
「いけません、その人と家の中へ入って!」
八戒に視線を送り、百花羞は叫ぶ。家の中なら美后の攻撃を防ぐ手立てはある。
「か弱い女に戦わせて、自分は見てるだけだってか。そんなこと、できるわけないだろう。八戒、やれるか」
「勿論、やれます。どこの誰かは知りませんが、助けてくれた人を見殺しにするわけがない」
悟浄が腕の臂釧を刀に変えると、八戒も指環を弓に変え悟浄の隣に並び立つ。その姿に、“あっ” と百花羞の声があがる。姿形はわかっても、嘗て百花羞は見たことがあった。こうして並び立つ、捲簾と天蓬の姿を。その時
「あっー、ごじょうとはっかいだ!!」
「なにしてるんだ、オレらもまざるー!!」
と、場違いにも聞こえる金角と銀角の声が響き渡り、木々の合間から金角と銀角、李子と月亮が姿を現した。
「お前達、いったい何処にいたのよ。いいわよ、逃げおうせたつもりかも知れないけど、また全員捕まえて連れて行くわ」
「できるのかね、もうお前が操れる人間はいないぞ」
「私の力が、それだけだとでも。いいわよ、役立たずの人間なんて、いてもいなくても同じよ。全員まとめて、とっ捕まえてやるわ」
「口だけなら、何とでも」
「そうそう、オレらつよい」
「あまえだけなら、やっつけてやる」
今此処で、美后と悟浄達の戦いの幕が切って落とされる。
********
従順→性質·態度などがすなおで、人に逆らわないこと。おとなしくて人の言うことをよく聞くこと。また、そのさま。
※次回の投稿は諸事情により少し遅れます。
次回投稿は12月12日か13日が目標です。
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