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「それに社交界の中でも大丈夫だ」
そう言ってセヴラン殿下はグルリと周囲を見回した。
「今日は私の生誕パーティーで、上位貴族だけではなく国中から多くの貴族が出席している。その者達の前で包み隠さず、私のほうからシリル嬢へ求婚をしている状態なのだ。社交界の中で貴女の醜聞が起きるはずもない。そうだろう?」
ニコニコ笑いながら周りを見つめていくセヴラン殿下からは、笑顔の下に「いらぬ噂を許さない」といった無言の圧力が感じられる。それを周りの方々もしっかりと感じているのかもしれない。セヴラン殿下が視線を合わせた上位貴族の方々なんかは特に顔を強張らせながら頷いていた。
このタイミングで突然婚約を申し込んできたことさえ、外堀を埋めるためのことだったのでは、と思えてくる。
「醜聞的な心配さえなければアングラード家としては問題がないというなら、これで大丈夫だと分かってもらえたはずだ。だから安心して私の婚約者になってくれ。何があっても私が守ろう」
ただでさえ公然の面々で王族からの求婚を断ることはとても難しい。それなのに遠回しに断るために告げた私自身の言葉に足元を掬われているのだから。私はもう1度ガクッと肩を落とした。
「……ありがとうございます。これからよろしくお願い致します…」
田舎での素敵な隠居生活へ心の中でお別れを告げながら、私は巻き起こる拍手の中で強く抱き締められた。
「受けてくれて嬉しいよ! いかなる時も貴女を大切に愛しもう!」
そう言って抱き締められる。その一瞬見えたガイラス様とノエリア様の唖然とした顔に私はもう1つハッとした。
「セヴラン殿下……ノエリア様を市井からお捜しされた際にご助力されたとか」
「あぁ、コルベール子爵家が困っていたようだったからな」
「ガイラス様とノエリア様が出会われた舞踏会はたしかセヴラン殿下が開催されたパーティーだったと覚えていますが……」
「そうだな、それがどうかしたのか?」
まさかまわりの人達はこんな大勢の方々の中での抱擁で、こんな会話をしているとは思わないだろう。
「……国王や王妃への許可はいつ取られたのでしょうか?」
「勝ちを逃したくなければ、事前の準備が必要だろう?」
「仕組まれましたね……」
呆れて思わずセヴラン殿下を睨みつけようとした私だった。だけど。
「……言ったではないか、ずっと貴女が私の婚約者であれば、と願っていたと」
そんな私へ悪びれることなく向けられたのは、思わず赤面してしまうぐらい甘い笑顔と甘い声なのだ。
嬉しくて仕方がない、といった感情がダダ漏れの雰囲気でそんなことを言うものだから、私はもうなにも言えなくなる。
「あっ、だがこのパーティーでガイラスがしでかした騒動は私は関与をしていないぞ」
「本当でしょうか?」
「あぁ、これから策を施そうと思っていたんだ」
飄々としたその言葉に私は思わず溜息を吐いた。
これまではガイラス様の後始末に追われる日々だったけど、これからはセヴラン殿下との謀り合いにでもなりそうだった。
どちらも気が抜けそうにない日々なのだ。だけど。
「愛している。ずっと貴女だけを」
嬉しそうに笑うセヴラン殿下に、さっそく絆されかけているのだから、初回戦は私の負けのようだった。
〔完〕
そう言ってセヴラン殿下はグルリと周囲を見回した。
「今日は私の生誕パーティーで、上位貴族だけではなく国中から多くの貴族が出席している。その者達の前で包み隠さず、私のほうからシリル嬢へ求婚をしている状態なのだ。社交界の中で貴女の醜聞が起きるはずもない。そうだろう?」
ニコニコ笑いながら周りを見つめていくセヴラン殿下からは、笑顔の下に「いらぬ噂を許さない」といった無言の圧力が感じられる。それを周りの方々もしっかりと感じているのかもしれない。セヴラン殿下が視線を合わせた上位貴族の方々なんかは特に顔を強張らせながら頷いていた。
このタイミングで突然婚約を申し込んできたことさえ、外堀を埋めるためのことだったのでは、と思えてくる。
「醜聞的な心配さえなければアングラード家としては問題がないというなら、これで大丈夫だと分かってもらえたはずだ。だから安心して私の婚約者になってくれ。何があっても私が守ろう」
ただでさえ公然の面々で王族からの求婚を断ることはとても難しい。それなのに遠回しに断るために告げた私自身の言葉に足元を掬われているのだから。私はもう1度ガクッと肩を落とした。
「……ありがとうございます。これからよろしくお願い致します…」
田舎での素敵な隠居生活へ心の中でお別れを告げながら、私は巻き起こる拍手の中で強く抱き締められた。
「受けてくれて嬉しいよ! いかなる時も貴女を大切に愛しもう!」
そう言って抱き締められる。その一瞬見えたガイラス様とノエリア様の唖然とした顔に私はもう1つハッとした。
「セヴラン殿下……ノエリア様を市井からお捜しされた際にご助力されたとか」
「あぁ、コルベール子爵家が困っていたようだったからな」
「ガイラス様とノエリア様が出会われた舞踏会はたしかセヴラン殿下が開催されたパーティーだったと覚えていますが……」
「そうだな、それがどうかしたのか?」
まさかまわりの人達はこんな大勢の方々の中での抱擁で、こんな会話をしているとは思わないだろう。
「……国王や王妃への許可はいつ取られたのでしょうか?」
「勝ちを逃したくなければ、事前の準備が必要だろう?」
「仕組まれましたね……」
呆れて思わずセヴラン殿下を睨みつけようとした私だった。だけど。
「……言ったではないか、ずっと貴女が私の婚約者であれば、と願っていたと」
そんな私へ悪びれることなく向けられたのは、思わず赤面してしまうぐらい甘い笑顔と甘い声なのだ。
嬉しくて仕方がない、といった感情がダダ漏れの雰囲気でそんなことを言うものだから、私はもうなにも言えなくなる。
「あっ、だがこのパーティーでガイラスがしでかした騒動は私は関与をしていないぞ」
「本当でしょうか?」
「あぁ、これから策を施そうと思っていたんだ」
飄々としたその言葉に私は思わず溜息を吐いた。
これまではガイラス様の後始末に追われる日々だったけど、これからはセヴラン殿下との謀り合いにでもなりそうだった。
どちらも気が抜けそうにない日々なのだ。だけど。
「愛している。ずっと貴女だけを」
嬉しそうに笑うセヴラン殿下に、さっそく絆されかけているのだから、初回戦は私の負けのようだった。
〔完〕
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