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シルビナに、まだもっと先だと言われた初夜は、一月経った今も訪れてこない。
夫に微笑みかけることも、話しかけてくることもない、シルビナという女性は、ジークスの妻と言えるのか。妻になる気があるのか。
お飾りでいたいなら、別の場所に勝手に飾られれば良い。
隠れていたいなら、ここよりもっと安全で、良い場所があるだろう。
結婚するときには嫌じゃなかった。ジークスと顔わせの挨拶をした時にはこんな男でもなんとか我慢して受け入れられると思った。
だけど、婚姻した途端、やはり辺境の地も、ジークスという大男も、受け入れられない、無理だと思った?
そうだとしたら……どうして、さっさと離縁しないのか。
自分から離縁したいとは言えなくとも、離婚してもらえる女を演じることはできる筈だ。
今現在のシルビナは、ジークスから離縁してもらうために、無礼な無能妻を演じているのだろうか?と、貴族令嬢の思考など読める筈がない頭で考える。
だが、ジークスの、いつもは貴族令嬢には働かぬ筈の勘が、シルビナには、辺境伯夫人の座を手放す気などないと告げている。いや、鈍いジークスでも、感じたというべきか。
面倒くさいことになった。と、ジークスは思う。
結婚を急いだのに、可愛い跡取りを作ることもできず、初々しい出来立て辺境伯夫人が作り上げられる気配もない。
そして、今、侯爵家とシルビナに離婚を宣言したとして、シルビナはルマルド侯爵にどう伝えるか。誤解だとか、頑張ろうとしたけれど体調が悪くて出来なかったとか?悲劇のヒロインになりきって、父親に泣きつきそうだと思うのは俺の考えすぎだろうか。シルビナの大失態でもあれば、家同士揉めずに離縁できるのだが。
もしも、もしもだが、謝罪を受け入れ婚姻を継続した場合は、嫌々ながら応じられた初夜で、跡取りに恵まれたとして、それは辺境伯家にとって喜ぶべきことなのかどうか。それとも、今度は、ジークスが初夜を拒否すべきなのか。
シルビナはトレンダム辺境伯家を舐めているのか。ジークスという男を見下しているのか。それとも両方なのか。
辺境伯家で、貴族の付き合いというものに長けているのは、公爵家の令嬢だった母親だけである。その母は、今、意識こそあるが、相談事ができる状態ではない。
叔父達の妻は辺境育ちで、我が貴族家の親戚である分家の子女だ。貴族の令嬢が持つ扇子は握ったことはないけれど、剣なら子供時代から振り回していたという、雄々しい女性で、対貴族の相談に向かない者達だ。
元々は辺境伯家の坊ちゃんだった筈の叔父たちも、貴公子ではなく野獣寄り。
後継ではないからと、ダンスやマナーこそ叩き込まれているものの、貴族との会話となると、混ざるより逃げることを選ぶ、恥ずかしがりやの大熊となる。
奥方には好評な熊ちゃんだが、野獣が可愛く見えるマジックは、他人には働いたことがない。
要するに、今、この辺境の地には、貴族の妻について、相談できる人間がいないということだ。
本当に面倒くさいことになった。と、頭を抱えていたジークスの下に、執事長が今年の社交シーズンの予定を尋ねてきた。
「どうされますか?」
「と聞かれてもな。状況的に行けるわけがないし、シルビナを妻として同伴するのはちょっと、な。年内に王城への報告は済ませる予定だが、何人か連れて、馬で行ってこようかと思う」
そう返事を返せば、妙な笑顔の執事長から家族に報告しろと言われた。
「ならば、本日の晩餐時に、その旨をご家族の皆様にお伝えください。今年の社交シーズンの参加はしない。王都には後日、辺境の状況が落ち着いてから、ジークス様だけが向かうと。ちょうど本日は、シルビナ様も晩餐に参加されるとお伺いしております」
夫に微笑みかけることも、話しかけてくることもない、シルビナという女性は、ジークスの妻と言えるのか。妻になる気があるのか。
お飾りでいたいなら、別の場所に勝手に飾られれば良い。
隠れていたいなら、ここよりもっと安全で、良い場所があるだろう。
結婚するときには嫌じゃなかった。ジークスと顔わせの挨拶をした時にはこんな男でもなんとか我慢して受け入れられると思った。
だけど、婚姻した途端、やはり辺境の地も、ジークスという大男も、受け入れられない、無理だと思った?
そうだとしたら……どうして、さっさと離縁しないのか。
自分から離縁したいとは言えなくとも、離婚してもらえる女を演じることはできる筈だ。
今現在のシルビナは、ジークスから離縁してもらうために、無礼な無能妻を演じているのだろうか?と、貴族令嬢の思考など読める筈がない頭で考える。
だが、ジークスの、いつもは貴族令嬢には働かぬ筈の勘が、シルビナには、辺境伯夫人の座を手放す気などないと告げている。いや、鈍いジークスでも、感じたというべきか。
面倒くさいことになった。と、ジークスは思う。
結婚を急いだのに、可愛い跡取りを作ることもできず、初々しい出来立て辺境伯夫人が作り上げられる気配もない。
そして、今、侯爵家とシルビナに離婚を宣言したとして、シルビナはルマルド侯爵にどう伝えるか。誤解だとか、頑張ろうとしたけれど体調が悪くて出来なかったとか?悲劇のヒロインになりきって、父親に泣きつきそうだと思うのは俺の考えすぎだろうか。シルビナの大失態でもあれば、家同士揉めずに離縁できるのだが。
もしも、もしもだが、謝罪を受け入れ婚姻を継続した場合は、嫌々ながら応じられた初夜で、跡取りに恵まれたとして、それは辺境伯家にとって喜ぶべきことなのかどうか。それとも、今度は、ジークスが初夜を拒否すべきなのか。
シルビナはトレンダム辺境伯家を舐めているのか。ジークスという男を見下しているのか。それとも両方なのか。
辺境伯家で、貴族の付き合いというものに長けているのは、公爵家の令嬢だった母親だけである。その母は、今、意識こそあるが、相談事ができる状態ではない。
叔父達の妻は辺境育ちで、我が貴族家の親戚である分家の子女だ。貴族の令嬢が持つ扇子は握ったことはないけれど、剣なら子供時代から振り回していたという、雄々しい女性で、対貴族の相談に向かない者達だ。
元々は辺境伯家の坊ちゃんだった筈の叔父たちも、貴公子ではなく野獣寄り。
後継ではないからと、ダンスやマナーこそ叩き込まれているものの、貴族との会話となると、混ざるより逃げることを選ぶ、恥ずかしがりやの大熊となる。
奥方には好評な熊ちゃんだが、野獣が可愛く見えるマジックは、他人には働いたことがない。
要するに、今、この辺境の地には、貴族の妻について、相談できる人間がいないということだ。
本当に面倒くさいことになった。と、頭を抱えていたジークスの下に、執事長が今年の社交シーズンの予定を尋ねてきた。
「どうされますか?」
「と聞かれてもな。状況的に行けるわけがないし、シルビナを妻として同伴するのはちょっと、な。年内に王城への報告は済ませる予定だが、何人か連れて、馬で行ってこようかと思う」
そう返事を返せば、妙な笑顔の執事長から家族に報告しろと言われた。
「ならば、本日の晩餐時に、その旨をご家族の皆様にお伝えください。今年の社交シーズンの参加はしない。王都には後日、辺境の状況が落ち着いてから、ジークス様だけが向かうと。ちょうど本日は、シルビナ様も晩餐に参加されるとお伺いしております」
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