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ジークスが出発の朝、しばらく帰れないから屋敷のことをよろしく頼むと告げたのは、シルビナではなく、執事長と家政婦長の横に並んで兄を見送る妹のクラーラだった。
シルビナにも、昨晩、今朝出発すると告げてもらっている筈だが、担当の侍女が言うには、手紙を沢山書かねばならないので、忙しいとのことだった。
屋敷から拠点には、定期連絡が入る。口頭での伝言と手紙だ。伝令から幾つもの連絡事項を聞いたあと、受け取った手紙の中に妻からのものを探すが、3週間の拠点滞在期間に、夫に宛てた手紙を発見することはできなかった。
手紙は、辺境伯としてのジークスへのものと、執事長や家政婦長からトレンダム家の長男への報告がある。両親の治療と回復度合いについてや、両親も兄も頼れない、弟妹に関しての報告だ。家族に問題は起きていないことに毎回安心するが、誰もジークスの妻の話題を齎さないことに、不安がよぎる、拠点での日々だった。
3週間後。全員無傷というわけには行かなかったが、誰の命も欠けさせることなく、屋敷に戻れた。数日は書類仕事に勤しむことになり、気がつけば結婚して1月が経っていた。
1月も経てば、仕事はともかく、婚家の家族を含む、屋敷の者達と、少しは打ち解けているだろうと期待していたが、家族の晩餐にたまに参加することはあっても、シルビナから親しげに話しかけることはなかったと聞いた。
辺境伯夫人としてこの領地になれ、仕事を覚えないといけない。
初夜を延期してまで、やる気を見せていた新米辺境伯夫人は、どこに消えたのか。
教育係を母の右腕の侍女の1人と家政婦長に任せていたが、辺境伯夫人の執務室に案内しようとしても、部屋から出てこず、一時的に指導役となっている侍女や家政婦長に対する発言は、執務に取り掛からない言い訳と、ある意味戦時である辺境伯領で買い物を楽しむことも、王都からドレスや宝石のデザイナーを呼ぶこともできない文句だけだったそうだ。どうやらシルビナは、王都の華やかさを好み、辺境を見下す女性だったらしい。それなら婚姻の申し出など拒否すれば良いのに、何故受け入れたのか、疑問だが、今更聞いても仕方がないかもしれない。
高価な宝石ではない、“赤玉”のブレスレットは、中身を確認したらしきあと、ぐしゃぐしゃに潰した箱と共に、床に投げ捨てられていたのを、侍女の1人が、救出したと聞く。今は、主人が姿を見せない、辺境伯夫人の執務室の棚に飾られているとか。
辺境伯夫人のことは、大きな問題ではあるが、国境の拠点に詰める指揮官に報告すべきことではなかったからと、ジークスの屋敷への帰還を待って聞かされた。
シルビナは嫌々嫁いできたわけではない筈だ。辺境伯夫人は、国内で最も命の危険がある夫人の職業かもしれないが、罪人や奴隷の仕事ではない。誇りと威厳を持って、この辺境の地の母として、領民を守り、導く存在なのだ。幾ら嫁の来手が少ないとはいえ、他に嫁に行く場所がないから、親に強制されたからと言った理由で、嫁に来てもらっては困る。
ルマルド侯爵にも、シルビナ本人にも、婚姻前に確認したから間違いない。シルビナは嫌々嫁いできたわけではない……それは確かな筈で。
本気で辺境伯夫人になる気がないようだが……。
シルビナにも、昨晩、今朝出発すると告げてもらっている筈だが、担当の侍女が言うには、手紙を沢山書かねばならないので、忙しいとのことだった。
屋敷から拠点には、定期連絡が入る。口頭での伝言と手紙だ。伝令から幾つもの連絡事項を聞いたあと、受け取った手紙の中に妻からのものを探すが、3週間の拠点滞在期間に、夫に宛てた手紙を発見することはできなかった。
手紙は、辺境伯としてのジークスへのものと、執事長や家政婦長からトレンダム家の長男への報告がある。両親の治療と回復度合いについてや、両親も兄も頼れない、弟妹に関しての報告だ。家族に問題は起きていないことに毎回安心するが、誰もジークスの妻の話題を齎さないことに、不安がよぎる、拠点での日々だった。
3週間後。全員無傷というわけには行かなかったが、誰の命も欠けさせることなく、屋敷に戻れた。数日は書類仕事に勤しむことになり、気がつけば結婚して1月が経っていた。
1月も経てば、仕事はともかく、婚家の家族を含む、屋敷の者達と、少しは打ち解けているだろうと期待していたが、家族の晩餐にたまに参加することはあっても、シルビナから親しげに話しかけることはなかったと聞いた。
辺境伯夫人としてこの領地になれ、仕事を覚えないといけない。
初夜を延期してまで、やる気を見せていた新米辺境伯夫人は、どこに消えたのか。
教育係を母の右腕の侍女の1人と家政婦長に任せていたが、辺境伯夫人の執務室に案内しようとしても、部屋から出てこず、一時的に指導役となっている侍女や家政婦長に対する発言は、執務に取り掛からない言い訳と、ある意味戦時である辺境伯領で買い物を楽しむことも、王都からドレスや宝石のデザイナーを呼ぶこともできない文句だけだったそうだ。どうやらシルビナは、王都の華やかさを好み、辺境を見下す女性だったらしい。それなら婚姻の申し出など拒否すれば良いのに、何故受け入れたのか、疑問だが、今更聞いても仕方がないかもしれない。
高価な宝石ではない、“赤玉”のブレスレットは、中身を確認したらしきあと、ぐしゃぐしゃに潰した箱と共に、床に投げ捨てられていたのを、侍女の1人が、救出したと聞く。今は、主人が姿を見せない、辺境伯夫人の執務室の棚に飾られているとか。
辺境伯夫人のことは、大きな問題ではあるが、国境の拠点に詰める指揮官に報告すべきことではなかったからと、ジークスの屋敷への帰還を待って聞かされた。
シルビナは嫌々嫁いできたわけではない筈だ。辺境伯夫人は、国内で最も命の危険がある夫人の職業かもしれないが、罪人や奴隷の仕事ではない。誇りと威厳を持って、この辺境の地の母として、領民を守り、導く存在なのだ。幾ら嫁の来手が少ないとはいえ、他に嫁に行く場所がないから、親に強制されたからと言った理由で、嫁に来てもらっては困る。
ルマルド侯爵にも、シルビナ本人にも、婚姻前に確認したから間違いない。シルビナは嫌々嫁いできたわけではない……それは確かな筈で。
本気で辺境伯夫人になる気がないようだが……。
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