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第2部
11 | 魔導書の封印 - セルシウス②
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いや、やろうと思えばできるのか? 己の邪な発想はとりあえず脇にどけて、ベルスタの中へ腰をすすめた。
「私の魔力も受け取ってくれ」
乱暴にならないよう自制しながら奥を開いていく。繋がっている一箇所だけがすべてになる。引き抜き、擦り上げる。繰り返すごとに脈打つ鼓動がどちらのものかわからなくなる。
「ッセルシウス」
焦れたようにかすれた声が私を呼んだ。ぞわりと欲情が逆撫でされる。自分で呼べと言った名前なのに、思いのほか倒錯感があった。
「悪くない」
「へ? っうぁ」
犬なら我慢などしないだろう。ベルスタの腕を掴んでから強めに奥を突き、そのまま律動を早めた。
抑えてももれる喘ぎが私を助長させる。魔力云々ではなく、ただの快楽に溺れてしまえばいい。体がしなり、目下で揺れる屹立が白濁を吐き出した。きつく締め上げられ私も半ば強制的に果てていた。
ベルスタが、「うう」と軽くうめく。無茶をしすぎただろうか。
「大丈夫か?」
「慣れないです、こうがっつりと魔力がくる感じ」
「…ああ、悪い」
魔力差があるからセーブしようと思うのについ忘れてしまう。
「シュル…セルシウス様が悪いわけではありません。こうして魔力をもらっていたらペンタクルも上達するかもしれませんし」
それは期待できないが、と考えていると微かな気配がした。
屋根裏部屋を見回せば、部屋の隅が月光ではなく鈍く発光している。
「どうかしましたか?」
「光っている」
「本当だ、なんでしょう」
近づいてみると、光っているのは一冊の書物だった。
「…魔導書《グリモワール》だ」
「王宮から盗んできたやつですか」
「ああ、今日は満月だったな」
「関係が?」
「封印した人物が月の力を使ったのかもしれない」
リリスが、マクスウェルが、そしてルーメン教授が、私のことをグリモワールの鍵と呼んだ。この封印された魔導書を開くことができると。
ラザフォード家の紋章の入った魔導書であるから無関係ではなさそうだが、手に入れてからいろいろ試したものの古い魔術すぎて解ける気配はなかった。それがいま仄かな光を放っている。
「封印が解けるのですか」
「解けるかもしれないが…」
マクスウェルの話が思い出される。王国を揺るがす力が封じられているのかもしれない。
「やめておこう」
ベルスタにくちびるを寄せる。
「いいんですか」
「ああ」
「気になりませんか」
「気にならない」
「俺は気になります」
誤魔化されてはくれなかったか。
「…危険かもしれない」
そんな会話をしている間にも光は強さを増していく。
「このまま放置するほうが危険なのでは」
「そう言うが、月の力を使う術があると知っているだけで私は使えない、っておい」
ベルスタは無警戒に魔導書へ手を伸ばしていた。
「平気です。開きませんが」
「開いてたまるか」
迷惑な魔導書だ。なぜこのタイミングで。
「あ、でも」
「んん?」
ぽわりと魔導書から光のペンタクルが浮かぶ。ベルスタにも多少なり私の魔力が流れているわけで、つまりはラザフォード家の魔力に反応しているのだろうか。
「どうしたら!」
「落ち着け」
魔導書が開けてくれと言っているような状況は罠だろうか。邪悪な感じはないが、どうだろう。
「貸してみろ」
「封印、解けるんですか」
「成り行きにまかせる。なにが起こるかわからないから覚悟しておけよ」
ベルスタから魔導書を受け取ってみるが、さてどうしたものか。
表紙の上に光のペンタクルは煌々と浮かんだまま、明るさの増した屋根裏で、自分がとてつもなく無防備な姿であることに気づいた。
「とりあえず…服を着るか」
ふっとベルスタの表情がゆるむ。セルシウスにも向ける微笑みの手前の顔であるが、牧羊犬の姿では身長差もあるため真正面から見ることは少ない。
「そうですね」と言う相手の腕を引き、顔を近づける。
「もう少しお前の魔力が欲しい」
「ど、うぞ」
口づけひとつに言い訳をしている自分がばからしい。鳥の巣のような髪をすくと、若草色の瞳が不安げに揺れた。
「今更身構えなくても」
「…先ほどまでは暗かったので」
見ると、見られる。腹をくくったのかベルスタは自らくちびるを寄せてくる。遠慮がちに絡められた舌からじんわりと魔力が伝った。
手もとの魔導書はというと、放っておかれているのが気にくわないのか、時間制限のようなものがあるのか、ペンタクルがちかちかとまたたく。
「厚かましいな、急かしているつもりか」
「下へ降りましょう」
ベルスタは散らばった衣服や靴を手際よく集め先に階段を降りていく。私は軽いため息をついてその後に続いた。
◇◇◇
「絶大な力を手に入れたらなにをしたい?」
机に置いた魔導書と浮かぶペンタクルを観察しながら、茶を淹れているベルスタへ質問する。
「力の定義はなんですか」
「なんだろうな…なんでも自分の好きなように、思い通りにできる力?」
「…それなら、ペンタクルを描く技術を向上させます」
欲のないことだ。
「ベルスタ」
「はい?」
「ナイフを用意してくれ」
封印の手段はいくつかあり、どう封印されているのかによって解く方法は変わってくる。錠と鍵の関係と同じだ。教授もマクスウェルも封印の手段が分からなかったから、この魔導書を解くことができなかった。
しかし今、ペンタクルには月を表す記号が浮かんでいる。解く鍵は月にある。それから、解くべき人物であるという証だ。私にも月の魔術の実態は分からない。ただ、解かれることを想定しているのであれば難しく考える必要はないはずだ。
「外に出るぞ」
風はなかった。雲のない空に満月がぽっかりと浮かんでいる。草の上に魔導書を置き、ベルスタから渡されたナイフで指先を切る。
「さて、なにが封印されているのか」
指先からひとしずくの血が落ちるのを待った。
「私の魔力も受け取ってくれ」
乱暴にならないよう自制しながら奥を開いていく。繋がっている一箇所だけがすべてになる。引き抜き、擦り上げる。繰り返すごとに脈打つ鼓動がどちらのものかわからなくなる。
「ッセルシウス」
焦れたようにかすれた声が私を呼んだ。ぞわりと欲情が逆撫でされる。自分で呼べと言った名前なのに、思いのほか倒錯感があった。
「悪くない」
「へ? っうぁ」
犬なら我慢などしないだろう。ベルスタの腕を掴んでから強めに奥を突き、そのまま律動を早めた。
抑えてももれる喘ぎが私を助長させる。魔力云々ではなく、ただの快楽に溺れてしまえばいい。体がしなり、目下で揺れる屹立が白濁を吐き出した。きつく締め上げられ私も半ば強制的に果てていた。
ベルスタが、「うう」と軽くうめく。無茶をしすぎただろうか。
「大丈夫か?」
「慣れないです、こうがっつりと魔力がくる感じ」
「…ああ、悪い」
魔力差があるからセーブしようと思うのについ忘れてしまう。
「シュル…セルシウス様が悪いわけではありません。こうして魔力をもらっていたらペンタクルも上達するかもしれませんし」
それは期待できないが、と考えていると微かな気配がした。
屋根裏部屋を見回せば、部屋の隅が月光ではなく鈍く発光している。
「どうかしましたか?」
「光っている」
「本当だ、なんでしょう」
近づいてみると、光っているのは一冊の書物だった。
「…魔導書《グリモワール》だ」
「王宮から盗んできたやつですか」
「ああ、今日は満月だったな」
「関係が?」
「封印した人物が月の力を使ったのかもしれない」
リリスが、マクスウェルが、そしてルーメン教授が、私のことをグリモワールの鍵と呼んだ。この封印された魔導書を開くことができると。
ラザフォード家の紋章の入った魔導書であるから無関係ではなさそうだが、手に入れてからいろいろ試したものの古い魔術すぎて解ける気配はなかった。それがいま仄かな光を放っている。
「封印が解けるのですか」
「解けるかもしれないが…」
マクスウェルの話が思い出される。王国を揺るがす力が封じられているのかもしれない。
「やめておこう」
ベルスタにくちびるを寄せる。
「いいんですか」
「ああ」
「気になりませんか」
「気にならない」
「俺は気になります」
誤魔化されてはくれなかったか。
「…危険かもしれない」
そんな会話をしている間にも光は強さを増していく。
「このまま放置するほうが危険なのでは」
「そう言うが、月の力を使う術があると知っているだけで私は使えない、っておい」
ベルスタは無警戒に魔導書へ手を伸ばしていた。
「平気です。開きませんが」
「開いてたまるか」
迷惑な魔導書だ。なぜこのタイミングで。
「あ、でも」
「んん?」
ぽわりと魔導書から光のペンタクルが浮かぶ。ベルスタにも多少なり私の魔力が流れているわけで、つまりはラザフォード家の魔力に反応しているのだろうか。
「どうしたら!」
「落ち着け」
魔導書が開けてくれと言っているような状況は罠だろうか。邪悪な感じはないが、どうだろう。
「貸してみろ」
「封印、解けるんですか」
「成り行きにまかせる。なにが起こるかわからないから覚悟しておけよ」
ベルスタから魔導書を受け取ってみるが、さてどうしたものか。
表紙の上に光のペンタクルは煌々と浮かんだまま、明るさの増した屋根裏で、自分がとてつもなく無防備な姿であることに気づいた。
「とりあえず…服を着るか」
ふっとベルスタの表情がゆるむ。セルシウスにも向ける微笑みの手前の顔であるが、牧羊犬の姿では身長差もあるため真正面から見ることは少ない。
「そうですね」と言う相手の腕を引き、顔を近づける。
「もう少しお前の魔力が欲しい」
「ど、うぞ」
口づけひとつに言い訳をしている自分がばからしい。鳥の巣のような髪をすくと、若草色の瞳が不安げに揺れた。
「今更身構えなくても」
「…先ほどまでは暗かったので」
見ると、見られる。腹をくくったのかベルスタは自らくちびるを寄せてくる。遠慮がちに絡められた舌からじんわりと魔力が伝った。
手もとの魔導書はというと、放っておかれているのが気にくわないのか、時間制限のようなものがあるのか、ペンタクルがちかちかとまたたく。
「厚かましいな、急かしているつもりか」
「下へ降りましょう」
ベルスタは散らばった衣服や靴を手際よく集め先に階段を降りていく。私は軽いため息をついてその後に続いた。
◇◇◇
「絶大な力を手に入れたらなにをしたい?」
机に置いた魔導書と浮かぶペンタクルを観察しながら、茶を淹れているベルスタへ質問する。
「力の定義はなんですか」
「なんだろうな…なんでも自分の好きなように、思い通りにできる力?」
「…それなら、ペンタクルを描く技術を向上させます」
欲のないことだ。
「ベルスタ」
「はい?」
「ナイフを用意してくれ」
封印の手段はいくつかあり、どう封印されているのかによって解く方法は変わってくる。錠と鍵の関係と同じだ。教授もマクスウェルも封印の手段が分からなかったから、この魔導書を解くことができなかった。
しかし今、ペンタクルには月を表す記号が浮かんでいる。解く鍵は月にある。それから、解くべき人物であるという証だ。私にも月の魔術の実態は分からない。ただ、解かれることを想定しているのであれば難しく考える必要はないはずだ。
「外に出るぞ」
風はなかった。雲のない空に満月がぽっかりと浮かんでいる。草の上に魔導書を置き、ベルスタから渡されたナイフで指先を切る。
「さて、なにが封印されているのか」
指先からひとしずくの血が落ちるのを待った。
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