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淡雪怒涛の初夜、大公は撃沈す
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「?」
銘木を使ったと一目でわかる瀟洒な牀榻を前に僕は眉根を寄せた。
上面は透かし彫刻が施され、流麗な造りの四柱に左右に分かれた薄衣の天蓋が朱い組紐で留められていた。
牀榻の上には上質な白絹のリネンが掛けられた寝心地の良さそうな寝具がある。
室内を見回すが、牀榻の他は花梨材らしき椅子とテーブル、仄かな灯りを灯す対の燭台しかなく、窓から射す月明かりと相まって何やら退廃的で淫靡なものを感じさせられた。
“こんな薄暗く怪しげな中、牀榻の上でマグロの解体ショーをしろと?いくら直江の経験値が高いからといって、血一滴流すことなく解体は無理だろう。リネンが血で染まるのは確実じゃん。しかも、この夜着・・・”
白の単姿の僕は両腕を広げた。
俎板の上に魚や鳥を載せて手を触れずに包丁刀と俎箸で切り捌く曲芸まがいの儀式を確か、白装束でやってたよな。となると、この夜着は白装束の代わりかぁ・・・けどさぁ、汚れるのが解っている前提で、この夜着ってどうよ・・・洗濯物増えるだけ。
無駄~。
僕は牀榻に腰を掛け、強く思った。
牀榻の上での解体ショーは止めさせよう、と。
だってさぁ、リネン換えても、ここでマグロを解体して血だらけにした事実は変わらない。
何が嬉しくて、そんな牀榻で寝なきゃならないなんてイヤだよ。
なんと言って止めさせるか・・・
“大公領のしきたりだ”
とか直江が言い出したら・・・
よし、即、離婚を切り出そう。
価値観の相違、耐え難い性格の不一致でイケるよな、多分。
そういえば、マグロ解体する道具はどこだ?
いくら直江が青髭鬼元帥といわれてても、両の素手でこう、マグロの口をがしっと鷲掴み左右に引き裂き解体をするわけがない。
できたらどんな腕力してるんだってことになる。
僕は辺りを探っったが、刃物は見当たらなかった。
う~ん~暇なせいか色々と想像してしまう。
片手に長剣を持つ直江。
俎板を捧げ持つ光顕と巨大マグロを両腕にぶら下げる鬼瓦じゃない忠勝・・・
ぶぶっ笑える~
僕がひとりでウケているとドアが開き、単の直江が入ってきた。
牀榻の上でひとり笑いに身悶える僕を奇異な目でみて硬直化している直江。
そりゃそうだよね。
僕だって、薄暗い部屋で笑いに身悶える直江をみたら、こいつヤバい、取り敢えず、切り捨てるかってなるもんな。
いかん、青髭大公、鬼元帥に切り捨てられる前にどうにかせねば・・・と焦る。
人間、焦れば焦るほど何も思いつかないのは世の常。真っ白な頭に僕は単の端を握りしめた。
お、落ち着け、淡雪・・・
えっと、こういう時はどうするんだっけ?
なぜだか晴の顔が脳裏に浮かんだ。
”いいですか~淡雪様~直江様と二人きりになられたら~三つ指ついて~不束か者“ですが、幾久しくよろしくお願いいたしますと仰ってくださいね。間違っても、元気よく仰ったり~喧嘩越しでいわないでくださいね~あと、先に大の字で寝たり、足をバタバタしながら寝転んだり等しないでくださいね~初夜のムードぶち壊しですからね~いいですか~淡雪様は~黙って座ってさえいれば、楚々とした艶やかさを持つ佳人なんですからね~“
と説教なんだか注意なんだかわからないことを言われたのを思い出す。
あの時は主人に向って失礼じゃないかと、思っていたが、確かにこの状況では役に立つ。
流石は晴だな。
僕は居住まいを正し、晴に言われたとおり、三つ指を付いた。
「幾久しくよろしくお願いいたします」
呪縛から解けたのか、直江がこちらに来る。
あれ?長剣は?
マグロ持ちの忠勝と俎板持ちの光顕もいないんだけど?
マグロの解体ショーは?
直江は牀榻に座り、僕の顎を指で掬うと顔を近づけてきて・・・
「えっ・・・」
唇が塞がれた。
はえっ?
直江を押しのけるとか、噛みつくとかすればいいのだろうが、初めてのことに身体が動かない。
息を詰めたまま、唇を塞がれるままになっていた。
歯列を割り、舌が入ってきて僕の舌に絡ませるように動いた。
そのうち息苦しくなってきて、目の前がくらくらし、気が遠くなる。
身体から力が抜けていき、ガクリっと直江の腕の中に倒れ込んだ。
直江が慌てたように僕の頬を軽く叩いた。
ぜぇぜぇと荒い息を繰り返した後、大きく息を吸った。
「溺れてもいないのに、なんで人工呼吸なんかするんだよ、しかも空気送り込まないで舌を絡ませてくるなんて!」
「はぁっ?」
直江が頓狂な声を上げた。
「窒息するかと思った・・・」
「鼻で息をすればいいだろうが」
「あっ、確かに」
「確かにって・・・」
「それより、マグロはどうしたのさ」
僕は直江の背後を覗き込んだ。
「マグロ?なぜ?」
「えっ?初夜に新郎新婦が二人でマグロの解体ショーやるんじゃないの、大公家では。やるならさっさとやろうよ。その後も作物の受粉作業があるんだろう?僕はチャッチャと済ませて寝たいんだけど」
「やるか、そんなこと。反対に聞きたい。なぜ。そうなるんだ?」
直江が顳かみを揉みながら尋ねてきた。
「晴と都筑が・・・」
僕はここに至るまでを説明する。
直江の目が見開かれ、段々と顔色が青くなった。
大丈夫か、直江。
人工呼吸が必要なのは直江の方じゃないのか?
僕の話を聞き終えた直江は愕然としている。
直江の様子になんか変だぞ?と。
直江は頭を左右に振ると、僕の両腕を掴んだ。
「いいか、よく聞け・・・」
直江の説明に今度は僕が愕然とし、喘ぎとも悲鳴ともつかない声を上げたのは言うまでもなかった・・・
銘木を使ったと一目でわかる瀟洒な牀榻を前に僕は眉根を寄せた。
上面は透かし彫刻が施され、流麗な造りの四柱に左右に分かれた薄衣の天蓋が朱い組紐で留められていた。
牀榻の上には上質な白絹のリネンが掛けられた寝心地の良さそうな寝具がある。
室内を見回すが、牀榻の他は花梨材らしき椅子とテーブル、仄かな灯りを灯す対の燭台しかなく、窓から射す月明かりと相まって何やら退廃的で淫靡なものを感じさせられた。
“こんな薄暗く怪しげな中、牀榻の上でマグロの解体ショーをしろと?いくら直江の経験値が高いからといって、血一滴流すことなく解体は無理だろう。リネンが血で染まるのは確実じゃん。しかも、この夜着・・・”
白の単姿の僕は両腕を広げた。
俎板の上に魚や鳥を載せて手を触れずに包丁刀と俎箸で切り捌く曲芸まがいの儀式を確か、白装束でやってたよな。となると、この夜着は白装束の代わりかぁ・・・けどさぁ、汚れるのが解っている前提で、この夜着ってどうよ・・・洗濯物増えるだけ。
無駄~。
僕は牀榻に腰を掛け、強く思った。
牀榻の上での解体ショーは止めさせよう、と。
だってさぁ、リネン換えても、ここでマグロを解体して血だらけにした事実は変わらない。
何が嬉しくて、そんな牀榻で寝なきゃならないなんてイヤだよ。
なんと言って止めさせるか・・・
“大公領のしきたりだ”
とか直江が言い出したら・・・
よし、即、離婚を切り出そう。
価値観の相違、耐え難い性格の不一致でイケるよな、多分。
そういえば、マグロ解体する道具はどこだ?
いくら直江が青髭鬼元帥といわれてても、両の素手でこう、マグロの口をがしっと鷲掴み左右に引き裂き解体をするわけがない。
できたらどんな腕力してるんだってことになる。
僕は辺りを探っったが、刃物は見当たらなかった。
う~ん~暇なせいか色々と想像してしまう。
片手に長剣を持つ直江。
俎板を捧げ持つ光顕と巨大マグロを両腕にぶら下げる鬼瓦じゃない忠勝・・・
ぶぶっ笑える~
僕がひとりでウケているとドアが開き、単の直江が入ってきた。
牀榻の上でひとり笑いに身悶える僕を奇異な目でみて硬直化している直江。
そりゃそうだよね。
僕だって、薄暗い部屋で笑いに身悶える直江をみたら、こいつヤバい、取り敢えず、切り捨てるかってなるもんな。
いかん、青髭大公、鬼元帥に切り捨てられる前にどうにかせねば・・・と焦る。
人間、焦れば焦るほど何も思いつかないのは世の常。真っ白な頭に僕は単の端を握りしめた。
お、落ち着け、淡雪・・・
えっと、こういう時はどうするんだっけ?
なぜだか晴の顔が脳裏に浮かんだ。
”いいですか~淡雪様~直江様と二人きりになられたら~三つ指ついて~不束か者“ですが、幾久しくよろしくお願いいたしますと仰ってくださいね。間違っても、元気よく仰ったり~喧嘩越しでいわないでくださいね~あと、先に大の字で寝たり、足をバタバタしながら寝転んだり等しないでくださいね~初夜のムードぶち壊しですからね~いいですか~淡雪様は~黙って座ってさえいれば、楚々とした艶やかさを持つ佳人なんですからね~“
と説教なんだか注意なんだかわからないことを言われたのを思い出す。
あの時は主人に向って失礼じゃないかと、思っていたが、確かにこの状況では役に立つ。
流石は晴だな。
僕は居住まいを正し、晴に言われたとおり、三つ指を付いた。
「幾久しくよろしくお願いいたします」
呪縛から解けたのか、直江がこちらに来る。
あれ?長剣は?
マグロ持ちの忠勝と俎板持ちの光顕もいないんだけど?
マグロの解体ショーは?
直江は牀榻に座り、僕の顎を指で掬うと顔を近づけてきて・・・
「えっ・・・」
唇が塞がれた。
はえっ?
直江を押しのけるとか、噛みつくとかすればいいのだろうが、初めてのことに身体が動かない。
息を詰めたまま、唇を塞がれるままになっていた。
歯列を割り、舌が入ってきて僕の舌に絡ませるように動いた。
そのうち息苦しくなってきて、目の前がくらくらし、気が遠くなる。
身体から力が抜けていき、ガクリっと直江の腕の中に倒れ込んだ。
直江が慌てたように僕の頬を軽く叩いた。
ぜぇぜぇと荒い息を繰り返した後、大きく息を吸った。
「溺れてもいないのに、なんで人工呼吸なんかするんだよ、しかも空気送り込まないで舌を絡ませてくるなんて!」
「はぁっ?」
直江が頓狂な声を上げた。
「窒息するかと思った・・・」
「鼻で息をすればいいだろうが」
「あっ、確かに」
「確かにって・・・」
「それより、マグロはどうしたのさ」
僕は直江の背後を覗き込んだ。
「マグロ?なぜ?」
「えっ?初夜に新郎新婦が二人でマグロの解体ショーやるんじゃないの、大公家では。やるならさっさとやろうよ。その後も作物の受粉作業があるんだろう?僕はチャッチャと済ませて寝たいんだけど」
「やるか、そんなこと。反対に聞きたい。なぜ。そうなるんだ?」
直江が顳かみを揉みながら尋ねてきた。
「晴と都筑が・・・」
僕はここに至るまでを説明する。
直江の目が見開かれ、段々と顔色が青くなった。
大丈夫か、直江。
人工呼吸が必要なのは直江の方じゃないのか?
僕の話を聞き終えた直江は愕然としている。
直江の様子になんか変だぞ?と。
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