魔法学園の空間魔導師

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第一章:魔法学園の空間魔導師

慌ただしく、そして騒々しい一日

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 転校生────それはそこにいるだけで周りから注目される存在であるが、一方で出だしで失敗すれば暗い学生生活が待っているという、いわば博打を打つ存在でもあるのだ。

 しかし、そんな博打のような事にはならない者がいる......イケメンだったり、取材を受けるような話題の人物であったり、またテレビや雑誌で活躍していたりする者はそれだけで周りからの人気を得る事が出来る。

 さて、そんな有名人でもなければ当たり障りの無い挨拶しかしていない瑠璃はどうなのかという話だが......安心な事にかなりの美貌を持つ彼女は現在進行形でクラスの奴らに囲まれていた。

 別に転校生に興味を持って群がるのは勝手だが、俺としてはこの上なく迷惑な事である。

 そして瑠璃。いくら対応に困っているからといってチラチラと助けを求めるように俺の方を見てくるな。

 残念ながら俺は自らその輪に入るつもりは無い、だからこっちを見るんじゃねぇ!


「いやぁ、瑠璃ちゃんはいきなり大人気だねぇ......俺の彼女になってくれねぇかなぁ」

「霧隠はどうしたんだよ」

「もちろん、まだ狙っているが?」


 こいつはいっぺん痛い目を見た方がいいと思う。

 というか何を当然のように〝ちゃん〟付けで呼んでいるのだろうか?


「ところで、その瑠璃ちゃんがお前に話しかけてたけど......どんな関係?」

「ん?あ~......実はだな......」

「あの────!」


 瑠璃との関係を訊ねられた俺がどう説明したものかと考えながら答えようとすると突然、隣でそんな大きな声が発せられた。

 見ればそこには霧隠を連れた桜庭が強い眼差しで瑠璃の前に立っていた。

 普段は大人しいからか、そんな大きな声を出した桜庭に周りの奴らも少し驚いている。

 そんな中で桜庭は瑠璃にこのような質問をした。


「み......忍足くんとはどんな関係なんですか?!」


 何やら言い直したような気もしないでもないが、とにかく桜庭は聞いて当たり前の事を瑠璃に訊ねていた。

 まぁその質問はして当然の事なのだが......今それを聞くのはやめて欲しかったなぁぁぁぁぁ!

 桜庭のその質問に周りの奴らが一斉に俺の方へと注目する。

 そして口々に各々の疑問を囁きあっていた。


「確かに......私もそれ聞いてみたかった......」
「席に移動する前に声掛けてたもんな......」
「もしかして付き合ってるの?」
「まさか......だってアイツ、普段から影薄いパッとしない奴だぜ?」
「でも、確かに気になるな......」


 不味い......非常に不味い。

 これで瑠璃が下手な事を答えればクラス全員からのヘイトを一気に買うことになるだろう。

 そうなれば俺の安息の日々はガチで終了する。

 俺は瑠璃に顔を向けると、アイコンタクトで〝余計なことは言うな〟と伝えた。

 するとそれが伝わったのか否か、瑠璃は大きく、そしてしっかりと頷いてから桜庭の質問にこう答えた。


「御影とは寝食を共にしている仲だ」


 今度こそ俺は机にヘッドバットをくらわせていた。

 確かにその通りだが、違う、そうじゃない。というかそんな回答だけはして欲しくはなかった!!


「なっ......」


 瑠璃の回答を聞いた桜庭は目を大きく見開いて震えており、その後ろでは霧隠が〝わぁお〟といった表情で目を爛々と輝かせている。

 そして周囲の奴らは危惧していた通り一斉に俺を睨みつけてきた。


「おいマジか?」


 煉が興味津々とばかりにそう問いかけてきたが、今の俺はそれに答える余裕は無い。

 するとそんな俺の肩を誰かが手を置いた。

 見ればそこにはクラスの男子連中がニッコリとした表情で俺を見ている。

 その目は当然、笑っていなかった。


「忍足く~ん?どういう事なのか、お聞かせ願いたいなぁ?」


 俺は頭をフル回転させ、この窮地から脱する方法を模索し始めた。

 このまま、血涙を流しているコイツらから逃げ出せなければ、どのような目に遭わされるのか分かったものでは無い。

 俺は暫く考えてから、俺の肩を掴んでいる生徒にこう言った。


「分かった......とりあえずその手を離してくれたら教えてやる」


 俺は両手を挙げて降参のポーズを取りながらそう伝える。しかし男子連中は疑い深く、なかなかその手を離そうとはしない。


「本当か?」

「本当だ。俺は生まれてこの方、一度も嘘を言ったことは無い」

「本当だな?」


 男子生徒はそう言うとゆっくりと俺の肩から手を離した。

 俺は一度大きく息を吐くと、次の瞬間には右手でパチンっと指を鳴らした。その直後、俺は教室から一瞬にして屋上の給水タンクの上に移動していたのだった。


「はぁ~......上手く逃げ出せた」


 いったい何をしたのか?

 今し方やったのは〝空間魔法〟の応用である〝空間移動〟である。まぁ分かりやすく言えば〝瞬間移動〟といったところだろう。

 上手く隙を突いて逃げおおせる事が出来たのだが......まぁ、戻る時は南北先生が教室に入るタイミングでまた戻ればいいだろう。

 空間魔法の応用編、〝空間探知〟を使えば誰が何処にいて、そして何処に移動しているか瞬時に把握出来るからな。

 そうして俺はその時まで給水タンクの上に寝そべりながら今後のことについて考えるのであった。

 そしてそれから休憩時間になっては逃げ去り、そして授業が始まる直前で戻りを繰り返すこと最後の授業......俺は終わる間際に手早く教科書等を鞄へとしまうと、礼をしたタイミングでまた空間移動を使おうとした。

 しかしすんでのところで瑠璃に手を掴まれる。


「御影」

「ど、どうした?」


 動揺のあまりつい声が上擦ったのを誤魔化しながらそう訊ねる。


「月夜さんから聞かされたのだが......仲の良い者同士、帰りは一緒に帰るらしいな?なのでどうだろう......今日から一緒に帰らないか?」


 世の男性諸君が聞けば大喜びしそうな提案をしてくる瑠璃。

 確かに帰る場所は一緒なので、そうするのは普通の事ではあるが......だが教室では俺と瑠璃の姿を見て机や壁を叩く男子連中が後を絶たない状況になっている。

 中には血涙どころか吐血までしている奴までいるのだからマジで今後の学生生活が怖い。

 しかし懇願するような目で見てくる瑠璃の提案を突っぱねるのは俺の良心が痛む。


「..................分かった。一緒に帰るか」


 男子連中の机や壁を叩く音がいっそう強まった気がする。

 そんな中、俺と瑠璃の会話を聞いていたのか桜庭が駆け寄ってきて、いきなりこんな事を言い始めた。


「お、忍足くん!わ、私も一緒に帰ってもいいかな?」


 今までそんな事を言ってこなかったので、桜庭からのその言葉には本当に驚いた。

 叩く音が更に強まっていたが......。

 しかし桜庭の提案を直ぐには飲めなかった。


「桜庭。お前、登下校は送り迎えだっただろ?」

「あぅ......」

「それに俺の家とお前の家はまるっきり反対方向だよな?遠回りになるだろ?」

「あうぅ......」


 そう......目の前にいる女子、〝桜庭咲良〟は都内でも有数の財閥である〝桜庭家〟のご令嬢────つまり生粋のお嬢様である。

 よって彼女はいつも学校へは専用車で送り迎えされているのだった。

 ちなみに一番仲の良い霧隠とはお隣さん同士らしく、霧隠もまた登下校の際は相乗りさせて貰っているのはここだけの話。

 そんな霧隠は桜庭の横で〝一緒に帰ってあげなよ〟という視線を俺に向けている。

 そう言われても、わざわざ正反対の方へ同行させるのは酷だろうし手間でもあるだろうに。


「それなら、御影が咲良さんの家にまでついて行って、それから瑠璃ちゃんと帰ればいいじゃないか」

「何故にお前がそれを言うんだ?」


 いつの間に来ていたのだろう、煉がそんな提案をし始めた。するとそれを聞いた桜庭の表情が一気に明るいものとなってゆく。

 いや、変に期待されても困るのだが......。


「御影、ちょっといいか?」

「あん?どうしたんだよ」


 俺がほとほと困り果てていると、不意に瑠璃が俺の肩を指で突っついて声をかけてきた。それに耳を傾けてみると、瑠璃はこんな事を言い始める。


「実は私は同性の友人が欲しくてな......」

「つまり?」

「ここは、そこの男子の提案を飲んでみるのも良いと思うのだが」


 瑠璃までそう言うのならば断る事は出来ない。

 ちなみに煉については名前を覚えて貰えて無かったことにショックを受けていたようだが、別に慰めてやる必要は感じなかったので放って置くことにする。


「はぁ~......まぁ、瑠璃がそう言うんならそれでもいいか」

「な、名前呼び......」


 何やら桜庭がショックを受けているようだ。

 別にショックを受けるような所は無かったと思うが......何故に?

 ともかくそういう事になったので俺は瑠璃と共にひとまず桜庭家へと向かうことになったのだった。

 ちなみに煉もちゃっかりついてくる事になっていた。





 ◆





 それから歩くこと約一時間後────ようやく俺達は桜庭の家へと到着した。

 事前に連絡を入れていたからか格子状の大きな鉄の門が自動でゆっくりと開かれてゆく。

 まったく......世の金持ちとやらは何かと豪勢なんだな。


「それじゃあな、桜庭。また明日」

「また明日、忍足くん。あっ、それと一つだけお願いしたいことがあるの」

「ん?」

「今度から〝御影くん〟って呼んでもいいかな?」

「......?別に構わねぇが」

「本当に?!」

「別に呼ばれて嫌だって訳ではねぇしな。誰がどう俺を呼ぼうが、別にそこにこだわりはねぇし」

「ありがとう!み、御影くん!そ、それと私の事は〝咲良〟って呼んで欲しいかなぁって......」

「ん~?まぁお前がそれでもいいってんなら」

「や、やった......そ、それじゃあね?御影くん」

「それじゃあな、〝咲良〟」

「~~~~~~!」


 俺に名前を呼ばれた桜庭......もとい咲良は嬉しさを噛み締めるように満面の笑みを浮かべた。

 そんな彼女の前で俺は瑠璃と煉を連れて帰ろうとするが、またしても咲良が呼び止める。


「御影くん!」

「なんだ?」

「あの......もし良かったら黒羽さんをお借りしても良いかな?」

「瑠璃を?なんで?」

「ちょ、ちょっとお話してみたいなって......」

「ん~......だ、そうだが、瑠璃としてはどうだ?」

「別に構わない。私も少し話をしてみたいと思っていたしな」

「だ、そうだ」

「よ、良かった......それじゃあ黒羽さんも上がってって」

「分かった」


 咲良に招かれた瑠璃が屋敷の中へと入ってゆく......すると何を思ったのか煉も当たり前のように入ろうとしていた。


「じゃあ俺────も"っ!!?」


 煉が門を潜ろうとしたその直後、奴の鳩尾に霧隠の肘鉄が叩き込まれる。

 肘鉄をくらった煉はその場に崩れ落ち悶絶していた。

 そんな煉のそばでしゃがみ込んだ霧隠は、その顔を覗き込むようにしてこう言った。


「空気......読もっか♪︎」

「は、はい......」


 笑ってはいるが目が笑っていない。

 俺の中の怒らせてはならない人物リストにまた新たに一人追加された瞬間であった。


「じゃあ俺は煉を連れて先に帰ってるからな。母さんには伝えておく」

「分かった。それではまた後でな」


 手を振り合いながら瑠璃達と別れを告げ、俺は煉を連れて帰路へとついたのだった。
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