魔法学園の空間魔導師

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第一章:魔法学園の空間魔導師

その日の夜

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 その日は疲労困憊になるには十分な一日であった。

 前回で学んだのか男子連中は頑なに俺から手を離そうとしないわ、女子達からはあれこれ質問されるわ、本当に散々な一日だったと思う。

 当の都胡は咲良、才加、そして瑠璃と談笑してやがったし、煉に至っては遠くから傍観を決め込んでやがった。

 煉には今後一切ノートを見せてはやらん事にする。

 たとえテスト目前で泣きつこうとも、決して手助けしてやろうとは思わん!せいぜい惨憺たる点数を取って補習を受けるがいい。

 そうしてバイトを終えて帰宅した俺が玄関のドアを開けると、そこには朝と同様こちらに笑顔を向けて立っている都胡の姿があった。

 当然、俺はそっと玄関のドアを閉めて、一旦瞑目してから再度ドアを開けた。

 だが見間違えでも幻覚でもなく、鞍馬都胡は変わらずそこにいた。


「おかえり御影♪︎なんで1回閉めたん?」

「いるはずのない奴がいたら、誰だってそうするだろ。それで……何故ここにいる?」

「失礼やなぁ。こうして帰ってきたんやから当然叔母さん達に挨拶しに来たに決まっとるやろ」


 そう言われれば確かにそうなのであるが、そういうのは日を改めて日中に来るもんじゃないか?

 まぁ叔父さん夫婦のものらしき声がリビングから聞こえてくるので家族で来たのだろう。それにしても来るならば来るで事前に伝えて欲しかったところではある。


「とりあえず叔父さん達に挨拶しねぇとな」

「もう出来上がっとるよ♪︎」

「早ぇなおい……」


 〝出来上がっている〟というのは言わずもがな、ベロンベロンに酔っている状態の事を指している。

 父さんと叔父さんは実の兄弟のように仲が良く、それこそ俺がガキの頃はよく家族ぐるみで宴会をしていたものだった。

 そしてリビングへと入ると、そこにいた叔父さんと叔母さんがこちらへと顔を向けて笑みを零した。


「おぉ、久しぶりだな御影くん!元気にしてたか?」

「テンション高ぇな叔父さん。そんなに飲んで大丈夫なのかよ?」

「はっはっはっ!これでも大阪の支店で鍛えられてるんだ!」


 まるで大阪府民は飲んべえの集まりとでも言うような言い回しで陽気にそう話す叔父さん。

 その横で叔母さんがコソコソと酒を隠している姿を見るに、明らかに飲み過ぎているのだろう。

 父さんも父さんで茹で上がったタコのように顔が真っ赤になっており、隣にいた母さんも叔母さんのように酒をこっそりと取り上げていた。

 やれやれ……その事に気付かないとは、二人はいったいどれだけ飲んでいるのだろうか?


「月夜さん、これは何処に運べば────って、帰ってたのか御影?」


 キッチンから給仕よろしく瑠璃がツマミが乗ったお盆を手に姿を現す。


「お前、何やってんの?」

「いや……月夜さんのお兄さん夫婦が来ると聞いてな。せっかくだから手伝おうと……」

「手伝わんでいいから。それより今の二人に捕まると面倒な事になるぞ?」

「面倒?それはいったいどういう意味────」


 瑠璃がそう言いかけた時だった。

 急に父さんが立ち上がると、お盆を手にしていた瑠璃の肩に手を回して隣に座るよう促し始める。

 瑠璃は断ることもせず流されるままに父さんと叔父さんの間に座ったのだが、それが瑠璃にとって地獄の時間の始まりの合図である事を俺は直ぐに察した。


「都胡、どうせ来たんなら俺の部屋でゲームでもやるか?せっかくなら御陽と御夜も呼んでよ」

「お~ええなぁ!でも瑠璃はんはどうするん?」

「あいつはもう駄目だ。助けようとすればこっちが巻き添えをくらう」

「酷いなぁ……見殺しにするん?」

「ならお前が行くか?」

「は、はよぅ部屋に行こうやないか」


 あからさまに焦り出す都胡。

 幼い頃から酔った時の父親の姿をよく見てきたからこそ、一度絡まれたら最期、面倒この上ない目に遭う事は容易に想像出来たからだ。

 思い出せば懐かしい……ガキの頃、都胡がよく酔っ払った叔父さんに〝これでもか〟と撫で回され、頭をグリグリされて、とてつもなく嫌な顔をしていた時のことを。

 そういうわけで俺と都胡はいち早く退散することにしたのだが、それを知らない瑠璃は〝え?〟という顔をしながら俺達の方を見る。


「堪忍な瑠璃はん。お父さん達の相手したってや」

「まぁ一言かけるとするならば……頑張れ」

「え?は?ちょっ────」


 逃がすまいとするように父さんと叔父さんの二人にがっしりと肩を掴まれている瑠璃を犠牲に、俺と都胡はそそくさと部屋へと向かうのであった。





 ◆





 それから時間は経ち、まだ盛り上がっているのか下からは父さん達の笑い声が聞こえてくる。

 そんな声を聞きながら俺と都胡は妹達を交えてゲーム大会に勤しんでいた。


「あっ!それうちが狙っとったアイテムやんか!卑怯やで?!」

「勝負に卑怯もクソもあるかってんだ!こういうのは早いもん勝ちなんだよ!」


 今やっているのは某有名なレーシングゲームなのだが、俺と都胡は妹達を差し置いてデッドヒートを繰り広げていた。


「────っしゃあ!激強アイテム引いたわ!これはもろたで!」

「甘いな!そのアイテムはこのアイテムで容易に防げるんだよ!」

「なんやて?!あっ、あっ……あ~~~~っ!!負けたわぁ……」


 最後の直線────都胡は前のプレイヤーに攻撃出来るアイテムを嬉々として使ったのだが、俺は取っておいた相手にスリップをさせるアイテムでそれを防ぎ、もう一つの加速するアイテムを使って都胡と差をつけてゴールをする。

 その結果に都胡は大の字になって悔しさを露わにしていた。


「おにぃ、大人気ない……」


 御夜からそんな小言を言われるが、こと勝負となれば手加減などしないのが俺の流儀である。

 俺はそんな彼女を見下ろしながら、勝利の笑みを浮かべてこう言った。


「俺に勝つなんざあと10年は早かったな?」

「バカ強いにも程があるて……」

「それでも、昔は〝100年早い〟って、言われてた、から、都胡ねぇ、成長、してる」

「あ~ん♡御夜ちゃんはええ子や~♡うちの妹にしたいわぁ。なぁ御影、御夜ちゃんうちに貰ってもええ?」

「無理に決まってんだろ」

「イケズやわぁ。御夜ちゃんはうちの子になるつもりあらへん?」

「おにぃと一緒がいい」

「あ~、フラれてもうたわぁ」


 ケラケラと笑いながらそう口にする都胡。

 その言葉に心がこもっていないので、ちょっとした冗談だったのだろう……しかしこの時、御陽がコソコソと御夜に何やら耳打ちし、それを聞いた御夜が表情を明るくさせた。

 そして二人して俺の傍へと寄ると、期待を込めた目でこんな事を言い始めた。


「「おにぃ、都胡ねぇの妹になっちゃダメ?」」

「駄目です。つか、いったい何を耳打ちしやがった?」

「いや、都胡ねぇの妹になったら、おにぃと結婚出来るかもって……」

「出来るわけねぇだろ!だとしても俺はお前らと結婚するつもりはねぇよ!」


 なんて恐ろしい発想をするのだろう、この妹は。

 そもそも血が繋がっているので他所の子になろうが法律上無理な話なのではあるが、この妹達は割と本気でそう考えているので、本当に油断ならない。

 本当に末恐ろしい妹達である。

 その後ろでは都胡が喜んだり落ち込んだりしていたが、俺はあえて見ていないフリをした。

 そんなやり取りをしていると部屋のドアが開いて、憔悴しきった表情の瑠璃がフラフラと部屋へと入ってきた。

 そして無言のまま俺達の前を通り過ぎ、そして仰向けにベッドへと倒れ込んだ。


「やっと開放された……」


 ようやく口に出たのはその言葉────どうやら相当、父さん達の相手をして参っているらしい。


「大丈夫か?」

「大丈夫なわけないだろう……あれこれ聞かれたかと思えば、何故か私と御影の関係をこれでもかと問い詰められる始末。月夜さん達が助けてくれなかったら今頃……どこまで聞かれていた事か……」

「なんか……すまんな」

「そう思うのならさっき助けてくれても良かったろうに……」


 否定は出来ない。

 俺も都胡も何も言えずにそっと顔を瑠璃から背けていた。


「いい気味……」

「こら、御夜!そういう事は思ってても口にしちゃいけないの!」


 御夜の失言を御陽が嗜めているが、そう言っている辺り御陽も同じようなことを思っているのだろう。

 頼むから空気がギスギスするような事は言わないで欲しいが、対する瑠璃は言い返す余力も無いのか未だにベッドに突っ伏してしまっている。

 あまりにも暗い空気を放っているので、明るいはずの部屋がその一角だけ暗闇のように見えていた。


「ま、まぁまぁ……瑠璃はんも暗くなってないで一緒にゲームでもせぇへんか?そういうのは直ぐに忘れた方がええて」

「この恨みはゲームで晴らすことにしよう……」


 瑠璃は徐ろに体を起こすと、俺から取り上げるようにコントローラーを手にした。

 都胡も相手になるとでもいうようにコントローラーを手にテレビの画面へと顔を向ける。

 妹達もそれに参戦するが……果たして恨みを晴らす事など出来るのだろうか?

 そんな俺の不安に応えるように瑠璃は三人にコテンパンにされ、更に落ち込む結果になるのであった。

 やれやれ……フォローする身にもなって欲しいものだ。

 その後、都胡が帰る事になって玄関先で見送りに出たのだが、都胡が思い出したかのように大きな鞄から色々な荷物を取り出し、それを俺達に渡し始めた。


「そういえばお土産渡し忘れるところやったわ」


 そう言って手渡して来たのはヘンテコな置物の数々であった。

 いったい何処から買ってきたのかと思うような置物達に俺達は表情を引き攣らせる。


「それ、部屋にでも置いといてや。ほな、またな~♪︎」


 両親と共に去ってゆく都胡。

 彼女を見送った俺は隣にいる瑠璃にそっとこう伝えたのだった。


「言い忘れてたが、都胡は抜群に土産のセンスが壊滅的だ」

「そのようだな……」


 都胡から渡された置物を手に〝さて、どこに置こうか?〟と考えながら、俺は何とも言えない表情でそれを眺めるのであった。
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