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第一章:魔法学園の空間魔導師
大怪盗アルセーヌ・その2
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その日の夜────今日はコンビニでのバイトだった俺がバイトを終えて裏口から外へと出ると、そこには見知った人物が立っていた。
「あれ?なんでここにいるんだ……瑠璃」
そこにいたのは今頃、都胡達と国立新美術館にいるはずの瑠璃であった。
彼女はコンビニで買ったのだろう飲み物を手に、裏手の塀に寄りかかっており、そして俺を見るやいなや傍へと駆け寄ってきた。
「いや……月夜さんから連絡があってな。今夜はオムライスだというのでせっかくだから御影を待っていたんだ」
「てっきり都胡達と国立新美術館に行ってるとばかり思ってたんだが……」
「あ~……正直それ程興味が無くてな。それにどうせならば一緒に夕飯を食べたいなと思っていたし」
随分と可愛い事を言ってくれるな。
まぁ確かに一人で食べるよりは誰かと食べた方が美味く感じるだろう。
「都胡は残念がっていたがな」
「まぁ興味ねぇ事に無理して付き合わんでもいいと思うぞ?それよりそういう事なら早く帰るか」
「うむ、そうだな。あっ、それとこれ……」
瑠璃がそう言いながら差し出してきたのはもう一本のコーヒーであった。
「いいのか?」
「せっかくだからと思ってな」
瑠璃がコンビニに入ってきた所は見ていない……とすると、俺が着替えている時に来たのだろうな。
俺は瑠璃の厚意に甘えてコーヒーを受け取ると、さっそくその蓋を開けて一口啜る。
「あ~美味い。それにしてもよくブラックコーヒーが好きだって分かったな?」
俺がコーヒーの中で最も好きなのはブラックである。
苦味が苦手だという奴もいるが、俺としてはその苦味が好きなのである。
「前に月夜さんにコーヒーを淹れて貰っていた時のことを思い出してな。それにしてもよくそんな苦いものが飲めるものだ」
「この苦味がいいんじゃねぇか。しかし夜も少し暖かくなってきたな……そろそろ夏も近いか」
今は五月の半ば……桜はとうに散っており、青々とした新緑の葉が生い茂る時期である。
まぁ冷房が必要になるのはまだもう少し先ではあるが……。
「私もバイトとやらをした方が良いのだろうか……」
不意に瑠璃がそんな事を言い始める。
「どうした急に?」
「いや、な……クラスの者達の中にも御影と同じようにバイトをしている者達がいてな。それに早くこの世界に馴染めるよう、バイトの一つでもしてみてもいいのではないかと思ったんだ」
「ふ~ん……まぁいいんじゃねぇか?学校を卒業すりゃあ必然的に働くことになるし、バイトってのはこの世界で働くとはどういうものか知るには丁度いいしな」
「そうなると私はどのようなバイトをすれば良いのだろうか……」
「分からねぇなら後で教えてやるよ。お前にとって丁度いいバイトがあるかもしれねぇしな」
「その時は宜しく頼む」
「おう、任せとけ」
とは言ったものの瑠璃に丁度いいバイトか……。
接客業が多いが、引越し作業や工事現場の誘導員、また施設の警備員のバイトもある。
ふむ……家に帰ったら調べてみるか。
そんな事を考えていた俺だったが、不意にある事に気づき、瑠璃の手を取って後方へと引き寄せた。
「ちょっ────!?」
瑠璃がそんな声を上げたのと同時だった。
瑠璃が進もうとした場所に突然、一人の男が飛び降りてきたのである。
その男はいつの時代だと言わずにはいられない程のシルクハットにマントを羽織り、かの有名な独創的な画家サルバトーレ・ダリを彷彿させるかのような髭に単眼鏡といった格好であった。
まさかとは思うがコイツは────
「おや……人気の無い場所を選んだと思っていたのだが、まさか人がいるとは思わなかったな」
男はそう言うとニヤリと口角を上げ、懐から何やら球のようなものを投げつけてくる。
「瑠璃!」
俺は瑠璃を引き寄せると空間魔法で壁を作りその球を防ぐ。球は俺が作った壁に当たるとその場で破裂し、中から大量の煙幕を噴き出し始めた。
(野郎……目くらましか!)
そこで俺は奴の正体について確信した。今目の前にいるコイツが今話題の大怪盗アルセーヌだと。
「逃がすか!」
「むっ!?」
俺は空間転移でアルセーヌの背後へと回ると、その体に蹴りを放った。
しかしアルセーヌは身軽な動きでそれを避けると、器用にバク転しながら後方へと退る。
「ふはは!この国の警察連中は他愛もないと思っていたのだが、なかなかどうして君のような若者もいるじゃあないか!」
嬉々としてそう話すアルセーヌ。その手には見事に盗み出したのだろう見事な装飾が施された置時計が抱えられていた。
「どうやら見事に万年時計を盗み出せたようだな?えぇ、大怪盗アルセーヌ」
「ふはは!馬鹿な警察連中から盗み出すのは容易であったわ!」
「そうかよ……だが、俺から逃げられると思うなよ?」
「そう言うのであれば、是非ともやってみるがいい!」
アルセーヌは声高らかにそう言うとマントを翻し、あろうことかその場からの逃走を図ろうとした。
「逃がさねぇっつってんだろ!」
俺は右手をかざすとその手のひらを上へと向けて返した。
するとアルセーヌの前に見えない壁が現れ、それは奴の前方だけでなく左右と、そして俺達の後方にも現れる。
つまりこの一角だけを空間の壁で隔離し逃げないようにしたのである。
「なんと……!」
驚くアルセーヌ。しかし奴にはまだ余裕の色が見て取れる。
「よもや結界魔法とはな……」
「残念ながら結界魔法じゃねぇよ。けど、この魔法について教えるつもりは毛頭ねぇがな」
「ならば無理矢理推し通るまで……────むっ?!」
アルセーヌの動きが止まる。
それもそのはず……なにせ今の奴の頭は小さな空間の箱で覆い囲まれているからだ。
「おっと、死にたくねぇなら動くなよ?下手に動けばその瞬間、テメェの頭は胴体と別れを告げる事になるからな」
「結界の次は固定魔法とは……多才なのだな少年」
「多才ってわけじゃねぇさ。それよりも大人しくしてるんだな。たった今、テメェの牢屋行きが確定したんだからよ」
俺はそう言いながらポケットから携帯を取り出し警察に連絡を取ろうとする。するとアルセーヌは何を思ったのかいきなり笑い出した。
「ふははははは!!」
「何が可笑しい?」
「いや、な……多才なわりには思慮が足らぬと思ってな」
「どういう意味だ?」
「クックックッ……なぁに、この吾輩がこのようなものを対処出来ぬわけがなかろうと思った迄よ!」
「おい、まさか……」
そう言いかける俺の目の前でアルセーヌは当然のように空間の箱から頭を抜け出し、何事も無かったかのように首を回していた。
それを見た俺は初めて動揺をしてしまう。
「おいおい……空間を固定してんだぞ?なんで動ける?なんで抜け出せてんだ?」
「少年、君が吾輩に少年自身のことを話さぬのと同じく、吾輩自身のことを教えてやるわけがなかろう。さて……もう少し少年と遊んでいたい気もするが、そろそろ立ち去らぬと非常に不味いのでね」
アルセーヌはそう言いながら懐から黒く光る物体を取り出し、それを俺達へと向けた。
「ヤバっ────」
俺は急いで空間の壁を作り出す。するとその壁に勢いよく何かがぶつかる。
目の前に転がる物体……それは先端がひしゃげた小さな金属体であった。それが何かを瞬時に理解した俺は、忌々しげにアルセーヌを睨みつける。
「拳銃たぁ、物騒なもん持ってやがんな」
「ククク……いったい何処に丸腰の怪盗なんているのだね?護身用に持っているのは当然だろう?」
「厄介だな……」
思わず舌打ちをする。
拳銃を持っているとなればおいそれと近づくことなど出来やしない。
「さて少年、ここらで一つ賭けでもしようではないか?少年が吾輩を捕まえるのが先か?それとも少年の魔力が尽きて吾輩が逃げ仰せられるのが先か」
「賭けにならねぇな。テメェは絶対に捕まえるからよ」
「ふはは、その意気や良し!ならば試してみようではないか!!」
そう言って銃を乱射するアルセーヌ。
ご丁寧に違法改造しているようでそこらの拳銃よりも威力が高く、しかも弾倉も他のそれより倍くらいの長さがある。
「チッ────なんとか懐に潜り込めりゃあわけねぇんだが……」
「ならば御影、私に良い作戦がある」
瑠璃はそう言うとコソコソとその作戦とやらを耳打ちしてくる。
それを聞いた俺は無言で頷いてそれを承諾した。
「合図は?」
「俺が出す」
「分かった」
俺はアルセーヌを真っ直ぐと見据えると瑠璃にだけ聞こえる程度の声でカウントをとる。
「3……2……1……行くぞ!」
俺は空間転移でアルセーヌの目の前に移動すると、そのまま奴の顔面に蹴りを放った。しかしその蹴りは沈むようにして奴の頭を通過する。
感触は無かったのを見るにこれは……。
「ふはは!吾輩は物体をすり抜ける魔法を心得ていてね。つまり君の物理攻撃は無意味なのだよ」
「そうかよ。道理でさっきも平然とすり抜けられたわけだな」
「その通り!この魔法であれば相手の魔法すらも無効化出来るのだよ!」
アルセーヌはそう言いながら俺の腹に蹴りを放つ。
なんとか防御はしたが、奴の蹴りの威力はかなりのもので俺はそのまま後方へと蹴り飛ばされる。
だがこれは囮だ。本命は奴の背後に回っている瑠璃だからな!
「はぁ!!」
「むっ!?」
瑠璃は何処からか取り出した鞘に納められたままの剣をアルセーヌの身体に向けて横薙ぎに払う。すると奴は意表を突かれたのかそのまま身体を捻ってそれを回避した。
なんてことは無い、至極当然な行動────しかし俺は奴のその行動に違和感を覚えた。
(なんだこの違和感は……?)
そう疑問を抱く俺の目の前でアルセーヌは瑠璃にも蹴りを放つ。
剣を振り放った事で僅かな隙が生まれてしまった瑠璃は防御をとることが出来ずにそれを受け、そして更にその衝撃で背後の空間の壁にも直撃した。
「がハッ────」
そのまま崩れ落ちる瑠璃。
ピクリとも動かない所を見るに打ち所が悪く気を失ってしまったらしい。
それに対しアルセーヌが拳銃の銃口を横たわる瑠璃へと向ける。
「クソがっ!!」
俺は直ぐに空間転移で瑠璃の前へと移動し、奴の凶弾から守るようにして壁を展開する……が、そのうちの一発を腹部に貰ってしまった。
それにより周りを覆っていた壁が儚く消え去る。
それを見てアルセーヌは不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「ぐっ……」
「勝負ありだな。それでは吾輩はここらで失礼しよう」
「逃が……すか!」
決して逃がすまいと俺は奴の両足を空間の箱で覆った。
足を封じられた事で動きを止められていたが、その姿を見て俺は〝ある可能性〟が脳裏に過ぎった。
(もしかして……そういう事か!)
この可能性ならばさっきの事も、物理攻撃を受けないことも、そして瑠璃の攻撃を避けた事にも筋が通る。
俺は大きく息を吐くと、先ずは瑠璃を離れた所へと転移させた。
「なん────」
「おぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げてアルセーヌへと殴り掛かる。狙うは奴の腹部。
しかしアルセーヌは当然のようにそれを避け、俺は体制を崩してその場に転倒してしまった。
だが今ので可能性は確信へと変わる。
「無様だな。最後の力を振り絞ったようだが……当たらねば意味が無い」
「どうだろうな……そいつぁ分からねぇってもんだぜ。それよりも手元がお留守のようだが?」
「何を……────むっ!?」
アルセーヌは気づいただろう……自分の手の中にあるはずの万年時計が消えていることに。
「探し物はこれかい?」
俺はキョロキョロと自身の身体を確認するアルセーヌに向けて万年時計を掲げてみせる。
「いつの間に!!」
「さっきのは別にテメェに殴り掛かったわけじゃねぇ……本当の目的はテメェの手の中にあるコイツに触れることだ。触れっちまえば空間転移で俺の手に移す事が出来るからな」
痛む腹を抑えながら俺はゆっくりと立ち上がる。
「正直、テメェを倒そうなんざもう思っちゃいなかったんだよ。せめてコイツを取り返せればそれで良しって事でな。なぁ今どんな気持ちだ?見くびっていた相手に盗品を取り返された気持ちはよォ」
「貴様ぁぁぁ!!」
怒りを顕にこちらへと向かってくるアルセーヌ。
既に足を覆っていた箱は消えていたのだから大人しく逃げ出せば良かったものを……。
「テメェ、意外と馬鹿なんだな?」
「なにぃ?」
「俺がこうなる事を予測していなかったとでも思っていたのか?俺に煽られたテメェがこうして殴り掛かってくる事を予測していなかったとでも?甘いな……もう既に次の仕込みは済んでんだよ」
「何を言って……ぬっ?な、なんだこれは……シャボン玉?」
「俺特製の〝爆弾〟ってところかな?」
そうして俺は困惑するアルセーヌの目の前で指を鳴らした。
「〝空爆〟」
その瞬間、奴の周りに漂っていた幾つものシャボン玉のようなものが破裂し、それはまるで爆弾のように轟音を立てて爆ぜたのだった。
「ば……馬鹿……な……」
アルセーヌはそれだけを口にすると、ボロボロとなった身体で仰向けに倒れてゆくのだった。
それと同じくして奴に勝利した俺も、緊張の糸が解けたのか、奴と同じようにその場で仰向けに倒れたのだった。
「あれ?なんでここにいるんだ……瑠璃」
そこにいたのは今頃、都胡達と国立新美術館にいるはずの瑠璃であった。
彼女はコンビニで買ったのだろう飲み物を手に、裏手の塀に寄りかかっており、そして俺を見るやいなや傍へと駆け寄ってきた。
「いや……月夜さんから連絡があってな。今夜はオムライスだというのでせっかくだから御影を待っていたんだ」
「てっきり都胡達と国立新美術館に行ってるとばかり思ってたんだが……」
「あ~……正直それ程興味が無くてな。それにどうせならば一緒に夕飯を食べたいなと思っていたし」
随分と可愛い事を言ってくれるな。
まぁ確かに一人で食べるよりは誰かと食べた方が美味く感じるだろう。
「都胡は残念がっていたがな」
「まぁ興味ねぇ事に無理して付き合わんでもいいと思うぞ?それよりそういう事なら早く帰るか」
「うむ、そうだな。あっ、それとこれ……」
瑠璃がそう言いながら差し出してきたのはもう一本のコーヒーであった。
「いいのか?」
「せっかくだからと思ってな」
瑠璃がコンビニに入ってきた所は見ていない……とすると、俺が着替えている時に来たのだろうな。
俺は瑠璃の厚意に甘えてコーヒーを受け取ると、さっそくその蓋を開けて一口啜る。
「あ~美味い。それにしてもよくブラックコーヒーが好きだって分かったな?」
俺がコーヒーの中で最も好きなのはブラックである。
苦味が苦手だという奴もいるが、俺としてはその苦味が好きなのである。
「前に月夜さんにコーヒーを淹れて貰っていた時のことを思い出してな。それにしてもよくそんな苦いものが飲めるものだ」
「この苦味がいいんじゃねぇか。しかし夜も少し暖かくなってきたな……そろそろ夏も近いか」
今は五月の半ば……桜はとうに散っており、青々とした新緑の葉が生い茂る時期である。
まぁ冷房が必要になるのはまだもう少し先ではあるが……。
「私もバイトとやらをした方が良いのだろうか……」
不意に瑠璃がそんな事を言い始める。
「どうした急に?」
「いや、な……クラスの者達の中にも御影と同じようにバイトをしている者達がいてな。それに早くこの世界に馴染めるよう、バイトの一つでもしてみてもいいのではないかと思ったんだ」
「ふ~ん……まぁいいんじゃねぇか?学校を卒業すりゃあ必然的に働くことになるし、バイトってのはこの世界で働くとはどういうものか知るには丁度いいしな」
「そうなると私はどのようなバイトをすれば良いのだろうか……」
「分からねぇなら後で教えてやるよ。お前にとって丁度いいバイトがあるかもしれねぇしな」
「その時は宜しく頼む」
「おう、任せとけ」
とは言ったものの瑠璃に丁度いいバイトか……。
接客業が多いが、引越し作業や工事現場の誘導員、また施設の警備員のバイトもある。
ふむ……家に帰ったら調べてみるか。
そんな事を考えていた俺だったが、不意にある事に気づき、瑠璃の手を取って後方へと引き寄せた。
「ちょっ────!?」
瑠璃がそんな声を上げたのと同時だった。
瑠璃が進もうとした場所に突然、一人の男が飛び降りてきたのである。
その男はいつの時代だと言わずにはいられない程のシルクハットにマントを羽織り、かの有名な独創的な画家サルバトーレ・ダリを彷彿させるかのような髭に単眼鏡といった格好であった。
まさかとは思うがコイツは────
「おや……人気の無い場所を選んだと思っていたのだが、まさか人がいるとは思わなかったな」
男はそう言うとニヤリと口角を上げ、懐から何やら球のようなものを投げつけてくる。
「瑠璃!」
俺は瑠璃を引き寄せると空間魔法で壁を作りその球を防ぐ。球は俺が作った壁に当たるとその場で破裂し、中から大量の煙幕を噴き出し始めた。
(野郎……目くらましか!)
そこで俺は奴の正体について確信した。今目の前にいるコイツが今話題の大怪盗アルセーヌだと。
「逃がすか!」
「むっ!?」
俺は空間転移でアルセーヌの背後へと回ると、その体に蹴りを放った。
しかしアルセーヌは身軽な動きでそれを避けると、器用にバク転しながら後方へと退る。
「ふはは!この国の警察連中は他愛もないと思っていたのだが、なかなかどうして君のような若者もいるじゃあないか!」
嬉々としてそう話すアルセーヌ。その手には見事に盗み出したのだろう見事な装飾が施された置時計が抱えられていた。
「どうやら見事に万年時計を盗み出せたようだな?えぇ、大怪盗アルセーヌ」
「ふはは!馬鹿な警察連中から盗み出すのは容易であったわ!」
「そうかよ……だが、俺から逃げられると思うなよ?」
「そう言うのであれば、是非ともやってみるがいい!」
アルセーヌは声高らかにそう言うとマントを翻し、あろうことかその場からの逃走を図ろうとした。
「逃がさねぇっつってんだろ!」
俺は右手をかざすとその手のひらを上へと向けて返した。
するとアルセーヌの前に見えない壁が現れ、それは奴の前方だけでなく左右と、そして俺達の後方にも現れる。
つまりこの一角だけを空間の壁で隔離し逃げないようにしたのである。
「なんと……!」
驚くアルセーヌ。しかし奴にはまだ余裕の色が見て取れる。
「よもや結界魔法とはな……」
「残念ながら結界魔法じゃねぇよ。けど、この魔法について教えるつもりは毛頭ねぇがな」
「ならば無理矢理推し通るまで……────むっ?!」
アルセーヌの動きが止まる。
それもそのはず……なにせ今の奴の頭は小さな空間の箱で覆い囲まれているからだ。
「おっと、死にたくねぇなら動くなよ?下手に動けばその瞬間、テメェの頭は胴体と別れを告げる事になるからな」
「結界の次は固定魔法とは……多才なのだな少年」
「多才ってわけじゃねぇさ。それよりも大人しくしてるんだな。たった今、テメェの牢屋行きが確定したんだからよ」
俺はそう言いながらポケットから携帯を取り出し警察に連絡を取ろうとする。するとアルセーヌは何を思ったのかいきなり笑い出した。
「ふははははは!!」
「何が可笑しい?」
「いや、な……多才なわりには思慮が足らぬと思ってな」
「どういう意味だ?」
「クックックッ……なぁに、この吾輩がこのようなものを対処出来ぬわけがなかろうと思った迄よ!」
「おい、まさか……」
そう言いかける俺の目の前でアルセーヌは当然のように空間の箱から頭を抜け出し、何事も無かったかのように首を回していた。
それを見た俺は初めて動揺をしてしまう。
「おいおい……空間を固定してんだぞ?なんで動ける?なんで抜け出せてんだ?」
「少年、君が吾輩に少年自身のことを話さぬのと同じく、吾輩自身のことを教えてやるわけがなかろう。さて……もう少し少年と遊んでいたい気もするが、そろそろ立ち去らぬと非常に不味いのでね」
アルセーヌはそう言いながら懐から黒く光る物体を取り出し、それを俺達へと向けた。
「ヤバっ────」
俺は急いで空間の壁を作り出す。するとその壁に勢いよく何かがぶつかる。
目の前に転がる物体……それは先端がひしゃげた小さな金属体であった。それが何かを瞬時に理解した俺は、忌々しげにアルセーヌを睨みつける。
「拳銃たぁ、物騒なもん持ってやがんな」
「ククク……いったい何処に丸腰の怪盗なんているのだね?護身用に持っているのは当然だろう?」
「厄介だな……」
思わず舌打ちをする。
拳銃を持っているとなればおいそれと近づくことなど出来やしない。
「さて少年、ここらで一つ賭けでもしようではないか?少年が吾輩を捕まえるのが先か?それとも少年の魔力が尽きて吾輩が逃げ仰せられるのが先か」
「賭けにならねぇな。テメェは絶対に捕まえるからよ」
「ふはは、その意気や良し!ならば試してみようではないか!!」
そう言って銃を乱射するアルセーヌ。
ご丁寧に違法改造しているようでそこらの拳銃よりも威力が高く、しかも弾倉も他のそれより倍くらいの長さがある。
「チッ────なんとか懐に潜り込めりゃあわけねぇんだが……」
「ならば御影、私に良い作戦がある」
瑠璃はそう言うとコソコソとその作戦とやらを耳打ちしてくる。
それを聞いた俺は無言で頷いてそれを承諾した。
「合図は?」
「俺が出す」
「分かった」
俺はアルセーヌを真っ直ぐと見据えると瑠璃にだけ聞こえる程度の声でカウントをとる。
「3……2……1……行くぞ!」
俺は空間転移でアルセーヌの目の前に移動すると、そのまま奴の顔面に蹴りを放った。しかしその蹴りは沈むようにして奴の頭を通過する。
感触は無かったのを見るにこれは……。
「ふはは!吾輩は物体をすり抜ける魔法を心得ていてね。つまり君の物理攻撃は無意味なのだよ」
「そうかよ。道理でさっきも平然とすり抜けられたわけだな」
「その通り!この魔法であれば相手の魔法すらも無効化出来るのだよ!」
アルセーヌはそう言いながら俺の腹に蹴りを放つ。
なんとか防御はしたが、奴の蹴りの威力はかなりのもので俺はそのまま後方へと蹴り飛ばされる。
だがこれは囮だ。本命は奴の背後に回っている瑠璃だからな!
「はぁ!!」
「むっ!?」
瑠璃は何処からか取り出した鞘に納められたままの剣をアルセーヌの身体に向けて横薙ぎに払う。すると奴は意表を突かれたのかそのまま身体を捻ってそれを回避した。
なんてことは無い、至極当然な行動────しかし俺は奴のその行動に違和感を覚えた。
(なんだこの違和感は……?)
そう疑問を抱く俺の目の前でアルセーヌは瑠璃にも蹴りを放つ。
剣を振り放った事で僅かな隙が生まれてしまった瑠璃は防御をとることが出来ずにそれを受け、そして更にその衝撃で背後の空間の壁にも直撃した。
「がハッ────」
そのまま崩れ落ちる瑠璃。
ピクリとも動かない所を見るに打ち所が悪く気を失ってしまったらしい。
それに対しアルセーヌが拳銃の銃口を横たわる瑠璃へと向ける。
「クソがっ!!」
俺は直ぐに空間転移で瑠璃の前へと移動し、奴の凶弾から守るようにして壁を展開する……が、そのうちの一発を腹部に貰ってしまった。
それにより周りを覆っていた壁が儚く消え去る。
それを見てアルセーヌは不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「ぐっ……」
「勝負ありだな。それでは吾輩はここらで失礼しよう」
「逃が……すか!」
決して逃がすまいと俺は奴の両足を空間の箱で覆った。
足を封じられた事で動きを止められていたが、その姿を見て俺は〝ある可能性〟が脳裏に過ぎった。
(もしかして……そういう事か!)
この可能性ならばさっきの事も、物理攻撃を受けないことも、そして瑠璃の攻撃を避けた事にも筋が通る。
俺は大きく息を吐くと、先ずは瑠璃を離れた所へと転移させた。
「なん────」
「おぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げてアルセーヌへと殴り掛かる。狙うは奴の腹部。
しかしアルセーヌは当然のようにそれを避け、俺は体制を崩してその場に転倒してしまった。
だが今ので可能性は確信へと変わる。
「無様だな。最後の力を振り絞ったようだが……当たらねば意味が無い」
「どうだろうな……そいつぁ分からねぇってもんだぜ。それよりも手元がお留守のようだが?」
「何を……────むっ!?」
アルセーヌは気づいただろう……自分の手の中にあるはずの万年時計が消えていることに。
「探し物はこれかい?」
俺はキョロキョロと自身の身体を確認するアルセーヌに向けて万年時計を掲げてみせる。
「いつの間に!!」
「さっきのは別にテメェに殴り掛かったわけじゃねぇ……本当の目的はテメェの手の中にあるコイツに触れることだ。触れっちまえば空間転移で俺の手に移す事が出来るからな」
痛む腹を抑えながら俺はゆっくりと立ち上がる。
「正直、テメェを倒そうなんざもう思っちゃいなかったんだよ。せめてコイツを取り返せればそれで良しって事でな。なぁ今どんな気持ちだ?見くびっていた相手に盗品を取り返された気持ちはよォ」
「貴様ぁぁぁ!!」
怒りを顕にこちらへと向かってくるアルセーヌ。
既に足を覆っていた箱は消えていたのだから大人しく逃げ出せば良かったものを……。
「テメェ、意外と馬鹿なんだな?」
「なにぃ?」
「俺がこうなる事を予測していなかったとでも思っていたのか?俺に煽られたテメェがこうして殴り掛かってくる事を予測していなかったとでも?甘いな……もう既に次の仕込みは済んでんだよ」
「何を言って……ぬっ?な、なんだこれは……シャボン玉?」
「俺特製の〝爆弾〟ってところかな?」
そうして俺は困惑するアルセーヌの目の前で指を鳴らした。
「〝空爆〟」
その瞬間、奴の周りに漂っていた幾つものシャボン玉のようなものが破裂し、それはまるで爆弾のように轟音を立てて爆ぜたのだった。
「ば……馬鹿……な……」
アルセーヌはそれだけを口にすると、ボロボロとなった身体で仰向けに倒れてゆくのだった。
それと同じくして奴に勝利した俺も、緊張の糸が解けたのか、奴と同じようにその場で仰向けに倒れたのだった。
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そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
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