魔法学園の空間魔導師

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第一章:魔法学園の空間魔導師

異形と化した者

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 瑠璃達がテトが囚われている島へと上陸し大暴れするその数分前────

 島へと連れ戻されたテトはオーガスタスから暴力を受けていた。


「貴様!実験体の分際で!何故!言うことを!聞かぬのだ!」

「オーガスタス様!それ以上は彼女の命に関わります!」


 研究員にそう窘められたオーガスタスは、今度は怒りを研究員へと向けた。


「そもそも貴様らの管理がなっていなかった故の事態だろうが!!」

「ヒッ────」


 怒鳴られた研究員はたちまちその場で萎縮してしまう。


「くそっ……余計な虫が付かなければこのような……命令に背くなどという事は起きなかっただろうに!」


 テトは島に連れ戻されてからオーガスタスが行おうとする実験を全て拒否していた。

 御影達に出会った事で彼女の中で、それまで行われていた実験が……それに対する認識が変わりつつあったのである。

 今まではよく理解せずに受けていた戦闘実験も、今の彼女にとって〝やりたくない事〟であるという認識になっていた。

 それ故に拒否し続けていたのだが、遂にそれに対する暴力が振られるようになったのである。

 オーガスタスにこれでもかと殴られ続けたテトは床の上で呼吸を乱しながら震えていた。

 そんな彼女を見下ろしながらオーガスタスは舌打ちをすると、研究員に指示を出す。


「コイツを暫く牢にでも入れておけ!時間が経てばふざけた考えなど消え失せるだろうよ!」

「は、はい!!」


 研究員に引き摺られるようにして連れられていったテトはその後、冷たく暗い牢の中へと放り込まれた。


「お前も道具としての立場を弁えてりゃ、こんな所に入れられなかったのによ」


 去り際に研究員にそのような事を言われたが、俯くテトの耳には入ってはいない。

 彼女はただただ御影達と過ごした時間のことを思い返していた。


(私はテト……私は実験体?研究の道具?違う……私はテト……実験体でも道具でもない)


 オーガスタス達は自身のことを〝実験体〟か〝道具〟としてしか見ていない。しかし御影達はそんなテトのことを一人の人間として見てくれていた。

 その事を理解したテトは、いつの間にか自身の頬が濡れていることに気づき、そっとその手で触れる。


(これは何?どうしてテトの目から流れ落ちているのでしょうか?)


 今の今まで道具として扱われていたテトは〝悲しい〟という表情が分からなかった。

 しかし御影達との思い出や、御影を刺してしまった時のことを思い出す度に胸が締め付けられるような痛みが走り、それに呼応するように更にその目から涙が零れ落ちた。


(テトは……テトは……悪い子……あの人を……御影を刺してしまった……テトは……)


 悲しみに昏れるテトは己の心を守るように、また自身の殻に閉じこもるように身体を丸くした。


「うっ……うぅ……」


 この時初めて〝泣く〟という事を覚えたテトは暫く声を押し殺しながら泣き続け、そして泣き疲れたのかそのまま眠りに付いたのだった。

 それから暫くしてテトは目を覚ました。

 耳を澄ませてみると何やら外が騒がしい……すると突然、建物を震わすような音と衝撃が起こり、それに驚き飛び起きたテトの耳にオーガスタスの怒鳴り声が聞こえてくる。


「襲撃者だと?!見張りは何をしていた!!」

「い、いつの間にか上陸していたようでして……雇った者達が迎え撃ったのですが、全員返り討ちにされています!!」

「高い金を払ってやってるというのに使えん奴らだ!いったい何者だ、そいつらは!!」

「警察と……あと、数人の少年少女達です」

「何だと?!警察はともかく……たかがガキ共に返り討ちにされていると言うのか?!」


 その会話を聞いていたテトは弾かれるようにして牢の窓から外を見る。するとその視線の先には海岸で大暴れしている煉や都胡達の姿があった。

 それを見たテトの目が大きく見開かれ、そして嬉しさからなのかその視界が涙で滲み始めていた。


(御影は……)


 そう思い御影の姿を探すテトであったが、視界にその姿が無いことに落胆する。

 そんな時、牢の扉が開かれ、憤怒の形相をしたオーガスタスが中へと入ってきた。

 オーガスタスはそのままテトの腕を強引に掴み上げると、怒鳴り散らすようにしてテトにこう言った。


「来い!貴様の対人戦闘のデータを取るのに丁度いい奴らが来た!」

「い、嫌……嫌で────」


 拒否をしようとしたテトの頬に痛みが走る。

 その頬を抑えてテトが前を向くと、そこには拳を握り締めるオーガスタスの姿があった。


「もう一度拒否してみろ?今度は泣いても止めんぞ」

「……」


 今度こそ抗う気力も無くなったテトは無理矢理オーガスタスに連れられてゆく。


(御影……助けて……)


 テトは心にそう願いながら、オーガスタスと共に移動するのであった。





 ◆





 一方その頃、瑠璃、咲良、そして大岡の三人を送り出した煉達は相変わらず武装した男達を相手に大立ち回りを繰り広げていた。


「なんか悪の組織って感じなのに、拍子抜けな奴らだな?」

「言うても三下なんやろ?ウチら子供にボコられとるんやもん」


 そんな会話をしている煉と都胡だが、この武装した男達はオーガスタスが雇った傭兵達であり、かつてはテロ行為なども行っていたプロである。

 だが、煉達に比べれば保有している魔力は僅かで、やっと手にしている魔導銃を使える程度なのである。


「くそっ、なんで当たらねぇんだ!!」


 飛び交う銃弾や魔法弾がまるで自ら都胡を避けていくように逸れてゆく。

 これこそが都胡が得意とする魔法で、あらゆる確率を操作出来る〝確率操作魔法〟であった。

 故にいくら男達が銃を射ち放とうとも、その弾は決して彼女に当たることは無い。

 それどころか逸れていった弾が男達に当たる始末である。

 その横では才加が呼び出した象がその長い鼻で男達を薙ぎ倒していた。

 その異様な光景に大岡の部下や警官は呆気に取られながらも、どこか心強さも感じていた。

 暫くして出てきた男達を全て倒したのか、これ以上男達が出てくる様子は無い……その事に勝利の勝鬨かちどきを上げようとしていた煉達であったが、そんな彼らの前に新たに数人の男達が姿を現す。

 その男達の姿を見て都胡がある事に気が付いた。


「なぁ……今出てきた奴ら、ウチらをナンパしてきた奴らとちゃうか?」


 才加と煉もそちらに目を向けてみると、確かにそこにいたのは島で都胡達をナンパして、御影とテトに返り討ちにされたあのチャラ男達であった。

 チャラ男達は何を言うでもなくフラフラと都胡達の前へと姿を現すと突然苦しみだし、かと思えば次の瞬間にはその身体がボコボコと変形していった。

 そんな衝撃の光景に絶句している煉達の前で、チャラ男達は異形の姿へと成り果てた。


「──────────っ!!」


 声にならない声を上げながら煉達へと突進してくるチャラ男達。

 煉は急いで構えるとチャラ男達に向けて魔法を放った。


「────!!」


 悲鳴のような声を上げて動きを止めるチャラ男達……しかしその身体には傷一つすら付いておらず、それを理解したのかチャラ男達は再び突進を開始した。


「うぉい?!結構な威力だぞ今の?!」

「驚いてないでさっさと避ける!!」


 驚く煉に才加がその襟を掴んで引き寄せるが、その直後にその場にいる全員が驚くような展開になる。

 なんと突進していたチャラ男達は急に方向を変えると、そのまま避けた煉と才加を掴み上げ地面へと叩きつけたのだった。


「あがっ……!」

「うあっ……!」


 二人の体から鈍い音が鳴る。

 地面に叩き付けられた二人はその一撃でかなりのダメージを負ったのか、それ以上動くことが出来ていなかった。


「煉はん!才加はん!」


 二人が動けないと知った都胡が直ぐに飛び出し、その背後では彼女を援護しようと大岡の部下を始めとした警官達が一斉射撃を開始した。

 都胡は肌が擦りむくのも気にすることなくスライディングをしながら二人の側へと駆け寄ると、その服を掴んでその場から引き離そうと試みる。

 しかし都胡は普段から御影のように鍛えている訳では無いので、思うように引くことが出来なかった。

 そんな事をしている間にも異形と化したチャラ男の拳が都胡達へと振り下ろされようとしており、それに気づいた都胡は魔法を発動させる。


(確率操作!命中確率低下!)


 そうして振り下ろされる拳を見据えていた都胡だったが、そんな彼女に大岡の部下が大声を放つ。


「横だ!都胡くん!!」

「えっ……ぐっ────!」


 自身の脇腹から嫌な音が鳴るのを聞きながら都胡は顔を歪ませる。


(し、しもた……)


 都胡を横殴りにしたのはもう一体の男であり、肥大化した拳は容赦なく都胡に叩き込まれる。

 都胡は地面を二転、三転した後、煉と才加と同様にその場で動けなくなった。

 痛みを堪えながら顔を上げる都胡の視界には、二体の男達が今まさにその拳を振り上げていた。


(うっ……すまへん御影……ウチら……死んだかも……)


 視線の先では煉と才加が残る一体に握り締められ悲鳴を上げており、都胡には二体の男達の拳が迫ろうとしていた。

 その時であった────


「あらあら~駄目よ~?大の大人が子供に暴力なんて奮っちゃあ~」


 突如聞こえてきた優しい声に異形達は動きを止める。

 そして彼らが揃って目を向けた先には、聖母のような笑みを浮かべる月夜の姿があった。

 月夜はなおも笑みを浮かべながら、この状況すら何処吹く風といった様子で異形達へと歩み寄っていく。


「ちょっと連絡が入ったからそれに出てたのだけれど~。その間に随分と御影のお友達がお世話になったみたいね~♪︎」


 その笑みはまるで春の日差しのような暖かなものであるのに、月夜から発せられる雰囲気は凍てつく凍土に吹きすさぶ暴風のようであった。

 そして月夜は目尻を下げ閉じていた目を薄く開くと、先程とはうって変わったかのような冷たい声音で異形達へとこう言った。


「ここまで好き勝手してくれたのだもの……もちろん、相応の覚悟は出来てるのよね?」


 普段は天然で優しい母親の……かつて刑事であった頃に〝羅刹〟と呼ばれた女性の中に眠る鬼が目覚めた瞬間であった。
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