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第一章:魔法学園の空間魔導師
病室での一幕
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オーガスタスの一件が解決した後、御影と瑠璃は、エイブラムス達が乗ってきたヘリで父島の診療所へと搬送された。
二人共予断を許さない状況であった為、本土の病院へは搬送せずに父島の診療所へと搬送したのである。
その翌朝────二人は同じ病室で療養をしていた。
都胡、煉、才加も怪我を負っていたのだが、二人に比べれば軽傷であった為、その日のうちに退院している。
そして咲良を含めた四人は月夜、御陽、御夜の三人と共に御影と瑠璃のお見舞いへと足を運んでいた。
ちなみに御影の方は既に起き上がれるほどに回復したらしく、今はベッドの上で胡座をかいていた。
そしてその御影の膝の上では、テトがその身体に背を預けながら、御影に切ったリンゴを食べさせて貰っていた。
その光景に御影の妹二人は羨ましそうな表情をしていたのだが、それについては今は置いておくことにする。
「しっかし、ホンマに御影は頑丈やなぁ。瑠璃はんなんてまだ起き上がれへんのやで?」
「まぁ伊達に鍛えてねぇからな」
「いや、私も鍛えているのだが……」
ベッドに横になりながら瑠璃は御影の言葉にそう指摘をする。
テトに刺された箇所で言えば御影の方が急所に近いのだが、その御影は大した事ない様子でなおもテトにリンゴを食べさせている。
そんな彼らの所に、報告を終えた大岡が病室へと入ってきた。
「やれやれ……報告一つするだけで時間が取られてしまうとはな」
「お疲れ~。それで、どうなったんだ?」
御影にそう訊ねられた大岡は咳払いをしたあと、その質問へと答える。
「オーガスタスの件については無事にスコットランドヤードへと引き継いだ。後のことは彼らに任せるとしよう。そしてテトくんの事だが……こちらも特に問題にする必要は無いとして処理された」
その言葉を聞いて御影達はホッと安堵をする。
しかし次の大岡の言葉でその空気は緊張に包まれた。
「だが、エイブラムス警部からの報告で、オーガスタス・ヘルマンが所有していたと思われる研究資料は全て回収することが出来なかったらしい」
「どういう事だ?」
「あの後、エイブラムス警部の部下達が研究所に着いた頃には、研究所は火の海だったらしい。鎮火した後には何も残されてはいなかった」
「だろうな……」
「そして更に、奴の家や別荘……また部下達が潜伏していた場所からも何も情報は得られなかったそうだ。PCの中ももぬけの殻……どうやら彼らの手から逃れた部下が全て持ち去ったのだろう」
「つまり、また新たなテトが作られる可能性があるって事か?」
「どうだろうな……何の情報も資料も得られなかった今となっては分からん事だ」
御影は呆れたようにため息をついた。
その場に重苦しい空気が流れる。それを察した大岡は話題を別のものへと切り替える。
「まぁ、その件についてはもう私達が考えることでは無い。それよりも御影……スコットランドヤードが君の活躍を聞いて、是非とも何かお礼をしたいと言っているそうなのだが、何かリクエストはあるか?」
「いや、別にねぇよ。そもそもお礼をして欲しい為にアイツをぶっ飛ばしたわけじゃねぇし、それにテトの件を受け入れてくれたんだから、それ以上望むもんはねぇよ」
「分かった、先方にはそう伝えておく。それでは、私はこの辺で失礼しよう。報告書を纏めなければならないのでね」
大岡はそう告げて、御影達に手を振ってから病室を後にした。
そしてそれと入れ替わるようにして今度は御影の父親である陽影が病室へと入ってきた。
「いやぁ、やっとテトの手続きが終わったよ」
「お疲れ様。どう?無事に手続きは済んだ?」
「勿論だよ。戸籍登録に住民登録……それと養子縁組に学校の手配も済んでるさ」
テトは改めて忍足家へと迎え入れられた。
そして新たな家族を迎え入れるにあたり、陽影は役所に連絡を入れて各種手続きを行っていたのである。
ちなみに学校の手配については全員の総意として、またテト自身の希望もあり御影達と同じ桜杜魔法学園の初等部への中途入学が決まった。
テトが作られてからまだ一年程しか経ってはいなかったが、その容姿から考えて、テトは小学四年生として通学する事になる予定である。
こうして書類上においてもテトを迎え入れられた事に安堵した御影は、空になった皿を隣の台へと置こうとしていたのだが、次に陽影が放った一言でその皿を落とすことになる。
「あぁ、そういえば〝御月〟から連絡があったよ。近々帰ってくるそうだ」
ガチャン────
「御影、落としたぞ?」
瑠璃が僅かに御影へと顔を向けながらそう伝えるも御影からの返事は無い。
御影は台へと手を伸ばした状態のまま固まっており、無言ではあったもののその表情は青ざめていた。
その事を訝しげに思いながらも瑠璃がふと周囲を見渡してみると、陽影と月夜……そして咲良と才加を除く全員が固まってしまっており、特に御陽と御夜に至っては御影と同様に表情を青ざめ、更にガタガタと震え出していた。
いったい何故、御影達がそのようになっているのか分からない瑠璃は、とりあえず陽影と月夜以外で御影をよく知っていそうな都胡へと訊ねる。
「御影はいったいどうしたんだ?御陽と御夜も震えているようだが……それに〝御月〟というのは誰なんだ?」
「あ~……え~と……何て説明したらええんやろな……」
瑠璃に質問された都胡は言葉に決めあぐねているらしく、変わりに煉がその説明を始めた。
「え~とだな……先ず御月さんは御影のお姉さんだ」
「姉がいたのか?それは知らなかった」
「まぁ、御月さんは俺らの学校の卒業生なんだが、高等部を卒業した後に海外に留学して、そのままそこで暮らしてたんだよ」
「海外に?いったい何処へ留学したんだ?」
「確かイギリスだったっけ?留学先の学校は何て名前だったかな?」
「聖ヴィクトリア魔法学院大学やね」
「何故そこへ?」
「イギリスは昔から魔法と密接な関係があるからな。なんてったって今の魔法連盟の旧組織である魔法協会があったしな」
「せやから御月姉さんはもっと魔法について勉強したいって言って留学していったんよ。聖ヴィクトリア魔法学院大学は世界で随一の魔法学校やからな」
「なるほど……しかし、先程そのまま暮らしていたと言っていたが、イギリスで働いているのか?」
「そうらしいで?まぁ、どんな仕事をしているのかについては知らんけども」
「しかしあの御月さんが帰ってくるなんてな……御影が固まっちまうのも無理は無いよな」
「そういえばそれが知りたかったんだ。何故、その姉が帰ってくると聞いて三人は固まってしまっているんだ?」
「「あ~……」」
瑠璃が再度その理由について訊ねると、途端に二人は遠い目をしながら声を揃えた。
「ん~……なぁ瑠璃はん。瑠璃はんから見て、御陽ちゃんと御夜ちゃんはどんな印象か聞いてもええ?」
「別に構わないが……まぁ二人共、元気で御影が大好きな兄想いの妹達だと思っている」
「うんうん。確かにそやね。実は御月姉さんも御影の事が大好きなんよ」
「ほぅ?それは良い事じゃないか。兄弟揃って仲が良いという事だろう?」
「そうなんやけど……御月姉さんは度を超えとると言うか……二人以上に御影の事が大好きなんよ」
「御影の妹ちゃん達の100倍は好きだと思った方がいいぞ?」
「そういや昔、御影と喧嘩した子達がおったな」
「あ~……その話か」
「何の話だ?」
不意に思い出すように都胡が口にした話に心当たりがある煉がそう零すと、瑠璃は前のめりで詳しい話を求めた。
「初等部の頃の話なんやけど……ある日、御影は三人の男の子達と喧嘩になったんよ。まぁその三人はいじめっ子達でな、よく三人がかりで大人しい子に狙いを定めてはイタズラやイジメをしとったんよ」
「それを知った御影がキレて、その三人と言い争いになったんだよな」
「そのうちヒートアップしてきて、その結果殴り合いの喧嘩になったんよ」
「つっても当時の御影はまだ、今みたいに魔法を使いこなして無かったし、相手の三人は御影より大きかったしで、多勢に無勢で返り討ちにされたんだっけな」
「泣きはせんかったけど、その日はずっと不機嫌やったな」
「大変だったぜ?その日は三人を見かける度に殴りかかろうとするから、都胡と二人で止めるのに必死だった」
負けん気の強い御影ならではのエピソードに瑠璃は少しだけ微笑ましく思ったが、直ぐに次の疑問を口にした。
「その話と御影の姉とで何の関係があるんだ?」
「本題はここからなんよ。どうしても自分で何とかしたい御影は黙っとったらしいんやけど、その時は結構な騒ぎになってしもうたからな……回り回って御月姉さんの耳にも入ってしもうたんよ」
「そしたら翌日になって御月さんが初等部の校舎に姿を現してさ……当時の御月さんは高校一年で、しかも一年から生徒会長をしていた事もあって有名人だったんだ。その有名人が来たもんだから俺らはザワついてたよな」
「うんうん。そんでその御月姉さんが来たと思うたら、数分後に御影とその三人が呼び出されたんよ」
「俺と都胡も気になってこっそり職員室を覗いてみたんだが……」
そこで煉は言い淀んだ。
その理由を訊ねるように瑠璃は都胡へと顔を向けると、都胡は苦い顔をしながらこう答えた。
「御月姉さん、その三人を正座させて説教しとったんや」
「それは……凄い光景かもしれないな」
高校生が自分とは関係の無い他所の子供を正座させて説教したという話を聞いた瑠璃は脳内でその光景を思い浮かべては何とも言えない表情となった。
そして都胡と煉が話す御月に関するエピソードは続く。
「三人はちょうど職員室のドアに向かうようにして正座させられとったんやけど、御月姉さんにビンタされたのか頬っぺたが赤くなっとったな」
「いやぁ、今思い返すと、あの時の御月さんはマジで怖かったよ……昨日の月夜さんと瓜二つだった。今更ながら、御月さんは月夜さんの娘さんなんだなと思うわ」
「度胸あるな~。月夜さんがいる前やっちゅうのに」
都胡にそう言われた煉がハッとして後ろを振り返ると、そこにはニコニコと笑みを浮かべる月夜の姿があった。
それを見た煉の背中に言葉に表すことの出来ない悪寒が走る。
「まぁともかく……御影の事となると本当に何でもするような人なんよ。御月姉さんは」
「ふむ……確かにそのような人物なら、三人がああなってしまうのも仕方の無い事だと言えるな」
「いや、多分……瑠璃ちゃんが思ってるような理由でああなってるわけじゃねぇよ」
「「え?」」
一人納得した瑠璃だったが、不意に煉がそのような事を言い出したので思わず疑問の声をあげてしまった。
何故か都胡までそのような声を上げていたので、瑠璃は煉が言っている事は、都胡も知らない事なのだろうと推測する。
「どういう事や?」
「あぁそうか。都胡は初等部の頃に引っ越してったんだもんな?知らねぇのも無理はねぇか。実はさ……」
煉は静かに瑠璃の枕元へと移動すると、都胡に手招きをして顔を寄せるよう催促をする。
そして都胡が顔を寄せた後、ヒソヒソとその事について話し始めた。
「実はさ、俺らが中等部に上がった頃に御影は月夜さんに稽古を付けてくれるようお願いしたんだよ。初等部の頃に三人に負けたの気にしてたみてぇでさ」
「あ~、それならウチが知らんのも無理は無いな」
「だろ?それで月夜さんとの稽古が始まったわけなんだが、たまに御月さんも参加するようになったんだよ」
「なんで煉がそんな事を知ってるんだ?」
「ちょこちょこ見学させて貰ってたんだよ。それで……あ、その前に前提として一つ話していいか?」
「なんだ?」
「なんや?」
話の本筋を語る前に煉は一つ前提として話をしたいと言い出した。
それを聞いた瑠璃と都胡が了承すると、煉は二人にこんな事を聞き始める。
「御影ってさ、結構怖いもの知らずだろ?」
「まぁ……確かに……」
アルセーヌとの一戦や、今回のオーガスタスの件を思い返し、瑠璃は肯定するように頷く。
「稽古を付けてもらうようになってからは御影は負け無しだったんだよ。まぁ月夜さんによる稽古を受けてるんだから当然っちゃ当然なんだが……でも、そんな御影にも絶対勝てない人がいるんだよ。その人っていうのが────」
「御月姉さんっちゅうことか」
代弁をするように都胡がそう言うと、煉は大きく頷いてそれを肯定した。
「そうなんだよ。御月さんは確かに御影ラブな究極のブラコンなんだけどよ、稽古に関しては月夜さん以上にスパルタだったんだよ」
「ま、マジか……」
「いやぁ、当時の御月さんは稽古の時、御影をコテンパンにしててさ……多分それが理由なんだろうけど、御影の中の御月さんのイメージは〝ブラコン〟じゃなくて〝怖い姉〟なんだと思うぜ?」
「トラウマっちゅうことか」
「そういう事だと思うぞ?」
「御影に関しては分かったが、ならば何故、御陽と御夜の二人まで怯えてるんだ?」
「稽古をするのは御影の家の庭でだったんだよ。つまり必然的にその様子を妹ちゃん達も見ていたわけで……」
「「あ~……」」
ここまでの話を聞いていた瑠璃と都胡は、煉が言わんとしていることを察し揃って納得した表情となった。
つまり稽古の間、御影をコテンパンにしている御月の姿を見続けてきた妹達は、その脳内の奥底にその時の光景が深く刻み込まれている為、妹達にとって御月は完全なるトラウマとなっていたのであった。
その話が一旦終わったところで、ようやく御影が再起動をした。
〝プハッ!〟と勢いよく息を吐き、御影は息切れを起こしつつ肩で呼吸しながら、額に滲んでいた汗を拭っていた。
「大丈夫か?」
煉が声をかけると、御影は手を振って答える。
「あぁ、問題ない……どうやら悪い夢を見ていたようだ。姉貴が帰ってくるっていう悪夢をな……」
「残念ながら夢じゃなくて現実なんよ御影……御月さん、帰ってくるって」
またしても動きを止める御影。
その表情は瑠璃が今まで見たことの無いほど絶望の色に染まっていた。
そして御影はそれが本当のことであるか確認するように周囲に目を向けるが、向けられた者全員が肯定するように無言で頷いたのを見て、力なく天を仰いだ。
「御陽、御夜……」
「「なに?」」
「姉貴、帰ってくるってよ……」
「「うん……ねぇ、おにぃ?」」
「なんだ?」
「「御月姉様が帰ってくるんだって……」」
「そうか……」
まるでオウムのように互いに同じ事を言い合う御影と御陽、御夜の三人に瑠璃は〝どれだけ恐れているんだ?〟と思ったが、目が死んでいる三人を前にその言葉を口にする事が出来ないのであった。
二人共予断を許さない状況であった為、本土の病院へは搬送せずに父島の診療所へと搬送したのである。
その翌朝────二人は同じ病室で療養をしていた。
都胡、煉、才加も怪我を負っていたのだが、二人に比べれば軽傷であった為、その日のうちに退院している。
そして咲良を含めた四人は月夜、御陽、御夜の三人と共に御影と瑠璃のお見舞いへと足を運んでいた。
ちなみに御影の方は既に起き上がれるほどに回復したらしく、今はベッドの上で胡座をかいていた。
そしてその御影の膝の上では、テトがその身体に背を預けながら、御影に切ったリンゴを食べさせて貰っていた。
その光景に御影の妹二人は羨ましそうな表情をしていたのだが、それについては今は置いておくことにする。
「しっかし、ホンマに御影は頑丈やなぁ。瑠璃はんなんてまだ起き上がれへんのやで?」
「まぁ伊達に鍛えてねぇからな」
「いや、私も鍛えているのだが……」
ベッドに横になりながら瑠璃は御影の言葉にそう指摘をする。
テトに刺された箇所で言えば御影の方が急所に近いのだが、その御影は大した事ない様子でなおもテトにリンゴを食べさせている。
そんな彼らの所に、報告を終えた大岡が病室へと入ってきた。
「やれやれ……報告一つするだけで時間が取られてしまうとはな」
「お疲れ~。それで、どうなったんだ?」
御影にそう訊ねられた大岡は咳払いをしたあと、その質問へと答える。
「オーガスタスの件については無事にスコットランドヤードへと引き継いだ。後のことは彼らに任せるとしよう。そしてテトくんの事だが……こちらも特に問題にする必要は無いとして処理された」
その言葉を聞いて御影達はホッと安堵をする。
しかし次の大岡の言葉でその空気は緊張に包まれた。
「だが、エイブラムス警部からの報告で、オーガスタス・ヘルマンが所有していたと思われる研究資料は全て回収することが出来なかったらしい」
「どういう事だ?」
「あの後、エイブラムス警部の部下達が研究所に着いた頃には、研究所は火の海だったらしい。鎮火した後には何も残されてはいなかった」
「だろうな……」
「そして更に、奴の家や別荘……また部下達が潜伏していた場所からも何も情報は得られなかったそうだ。PCの中ももぬけの殻……どうやら彼らの手から逃れた部下が全て持ち去ったのだろう」
「つまり、また新たなテトが作られる可能性があるって事か?」
「どうだろうな……何の情報も資料も得られなかった今となっては分からん事だ」
御影は呆れたようにため息をついた。
その場に重苦しい空気が流れる。それを察した大岡は話題を別のものへと切り替える。
「まぁ、その件についてはもう私達が考えることでは無い。それよりも御影……スコットランドヤードが君の活躍を聞いて、是非とも何かお礼をしたいと言っているそうなのだが、何かリクエストはあるか?」
「いや、別にねぇよ。そもそもお礼をして欲しい為にアイツをぶっ飛ばしたわけじゃねぇし、それにテトの件を受け入れてくれたんだから、それ以上望むもんはねぇよ」
「分かった、先方にはそう伝えておく。それでは、私はこの辺で失礼しよう。報告書を纏めなければならないのでね」
大岡はそう告げて、御影達に手を振ってから病室を後にした。
そしてそれと入れ替わるようにして今度は御影の父親である陽影が病室へと入ってきた。
「いやぁ、やっとテトの手続きが終わったよ」
「お疲れ様。どう?無事に手続きは済んだ?」
「勿論だよ。戸籍登録に住民登録……それと養子縁組に学校の手配も済んでるさ」
テトは改めて忍足家へと迎え入れられた。
そして新たな家族を迎え入れるにあたり、陽影は役所に連絡を入れて各種手続きを行っていたのである。
ちなみに学校の手配については全員の総意として、またテト自身の希望もあり御影達と同じ桜杜魔法学園の初等部への中途入学が決まった。
テトが作られてからまだ一年程しか経ってはいなかったが、その容姿から考えて、テトは小学四年生として通学する事になる予定である。
こうして書類上においてもテトを迎え入れられた事に安堵した御影は、空になった皿を隣の台へと置こうとしていたのだが、次に陽影が放った一言でその皿を落とすことになる。
「あぁ、そういえば〝御月〟から連絡があったよ。近々帰ってくるそうだ」
ガチャン────
「御影、落としたぞ?」
瑠璃が僅かに御影へと顔を向けながらそう伝えるも御影からの返事は無い。
御影は台へと手を伸ばした状態のまま固まっており、無言ではあったもののその表情は青ざめていた。
その事を訝しげに思いながらも瑠璃がふと周囲を見渡してみると、陽影と月夜……そして咲良と才加を除く全員が固まってしまっており、特に御陽と御夜に至っては御影と同様に表情を青ざめ、更にガタガタと震え出していた。
いったい何故、御影達がそのようになっているのか分からない瑠璃は、とりあえず陽影と月夜以外で御影をよく知っていそうな都胡へと訊ねる。
「御影はいったいどうしたんだ?御陽と御夜も震えているようだが……それに〝御月〟というのは誰なんだ?」
「あ~……え~と……何て説明したらええんやろな……」
瑠璃に質問された都胡は言葉に決めあぐねているらしく、変わりに煉がその説明を始めた。
「え~とだな……先ず御月さんは御影のお姉さんだ」
「姉がいたのか?それは知らなかった」
「まぁ、御月さんは俺らの学校の卒業生なんだが、高等部を卒業した後に海外に留学して、そのままそこで暮らしてたんだよ」
「海外に?いったい何処へ留学したんだ?」
「確かイギリスだったっけ?留学先の学校は何て名前だったかな?」
「聖ヴィクトリア魔法学院大学やね」
「何故そこへ?」
「イギリスは昔から魔法と密接な関係があるからな。なんてったって今の魔法連盟の旧組織である魔法協会があったしな」
「せやから御月姉さんはもっと魔法について勉強したいって言って留学していったんよ。聖ヴィクトリア魔法学院大学は世界で随一の魔法学校やからな」
「なるほど……しかし、先程そのまま暮らしていたと言っていたが、イギリスで働いているのか?」
「そうらしいで?まぁ、どんな仕事をしているのかについては知らんけども」
「しかしあの御月さんが帰ってくるなんてな……御影が固まっちまうのも無理は無いよな」
「そういえばそれが知りたかったんだ。何故、その姉が帰ってくると聞いて三人は固まってしまっているんだ?」
「「あ~……」」
瑠璃が再度その理由について訊ねると、途端に二人は遠い目をしながら声を揃えた。
「ん~……なぁ瑠璃はん。瑠璃はんから見て、御陽ちゃんと御夜ちゃんはどんな印象か聞いてもええ?」
「別に構わないが……まぁ二人共、元気で御影が大好きな兄想いの妹達だと思っている」
「うんうん。確かにそやね。実は御月姉さんも御影の事が大好きなんよ」
「ほぅ?それは良い事じゃないか。兄弟揃って仲が良いという事だろう?」
「そうなんやけど……御月姉さんは度を超えとると言うか……二人以上に御影の事が大好きなんよ」
「御影の妹ちゃん達の100倍は好きだと思った方がいいぞ?」
「そういや昔、御影と喧嘩した子達がおったな」
「あ~……その話か」
「何の話だ?」
不意に思い出すように都胡が口にした話に心当たりがある煉がそう零すと、瑠璃は前のめりで詳しい話を求めた。
「初等部の頃の話なんやけど……ある日、御影は三人の男の子達と喧嘩になったんよ。まぁその三人はいじめっ子達でな、よく三人がかりで大人しい子に狙いを定めてはイタズラやイジメをしとったんよ」
「それを知った御影がキレて、その三人と言い争いになったんだよな」
「そのうちヒートアップしてきて、その結果殴り合いの喧嘩になったんよ」
「つっても当時の御影はまだ、今みたいに魔法を使いこなして無かったし、相手の三人は御影より大きかったしで、多勢に無勢で返り討ちにされたんだっけな」
「泣きはせんかったけど、その日はずっと不機嫌やったな」
「大変だったぜ?その日は三人を見かける度に殴りかかろうとするから、都胡と二人で止めるのに必死だった」
負けん気の強い御影ならではのエピソードに瑠璃は少しだけ微笑ましく思ったが、直ぐに次の疑問を口にした。
「その話と御影の姉とで何の関係があるんだ?」
「本題はここからなんよ。どうしても自分で何とかしたい御影は黙っとったらしいんやけど、その時は結構な騒ぎになってしもうたからな……回り回って御月姉さんの耳にも入ってしもうたんよ」
「そしたら翌日になって御月さんが初等部の校舎に姿を現してさ……当時の御月さんは高校一年で、しかも一年から生徒会長をしていた事もあって有名人だったんだ。その有名人が来たもんだから俺らはザワついてたよな」
「うんうん。そんでその御月姉さんが来たと思うたら、数分後に御影とその三人が呼び出されたんよ」
「俺と都胡も気になってこっそり職員室を覗いてみたんだが……」
そこで煉は言い淀んだ。
その理由を訊ねるように瑠璃は都胡へと顔を向けると、都胡は苦い顔をしながらこう答えた。
「御月姉さん、その三人を正座させて説教しとったんや」
「それは……凄い光景かもしれないな」
高校生が自分とは関係の無い他所の子供を正座させて説教したという話を聞いた瑠璃は脳内でその光景を思い浮かべては何とも言えない表情となった。
そして都胡と煉が話す御月に関するエピソードは続く。
「三人はちょうど職員室のドアに向かうようにして正座させられとったんやけど、御月姉さんにビンタされたのか頬っぺたが赤くなっとったな」
「いやぁ、今思い返すと、あの時の御月さんはマジで怖かったよ……昨日の月夜さんと瓜二つだった。今更ながら、御月さんは月夜さんの娘さんなんだなと思うわ」
「度胸あるな~。月夜さんがいる前やっちゅうのに」
都胡にそう言われた煉がハッとして後ろを振り返ると、そこにはニコニコと笑みを浮かべる月夜の姿があった。
それを見た煉の背中に言葉に表すことの出来ない悪寒が走る。
「まぁともかく……御影の事となると本当に何でもするような人なんよ。御月姉さんは」
「ふむ……確かにそのような人物なら、三人がああなってしまうのも仕方の無い事だと言えるな」
「いや、多分……瑠璃ちゃんが思ってるような理由でああなってるわけじゃねぇよ」
「「え?」」
一人納得した瑠璃だったが、不意に煉がそのような事を言い出したので思わず疑問の声をあげてしまった。
何故か都胡までそのような声を上げていたので、瑠璃は煉が言っている事は、都胡も知らない事なのだろうと推測する。
「どういう事や?」
「あぁそうか。都胡は初等部の頃に引っ越してったんだもんな?知らねぇのも無理はねぇか。実はさ……」
煉は静かに瑠璃の枕元へと移動すると、都胡に手招きをして顔を寄せるよう催促をする。
そして都胡が顔を寄せた後、ヒソヒソとその事について話し始めた。
「実はさ、俺らが中等部に上がった頃に御影は月夜さんに稽古を付けてくれるようお願いしたんだよ。初等部の頃に三人に負けたの気にしてたみてぇでさ」
「あ~、それならウチが知らんのも無理は無いな」
「だろ?それで月夜さんとの稽古が始まったわけなんだが、たまに御月さんも参加するようになったんだよ」
「なんで煉がそんな事を知ってるんだ?」
「ちょこちょこ見学させて貰ってたんだよ。それで……あ、その前に前提として一つ話していいか?」
「なんだ?」
「なんや?」
話の本筋を語る前に煉は一つ前提として話をしたいと言い出した。
それを聞いた瑠璃と都胡が了承すると、煉は二人にこんな事を聞き始める。
「御影ってさ、結構怖いもの知らずだろ?」
「まぁ……確かに……」
アルセーヌとの一戦や、今回のオーガスタスの件を思い返し、瑠璃は肯定するように頷く。
「稽古を付けてもらうようになってからは御影は負け無しだったんだよ。まぁ月夜さんによる稽古を受けてるんだから当然っちゃ当然なんだが……でも、そんな御影にも絶対勝てない人がいるんだよ。その人っていうのが────」
「御月姉さんっちゅうことか」
代弁をするように都胡がそう言うと、煉は大きく頷いてそれを肯定した。
「そうなんだよ。御月さんは確かに御影ラブな究極のブラコンなんだけどよ、稽古に関しては月夜さん以上にスパルタだったんだよ」
「ま、マジか……」
「いやぁ、当時の御月さんは稽古の時、御影をコテンパンにしててさ……多分それが理由なんだろうけど、御影の中の御月さんのイメージは〝ブラコン〟じゃなくて〝怖い姉〟なんだと思うぜ?」
「トラウマっちゅうことか」
「そういう事だと思うぞ?」
「御影に関しては分かったが、ならば何故、御陽と御夜の二人まで怯えてるんだ?」
「稽古をするのは御影の家の庭でだったんだよ。つまり必然的にその様子を妹ちゃん達も見ていたわけで……」
「「あ~……」」
ここまでの話を聞いていた瑠璃と都胡は、煉が言わんとしていることを察し揃って納得した表情となった。
つまり稽古の間、御影をコテンパンにしている御月の姿を見続けてきた妹達は、その脳内の奥底にその時の光景が深く刻み込まれている為、妹達にとって御月は完全なるトラウマとなっていたのであった。
その話が一旦終わったところで、ようやく御影が再起動をした。
〝プハッ!〟と勢いよく息を吐き、御影は息切れを起こしつつ肩で呼吸しながら、額に滲んでいた汗を拭っていた。
「大丈夫か?」
煉が声をかけると、御影は手を振って答える。
「あぁ、問題ない……どうやら悪い夢を見ていたようだ。姉貴が帰ってくるっていう悪夢をな……」
「残念ながら夢じゃなくて現実なんよ御影……御月さん、帰ってくるって」
またしても動きを止める御影。
その表情は瑠璃が今まで見たことの無いほど絶望の色に染まっていた。
そして御影はそれが本当のことであるか確認するように周囲に目を向けるが、向けられた者全員が肯定するように無言で頷いたのを見て、力なく天を仰いだ。
「御陽、御夜……」
「「なに?」」
「姉貴、帰ってくるってよ……」
「「うん……ねぇ、おにぃ?」」
「なんだ?」
「「御月姉様が帰ってくるんだって……」」
「そうか……」
まるでオウムのように互いに同じ事を言い合う御影と御陽、御夜の三人に瑠璃は〝どれだけ恐れているんだ?〟と思ったが、目が死んでいる三人を前にその言葉を口にする事が出来ないのであった。
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両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
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