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第一章:魔法学園の空間魔導師
閑話:ある男の話
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その男はかつて、オーガスタス・ヘルマンの元で働いていた研究員であった。
彼は非常に優秀な薬学の研究員で、元は新たな治療薬の研究に専念していた男であった。
しかしその彼の人生はオーガスタスに雇われた時から大きく狂い始める。
オーガスタスの〝新たな治療薬の開発の為に必要だ〟という言葉に惑わされた彼は、何の疑いを持つことなく薬の研究へと明け暮れていた。
しかし疑問を抱き始めたのはその翌年の事。
彼は自身が命じられて研究を行っている薬物が、もしかしたら治療薬では無いかもしれないと思うようになった。
なにせオーガスタスから手渡された素材の大半が、栽培すら禁止とされているものであったからである。
その事についてオーガスタスに訊ねてみた男だったが、オーガスタスからは〝つい最近、それらに新たな治療薬に使える成分がある事が判明した〟と返されるだけであった。
そして彼の疑念が確固たるものとなったのは、とある実験生物が見せた反応である。
その実験生物は薬を投与された直後に凶暴化し、共に居た同族へ攻撃を始めたのである。
それを見た男はオーガスタスへと問い詰めたのだが、単なる失敗だと切って捨てられた。
そして男がオーガスタスと手を切ろうと決意した出来事が起こる。
それは別の研究員達が一人の見知らぬ少女を連れている姿を目撃した事から始まった。
男は少女の正体を訊ねたのだが、その研究員達から〝お前には関係ない〟と突っぱねられてしまう。
それでも少女の事を知りたかった男はこっそりと研究員達の後をつけ、そしてそこで行われている事を目撃し驚愕に包まれた。
その少女こそが後に御影達に引き取られるテトこと、TE-TO01であり、彼女の生体実験が行われていると知った男は、律儀にもその事をオーガスタスへと問い詰めた。
するとオーガスタスは舌打ちをして部下に何やら命じると、部下達は男を羽交い締めにして外へと連れ出して行った。
そして男は海岸へと連れてこられると、部下達から銃撃され、そのまま海へと転落していった。
男は辛うじて生きてはいたものの、海の中を彷徨う羽目になった。
そして何日かした後に通りかかった船によって救助されるも、銃弾による傷や長い漂流生活によって死にかけており、それが理由で男の記憶は失われていた。
その船は奇遇にも日本の貿易会社が所有している船で、男はそのまま日本へと連れられ治療を受ける。
しかし記憶が失われているので帰る場所が分からない。
男は長い放浪の末にとある島に辿り着いた。
その島は小笠原諸島の父島と呼ばれている島で、島民達の温かさも相まって男はそこに住むことに決めた。
月日は経ち、男が日課となった釣りへと向かうと、いつも釣りをしている所に見知らぬ若者達がいることに気づく。
「やぁ、釣れますかな?」
そう何気なく声をかけると、若者達は首を振ってそれを否定した。
男は〝まぁそれもそのはずか〟と苦笑する……なにせその場所は釣るのが難しいと言われている所だったからだ。
しかしそれ故か大物が釣れるとして、男にとっては穴場的な所であった。
そして男が釣りをしようとすると、帽子を被っていた少年が何やら釣り上げたようで、しかし何故かそのまま固まってしまっていた。
そしてポニーテールの少女がそちらへと歩み寄り、同じように固まったので男も何事かとそちらへと向かう。
そして少年が釣り上げたものを見て思わず固まってしまった。
少年の釣竿の……その糸の先にいた少女────その姿を見た直後、男の脳裏に様々な映像が濁流の如く流れ始める。
その映像は男が失っていた記憶であった。
男があの日、最後に見たあの少女が今こうして目の前にいる。
男は蘇った記憶に混乱しつつ、直ぐに少女────テトをどうすべきかについて考えた。
テトがここにいるという事は、必ずオーガスタスが彼女を探しているに違いない。
しかもテトの話を聞くにオーガスタスはあの後、どこかの島に拠点を移したらしく、最悪にもその島というのが父島に近いところだという。
男はオーガスタスがここに来る可能性を考え、テトをどうにかして保護し、然るべき所へ渡すつもりでいた。
しかしそれを他所にテトは彼女を釣り上げた少年……その日旅行へと来ていた御影達に保護される事になってしまった。
男は悩んだ……このままでは関係の無い御影達を巻き込んでしまう。しかし彼らからテトを連れ去ってしまえば、自分は誘拐犯として追われることになり、もしかしたらそれによってオーガスタスの耳に入ってしまう恐れがある。
そうして男は悩み抜いた末に一つの方法を思い付いた。
男は研究員であったが、少しだけ魔法にも詳しかった。
男は実験動物達を手懐ける為に覚えていた〝調教〟の魔法を使って、たまたま見かけた黒猫をテイムした。
そしてわざとテトに見える所まで移動させ、そこからは人気の無い所まで彼女を誘導させたのである。
そして目論見通り人気の無い場所まで誘導させた男だったが、そこで予想外の事態に出くわした。
なんとオーガスタスの部下達がこの父島にいたのである。
彼らの姿を目撃した男は出るに出れない状況となってしまった。
自分は今まで彼らの事を忘れていたが、彼らはもしかしたらまだ自分のことを覚えているかもしれない……もし、彼らに見つかったら、今度こそ殺されてしまうと思ったのである。
そうして男は身を隠しながらオーガスタスの部下達がその場からいなくなる事を、そしてテトが見つからないよう祈った。
そんな時、黒猫と戯れているテトの元に御影が姿を現した。
男は思わず出ようとしたが、そこにオーガスタスまでやってきたのを見てまた姿を隠してしまう。
そうして男が見守る前で御影はテトによって刺され、テトはオーガスタスに連れ去られてしまった。
男は後悔した。
自分が余計な事をしなければ、もしかしたら御影が刺されることなど無かったのかもしれない。
もしかしたらテトはそのまま御影達と共に島から去ることが出来ていたかもしれない。
そう思った男は激しい自責の念に駆られてしまった。
〝せめてあの少年だけは助けなければ〟
そう思った男は、御影と共にいた少女の事を思い出し、また黒猫を操って彼女の元へと向かわせた。
その後、御影は診療所に運ばれたのだが、それからの事は男には知る術は無かった。
そして時間が経ち、男が自宅にて御影の安否を心配していると、仲が良くなった近所の男性がやって来て、こんな事を言い始めた。
「クラさん、何でも警察の方が事件捜査のために船を出して欲しいんだとよ。でもなかなか船を出せるモンが見つからないらしくてな……クラさん出せるかい?」
男はこの島に来て知り合った男性に誘われ、今は漁師として生活していた。
故に男も船を持っていたのである。
男は少し悩んだが、自分がきっかけで起きてしまった事件……その罪滅ぼしとなるのであれば何だって協力する。
男は勢いよく立ち上がると、その男性と共に港へと向かうのだった。
そしてその後、オーガスタスが逮捕されたとの話を島民から聞いた男は、一人安堵の息をもらしていた。
テトも無事に保護され、また御影達に引き取られたというのも聞いた男は、そばで丸くなっていたあの黒猫を抱き上げ、どこかへと向かう。
そして赴くままに向かった先で、月夜に手を引かれて歩くテトの姿を発見した。
しかし男は話しかけることなく、腕に抱いていた黒猫にそっと話しかける。
「もう、君をそばに置いておく必要は無くなった……今度は彼女に面倒を見てもらうといい」
その言葉を理解したのか、黒猫は〝にゃお~ん〟と鳴いたあと、男の腕を離れタタタッとテトの元へと駆け寄る。
黒猫が駆け寄ってきたことに気づいたテトはその黒猫を抱き上げ、そして嬉しそうにそっと笑みを浮かべた。
男は初めてテトの笑顔を見た。
そしてふと笑みを浮かべたあと、そのまま踵を返してその場を後にしたのだった。
自宅へと戻り、一人となった部屋で椅子へと座る男。
しかし直ぐに立ち上がると、どこからか酒瓶を持って戻り、小さなコップへと注いでそれを斜め上へと掲げる。
(あの子はもう大丈夫だ。もはや私に出来ることなど何も無い。ただ……ただ彼女の新たな門出を祝うとしよう)
そうして男は酒をぐいっと飲み干した。
もう、男を悩ませるものなどありはしない。男はテトの今後を……これから送るであろう新たな日々が幸せであるよう祈りながら、一人酒を飲むのであった。
彼は非常に優秀な薬学の研究員で、元は新たな治療薬の研究に専念していた男であった。
しかしその彼の人生はオーガスタスに雇われた時から大きく狂い始める。
オーガスタスの〝新たな治療薬の開発の為に必要だ〟という言葉に惑わされた彼は、何の疑いを持つことなく薬の研究へと明け暮れていた。
しかし疑問を抱き始めたのはその翌年の事。
彼は自身が命じられて研究を行っている薬物が、もしかしたら治療薬では無いかもしれないと思うようになった。
なにせオーガスタスから手渡された素材の大半が、栽培すら禁止とされているものであったからである。
その事についてオーガスタスに訊ねてみた男だったが、オーガスタスからは〝つい最近、それらに新たな治療薬に使える成分がある事が判明した〟と返されるだけであった。
そして彼の疑念が確固たるものとなったのは、とある実験生物が見せた反応である。
その実験生物は薬を投与された直後に凶暴化し、共に居た同族へ攻撃を始めたのである。
それを見た男はオーガスタスへと問い詰めたのだが、単なる失敗だと切って捨てられた。
そして男がオーガスタスと手を切ろうと決意した出来事が起こる。
それは別の研究員達が一人の見知らぬ少女を連れている姿を目撃した事から始まった。
男は少女の正体を訊ねたのだが、その研究員達から〝お前には関係ない〟と突っぱねられてしまう。
それでも少女の事を知りたかった男はこっそりと研究員達の後をつけ、そしてそこで行われている事を目撃し驚愕に包まれた。
その少女こそが後に御影達に引き取られるテトこと、TE-TO01であり、彼女の生体実験が行われていると知った男は、律儀にもその事をオーガスタスへと問い詰めた。
するとオーガスタスは舌打ちをして部下に何やら命じると、部下達は男を羽交い締めにして外へと連れ出して行った。
そして男は海岸へと連れてこられると、部下達から銃撃され、そのまま海へと転落していった。
男は辛うじて生きてはいたものの、海の中を彷徨う羽目になった。
そして何日かした後に通りかかった船によって救助されるも、銃弾による傷や長い漂流生活によって死にかけており、それが理由で男の記憶は失われていた。
その船は奇遇にも日本の貿易会社が所有している船で、男はそのまま日本へと連れられ治療を受ける。
しかし記憶が失われているので帰る場所が分からない。
男は長い放浪の末にとある島に辿り着いた。
その島は小笠原諸島の父島と呼ばれている島で、島民達の温かさも相まって男はそこに住むことに決めた。
月日は経ち、男が日課となった釣りへと向かうと、いつも釣りをしている所に見知らぬ若者達がいることに気づく。
「やぁ、釣れますかな?」
そう何気なく声をかけると、若者達は首を振ってそれを否定した。
男は〝まぁそれもそのはずか〟と苦笑する……なにせその場所は釣るのが難しいと言われている所だったからだ。
しかしそれ故か大物が釣れるとして、男にとっては穴場的な所であった。
そして男が釣りをしようとすると、帽子を被っていた少年が何やら釣り上げたようで、しかし何故かそのまま固まってしまっていた。
そしてポニーテールの少女がそちらへと歩み寄り、同じように固まったので男も何事かとそちらへと向かう。
そして少年が釣り上げたものを見て思わず固まってしまった。
少年の釣竿の……その糸の先にいた少女────その姿を見た直後、男の脳裏に様々な映像が濁流の如く流れ始める。
その映像は男が失っていた記憶であった。
男があの日、最後に見たあの少女が今こうして目の前にいる。
男は蘇った記憶に混乱しつつ、直ぐに少女────テトをどうすべきかについて考えた。
テトがここにいるという事は、必ずオーガスタスが彼女を探しているに違いない。
しかもテトの話を聞くにオーガスタスはあの後、どこかの島に拠点を移したらしく、最悪にもその島というのが父島に近いところだという。
男はオーガスタスがここに来る可能性を考え、テトをどうにかして保護し、然るべき所へ渡すつもりでいた。
しかしそれを他所にテトは彼女を釣り上げた少年……その日旅行へと来ていた御影達に保護される事になってしまった。
男は悩んだ……このままでは関係の無い御影達を巻き込んでしまう。しかし彼らからテトを連れ去ってしまえば、自分は誘拐犯として追われることになり、もしかしたらそれによってオーガスタスの耳に入ってしまう恐れがある。
そうして男は悩み抜いた末に一つの方法を思い付いた。
男は研究員であったが、少しだけ魔法にも詳しかった。
男は実験動物達を手懐ける為に覚えていた〝調教〟の魔法を使って、たまたま見かけた黒猫をテイムした。
そしてわざとテトに見える所まで移動させ、そこからは人気の無い所まで彼女を誘導させたのである。
そして目論見通り人気の無い場所まで誘導させた男だったが、そこで予想外の事態に出くわした。
なんとオーガスタスの部下達がこの父島にいたのである。
彼らの姿を目撃した男は出るに出れない状況となってしまった。
自分は今まで彼らの事を忘れていたが、彼らはもしかしたらまだ自分のことを覚えているかもしれない……もし、彼らに見つかったら、今度こそ殺されてしまうと思ったのである。
そうして男は身を隠しながらオーガスタスの部下達がその場からいなくなる事を、そしてテトが見つからないよう祈った。
そんな時、黒猫と戯れているテトの元に御影が姿を現した。
男は思わず出ようとしたが、そこにオーガスタスまでやってきたのを見てまた姿を隠してしまう。
そうして男が見守る前で御影はテトによって刺され、テトはオーガスタスに連れ去られてしまった。
男は後悔した。
自分が余計な事をしなければ、もしかしたら御影が刺されることなど無かったのかもしれない。
もしかしたらテトはそのまま御影達と共に島から去ることが出来ていたかもしれない。
そう思った男は激しい自責の念に駆られてしまった。
〝せめてあの少年だけは助けなければ〟
そう思った男は、御影と共にいた少女の事を思い出し、また黒猫を操って彼女の元へと向かわせた。
その後、御影は診療所に運ばれたのだが、それからの事は男には知る術は無かった。
そして時間が経ち、男が自宅にて御影の安否を心配していると、仲が良くなった近所の男性がやって来て、こんな事を言い始めた。
「クラさん、何でも警察の方が事件捜査のために船を出して欲しいんだとよ。でもなかなか船を出せるモンが見つからないらしくてな……クラさん出せるかい?」
男はこの島に来て知り合った男性に誘われ、今は漁師として生活していた。
故に男も船を持っていたのである。
男は少し悩んだが、自分がきっかけで起きてしまった事件……その罪滅ぼしとなるのであれば何だって協力する。
男は勢いよく立ち上がると、その男性と共に港へと向かうのだった。
そしてその後、オーガスタスが逮捕されたとの話を島民から聞いた男は、一人安堵の息をもらしていた。
テトも無事に保護され、また御影達に引き取られたというのも聞いた男は、そばで丸くなっていたあの黒猫を抱き上げ、どこかへと向かう。
そして赴くままに向かった先で、月夜に手を引かれて歩くテトの姿を発見した。
しかし男は話しかけることなく、腕に抱いていた黒猫にそっと話しかける。
「もう、君をそばに置いておく必要は無くなった……今度は彼女に面倒を見てもらうといい」
その言葉を理解したのか、黒猫は〝にゃお~ん〟と鳴いたあと、男の腕を離れタタタッとテトの元へと駆け寄る。
黒猫が駆け寄ってきたことに気づいたテトはその黒猫を抱き上げ、そして嬉しそうにそっと笑みを浮かべた。
男は初めてテトの笑顔を見た。
そしてふと笑みを浮かべたあと、そのまま踵を返してその場を後にしたのだった。
自宅へと戻り、一人となった部屋で椅子へと座る男。
しかし直ぐに立ち上がると、どこからか酒瓶を持って戻り、小さなコップへと注いでそれを斜め上へと掲げる。
(あの子はもう大丈夫だ。もはや私に出来ることなど何も無い。ただ……ただ彼女の新たな門出を祝うとしよう)
そうして男は酒をぐいっと飲み干した。
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