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第一章 レクルキス王国
7 再び、誰だお前
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ダンジョンは丁寧な石積みで通路が広く、歩きやすかった。さすがに照明はない。
イゲルドと俺が、たいまつを持って前後についた。先に入った冒険者たちも同様にしている分、煙が溜まって視界が悪い。
行く手が二つに分かれた。どちらも同じような道だ。ただし、ここから幅が半分になっている。
先頭のイゲルドが止まって振り向いた。
「どちらへ進みます?」
右の方が、煙が多いように感じた。右へ進んだ組が多いと思われる。
みんなが行ったから正しい道、とは限らない。イゲルドに意見を求めたが、彼も久々に来たと言い、当てにならない。
多数決になった。
「右へ行きたい人」
シーニャと、ケーオが手を挙げた。
「では、左へ行きたい人」
俺と、イゲルド、ワイラ。
左へ進むことになった。しばらく行くと、部屋に着いた。反対側に通路が続く。一通り壁など調べてみたが、何もなかった。ゴブリンもいない。部屋を出て先へ進むと、また別の部屋に行き着いた。今度も、奥へ通路が開いている。
そして、部屋には何もなく誰もいない。もしかしたら、煙が少なく感じられたのは、広い空間が多くて拡散したせいかもしれなかった。
「あ、何か臭う。ゴブリン?」
二つ目の部屋を出てしばらく経つと、ワイラが両刃の斧を構えた。イゲルドも片手で剣を構える。狭い通路の上、片手にはたいまつ。動きにくい。
「ワイラさん、前へ出てもらえますか。わたし、戦うのは得意じゃありません」
すぐワイラに助けを求めた。ワイラが頷く。
「分かった」
「わたしも前へ行くね」
シーニャが反応した。通路の壁に影が踊る。
「シーニャ、お前も行ったら前が暗すぎるだろ。後ろを守れ」
「あ、そうか。そうする!」
ケーオに言われ、シーニャは嬉々として俺の近くへ来た。俺も弓を番えたいが、たいまつ係では無理だった。前からにしろ、後ろからにしろ、通路で襲われるのは不利だ。
「ワイラ、どちらから来るか、わかるか」
俺に問われ、ワイラは集中する姿勢を見せた。
「ううむ。『来る』感じではない。多分、前の方にいる」
「え。じゃあ、戻ればいいじゃん」
「何言っているの、ケーオ。ゴブリンスレイヤー・シーニャ様の腕試しにちょうどいいわ」
「いや。お前何言って‥‥」
「やばい、下がれ! 来たぞ!」
イゲルドが、俺の方へ走り出した。狭い通路だ。押されるように、俺も回れ右して走り出す。
シーニャ、ケーオ、ワイラが続く。俺の耳にも、大勢の足音が聞こえてきた。前の部屋まで戻った。
「そこで迎え撃て! 通路から出すんじゃないぞ!」
イゲルドが怒鳴る。俺はたいまつを壁際に置いた。そう言えば、この世界に来て、ゴブリンを見るのは初めてだ。
奴らは灯りを持たずに移動していた。夜行性となると、こんな地下迷宮では人間が圧倒的に不利だ。ここで死んだら、俺はどうなるか。
ひょっとして、元の世界へ戻れるだろうか。戻れるかもしれないとしても、そのためにゴブリンになぶり殺されてみようとは、思わなかった。
弓を構えてみる。部屋の出口にワイラとシーニャがいて、狙いを定めるのが難しい。魔法が使えれば、と思うが、どんな魔法があるのかわからない。
一旦出した弓を、しまう。
「来た!」
シーニャが叫んだ。人間のような、決して人間にはできない邪悪な顔が、イゲルドの持つたいまつの灯りに浮かんだ。
と思う間もなく、その顔面に斧が叩きつけられ、血を吹き出した。
「えいっ」
シーニャも剣を振るう。次の奴の首が飛んだ。
「ひゅうっ。俺の打った剣、切れ味いいねえ」
感心するケーオは短剣を構えてはいるが、手持ち無沙汰である。狭い通路から顔を出すゴブリンをワイラとシーニャが倒す限り、余人の出番はない。
しかし、シーニャは実戦の方は素人である。素人の俺から見ても分かる。
ゴブリンどもの戦意は高く、仲間の死体を踏み越えて襲ってくる。ワイラ共々、徐々に押されつつあった。
通路を塞ぐようにして戦う二人に、やはり素人である俺とケーオ、そしてたいまつ係のイゲルドは、手出しをしかねて見守るばかりである。
ズゴゴゴ
と、積み重なったゴブリンの死体が、一気に押し出された。反射で飛び退くワイラたち。そこへ、五体満足なゴブリンたちが、死体の山を崩しながら攻め込んできた。
「チッ」
イゲルドがたいまつを放り投げた。明かりの位置が下がったことで、辺りが暗くなった。
部屋は混戦状態である。やはり弓矢は使えない。俺は剣を抜いた。襲ってきた奴に、その勢いで斬りつける。
「あぎゃっ」
敵が怯んだところを、更に数回切り裂いた。柔剣道を学生時代に授業で習った程度にしては、我ながら剣さばきが決まっている。
実際に刃物を使った戦闘は、前の世界から数えても初めてだ。どのくらいの傷を負わせれば、相手を戦闘不能にできるか、加減がわからない。
一体にかかりきりになっていると、脇から別の奴が襲ってくる。剣で防いで、反撃する。
周りを見る余裕はない。各自が戦っているであろうことは、音や声で察せられた。
通路からは、汚水が流れるように、どんどんゴブリンが吐き出される。
「キリがない。下がるぞ! 退却!」
イゲルドが叫びながら、遠ざかる。
「無理だ」
「無理無理無理、くそっ」
「痛い! トリス様!」
シーニャが悲鳴を上げた。斬られたか。助けたいが、こちらも襲いくるゴブリンの群れで手一杯だ。
イゲルドの声は聞こえない。あのまま一人で退却したのだろうか。彼が離脱したら、ほぼ村人の集団である。
こんな獣臭いダンジョンで、ゴブリンに押し潰されて死ぬのは嫌だ。
視界が暗転した。
「トリス。起きてください」
激しく揺さぶられた。二日酔いの時みたいに、気分が悪い。頭を平手で叩かれた。まぶたが持ち上がった。
「誰?」
「とりあえず、この辺のゴブリンは殺しました。敵味方区別なく全員眠らせたので、起こす前に、あなたの魔法で怪我の手当てをしてください」
見知らぬ男が言った。たいまつを持っている。
きつくウエーヴのかかった髪は黒っぽく、肌の色も濃い感じだ。右目に眼帯。
革鎧を着ている。今の俺よりやや年上の二十代後半、どうやら戦士のようだ。
「わたくしでは治せません。傷口に手をかざして念じれば、勝手に治りますから、魔法が切れて目を覚ます前に、やってください」
俺が魔法を使えることを、何故か知っている。最初に名前を呼ばれた。右目に眼帯、ということは、左目しかない。
「お前」
「グリリと呼んでください」
と、元グリエルは言った。
「人間になれるなら、最初から」
「早くしないと、シーニャの出血がひどいですよ」
俺は立ち上がった。グリリの案内でシーニャの元へ向かう。顔を切られていた。確かに出血がひどい。たいまつの灯りの元でも、青白く見える。俺は急いで手を当てた。
掌の下で、傷が治っていくのがわかる。手を離すと、出血が止まっていた。顔が血で汚れたままだが、拭く余裕はない。
グリリに急かされ、ケーオとワイラの治療もした。
ワイラはかすり傷だったが、ケーオが一番重症だった。彼は鎧を着ていなかったから、もろに切られていた。先にケーオを治すべきだった。
「死んでない?」
「うーんどうでしょう。まだ生きています」
グリリが、危機感のかけらもなく断言する。とにかくやってみた。
傷も多く、シーニャよりよほど時間がかかった。やがて、ケーオの表情が和らいだ。安心して、どっと疲れがでた。
「あれ、イゲルドさん?」
一息ついたところで、グリリを追及しようとしたら、シーニャが起きてきた。
ワイラとケーオも、戸惑いの目でこちらを見る。三人とも、怪我が治って自力で動けそうだ。
「グリリと呼んでください。イゲルドさんとかいう人は、先にダンジョンを出られたのではないでしょうか。わたくしは、あなた方の後から入ったのですが、先ほど一人、出口へ向かわれた人を見ました」
「無事なら、よかった!」
「死ぬかと思ったぜ。俺たちを助けてくれたんだろ? ありがとうな」
「いえ。わたくしが到着した時には、ゴブリンは、ほぼ全滅していました」
ぬけぬけと嘘をつくグリリ。
「イゲールとの契約はどうなる?」
「イゲルドさんのことですね。パーティを放棄したなら、その時点で契約も無効となると思います。詳しくは、戻ってから、受付のヘイリーさんに聞いてみてはいかがでしょう」
「それもそうか」
ワイラとグリリの話を遮って、俺は咳払いした。
「ところでグリリ。お前、一人でダンジョンに来たのか?」
「はい。そうです。しかし、こんなにゴブリンが出るのなら、ダンジョンにいる間だけでも、ご一緒していただけると嬉しいです」
「どうする?」
「トリリンがいいなら賛成!」
「俺も賛成。一人抜けたしな」
「あたしも賛成。戦力は多い方がいい」
いきなり現れた怪しい片目の男、実は元猫、いや、もっと怪しい生物のグリエルは、素人集団によって歓迎された。実際、どこまで役に立つか知らないが、盾が増えることは間違いない。
「では、よろしくお願いします。まず、ゴブリンたちの持ち物から、金になりそうな品を拾い集めましょう」
グリリの号令で、俺たちは動き始めた。言われなければ、思いもつかなかった。こういう風に金を稼ぐのか。
ゴブリンたちは、なかなかの物持ちだった。全員が鎧を着ているし、武器も持っている。
小銭や宝玉らしい物を、持っている奴もいた。
鎧の方は、大抵傷ついているし、脱がすのも面倒だし、嵩張るし、重いので、諦めた。
代わりに、金になるかはわからないが、ゴブリン討伐の証拠として、両耳を切り取った。これも、片耳の奴は捨て置いた。全部集めると結構な量だ。
「どうしますか。ここで終わりにしても、ある程度の稼ぎにはなると思います」
「うーん」
シーニャは物足りなさそうである。
「一旦宿に戻って、どのくらいの金になるか、見てもらったらいいんじゃねえの。これ持ったままで、奥へ進むのは大変だろ? もしいまいちだったら、今度は別のダンジョンへ行ってみるとか」
「もっと凄いダンジョンかあ」
「面白いかもしれない」
いや、君たち自分のレベルをわかっていないよ、と言いたいのを俺は我慢した。戻るのは賛成である。
「じゃ、決まりな」
ケーオが締めた。
イゲルドと俺が、たいまつを持って前後についた。先に入った冒険者たちも同様にしている分、煙が溜まって視界が悪い。
行く手が二つに分かれた。どちらも同じような道だ。ただし、ここから幅が半分になっている。
先頭のイゲルドが止まって振り向いた。
「どちらへ進みます?」
右の方が、煙が多いように感じた。右へ進んだ組が多いと思われる。
みんなが行ったから正しい道、とは限らない。イゲルドに意見を求めたが、彼も久々に来たと言い、当てにならない。
多数決になった。
「右へ行きたい人」
シーニャと、ケーオが手を挙げた。
「では、左へ行きたい人」
俺と、イゲルド、ワイラ。
左へ進むことになった。しばらく行くと、部屋に着いた。反対側に通路が続く。一通り壁など調べてみたが、何もなかった。ゴブリンもいない。部屋を出て先へ進むと、また別の部屋に行き着いた。今度も、奥へ通路が開いている。
そして、部屋には何もなく誰もいない。もしかしたら、煙が少なく感じられたのは、広い空間が多くて拡散したせいかもしれなかった。
「あ、何か臭う。ゴブリン?」
二つ目の部屋を出てしばらく経つと、ワイラが両刃の斧を構えた。イゲルドも片手で剣を構える。狭い通路の上、片手にはたいまつ。動きにくい。
「ワイラさん、前へ出てもらえますか。わたし、戦うのは得意じゃありません」
すぐワイラに助けを求めた。ワイラが頷く。
「分かった」
「わたしも前へ行くね」
シーニャが反応した。通路の壁に影が踊る。
「シーニャ、お前も行ったら前が暗すぎるだろ。後ろを守れ」
「あ、そうか。そうする!」
ケーオに言われ、シーニャは嬉々として俺の近くへ来た。俺も弓を番えたいが、たいまつ係では無理だった。前からにしろ、後ろからにしろ、通路で襲われるのは不利だ。
「ワイラ、どちらから来るか、わかるか」
俺に問われ、ワイラは集中する姿勢を見せた。
「ううむ。『来る』感じではない。多分、前の方にいる」
「え。じゃあ、戻ればいいじゃん」
「何言っているの、ケーオ。ゴブリンスレイヤー・シーニャ様の腕試しにちょうどいいわ」
「いや。お前何言って‥‥」
「やばい、下がれ! 来たぞ!」
イゲルドが、俺の方へ走り出した。狭い通路だ。押されるように、俺も回れ右して走り出す。
シーニャ、ケーオ、ワイラが続く。俺の耳にも、大勢の足音が聞こえてきた。前の部屋まで戻った。
「そこで迎え撃て! 通路から出すんじゃないぞ!」
イゲルドが怒鳴る。俺はたいまつを壁際に置いた。そう言えば、この世界に来て、ゴブリンを見るのは初めてだ。
奴らは灯りを持たずに移動していた。夜行性となると、こんな地下迷宮では人間が圧倒的に不利だ。ここで死んだら、俺はどうなるか。
ひょっとして、元の世界へ戻れるだろうか。戻れるかもしれないとしても、そのためにゴブリンになぶり殺されてみようとは、思わなかった。
弓を構えてみる。部屋の出口にワイラとシーニャがいて、狙いを定めるのが難しい。魔法が使えれば、と思うが、どんな魔法があるのかわからない。
一旦出した弓を、しまう。
「来た!」
シーニャが叫んだ。人間のような、決して人間にはできない邪悪な顔が、イゲルドの持つたいまつの灯りに浮かんだ。
と思う間もなく、その顔面に斧が叩きつけられ、血を吹き出した。
「えいっ」
シーニャも剣を振るう。次の奴の首が飛んだ。
「ひゅうっ。俺の打った剣、切れ味いいねえ」
感心するケーオは短剣を構えてはいるが、手持ち無沙汰である。狭い通路から顔を出すゴブリンをワイラとシーニャが倒す限り、余人の出番はない。
しかし、シーニャは実戦の方は素人である。素人の俺から見ても分かる。
ゴブリンどもの戦意は高く、仲間の死体を踏み越えて襲ってくる。ワイラ共々、徐々に押されつつあった。
通路を塞ぐようにして戦う二人に、やはり素人である俺とケーオ、そしてたいまつ係のイゲルドは、手出しをしかねて見守るばかりである。
ズゴゴゴ
と、積み重なったゴブリンの死体が、一気に押し出された。反射で飛び退くワイラたち。そこへ、五体満足なゴブリンたちが、死体の山を崩しながら攻め込んできた。
「チッ」
イゲルドがたいまつを放り投げた。明かりの位置が下がったことで、辺りが暗くなった。
部屋は混戦状態である。やはり弓矢は使えない。俺は剣を抜いた。襲ってきた奴に、その勢いで斬りつける。
「あぎゃっ」
敵が怯んだところを、更に数回切り裂いた。柔剣道を学生時代に授業で習った程度にしては、我ながら剣さばきが決まっている。
実際に刃物を使った戦闘は、前の世界から数えても初めてだ。どのくらいの傷を負わせれば、相手を戦闘不能にできるか、加減がわからない。
一体にかかりきりになっていると、脇から別の奴が襲ってくる。剣で防いで、反撃する。
周りを見る余裕はない。各自が戦っているであろうことは、音や声で察せられた。
通路からは、汚水が流れるように、どんどんゴブリンが吐き出される。
「キリがない。下がるぞ! 退却!」
イゲルドが叫びながら、遠ざかる。
「無理だ」
「無理無理無理、くそっ」
「痛い! トリス様!」
シーニャが悲鳴を上げた。斬られたか。助けたいが、こちらも襲いくるゴブリンの群れで手一杯だ。
イゲルドの声は聞こえない。あのまま一人で退却したのだろうか。彼が離脱したら、ほぼ村人の集団である。
こんな獣臭いダンジョンで、ゴブリンに押し潰されて死ぬのは嫌だ。
視界が暗転した。
「トリス。起きてください」
激しく揺さぶられた。二日酔いの時みたいに、気分が悪い。頭を平手で叩かれた。まぶたが持ち上がった。
「誰?」
「とりあえず、この辺のゴブリンは殺しました。敵味方区別なく全員眠らせたので、起こす前に、あなたの魔法で怪我の手当てをしてください」
見知らぬ男が言った。たいまつを持っている。
きつくウエーヴのかかった髪は黒っぽく、肌の色も濃い感じだ。右目に眼帯。
革鎧を着ている。今の俺よりやや年上の二十代後半、どうやら戦士のようだ。
「わたくしでは治せません。傷口に手をかざして念じれば、勝手に治りますから、魔法が切れて目を覚ます前に、やってください」
俺が魔法を使えることを、何故か知っている。最初に名前を呼ばれた。右目に眼帯、ということは、左目しかない。
「お前」
「グリリと呼んでください」
と、元グリエルは言った。
「人間になれるなら、最初から」
「早くしないと、シーニャの出血がひどいですよ」
俺は立ち上がった。グリリの案内でシーニャの元へ向かう。顔を切られていた。確かに出血がひどい。たいまつの灯りの元でも、青白く見える。俺は急いで手を当てた。
掌の下で、傷が治っていくのがわかる。手を離すと、出血が止まっていた。顔が血で汚れたままだが、拭く余裕はない。
グリリに急かされ、ケーオとワイラの治療もした。
ワイラはかすり傷だったが、ケーオが一番重症だった。彼は鎧を着ていなかったから、もろに切られていた。先にケーオを治すべきだった。
「死んでない?」
「うーんどうでしょう。まだ生きています」
グリリが、危機感のかけらもなく断言する。とにかくやってみた。
傷も多く、シーニャよりよほど時間がかかった。やがて、ケーオの表情が和らいだ。安心して、どっと疲れがでた。
「あれ、イゲルドさん?」
一息ついたところで、グリリを追及しようとしたら、シーニャが起きてきた。
ワイラとケーオも、戸惑いの目でこちらを見る。三人とも、怪我が治って自力で動けそうだ。
「グリリと呼んでください。イゲルドさんとかいう人は、先にダンジョンを出られたのではないでしょうか。わたくしは、あなた方の後から入ったのですが、先ほど一人、出口へ向かわれた人を見ました」
「無事なら、よかった!」
「死ぬかと思ったぜ。俺たちを助けてくれたんだろ? ありがとうな」
「いえ。わたくしが到着した時には、ゴブリンは、ほぼ全滅していました」
ぬけぬけと嘘をつくグリリ。
「イゲールとの契約はどうなる?」
「イゲルドさんのことですね。パーティを放棄したなら、その時点で契約も無効となると思います。詳しくは、戻ってから、受付のヘイリーさんに聞いてみてはいかがでしょう」
「それもそうか」
ワイラとグリリの話を遮って、俺は咳払いした。
「ところでグリリ。お前、一人でダンジョンに来たのか?」
「はい。そうです。しかし、こんなにゴブリンが出るのなら、ダンジョンにいる間だけでも、ご一緒していただけると嬉しいです」
「どうする?」
「トリリンがいいなら賛成!」
「俺も賛成。一人抜けたしな」
「あたしも賛成。戦力は多い方がいい」
いきなり現れた怪しい片目の男、実は元猫、いや、もっと怪しい生物のグリエルは、素人集団によって歓迎された。実際、どこまで役に立つか知らないが、盾が増えることは間違いない。
「では、よろしくお願いします。まず、ゴブリンたちの持ち物から、金になりそうな品を拾い集めましょう」
グリリの号令で、俺たちは動き始めた。言われなければ、思いもつかなかった。こういう風に金を稼ぐのか。
ゴブリンたちは、なかなかの物持ちだった。全員が鎧を着ているし、武器も持っている。
小銭や宝玉らしい物を、持っている奴もいた。
鎧の方は、大抵傷ついているし、脱がすのも面倒だし、嵩張るし、重いので、諦めた。
代わりに、金になるかはわからないが、ゴブリン討伐の証拠として、両耳を切り取った。これも、片耳の奴は捨て置いた。全部集めると結構な量だ。
「どうしますか。ここで終わりにしても、ある程度の稼ぎにはなると思います」
「うーん」
シーニャは物足りなさそうである。
「一旦宿に戻って、どのくらいの金になるか、見てもらったらいいんじゃねえの。これ持ったままで、奥へ進むのは大変だろ? もしいまいちだったら、今度は別のダンジョンへ行ってみるとか」
「もっと凄いダンジョンかあ」
「面白いかもしれない」
いや、君たち自分のレベルをわかっていないよ、と言いたいのを俺は我慢した。戻るのは賛成である。
「じゃ、決まりな」
ケーオが締めた。
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