前世ストーカー(自称俺推し)が俺を好きすぎて女を放棄したので、真面目に生きがいを探します

在江

文字の大きさ
8 / 68
第一章 レクルキス王国

8 イケメンになりたかったので

しおりを挟む
 冒険者の宿へ戻ると、イゲルドが新しいパーティに参加していた。
 彼は、俺たちが金目の物を持って戻ったのを見つけ、驚いた顔で寄ってきた。

 「いやあ、みなさんご無事で何より。心配していたんですよ」

 み手をしている。わかりやすい男だ。

 「一体、どうやって、あのゴブリンの群れを追い払ったんです?」
 「それは、そこにいる‥‥」

 振り向いたが、グリリは袋を置いて、姿を消していた。

 「あれ? どこに行っちゃったのかな」

 シーニャもきょろきょろ探すが、それらしい人影は見当たらない。

 「宿は別に取っている、と言っていたな」

 ワイラが冷静に思い出す。

 「分け前いらないって言ってたけど、俺はあげていいと思うぜ」
 「そうそう。取り分のお話ですね。わたしの分ですが」

 ケーオが金の話を始めたところへ、イゲルドが、被せるように割り込んだ。

 「イゲルドさん」

 声が飛んできた。鋭い視線を感じ、受付を見ると、ヘイリーがこちらを睨んでいる。

 「あなた、私にトリスさんのパーティは全滅した、と報告しましたよね。その時点で、あなたと彼らが結んでいた契約があったとすれば、それは全て無効になります。第一、仲間を見捨てて逃げたメンバーに、取り分はありません」

 イゲルドの額に汗がにじみ出す。わかりやすい男だ。

 「あはは。いやあ、取り分はなしで大丈夫、と言おうとしていたんですよ。わたしには、次の仕事がありますから、これで失礼します。お元気で」

 あたふたと去っていった。俺はヘイリーに黙礼した。彼女はちょっと頷くと、次の仕事にかかった。

 「毛玉」
 「あら、猫ちゃん。こっちに戻っていたんだ。お利口りこうさんね」

 グリエルが猫の姿で入ってきた。色々聞きたいことはあるのだが、道中にしろ、今にしろ、話せる状況になかった。
 その後、受付で手続きをして、買取担当の人を呼んでもらった。昨日見かけた男の人だった。
 悲報。ゴブリンの耳は、換金できないそうである。

 「でも、生息調査に役立つから、教えてもらえるのは、ありがたいです。査定さてい額に少し上乗せしましょう」

 小銭はそのまま懐に入れてもよくて、宝玉はもらってもよし、買取に出してもよしとのこと。
 買取金額の十パーセントを、手数料として差し引かれる。差し引き後の査定額は三アグルぐらいだった。
 初めてなので、高いのか安いのかわからない。

 「これで、もう一晩泊まれるね」
 「明日は、違うダンジョンへ行ってみるか」

 シーニャたちは冒険者としての初稼ぎに、はしゃいでいた。

 「ケーオ、君も他のダンジョンへ行けると思う?」

 彼は彼女らを見て、肩をすくめた。意外と冷静だ。

 「言っても止めないだろ。俺、胸当てだけでも、付けた方がいいと思うんだよね。トリス、買い物付き合ってくれる?」
 「防具買うの? わたしも行く!」

 シーニャが言った。休むと言うワイラに、部屋代を渡し予約を任せ、俺たち三人は宿をでた。
 グリエルもついてくる。

 「トリス、ダンジョンで会ったアリって人、知り合いだよな」

 どきりとする。初対面といえば、初対面である。

 「う、うん。そんなに親しくないけど。何で?」
 「だって、お前とか言ってたし」

 うっかりした。どういう設定にしたらいいのかも、わからない。本人はそこにいるのに、何も喋らない。猫だし。

 「グリリさんも、結婚しているのかな」

 二人してシーニャを見てしまった。
 確かに、それなりの外見ではあった。ケーオと目が合う。咳払いして、目を逸らされた。
 婚約者の割には、これまでシーニャが俺にべたべたくっついても淡々としていたのに、態度が違う。実は、彼女を好きなのだろうか。青春っぽい。

 「知らない。しばらく会っていなかったし。今度会ったときに、自分で聞いてみたらいいと思うよ」

 俺は、嘘でない範囲で、なるべくぼかして回答した。こちらは、大人の対応ということで。

 「そうしてみる。グリリさんと、お話しするきっかけになるね」

 無邪気に言うシーニャ。それから店まで、三人とも無言で歩いた。


 ケーオの防具を買った後、俺は猫と話があると言った。
 当然のように、ついて来ようとするシーニャを振り切り、強引に二人と別れた。ケーオがいて、助かった。

 俺たちは、人気のない場所を求めて、ホナナを囲む壁際まで来てしまった。
 元々緑地帯にして空けておいたのだろうが、今は屋台や小屋がぼちぼちと建っている。なるべく建物から離れた場所へ移動する。

 「で、グリリはあんただろ」
 「猫語で話すなら、他の人がいても構わないでしょうに」
 「猫語で長々と話せないからな」
 「そんなに時間かからないですよ。グリリは私です、で済むでしょうに」

 なめとんのか、我。と思った途端、グリエルの毛が逆立った。
 こいつは、心を読むのだった。おびえているのか、怒っているのか、猫だとよくわからない。

 『何にでも変身できるなら、最初から人型になっとけ』

 口を開くのも面倒になったので、頭で会話する。

 『変身には制限があります。若くて綺麗な人型の女性と、私の真の姿は、暗黒神に捧げてしまったので、変身できません』

 グリエルの言葉をよく考えてみた。

 わざわざ分けるということは、彼女は若くもなく綺麗でもない女性ということか。そういえば初めに女性と言っていたな。
 生徒の保護者と聞いて何となく男性扱いしていたが、元々俺のストーカーだった訳だし。全然存在に気づかなかったが。

 それより、契約した神が暗黒神というのは、問題ないのだろうか。

 『なら、年寄りで綺麗な女性や、若くて綺麗でない女性にはなれるのか』
 『綺麗かどうかは個人の嗜好しこうもありますので、実質人型の女性にはなれないということですね』

 『最初からそう言えばいいじゃないか』
 『神との契約上の問題です』

 『面倒臭いな。それはおいといて、明日のダンジョンについてきて欲しいんだけど』
 『可能ですが、お勧めしません。トラップダンジョンと呼ばれているんですよ、あそこ。それに、仮に無事生還できたとして、次にドラゴンダンジョンに行くと言い出します、きっと』

 『まあな』
 『召喚したあなたのことはともかく、他の人まで助ける自信はありません』

 俺は考え込んだ。チート級と自称していたグリエルとて、万能ではない。俺ができることは、ダンジョン行きを止めるか、彼女らを見捨てるか。ケーオも言っていた通り、トラップダンジョンについては、止めるのは難しかろう。
 親に頼まれたこともある。生徒みたいな彼女らを見捨てるのも、俺の良心に堪える。

 『グリエル。俺が使える魔法をざっと教えてくれないか?』
 『ざっと?』

 グリエルの一つしかない目がやや細まる。

 『そう。考えるだけで効力発揮するって言ったよな? 種類がわかれば、使えるかと思って』

 『ああ、なるほど。発動条件まで覚え切れないでしょうから、確かにざっくりお話ししておくのも、手かもしれません』

 と言って、グリエルは教えてくれた。


 光魔法 ライト、ライトニングボルト、チャーム、デミニッシュ、バリア、ヒール、
 火魔法 ボム、リット、ドライ、ファイアウォール
 水魔法 ウォーターウォール、フラッド、アイスウォール、アイスストーム
 風魔法 ストーム、フォグ、フロート、インターセプト
 土魔法 スリング、アースウォール、インプラント


 『ほんとに、だ』

 『他にも色々ありますが、誤魔化ごまかしの効かないものや、使用頻度の低そうなものは外しています。呼び名も覚えやすいように英語にしています』

 『水の壁とか、誤魔化し効かないだろ』

 『トラップダンジョンですから。上手くお使いください』

 そろそろ戻った方が良い、とうながされて従った。全部覚えられたか、自信がない。練習する時間も場所もない。選択肢が多すぎるのも、大変だ。

 『魔法学院へ入るまでは、目立たない方がいいと思います』
 『それなら何でグリリはイケメンなんだ? 目立つだろ』

 『人生で一度ぐらい、イケメンになってみたかったのです。そうでない人の人生がどんなものか、元からイケメンのトリスには、わからないでしょう』

 『んなこと』

 グリエルは肩から降りた。こうなると、喋りづらい。

 宿に戻ると、酒場でシーニャたちが食事中だった。相席させてもらう。空席はほとんどない。すぐに給仕が来た。例によって、安い品を注文する。

 「遅かったな。先に食ってたぜ」
 「部屋は取れたぞ。昨日と違うが、同じ広さだ」

 「ありがとう。実は、グリリと出くわしたから、明日ダンジョンに同行してもらえるよう、頼んできた」

 「やった! 色々聞けるね」

 「あんまり話する余裕はないと思う。ゴブゴブよりも、難しいところだろう?」

 「クリアしなくても稼げるってわかったから、今度も奥まで行かなければいいでしょ?」

 シーニャは嬉しそうだ。ワイラが唸る。

 「トラップダンジョンという名前からして、あまり稼げそうにないな。面白そうではあるが」

 「稼げないと、やばい。俺、結構ここで散財しちまった」

 「じゃあ、ドラゴンの方へ行こうか」
 「だめだ。命を無駄にするだけだろう」

 これには、俺が反対した。

 「ねえねえ、トラップダンジョンって、みんな何しに行くの?」

 シーニャが隣のテーブルに話しかけた。隣にいたのは、俺たちよりも年嵩としかさで、年季も入った戦士風の三人組だった。

 「おう、お嬢ちゃん。ホナナのダンジョン初心者か。トラップダンジョンは、経験を積むのにいい場所だぞ。お宝は置いてないけどな」

 「ないんだ」

 ケーオが肩を落とす。別の男が言う。

 「挑戦者が多いから、落とし物は結構あるけどな」

 「そうそう。ゴブゴブ楽勝でクリアできるレベルじゃないと、死にに行くようなもんだ」

 「へーえ、そうなんだ。教えてくれてありがとう」

 シーニャはこちらへ向き直った。

 「ワイラ。明日もゴブゴブダンジョンへ行きたいんだけど、だめかな」

 自分の実力をわかっている。ゴブリンの群れに危うく殺されかけたのだ。これで理解できなかったら、救いようがない。

 「構わない。折角だから、クリアしてみたい」
 「俺も、稼ぎたい」

 残る二人は、シーニャほどのこだわりはなさそうである。

 「では、決まりだな」

 俺はほっとした。ただ、ゲームではない場合、ダンジョンをクリアするという意味がよくわからない。ボスを倒すのがクリアなら、次の人はもうクリアできないではないか。

 考えてもわからないので、止めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

処理中です...