前世ストーカー(自称俺推し)が俺を好きすぎて女を放棄したので、真面目に生きがいを探します

在江

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第四章 セリアンスロップ共和国

11 鉄の盾は硬い

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 帰りも馬車に乗せられた。荷物もあるし、とりあえずネルルク邸に戻るしかない。乗り合わせは行きと同様である。キリルは自宅へ戻ってもいい筈だが、今はマイアと一緒の馬車にいる。

 マイアの落ち着き先が決まるまで、側にいるつもりかもしれない。失ったと思っていた娘に会えたのだから、いっときも離れ難い気持ちはわかる。

 「クセニヤ=ドラゴ議員? に、何を言われたのかねえ」

 「皆、顔色悪かったな」

 エサムが、俺たちの疑問を口に出した。
 正確に言うと、ネルルク以外の三人の表情が、冴えなかったのである。キリルは怒っているようだったし、マイアは表情が強張っていた。クレアの顔色は、青ざめて見えた。

 「後で説明するだろう、きっと」

 グリリも心配そうに眉根を寄せている。すぐにでも問いただしたいところを、俺たちは場をわきまえて堪えたのだった。


 ネルルク邸に到着しても、すぐには話を聞けなかった。入浴、夕食、それらに伴う着替えなどの支度、と次から次へと、流れ作業のように導かれる。

 夕食では、ネルルクもキリルも訪問とは無関係の話題ばかり持ち出していた。あのアロエ似の植物、竜絶木りゅうぜつぼくは、竜人に対してのみ毒性を発揮するとか、耳寄りな情報ばかりだったのに、気懸りのせいであまり頭に入らなかった。

 また、料理もレクルキスとは違う品々で、美味しかったとは思うのだが、味わう余裕が持てなかった。
 マイアは機械的に食べているし、クレアの方は食欲が落ちていた。元々食が細いのに、体力が持つか心配になる。

 食後、前の屋敷と同様、酒飲み放題の部屋へ移った。
 給仕の大量に控える食堂と違って、付き従うのはメリベルだけである。彼女に手伝わせて、主のネルルク自ら酒を用意した。
 グリリ以外の全員に酒が行き渡った後、漸く本題に入った。長かった。

 「クレア公使とマイアさんが、皆さんと情報を共有したいとのことなので、面会の様子をお聞かせします。公使からお話しなさいますか」

 「はい。お気付きの点があれば、おぎなってください」


 応接室に通されたクレアたちの前に、クセニヤ=ドラゴ議員が現れた。灰色の髪を後ろにまとめて結い、形状はシンプルだが、凝った金糸刺繍を施したドレスに身を包んでいる。

 クレアが挨拶する時に持参した宝飾品を差し出すと、灰色をした爬虫類の瞳が一瞬きらめき、すぐに分厚いまつ毛の下に隠れた。
 品物は、脇に侍していた秘書の竜人らしい男性が受け取り、エルフの執事に渡った。

 「まずは、あなたの話を聞こう」

 そうは言ってくれたものの、クセニヤのかもし出す態度はクレアにとって、およそ友好的とは思えなかった。
 尤もキリルによれば、彼女は誰に対しても尊大であり、ネルルクも彼の意見に同意した。

 ともあれ、口を開く許可が出た。
 クレアはレクルキス国のクラール王がセリアンスロップ共和国と正式に国交を結びたい意向を持っていることを話し、助力を依頼した。

 「それで、六十五年前に失われた戦士の代わりに、娘を育てて返しに来たのだな。その配慮は認めよう」

 クレアは戸惑った。
 マイアをつもりはなかった。彼女は物ではない。

 もちろん、本人が母国に留まりたければ、協力を惜しまない。ただ、父親のキリルはともかく、目の前にいるクセニヤ議員に身柄を預けるのは、正直なところ気が進まなかった。

 レクルキス公使の戸惑いをよそに、竜人議員は、突飛な話を持ち出した。

 「で、当然条約を締結する際には、フセヴォルドからかすめ取った宝を、返還するのだな」

 「?」

 「九十五年前に、レクルキスから来た野蛮な者どもが、当時のドラゴニア皇国皇帝、フセヴォルド=ドラゴが集めた宝の一部を、盗み出したのだ」

 「でも、それって」

 「お前は、黙っていなさい」

 キリルが口を出そうとするのを、クセニヤが制した。

 「ドラゴニア皇国軍が、レクルキス国に渡ったのは、盗られた宝を取り戻すためだった」

 クレアにとっては、初めて聞く話ばかりである。何のことやら、さっぱりわからない。

 ただ、相手がレクルキスに対して遺恨を持っていることはわかった。沈黙を守るのは不利になる。さりとて、下手な口を利けば、二国間で戦争になりかねない。
 彼女は必死に考えた。

 彼女の焦りをよそに、クセニヤの恨み言は続く。

 「油断し過ぎて、更に損害を被っただけになったがな。妊婦の戦士より、お前が出撃すればよかったのだ」

 キリルにも火の粉が飛んだ。

 「俺だって、代わりに行きたかったですよ」

 それだけ言って歯を食いしばる。その様子を見てクセニヤもふと口をつぐんだ。

 「まず、ご承知おきいただきたいことがあります」

 クレアは、漸く口を挟む機会を得た。灰色の爬虫類の視線が、戻ってくる。

 「こちらのマイアは現在、レクルキス国において重要な人材として、王の庇護下にあります。セリアンスロップ共和国へ同道したのは、故郷を見たいという彼女の希望によるものです。王は彼女の意思を尊重しております。彼女がレクルキスでの生活を希望するなら、喜んで受け入れます。留まるも去るも、彼女次第であることをご確認ください」

 「‥‥いいだろう」

 クセニヤは、虚をつかれたようだった。普段、反論されることがないのだろう。クレアは、彼女が次の言葉を発する前に、自らの主張を続ける。

 「次に、フセヴォルド=ドラゴ前皇帝が宝物を盗まれた件につきまして、我がレクルキス国では一切関知しておりませんでした。災難に遭われた前皇帝には、お見舞いを申し上げます」

 「もう亡くなっているから、心配ない」

 と言ったのはキリルである。クセニヤは、ふん、と鼻を鳴らしただけだった。もちろん、クレアも承知している。話のを作るための、小細工である。

 「では、お悔やみも申し上げます。犯人についても、盗品についても、本国へ帰還次第、調査する所存ではありますが、何分なにぶん九十五年前とのことであり、おそらく犯人及び関係者の多くは死亡していると思われ、捕縛して罪を償わせるのは困難でしょう」

 「また、盗品を探す手がかりも必要です。後ほど、失われた品々の特徴を伺いたいと思います。これもやはり年月が経っていることから、原型を失った可能性もあり、その場合には、改めて補償について話し合いの機会を持ちたいと思います。ところで、現在それらを所有しておられるのは、クセニヤ=ドラゴ議員ということで、よろしいでしょうか?」

 一気に言葉を吐き出し、内心の不安を押し込め、毅然きぜんとした態度を見せるクレアに対して、クセニヤの反応は意外なものだった。

 「ん、ああ。違う。フセヴォルドの財産は、現在セリアンスロップ共和国の国家資産として、竜人が預かり管理を行なっている」

 急に歯切れが悪くなる。

 「国交回復の際に補償の品をお持ちになるならば、議会を通した方がよろしいでしょう」

 今まで沈黙を守っていたネルルクが発言した。秘書が悔しげな顔で小さく舌打ちをする。その音で、クセニヤは立ち直った。

 「彼の言う通りだ。貴国からの信義を得られれば、我が共和国の発展のため、有効に活用させてもらう」

 「それは我が国にとりましても嬉しいお言葉です。帰国後、早速調査に取り掛かります。つきましては、今後の連絡を円滑にするためにも、国交回復に向けてご協力をお願いいたします」

 「分かった。私からもウィプサニア議長に召集を要請しよう。ネルルク議員も、既に要請しているのだろう?」

 「はい。これからソゾン代理にも会う予定です」

 クセニヤの表情に翳りが出た。

 「そうか。そろそろ長老が出る時期だな。一応私も、候補にはなり得るのだが」

 「えっ?」

 キリルがおかしな声を出した。クセニヤが睨む。

 「皇帝の一族との結婚は、相手を選ぶ。ああ。皇帝だったな。承知している。しかも、私の血筋のように弱小家系となると、野心家も寄ってこないのだ。現状、長老の方が遥かに年配でもあるし、驚くほどのことでもあるまい」

 「その件ですが、ソゾン代理に長老を交代するという噂は、耳にされましたか?」

 ネルルクの問いに、クセニヤは首を振った。

 「いや。交代したら祝いに妻を贈らねばなるまい。いずれにせよ、誰か出す必要がある。ソゾン代理なら、そこの娘が似合だろう」

 「ニーカは、まだ六十代だ。早過ぎる」

 キリルが慌てて言う。

 「契約するだけなら、十分に適齢だ」

 「まだ、彼女がここに残るとは、決まっていません」

 とクレア。

 「そうだな。その件についても、竜人で集まりを持たねばなるまい。公使は、ネルルク議員の屋敷に逗留とうりゅうしているのか」

 「はい。連れの方々共々、こちらでお預かりしております」

 「では、竜人の集会が決まったら、連絡を入れる。それまでには、身の振り方を考えておくがよい」

 最後の言葉は、マイアにかけられた。

 「はい」

 マイアは
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