前世ストーカー(自称俺推し)が俺を好きすぎて女を放棄したので、真面目に生きがいを探します

在江

文字の大きさ
55 / 68
第四章 セリアンスロップ共和国

16 議会襲撃? 事件

しおりを挟む
 エサムが立って扉を開ける。今回は見張りがいないから、人目ひとめを気にせず動いた。出入り口には、鍵もかかっていなかった。

 「ありゃ、何の音だ?」

 外を見るなり、飛び出した。グリリが続く。俺も続いた。


 土ゴーレムがいた。

 議会の建物に合わせて、やや小型である。

 それは、奇妙なを抱えていた。毛羽けばだったボロ雑巾の塊‥‥の中に、目鼻がある。人形かと思いきや、動いた。
 生き物である。

 「を、引き渡すのだ」

 しわがれているものの、意外とはっきりした声が、耳に届いた。対峙たいじしているのは、氷の壁とキリルである。
 その後ろに、クレアとマイアがいた。

 「だーかーら、彼女達は、お前さんの花嫁じゃないって」

 のんびりした声で説得するキリルの顔が、なかうろこで覆われている。
 慌てて駆けつけた俺たちに、クレアが気付いた。

 「蝙蝠人の長老らしいです。外交問題になるので、手出ししないように、と」

 「うへっ。に娘はやれんなあ。俺、独身で子どももいないけれど」

 エサムが呟いた。大いに同感である。

 キリルが強制排除に動けない訳は、相手が議員だから、ということのようだ。

 まさに今、議会が開かれていた。出席のために来た、と主張されたら、共和国の民意を代表する議員を、暴力で押さえつけたことになってしまう。

 同様の理由で、俺たちが攻撃すれば、外交の火種となる。お手上げ状態である。

 この状況をいいことに、長老は土ゴーレムの腕の中から、マイアを手招きしている。
 勿論もちろん、彼女は応じない。どう考えても、正規の手続きにのっとっていないからだろう。決して、長老が生き物にすら見えない姿だから、ではない。
 クレアや俺たちにも目を配りつつ、相手の動向を観察している。
 表情には出ていないが、父親のことも心配しているに違いない。

 「眠らせれば、いいんじゃないか?」

 グリリに耳打ちした。
 厳密には、魔法をかけること自体が攻撃に含まれる。ただし、緊急避難的に攻撃者を眠らせるなら、この場合、見逃してもらえる可能性はある。相手は超高齢者、元々生きているかどうか分かりにくい。運よく、バレないかもしれない。

 グリリは首を振った。

 「この種族は、人たちです」

 眠りを知らない相手にも効かないのか。こんな時だが、ちょっと面白い。それにしても闇魔法、意外と使えないな。

 と、長老の横に、新たな土ゴーレムが出現した。やはり、建物に合わせた小ぶりサイズである。そして、足元の床が崩れていた。そこが、か。

 二体目のゴーレムは、キリルの作ったと思しき氷の壁を、拳で突き始めた。殴る度に、ミシリミシリ、と亀裂が入る。

 「きゃあああ! 誰か助けて!」

 やや芝居がかった調子で、クレアが声を張り上げた。俺はふと思いつき、彼女の声を議場へ流した。風魔法の応用である。
 その間に、エサムとグリリが、彼女達を後退させた。

 危なかった。
 皆が下がったところへ、砕けた氷が飛び散った。床に落ちた音の重量感。結構な塊である。尖ってもいる。

 土ゴーレムは障壁が消えたのをいいことに、二体揃って前進を始めた。キリルが立ちはだかった。今や、全身が鱗で覆われている。

 「メナッシュ議員、それ以上レクルキスの客人に危害を加えようとするなら、あなたを拘束する」

 声から、のんびりした調子が消え失せた。ゴーレムは止まらない。

 「花嫁を、渡せ」

 そこへ、警備員の一団が到着し、議場からも議員たちが顔を覗かせた。山羊脚、牛頭、と見慣れない面々に混じって、ネルルクとソゾンの姿も見えた。

 「長老! まだ、花嫁は決まっていません」

 駆け寄ったソゾンは、土ゴーレムに払われ、転倒した。議員達から、あっと声が上がる。

 「キリル顧問、メナッシュ議員の無力化を許可する」

 議員達の背後から、議長の声が聞こえた。

 キリルは、口の中で呪文を唱えた。長老も怪しげな手招きをする。
 俺は、とりあえず自分達だけバリアを張った。議員達やキリルを含めるかどうか、一瞬迷い、切り捨てた。議員の総数や位置もわからないし、俺達は絶対に攻撃できない。彼らとは立場が違う。

 土の壁が俺達を取り囲むのと、氷塊が集まってゴーレム化するのとは、ほぼ同時だった。

 土壁は、ソゾンを除く議員達を外側へ押しやり、俺達と分断した。

 壁の向こうで、混乱した声が聞こえた。
 建物の壁が、一部崩れたようだ。土壁と天井の間に、隙き間ができている。床も敷石が完全にめくられ、土台の土が剥き出しになり、ぼこぼこである。

 土ゴーレムは周囲の状況などお構いなしに、俺たちのいる方へ突進する。氷ゴーレムが迎え撃つ。がっぷり四つに組んで、互いに押し引きとなった。

 キリルは、長老へと飛びかかった。地面から土塊が飛び出したかと思うと、こちらへ向かってスピードを上げた。
 見えない手が投げているようである。俺の張ったバリアに当たり、ぼとぼと落下する。その過程で、一部ソゾンにも当たった。何か、申し訳ない。だが、今更、張り直しする余裕もない。

 土塊は、前線のキリルにも当然命中する。彼はものともせず、蹴りを放った。長老を守るゴーレムの腕に当たった。ぼろり、と土が崩れる。

 彼は、間髪入れず連続で蹴りを入れた。ゴーレムは力持ちだが動きが鈍い。長老の守りを優先した分、打撃のダメージを全て食らった。

 長老は、土塊攻撃をキリルに集中させた。服が破けるほどの衝撃だった。布の下は、鱗で覆われていた。キリルの攻撃は続いているが、土埃つちぼこりせたりして、全力を出せない感じは伝わってくる。屋内で、周囲に守るべき人が大勢いる状況だ。戦いにくいだろう。

 「ソゾンさんを、助けられないかしら」

 マイアが言った。彼は戦う土ゴーレムと氷ゴーレム、飛び交う土塊の間にあって、身動きできない。先ほどから、何か探し物をしているようにも見えた。

 「個別にバリアを張ってあげては?」

 「あ、そうか」

 「そうですn」

 マイアとクレアが同時に言った。やはり、マイアは父親の危機に動揺していた。

 しかし、彼女達が呪文を唱える前に、土壁の向こうから、水差しが投げ込まれた。ネルルクの声がしたように思う。
 見上げたソゾンの口が動いた。キリルの動きに合わせ、落下中の水差しから水が飛び出て、長老を包み込んだ。

 土ゴーレム達の動きが、ぴたりと止まる。そこへキリルの拳が入り、ゴーレムの頭が吹っ飛んだ。
 氷ゴーレムも二体目の土ゴーレムを押し倒した。土ゴーレム共は崩れ落ち、水に包まれた長老は落下した。
 土塊も消え、土壁が落ちる。もうもうと土埃が立った。


 蝙蝠人の長老は、議会の決議により、議員資格を剥奪された。ソゾン代理がそのまま議員になるかどうかは、蝙蝠人の集会で決まるそうだ。

 十中八九、認められるだろう、とはネルルクの言である。長老ことメナッシュは、その集会で長老の座を降ろされる可能性が高い、とも。

 議会へ乱入して建物を壊し、危うく外交問題を引き起こす騒ぎを起こした人物が、一族の長老としてふさわしいとは言い難い。そうでなくとも、高齢で寿命を囁かれる身である。地位に留まったとして、今後、長老として求められる役割を果たせるか、大いに疑わしい。

 ただ、今回の騒ぎは、ソゾンとネルルクによって予め仕組まれていたのではないか、という気がしてならない。

 議会の日程こそ、直接事務局から連絡を受けていたとしても、廊下で偶然出くわしたマイアとクレアをそれと見分けたのは、ソゾンとの会食時に、何処かから覗いていたからではないか。例えば、あの巨大な肖像画辺りから。

 移動もゴーレムの手を借りるような状態で、ソゾンに知られず覗きをするのは、難しかろう。
 マイアに対しての期待を煽らせ、議会という公の場で失態を演じさせることで、長老の座と議員の資格を同時に奪おうと、画策したのではなかろうか。

 全ては疑念に過ぎない。確かめる義務も術もない。

 それに、娘の結婚相手としては、あのメナッシュとかいう長老よりも、ソゾンの方が、断然いい。俺も娘を持つ父親である。この件を深掘りする気は、ない。
 キリルも、俺と同じ考えのように見えた。いや、彼は、相手が誰であっても、当面、娘を嫁入りさせるつもりがなさそうだ。


 俺達は、マイアを残してレクルキスへ帰国することになった。

 国交を結ぶため、正式な手続きを進めるのだ。竜人の盗まれた財宝調査は、マイアが協力して結果を伝える手筈である。
 彼女はキリルと住むことになるらしい。キリルは幸せいっぱいである。

 例の、バルヴィンの店にも行って、土産を買った。クレアは無事に諜報員と連絡をつけることができた。彼は連絡が途切れた間、人知れず随分と気を揉んだようである。

 宰相の娘で公使が行方不明となれば、一大事である。下手をしたら国交どころか戦争が始まる。彼が早まらなくてよかった。

 帰路は、共和国が費用を出して、レクルキスまで送ってくれることになった。となるとファウスティの宿屋には泊まれないだろう。イリエントは首都に比べれば小さい町だから、噂で無事と伝われば良いのだが。

 出立の前夜、マイアが一人で部屋を訪ねてきた。グリリとエサムはまとめてバリアの中で眠っている。

 「クレアは?」

 「眠っているわ。一応、扉に結界を張ったから心配ない」

 とりあえず椅子に腰掛けてもらう。つい先ほども、皆で打ち合わせをしたテーブルである。

 「魔法学院では、魔法のご指導をいただき、ありがとうございました。お陰様で、この世界で魔法を正確に扱えるようになりました。一緒に戻れないのは寂しいですが、故郷での幸せを願っております」

 俺は頭を下げた。一度、きちんとお礼を言いたかったのだ。マイアはくつくつと笑った。

 「先に言われてしまったわね。こちらこそ、あなた方を一から指導できて、運が良かった。この経験は、共和国で役に立つと思う。ありがとう」

 一般向けの学校を作るかも知れない、という話はネルルクから聞いている。

 「竜人の財宝の件、帰国したら、そちらでも調べて欲しいの。サンナ=リリウムに聞いてみて。あの人、一緒に行っていたかも知れない」

 「一緒にって、ニャオ‥‥」

 「聞くときは、直接ではなくて、学院長を通すのよ。誤魔化されないように」

 「承知しました」

 後のレクルキス王自らが、盗賊まがいのことをしたとは、表立って言えない。

 それにしても、エルフとはいえ、サンナは何歳なのだろう。マイアが学院に戻らないと知ったら、基礎科教授の座を狙い始めるかもしれない。
 とりとめもない考えが浮かぶままにしていると、マイアが席を立った。見送りについていく。
 彼女は、扉の前で振り返った。

 「トリス。自分の意志とは無関係に故郷から切り離された、という意味では、あなたと私は同じ境遇だと思うの。私はレクルキスに残っても、幸せに暮らす自信があった。故郷へ戻りたいという希望を捨てる必要はないけれど、この世界にいる間も、幸せに暮らしてね」

 「はい。ありがとうございます」

 ここでは子ども扱いでも、俺にとっては師であった。厳しい師匠であった。
 そんな風に思ってくれていたなんて、意外だった。嬉しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...