姫待ち。魔王を倒したチート魔術師は、放っておかれたい

在江

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17 元魔王の記憶 *

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 ヒサエルディスのフクロウが指定した場所は、変哲へんてつもない四辻よつつじだった。フクロウが来なかったら、通り過ぎるところだ。

 「遅かったですね。あんまり遅いから、移動するところでした」

 「こっちは翼がないんだ。山や川もひとっ飛びとはいかない」

 別の移動方法も持ってはいるが、色々条件を整える必要があるし、今回は正体不明の魔族連れである。
 地道じみちに、人間らしく徒歩でたどり着いたのだ。

 「では、私の後についてください。そうそう。魔族は抱えた方がいいでしょう」

 フクロウは偉そうに指示すると、呪文を唱え始めた。俺は、猫姿のゾーイを抱えて復唱した。
 周囲の景色が白い霧に覆われる。鳥のさえずりも風の音も消えた。

 フクロウの呪文だけが、つらつらと流れる。
 やがて、俺が復唱し終えたタイミングで、霧が一挙に晴れた。


 森の中に、左右対称な石造りの館が建っていた。背後には山、手前に泉が湧いている。

 「やあザカリー。相変わらずだな。上手に老化を止めている。魔族の肉でも食ったか」

 エルフらしからぬ露出の多い服を着た、ヒサエルディスが出迎えた。こう見えて賢者と呼ばれている。
 ゾーイが、彼女の言葉に反応し、腕の中で身震いした。

 「そう言えば、バジリスクを食った。もしかして、俺に魔族肉を避けさせたのは、老化と関係あるのか?」

 それならむしろ、奨励しょうれいしてくれても良さそうだった。

 「いや、それとは別件だ。いずれにせよ、しょっちゅう食う物でもなかろう。まずは、茶でも飲むか」

 ヒサエルディスは俺と黒猫に、ざっと視線を走らせると、背を向けた。
 後へついて脇道へ入ると、茂みに隠れていたテーブルと椅子が現れた。既に茶の用意ができている。

 「お前、人型になれ」

 俺の腕に抱えられた黒猫を指した途端、払い落とされたように腕から落ちて、猫人に変わった。館から服が飛来した。
 ゾーイは基本全裸なのである。猫の時はそれで良いが、人の姿に変わる度、服を用意せねばならない。

 「ありがとう」

 もそもそと服をかぶるゾーイを、ヒサエルディスは椅子に掛けたまま、見下ろすように眺めた。

 「ほう。礼儀は知っているようだな、の年の功ってやつか」

 「へ」

 「え」

 俺も驚いたが、ゾーイも驚いた。口を開けたまま、あわあわと手足を震わせている。
 賢者エルフは一人落ち着いて、茶を口へ運んだ。

 「まず、座って飲め。茶が冷める」


 ヒサエルディスに言われるまま、俺たちは茶を飲んで、サンドイッチやスコーンやタルトをむしゃむしゃ平らげた。

 腹が満たされるにつれ、気持ちが落ち着いてきた。
 俺は彼女に問われるまま、ゾーイとの出会いから、名付けた後に言われた主従契約のことを話した。

 「ふうん。まあ、その契約が現在有効なのは確かだな。何かのきっかけで破れることはあるだろうが」

 エルフは紅茶を飲みつつ、ゾーイを観察した。急に始まった茶会にも、ゾーイは意外にも礼儀正しく、対応できていた。ただの少女猫魔族ではないことが、俺にも分かってきた。
 というか、魔王って言っていたよな?

 「魔王って、俺たちが倒した奴、だよな?」

 「そうだ。僅かに残る魔力の残滓ざんしを見れば、明らかだ。気付かないお前が、どうかしている」

 そこは恥入はじいるべきなのだろうが、倒した筈の敵とお茶会するのも、どうかしていると思う。
 ヒサエルディスは、つくづくゾーイを眺める。普通の人間には、猫人にしか見えないだろう。

 「それはそうと、記憶喪失の件を、どう考えるか」

 魔王が、びくりと反応した。元魔王と言うべきか。

 「猫人に偽装する能力とそれに必要な知識、日常生活に必要な数百年以上にわたる知識は保持している。特定の分野に関する記憶だけ抜け落ちる、という症例は承知しているが、魔王としての記憶だけ失ったとしたら、何故ザックに反応した?」

 「えっと。何となく、覚えがあるような気がして」

 ヒサエルディスは質問した訳ではないのだが、ゾーイは生真面目に応対した。見た目も態度も、俺たちが相対した魔王とは大違いである。

 それに俺、魔王とヤっちまったののか。よみがえる魔王のビジュアル。だめだ、トラウマになる。
 ゾーイとのセックスを思い出すのも、この場では問題がある。

 「魔王の記憶と魔力は、連動しているのだろう。もし、こいつが魔力を取り戻したら、記憶も戻る訳だ」

 俺の葛藤をよそに、話は続く。

 「私も同じ場にいたのだが、覚えはあるか?」

 「ありません」

 元魔王は即答した。ヒサエルディスは、手のひらを動かし、アキとベイジルとアデラ、それに姫の似姿にすがたを目の前に並べて見せた。当時の旅装である。懐かしい。

 ゾーイは突然現れた絵を、驚嘆の眼差しで見つめる。

 「彼らに見覚えは?」

 元魔王は、恐る恐るアキと姫を指差した。

 「うーん。この男の人と女の人、かなあ」

 自信がなさそうな答えであった。似姿が消える。もっと眺めていたかった。

 「直接会うことで反応したならば、記憶より魔力が作用したのだろうな。アキも姫もアデラも王都住まいだったし、ベイジルと私は隔離された場所にいる。お前が一番嗅ぎつけられやすかったという訳だ」

 姉弟子が俺をあごで指した。紅茶カップで手が塞がっていた。

 「なるほど。根本的な問題として、こいつを生かしておいて大丈夫なのか?」

 俺が、最初にすべきだった質問を聞いたゾーイが、飛び上がって椅子からずり落ち、土下座した。

 「こ、殺さないでください。何でも言うこと聞きますから。お願いします。毎日フェラで五十本抜きもしますから」

 「お前、何をやらせていたんだ?」

 ヒサエルディスが尋ねた先は、俺である。俺は呆れてゾーイを見下ろした。

 「そんなにしゃぶられたら、俺の息子がふやけてしまう。誤解だ、ヒッサ。確かにこいつとセックスはしたが、無理やり犯してはいない」

 「人間の男は皆、自分のしたセックスは合意の元で行われた、と認識するらしいぞ」

 姉弟子は、以前、人間の男から手酷てひどい裏切りを受けたらしい。俺が生まれるより前の話である。
 それで、弟弟子として引き取った俺が、同じことをしないよう、彼女なりの教育をほどこした。

 俺が姫の突飛な約束を受け入れたのも、言ってみれば彼女の教育の賜物たまものである。
 俺は咳払いした。

 「その話をしたいなら、別の機会にしよう。で、どうなんだ?」

 倒した筈の魔王が生きていた、しかも倒した俺が、庇護者みたいになっている。少なくとも王家にとって、この状態は外聞が悪い気がする。

 「私にも考えはあるが、師匠に聞いてみよう」

 ヒサエルディスは立ち上がった。

 「お元気なのか?」

 師匠もまた、エルフである。俺とヒサエルディスの師匠だから、年齢だけは相当いっている筈だ。エルフは長命だが、不死ではない。

 「しばらく顔を見ていない。ちょうど良い。一緒に会いに行ってみるか」

 館へ向かうヒサエルディスが、俺を手招きする。

 「どこまで行くんだ?」

 「家の中だ。ゾーイ、お前も来るんだ。大人しくしておけよ」

 「は、はい~」

 土下座していた元魔王が、急いで立ち上がり追いついた。

 「家の中って、一緒に住んでいるのか?」

 扉を開くヒサエルディスに尋ねる。彼女は、広い玄関ホールに立ち、両手を広げた。

 「こっちが私の住むエリアで、こっちが師匠だ。他にも出入り口があるから、完全に独立して生活することができる」

 なるほど、左右対称の建物は、そういう意味があったのか。

 「師匠。ザカリーが来ましたよ。魔王も一緒です」

 ヒサエルディスは、扉についた呼び鈴を鳴らした。

 「どうぞ」

 ノッカーが口を利いた。ゾーイが耳をぴくりとさせた。魔王と分かっても、記憶と余りに違い過ぎて、どう対応したら良いのか戸惑ってしまう。

 「お邪魔します」

 ヒサエルディスを先頭に、ゾーイを挟む形で中へ入る。
 扉を開けた内側も、また玄関のように広い空間だった。

 大理石の床の向こうから、相変わらずの師匠が姿を現した。
 美形エルフの粋みたいな外見で、研究にしか興味がない。それなりの格好をすれば女に爆モテするだろうに、今もヤブ医者のような姿である。

 「やあ、ザック。魔王ちゃんも、いらっしゃい。ヒッサも、しばらくぶりかな」

 真っ直ぐ進むと見えたヒサエルディスが、急角度で横へ逸れた。彼女の後を歩いていたゾーイは、急には止まれず、そのまま数歩進み、止まった。

 後から来た俺は、当然その手前で止まった。

 「ふわああああっ!」

 ゾーイが声を上げると同時に、足元から光が立ち上った。

 「こ、これは」

 「魔法陣だな」

 光をさえぎる腕の下で俺とヒサエルディスが会話する中、ゾーイが膝から崩れ落ちる。

 びしゃっ。

 液体のはねる音がした。
 俺は、音のした方を見た。

 ゾーイが水溜まりの中へ、尻餅をついていた。ヒサエルディスが取り寄せたワンピースを被っただけで、下着はつけていない。あそこ丸出しである。

 「ああっ」

 まだ毛もまばらな割れ目へ、ゾーイの手が伸びる。もう片方の手が胸の方へ向かい、彼女は仰向けに倒れ込んだ。

 「あっ、ひっ。いいっ」

 ぐちょぐちょ、と派手に音を立てながら、ゾーイの指が一本、二本、と膣を出入りする。その目は快感に揺蕩たゆたってうつろである。どうやら、水たまりは、彼女の愛液らしい。

 「ザックも中へ入って、一緒に楽しんだら?」

 魔法陣の向こうから、師匠に声をかけられた。ヒサエルディスもそうだが、彼もまた平静に元魔王のオナニーを観察していた。
 エルフだからか賢者だからか、この二人は昔から、こんな感じだった。

 「入ったら、お前もイカないと、解除されないんじゃないか?」

 ヒサエルディスが指摘する。

 「そうそう」

 師匠が嬉しそうに同意した。

 「あんっ。ああんっ、ザック様あ~」

 びしゃびしゃと愛液ダダ漏れのゾーイが、魔法陣の中から俺を呼ぶ。紅潮した肌、潤んだ瞳、濡れた声。刺激的なお誘いではある。

 「命令だ。一人でイけ」

 「そんなあ~」

 俺の命令は聞こえたようだ。言葉と裏腹に、手の動きが激しくなる。

 「冷たいなあ。ベイジーのところで散々ヤって、飽きてしまったかな?」

 「な、何故それを?」

 「ヒッサに来た手紙を回してもらった。師として、弟子を気にかけるのは当然だろう。特にザックみたいに、面倒事に巻き込まれる星の下に生まれた子は」

 動揺する俺に、師匠は何でもないことのように告げた。
 ベイジルも、良くも恥ずかしげもなく書き送ったものだ。

 「イクッ、イクッ、あああっ」

 ゾーイが果てた。彼女を包む光が消え、魔法陣も失せた。
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