トミイとロビイのバイト天国

在江

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天国の真実そして帰国か延長か

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 一旦宿へ戻って荷物を置き、一休みしてからトミイとロビイは再び夜の町へ出かけた。初めての休みを有効に過ごしたかった。陽が落ちても、開いている店はまだまだあった。昼間閉まっていた店にネオンが点いている。二人は昼間とは違う道を選び、見知らぬ路地を進んだ。車も通れないような細い道に思いの外、店が並んでいた。

 「男性客お断り」

 堂々と看板を掲げた店があった。店構えからして、酒場らしい。店の名前を読み上げたトミイが、首を傾げた。

 「これ、短期でがっぽり稼げる仕事の店かな」

 ロビイが目を輝かせた。

 「ああ。あいつが言ってた奴か。早速入ってみる?」

 記憶違いでなければ、同宿の連中に聞いた店と同じ名前だった。戸口に手をかけるロビイを制し、トミイは看板を指した。

 「男はだめって書いてある。ここから入っても追い出される。裏口を探そう」

 そこで路地を出て、うろうろしたが、裏口は見つからなかった。二人は苦労して元の場所へ戻った。

 「また今度にしよう」
 「ここに用なの?」

 一組の男女がいた。声をかけたのは、女の方だった。横にいる男に劣らず大柄で、付き添いなしでも充分に強そうである。ロビイがすぐに反応した。

 「はい。稼げる仕事があると聞きまして」

 ふふん、と女は鼻で笑った。決して不細工ではない。むしろ美人である。

 「どんな仕事か知って?」

 二人は揃って頭を振った。女の笑みが濃さを増した。脇に立つ男が心配そうな顔つきで女を見る。先ほどから彼は大人しく控えるばかりで、一向男の権利を施行しそうになかった。これまでに二人が会ったパコナ人カップルとは毛色が違う。

 「それなら、一緒に来なさい。見てから決めても遅くはないでしょ」
 「いいんですか」

 トミイが聞き返したが、女は構わず店の扉へ手をかけた。付き添いの男が頷いてみせるので、二人は付いて行くことにした。

 「いらっしゃいま、ああら。お帰りなさいませ、ご主人さまぁ」


 高低様々な気取った男の声が四人を出迎えた。やや値の張る酒場のようだった。天井からシャンデリアが下がり、塞がれた窓に怪しげな淡い陰影を投げかけている。酒瓶が並ぶ棚の前にカウンター、ソファとテーブルの囲いが余裕を持って配置されている。柔らかい絨毯が敷き詰められた床の上には、接客従業員と思しき人影が点在した。

 全員が男、その大半はパコナ人である。制服として白系のシャツに蝶ネクタイ、黒系のスラックスの上には黒エプロンを身につけている。同色のフリル付きである。

 硬直するトミイとロビイをよそに、女は常連らしく慣れた様子でソファの一角を占めた。エプロン男に促され、二人も同じ囲みの席に着いた。

 「あら。お久しぶりにございますぅ。すっかりお見限りかと思いましたよ。またまた、ご主人様ったら、いい男ばかり連れてきて。たまにはうちへも回してくださいな」

 エプロン男たちがいそいそと酒やつまみの用意をする奥から、新たな男が登場した。こちらはダーク系の三つ揃いを着て、エプロンなしである。女は適当に挨拶し、二人の目的に触れなかったので、彼らは胸を撫で下ろした。まだ働く心の準備が整っていない。

 三つ揃いの男は、挨拶を済ませるとすぐに立ち去った。エプロン男たちも、飲み食いの支度を終えると、女の合図で担当らしき一人を除き席を離れた。他の席にいる客は、全て女である。全員が、付き添い男を連れている。だからエプロン男たちは給仕をするか、つつましく談笑の相手を務めるだけで、淫らな行為を仕掛ける者はいなかった。エプロン男だけでなく、付き添い男も皆、大人しく女の側でかしこまる者ばかりだった。

 「驚いたでしょ」

 暫く酒を呷っていた女が口を開いた。トミイとロビイが店内の様子を把握するまで待っていたらしい。

 「どう。働いてみたい?」

 二人は息もぴったりに首を振った。予想外の雰囲気に圧倒されて、グラスに手をつけることもままならなかったのである。女は、そうだろう、と言うように頷いた。

 「あなたたちほどの見た目なら、他にもっとましな仕事があるでしょうよ。あんまり馬鹿でもなさそうだし」

 滑らかなユーク語で言った。側に着くパコナ人のエプロン男は、理解していないようだった。ロビイが照れ隠しに、つまみへ手を伸ばした。テーブルには、果物の盛り合わせとチョコレートやナッツ類の入った小皿があった。

 「実は俺たち、語学学校の教師なんです。あんまり休みが取れなくて、それで」

 トミイもユーク語で言った。それから三人はユーク語でやりとりをした。トミイとロビイが簡単に身の上を語る間、付き添いの男は果物をつつきながら控えていた。彼のグラスには水が入っていた。彼は一応ユーク語を理解するようだった。女は、会社社長と名乗った。二人が驚くと、女はしてやったりな笑みを浮かべた。

 「女が経営者だと、おかしいかしら」
 「法律的には可能なの?」

 ロビイが尋ねた。すっかり寛ぎ、酒を飲んでいる。飲み食いに関しては、トミイも同様だった。女は彼の問いに、声を上げて笑った。エプロン男が、愛想笑いをした。

 「あなたたち、勘違いしているわ。男に極大の自由が許されるのは、性欲だけ。金銭や商品まで好きなように奪ってもいいなら、社会が成り立たないでしょう。性欲で金は稼げない。本当に利巧な男は、性欲を制御できるのよ。この彼みたいにね」

 女は、付き添いの男を指差した。彼は表情を変えずに軽く頭を下げ、彼女の褒め言葉に応えた。トミイとロビイは顔を見合わせた。


 労働ビザの期限が近付いた。トミイとロビイは、語学教師だけで何とか生活を続けていた。今では、最初の安宿を出て、少しだけきれいな集合住宅に住んでいる。一緒に住んではいるが、間取りが二部屋あり、各自で休むことができる。

 「なあトミイ。ビザ更新するなら、そろそろ申請した方がいいみたいだぜ」
 「ああ。結構時間かかるらしいな」

 二人は台所で安ワインを飲んでいた。トミイの表情は冴えない。

 「お前は更新したいのか?」

 ロビイは虚をつかれた。そして、顔を曇らせた。

 「まあ。確かに最近、あんまり仕事は面白くないな。でも他にいい話もないし」
 「贅沢な話だけど、いつでも好きなだけやれると思うと、却って面倒臭くなるんだよ」

 ロビイが目を輝かせた。

 「そうか! なるほど。私は性交なんて知りません、てな顔したユーク女をこましたり、デートの度に赤いバラを百本くれない男は真っ平っていう、プアン女を陥落させたりした時の達成感がないから、つまらんのか」
 「プアン女か。懐かしいな」
 「帰ろうか」

 トミイが郷愁に満ちた目を向けた。

 「別に付き合う必要はないよ。ただ、俺は帰りたいと思っただけで」
 「付き合いじゃない。俺も帰るぞ。プアン女最高! プアン女万歳!」

 ロビイは立ち上がって両手を挙げた。隣から、うるさいという怒鳴り声と共に、壁がどんどんと叩かれた。
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