トミイとロビイのバイト天国

在江

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リモート講座そして束の間の休息

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 トミイとロビイが教室を出たのは、それぞれ午後九時頃のことだった。一時間後に通信講座の講師を務めなくてはならないと聞き、二人で近くのファストフードへ駆け込んだ。店内ではあちこちの席で、文字通りくっつく男女がいた。男二人連れは、彼らだけだった。

 「いやあ。大変だったよ。二十五分で三発は、新記録だ。実質二十分か」

 ロビイは意気揚々と二人前の食事を注文した。トミイは彼を羨ましそうに見やった。

 「お前は、幸運だったな。俺は、全然だめだった」

 「時間足りなかったのか? 俺も公平にしなくちゃって焦って皆とやったけど、考えてみりゃ、次回もあるんだから、順番に一人一人してけばいいんだよな。柄にもなく、真面目に授業しすぎちまったし。皆ユーク語達者だぜ。俺たちとやりに来てるだけだよ、あれ」

 トミイは一人前の食事に、のろのろと手をつけた。

 「俺のところに来た連中は、皆護衛つけていたぞ」
 「へええ。二対一で仲良くやろうって意味じゃなくて?」
 「その場で射殺されるぞ。校長の話、聞いていなかったのか?」

 男に占有されている女に手を出した場合、その場で殺されても文句は言えない、と校長は言っていた。ロビイは覚えていないと答えた。


 通信講座の教室へ行くと、簡単な間仕切りの間に、小型テレビに似たモニターがずらりと並んでいた。前には二人と似た感じの男女が座り、モニターに向けて熱心に話し掛けている。世話役の事務員に案内され、トミイとロビイも隣り合った小部屋に座らされた。使い方の説明は、二人まとめて受けた。

 「こんばんは。ああ、新しい先生ですか」

 画面の向こうで、快活な少女が口を開いた。トミイはそうだと答え、中学生だという彼女とユーク語会話を始めた。

 「あ。新しい先生ですのね。どうぞ、気になさらないで、授業を始めてくださいな」

 ロビイの方は、画面一杯に猥せつ物がモザイクなしで映っていた。交接中である。ぐちゃぐちゃと粘着質の音に邪魔されて、生徒の発言が聞き取りにくい。ノイズキャンセリング機能は、その音を排除しない設定らしい。さすがの彼も、しばし絶句した。

 「ええと。差し支えなければ、他の部分も拝見したいのですが」

 プアン語訛りのユーク語で、恐る恐る頼んでみる。

 「はうっ。そのうちご覧になれると思いますわ。主人の趣味ですの」

 じゅぼじゅぼのリズムの合間に、流暢なユーク語が返ってきた。彼は講座教材に目を落とすことができず、画面に見入ったまま、その場しのぎで会話を続けた。


 二人が解放されたのは、真夜中過ぎだった。幸い、宿は徒歩圏内にあった。学校の紹介である。台所共用の一軒家で、各部屋にトイレとシャワーのユニットが付く。懐に余裕のないトミイとロビイは、二人で一部屋だった。二段ベッドが備え付けてあるものの、ユースホステル並みに狭い。

 「やあ。やっと新顔のご帰還だ」

 「あんまり遅いから、先に始めちまったぞ」

 玄関から台所へ入ると、男ばかり七、八人が出迎えた。真ん中のテーブルには酒とつまみの残骸があった。歓迎会を開くつもりだったらしい。二人には初耳であった。慣れない仕事で疲れてはいたが、先住人の好意を無にする訳にもいかず、彼らは誘われるまま席に着いた。

 「語学学校の講師だって?」
 「ユーク語教えてるって?」
 「プアンから来たんだろ?」

 質問というより尋問だった。二人は分担して応対した。二人を含め、一同はパコナ語で会話した。それぞれ出身国も母国語も異なるので、パコナ語が共通の言語なのである。住人の中に、パコナ人はいなかった。そして、住人は全員が男だった。

 「腹一杯食える飯屋知ってるぜ。ファストフードより安い」
 「金持ちの女がいる場所教えてやろう」
 「短時間でがっぽり稼げる仕事あるよ」

 皆、考えることは同じだった。二人は残り物をつまみながら話を聞いた。酒は全部空だった。

 「美人局には気をつけろ」
 「ツツモタセ?」

 「女を餌にした罠だよ。いい女と一発やろうとしたら、恐い男が出てきて金を巻き上げられるんだ」
 「殺されるよりましだろ」
 「俺のダチで、半殺しにされた奴がいる。とにかく気をつけろ」

 沈黙が降りたのを潮に、お開きとなった。深夜の会合は、有意義だった。二人はへとへとな体に満足感を抱えて眠りに就いた。


 最初の二週間、トミイとロビイは朝から晩まで休みなしに働かされた。第三週に入り、漸く休日を貰えた。平日だった。同宿の連中は仕事へ出かけたか、あるいは熟睡中だった。二人は町へ繰り出した。パコナ到着以来、職場とねぐらの往復だった。昼間の町歩きは、それだけで新鮮だった。営業中の店の数がまるで違う。

 習慣のなせる業、自然と職場へ足が向かう。途中、商店街を見つけて道を折れた。小さな店がひしめき合う。どれも似たようで、それぞれ違う店らしい。片端から覗いて歩く。多くは表に商品をディスプレイしており、値札も付けている。安いのか高いのかわからない。

 食堂でメニューを見て、安くはなさそうだと話し合った。二人とも大抵の字は読めるが、食事処には本物や作り物の見本が並んでいて、単語を忘れても問題なかった。
 先にスーパーマーケットを見つけたのは、ロビイだった。

 「インスタントやレトルト食品があるかもしれない」
 「酒も」


 パコナは酒屋だけでなく、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、路上の自動販売機とあらゆる場所で酒を売っていた。飲酒年齢の制限はあるが、明らかに子どもでない限り、身分証なしで購入できるということだった。

 宿の連中は始終台所に集って飲み食いしていた。望めば仲間に入れてくれるが、各自酒かつまみを持ち寄る中、買い物の時間がない二人としては、気後れしていたところだった。

 仕入れの時間もないが、彼らは資金も乏しかった。語学学校は月給制だった。しかも給料日は一律でなく、初月給が貰えるのは四週間働いた後という契約だった。トミイもロビイも出国手続きに貯金をはたいた残りの小金を持っていたが、パコナは物価が高く、土地の事情に通じていないせいもあって、みるみる底が見えてきたのだった。

 スーバーは、入口から見た印象よりも品揃えが豊富で、清潔だった。酒もレトルトも、コンビニより安かった。二人は財布と相談し、朝食用のレトルトや皆で食べるつまみを仕入れた。

 「くぉら、何やってるんだあ!」

 レジへ向かう途中、前方から怒号が上がり、二人は反射的に身をすくめた。背後から迫る足音は脇をすり抜けて行った。落ち着いてから人だかりへ近付いてみた。野菜売り場で男女が取り押さえられていた。崩れた野菜の山の間、彼らはつながったままだった。潰れたトマトで服が赤く汚れている。

 「何があったんですか」

 ロビイがお喋りに夢中な垣根の老女たちに尋ねた。彼女たちは付き添いの男を連れていないように見えたが、彼に話し掛けられても一向平気だった。そして性欲よりもお喋り欲が勝っているようだった。

 「食べ物売るところでやったらいけないのに、店員さんの目を盗んでやっちまったんだよ。馬鹿だね。どうせ好きな数だけできるってのにさ。それぐらい我慢したらどうかね。ああ。あんた外国人だろ? あんたらも、よく覚えといた方がいいよ。警察に捕まっちまうよ。二回やったら即死刑だからね」

 トミイはロビイと顔を見合わせた。二人が会計を済まさないうちに、男女は駆け付けた警察官に連行された。
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