ぼくと彼女が自殺をやめた理由

ジェロニモ

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こうしてわたしぶちまける

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girlside 


 次の日、教室に入るとザワザワとわたしの方へと嫌な感じの視線が集中した。

「彼方が吉野くんの告白断ったせいで、わたしが嘘つきみたいになったじゃん」

 駆け寄ってきた可奈子が第一声でわたしをそう責め立てる。嘘つきだから別に間違ってないだろうに。わたしは可奈子のさも心外だという口調に疑問を隠し得ない。

 可奈子がそう声をかけてきたことで、どうやら告白の結果がもうクラスに言いふらされたらしいことをわたしは理解した。噂が早いってもんじゃない。そしてその噂は、彼らに都合の良いように大幅に着色されていそうだなと、クラスメイトの視線から予測できた。

 大方、嘘つきとか、好きな人をコロコロ変えるだとか、ひどい振られ方をしただとかそんな内容だろう。信じる人がすべてではないだろうが、このクラスはなんといってもバカが多いので仕方ない。

 まったく、フラれたからとこんなやり方で仕返しを考えるとはやはり小さい男だ。あんなにわたしを責めたくせに、昨日の今日で嫌いになるなんて、人のことが言えないじゃないか。そう心の中で毒づく。

 わたしはどこか達観した視点で現状を把握していた。以前のように、周囲の嫌な視線に胸が苦しくなることもない。むしろ、その視線に喜んでさえいる自分がいた。

 それは嫌いなやつらに嫌われるのが気持ち良いという至極当たり前のこと。当たり前のことなのに、以前までわたしが過剰なまでに恐れていたこと。

「自分が秘密を守らなかったことは棚にあげるんだね」
「今その話はしてないじゃん!」

「絶対に誰にも言わない」と言っていたわたしの好きな人を、よりにもよって本人にバラしていたことを指摘すると、可奈子は怒鳴った。

「なら、どの話をしてるの?」

 わたしの話は都合が悪いから、大きな声で、ずっと自分のターンにしようとしてる風にしか見えない。

「なによ。その小馬鹿にするような言い方……」

 そんなつもりはなかったけど、いつのまにか口調に本音が出てしまったのかもしれない。

「……彼方が、こんなに性格悪いやつだなんて思わなかった」

 彼女は質問に答えることもなく、被害者ぶってそんなことを言う。ここは「今はそういう話をしているんじゃない」とわたしも言うべきだろうか。

「そうだよ。でもわたしの誰にでも良い顔をするところ、嫌いだったんでしょ?こっちの方が好みだと思ったけど違った?」

 私が鼻で笑うと、彼女はぎょっとしたように顔をこわばらせた。なんで知ってるんだという顔をしている。良いザマだ。次は涙がひっこんでるよと指摘してあげた方がいいだろうか。

「裏垢のつぶやき、もうちょっと気をつけたほうが良いと思うよ」

 優しいわたしはそう忠告してあげた。わたし以外の悪口もてんこもりだったので、もし見つかったら大変なことになるだろう。

「それとも、あんなこと言っといて、自分だけは良い顔されないと嫌なんだ。ほんと、嫌なやつだね」

 わたしの一言一言に可奈子の顔が険悪になっていくのが、なんとも快感だった。その顔は昨日、吉野が最後に向けてきたものとよく似ている。少なくとも友達に向けるものじゃない。友達じゃないから当たり前か。

 友達じゃないなら、遠慮する必要もないだろう。

 この機会に友達ごっこもやめることにした。

 わたしは鞄からあのノートを取り出した。

 すべて朗読してやろうとノートをめくる。しかし、一気にボルテージが削がれた。そこには、クラスや家の話題がほとんど無くなって、あの男の愚痴ばかりが書かれていたから。

 ああ、わたしは大分前からクラスも、家族もどうでもよくなっていたらしい。

 恥ずかしさが顔に出ないように努めながら、日にちを遡り、クラスメイトに対する感想をピックアップした。

 わたしはスーっとできるだけたくさんの息を吸い込んだ。あの井戸に向かって叫ぶ時みたいに、なるべく大きな声を出すために。「○月○日!後藤剣人に肩を触られた。明らかに性を意識したボディタッチで気持ち悪かった!」「可奈子は裏垢であんなボロクソにわたしをけなしていたくせに、いまだに友達面して話しかけてくる!死ね!」「杉崎良子と小林美香がお互いに薄汚い陰口をたたきあっていて不愉快で仕方ない。わたしはおまえらのストレスのはけ口じゃない!」

 わたしは酸欠で頭がクラクラするくらい、クラスメイトへの悪態を叫び続けた。

 書いてはないが、吉野についても今日の件でイライラしたので付け加えとこう。

「あと、吉野秋吉が自信満々で告白してきた。断ったら負け惜しみを吐いて、次の日にはクラス中にそのことが知れ渡っていた。ダサいことこの上ない。誰がこんな心の狭い陰湿なやつと付き合うか!」

 わたしはあの男についてが書いてある部分以外を破り取って、それを宙に放り投げた。バラバラになったページ達が空気抵抗を受けてひらひらと舞い落ちる。

 読むのも叫ぶのも疲れる。あとはおまえらが勝手に拾いあげて勝手に読んで、勝手に嫌な気分になればいい。わたしはストンと席についた。

 心がふわっと軽くなった。わたしは口角が自然と上がるのを感じた。きっといつもの理想の笑顔とは違う、歪んだ意地の悪い笑みが浮かんでいることだろう。

 教室を見渡す。今まで、こんなゴミみたいなやつらの一挙一動に心を痛めていたと思うと、悔しさすら湧いてきた。こんなやつらのせいで死ぬなんて、冗談じゃない。

「さっきの録画してたけど見る?」

 すすっと近づいてきて耳打ちしてきた橙子に、わたしは思わず吹き出してしまった。そして、「あとでわたしのスマホに送っといて」と小声で答えた。

良い子でいるのはあんなにも大変だったのに、嫌な奴になるのはあまりにも簡単だった。

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