18 / 23
こうしてわたしぶちまける
しおりを挟む
girlside
次の日、教室に入るとザワザワとわたしの方へと嫌な感じの視線が集中した。
「彼方が吉野くんの告白断ったせいで、わたしが嘘つきみたいになったじゃん」
駆け寄ってきた可奈子が第一声でわたしをそう責め立てる。嘘つきだから別に間違ってないだろうに。わたしは可奈子のさも心外だという口調に疑問を隠し得ない。
可奈子がそう声をかけてきたことで、どうやら告白の結果がもうクラスに言いふらされたらしいことをわたしは理解した。噂が早いってもんじゃない。そしてその噂は、彼らに都合の良いように大幅に着色されていそうだなと、クラスメイトの視線から予測できた。
大方、嘘つきとか、好きな人をコロコロ変えるだとか、ひどい振られ方をしただとかそんな内容だろう。信じる人がすべてではないだろうが、このクラスはなんといってもバカが多いので仕方ない。
まったく、フラれたからとこんなやり方で仕返しを考えるとはやはり小さい男だ。あんなにわたしを責めたくせに、昨日の今日で嫌いになるなんて、人のことが言えないじゃないか。そう心の中で毒づく。
わたしはどこか達観した視点で現状を把握していた。以前のように、周囲の嫌な視線に胸が苦しくなることもない。むしろ、その視線に喜んでさえいる自分がいた。
それは嫌いなやつらに嫌われるのが気持ち良いという至極当たり前のこと。当たり前のことなのに、以前までわたしが過剰なまでに恐れていたこと。
「自分が秘密を守らなかったことは棚にあげるんだね」
「今その話はしてないじゃん!」
「絶対に誰にも言わない」と言っていたわたしの好きな人を、よりにもよって本人にバラしていたことを指摘すると、可奈子は怒鳴った。
「なら、どの話をしてるの?」
わたしの話は都合が悪いから、大きな声で、ずっと自分のターンにしようとしてる風にしか見えない。
「なによ。その小馬鹿にするような言い方……」
そんなつもりはなかったけど、いつのまにか口調に本音が出てしまったのかもしれない。
「……彼方が、こんなに性格悪いやつだなんて思わなかった」
彼女は質問に答えることもなく、被害者ぶってそんなことを言う。ここは「今はそういう話をしているんじゃない」とわたしも言うべきだろうか。
「そうだよ。でもわたしの誰にでも良い顔をするところ、嫌いだったんでしょ?こっちの方が好みだと思ったけど違った?」
私が鼻で笑うと、彼女はぎょっとしたように顔をこわばらせた。なんで知ってるんだという顔をしている。良いザマだ。次は涙がひっこんでるよと指摘してあげた方がいいだろうか。
「裏垢のつぶやき、もうちょっと気をつけたほうが良いと思うよ」
優しいわたしはそう忠告してあげた。わたし以外の悪口もてんこもりだったので、もし見つかったら大変なことになるだろう。
「それとも、あんなこと言っといて、自分だけは良い顔されないと嫌なんだ。ほんと、嫌なやつだね」
わたしの一言一言に可奈子の顔が険悪になっていくのが、なんとも快感だった。その顔は昨日、吉野が最後に向けてきたものとよく似ている。少なくとも友達に向けるものじゃない。友達じゃないから当たり前か。
友達じゃないなら、遠慮する必要もないだろう。
この機会に友達ごっこもやめることにした。
わたしは鞄からあのノートを取り出した。
すべて朗読してやろうとノートをめくる。しかし、一気にボルテージが削がれた。そこには、クラスや家の話題がほとんど無くなって、あの男の愚痴ばかりが書かれていたから。
ああ、わたしは大分前からクラスも、家族もどうでもよくなっていたらしい。
恥ずかしさが顔に出ないように努めながら、日にちを遡り、クラスメイトに対する感想をピックアップした。
わたしはスーっとできるだけたくさんの息を吸い込んだ。あの井戸に向かって叫ぶ時みたいに、なるべく大きな声を出すために。「○月○日!後藤剣人に肩を触られた。明らかに性を意識したボディタッチで気持ち悪かった!」「可奈子は裏垢であんなボロクソにわたしをけなしていたくせに、いまだに友達面して話しかけてくる!死ね!」「杉崎良子と小林美香がお互いに薄汚い陰口をたたきあっていて不愉快で仕方ない。わたしはおまえらのストレスのはけ口じゃない!」
わたしは酸欠で頭がクラクラするくらい、クラスメイトへの悪態を叫び続けた。
書いてはないが、吉野についても今日の件でイライラしたので付け加えとこう。
「あと、吉野秋吉が自信満々で告白してきた。断ったら負け惜しみを吐いて、次の日にはクラス中にそのことが知れ渡っていた。ダサいことこの上ない。誰がこんな心の狭い陰湿なやつと付き合うか!」
わたしはあの男についてが書いてある部分以外を破り取って、それを宙に放り投げた。バラバラになったページ達が空気抵抗を受けてひらひらと舞い落ちる。
読むのも叫ぶのも疲れる。あとはおまえらが勝手に拾いあげて勝手に読んで、勝手に嫌な気分になればいい。わたしはストンと席についた。
心がふわっと軽くなった。わたしは口角が自然と上がるのを感じた。きっといつもの理想の笑顔とは違う、歪んだ意地の悪い笑みが浮かんでいることだろう。
教室を見渡す。今まで、こんなゴミみたいなやつらの一挙一動に心を痛めていたと思うと、悔しさすら湧いてきた。こんなやつらのせいで死ぬなんて、冗談じゃない。
「さっきの録画してたけど見る?」
すすっと近づいてきて耳打ちしてきた橙子に、わたしは思わず吹き出してしまった。そして、「あとでわたしのスマホに送っといて」と小声で答えた。
良い子でいるのはあんなにも大変だったのに、嫌な奴になるのはあまりにも簡単だった。
次の日、教室に入るとザワザワとわたしの方へと嫌な感じの視線が集中した。
「彼方が吉野くんの告白断ったせいで、わたしが嘘つきみたいになったじゃん」
駆け寄ってきた可奈子が第一声でわたしをそう責め立てる。嘘つきだから別に間違ってないだろうに。わたしは可奈子のさも心外だという口調に疑問を隠し得ない。
可奈子がそう声をかけてきたことで、どうやら告白の結果がもうクラスに言いふらされたらしいことをわたしは理解した。噂が早いってもんじゃない。そしてその噂は、彼らに都合の良いように大幅に着色されていそうだなと、クラスメイトの視線から予測できた。
大方、嘘つきとか、好きな人をコロコロ変えるだとか、ひどい振られ方をしただとかそんな内容だろう。信じる人がすべてではないだろうが、このクラスはなんといってもバカが多いので仕方ない。
まったく、フラれたからとこんなやり方で仕返しを考えるとはやはり小さい男だ。あんなにわたしを責めたくせに、昨日の今日で嫌いになるなんて、人のことが言えないじゃないか。そう心の中で毒づく。
わたしはどこか達観した視点で現状を把握していた。以前のように、周囲の嫌な視線に胸が苦しくなることもない。むしろ、その視線に喜んでさえいる自分がいた。
それは嫌いなやつらに嫌われるのが気持ち良いという至極当たり前のこと。当たり前のことなのに、以前までわたしが過剰なまでに恐れていたこと。
「自分が秘密を守らなかったことは棚にあげるんだね」
「今その話はしてないじゃん!」
「絶対に誰にも言わない」と言っていたわたしの好きな人を、よりにもよって本人にバラしていたことを指摘すると、可奈子は怒鳴った。
「なら、どの話をしてるの?」
わたしの話は都合が悪いから、大きな声で、ずっと自分のターンにしようとしてる風にしか見えない。
「なによ。その小馬鹿にするような言い方……」
そんなつもりはなかったけど、いつのまにか口調に本音が出てしまったのかもしれない。
「……彼方が、こんなに性格悪いやつだなんて思わなかった」
彼女は質問に答えることもなく、被害者ぶってそんなことを言う。ここは「今はそういう話をしているんじゃない」とわたしも言うべきだろうか。
「そうだよ。でもわたしの誰にでも良い顔をするところ、嫌いだったんでしょ?こっちの方が好みだと思ったけど違った?」
私が鼻で笑うと、彼女はぎょっとしたように顔をこわばらせた。なんで知ってるんだという顔をしている。良いザマだ。次は涙がひっこんでるよと指摘してあげた方がいいだろうか。
「裏垢のつぶやき、もうちょっと気をつけたほうが良いと思うよ」
優しいわたしはそう忠告してあげた。わたし以外の悪口もてんこもりだったので、もし見つかったら大変なことになるだろう。
「それとも、あんなこと言っといて、自分だけは良い顔されないと嫌なんだ。ほんと、嫌なやつだね」
わたしの一言一言に可奈子の顔が険悪になっていくのが、なんとも快感だった。その顔は昨日、吉野が最後に向けてきたものとよく似ている。少なくとも友達に向けるものじゃない。友達じゃないから当たり前か。
友達じゃないなら、遠慮する必要もないだろう。
この機会に友達ごっこもやめることにした。
わたしは鞄からあのノートを取り出した。
すべて朗読してやろうとノートをめくる。しかし、一気にボルテージが削がれた。そこには、クラスや家の話題がほとんど無くなって、あの男の愚痴ばかりが書かれていたから。
ああ、わたしは大分前からクラスも、家族もどうでもよくなっていたらしい。
恥ずかしさが顔に出ないように努めながら、日にちを遡り、クラスメイトに対する感想をピックアップした。
わたしはスーっとできるだけたくさんの息を吸い込んだ。あの井戸に向かって叫ぶ時みたいに、なるべく大きな声を出すために。「○月○日!後藤剣人に肩を触られた。明らかに性を意識したボディタッチで気持ち悪かった!」「可奈子は裏垢であんなボロクソにわたしをけなしていたくせに、いまだに友達面して話しかけてくる!死ね!」「杉崎良子と小林美香がお互いに薄汚い陰口をたたきあっていて不愉快で仕方ない。わたしはおまえらのストレスのはけ口じゃない!」
わたしは酸欠で頭がクラクラするくらい、クラスメイトへの悪態を叫び続けた。
書いてはないが、吉野についても今日の件でイライラしたので付け加えとこう。
「あと、吉野秋吉が自信満々で告白してきた。断ったら負け惜しみを吐いて、次の日にはクラス中にそのことが知れ渡っていた。ダサいことこの上ない。誰がこんな心の狭い陰湿なやつと付き合うか!」
わたしはあの男についてが書いてある部分以外を破り取って、それを宙に放り投げた。バラバラになったページ達が空気抵抗を受けてひらひらと舞い落ちる。
読むのも叫ぶのも疲れる。あとはおまえらが勝手に拾いあげて勝手に読んで、勝手に嫌な気分になればいい。わたしはストンと席についた。
心がふわっと軽くなった。わたしは口角が自然と上がるのを感じた。きっといつもの理想の笑顔とは違う、歪んだ意地の悪い笑みが浮かんでいることだろう。
教室を見渡す。今まで、こんなゴミみたいなやつらの一挙一動に心を痛めていたと思うと、悔しさすら湧いてきた。こんなやつらのせいで死ぬなんて、冗談じゃない。
「さっきの録画してたけど見る?」
すすっと近づいてきて耳打ちしてきた橙子に、わたしは思わず吹き出してしまった。そして、「あとでわたしのスマホに送っといて」と小声で答えた。
良い子でいるのはあんなにも大変だったのに、嫌な奴になるのはあまりにも簡単だった。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
新卒でセクハラ被害に遭い、職場を去った久遠(くおん)。
再起をかけた派遣先で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる