閻魔ちゃんと数えるぼくの罪 ~過去に戻って生前の罪をすべて精算しないと、ぼくは地獄に落ちるらしい~

ジェロニモ

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オタクであるということは、呼吸をすることと同義である

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「積極性というものが感じられないんだが、もっとアタックしたらどうなんだ」

 トイレの中でぼくは大助にダメ出しをする。

「そんなこと言われても、ぼくは春風さんと普通に会話ができるだけで幸せだから」
「それにしたって、発生する会話のほとんどが春風さんが話かけてきて始まってるのはどうなんだよ。劇についての話ばっかで、あんまり話題も続かないし」
「そんなにハッキリ言わないでよ上手く話せてない自覚はあるんだから!」

 大助が泣きそうな顔で叫んだ。

「自覚があるなら改善しろ」
「無茶言わないよ……。ほら、ぼくってオタクでしょ?そういう人、春風さんは嫌いじゃないかなってことばっか考えて。オタクのこと隠そうと思ったら、うまく話ができなくて」
「そうだな。おまえの部屋、ポスターとかフィギュアとかいっぱいだもんな」

「俺、マジオタクだからw」ってアピールしている自称オタクと違って、こいつはちょっと有名なアニメかじってますってレベルじゃなく、筋金入りのオタクだ。グッズも買うし、声優のライブとかにも行く。

 オタ活の資金のために、在宅でてきるプログラミングのバイト?みたいのもしているらしい。ほんとこいつ、自分に自信がないわりには多才なんだよなあ。なぜその努力を春風さんと距離を縮めることに回せないのだろうか。

「まあ、引いちゃうって人もいそうではあるな」
「や、やっぱりそうだよね……」

 正直な感想を言ったら、ずーんと露骨に落ち込んだ様子の大助を見て慌てて、「もちろん。春風さんがそうとは限らないからな」と付け加えた。

「うん、そうだよね……」

 が、大助は依然として落ち込んだままだった。親友ながらなんてめんどくさいやつなんだ!

 まあ、確かにオタクっていうのがどうにも苦手だとか、毛嫌いしているような人種ってのは少なからずいる。春風さんがそうじゃないと完全に断言することはさすがにできない。

 特にこいつくらいまで極まったオタク部屋を見たら、オタクを毛嫌いしてる人じゃなくても引いてしまいそうではある。

 実際ぼくも当時、初めて大助の部屋に足を踏み入れた時は若干引いたし。

 そういえば当時、こいつと盛り上がる話って、だいたいアニメか漫画かゲームって感じだった。それらの会話を封印した状態だと、春風さんと話してる時みたいなぎこちない感じになるらしい。シモネタを封じるとまったく喋れなくなるやつっているけど、似たようなもんだろうか。

 距離が縮まらないのは、こいつが草食すぎるってだけでもなかったようだ。

「じゃあ、とりあえず確かめよう」
「ええ?いいよ怖いし。オタクなことを隠してれば、とりあえず何事もないんだから。最悪オタクを卒業して、話が合うような他の趣味を……」
「やめろやめろ。好きな男の趣味に染まるメンヘラ女みたいな思考になってるぞ。そもそもオタク文化はおまえの体の一部だろ。やめることも隠すこともできないね、絶対」
「そ、そんなのやってみなきゃ。少なくとも絶対だなんて言い切ることないじゃないか」

 断言されたのが納得いかなかったのか、大助はむっとした様子でぼくに言い返す。

「おまえ、自分の部屋にあるオタクっぽい要素、全部捨てられるか?」

 そう尋ねると、大助はすぐにがっくしとうなだれた。

「絶対無理だ……」
「ほらみろ」

 おまえにとってオタクでいることは酸素を吸うのと同じようなもんなんだよ。

「そっかあ……。春風さん、こういうの嫌いだったらどうしよう」
「安心しろ。そういうときはな、相手をオタクの沼に引きずりこめばいいだけだ。ほらあれ、布教ってやつだ」
「そりゃあ、春風さんとそういう話ができたら幸せで爆散しそうだけど」
「爆散してどうする。目の前で話し相手が爆散しだしたら春風さんは一生モノのトラウマ必至だぞ」
「た、たとえの話だよ!」

 実のところ、ぼくには春風さんがオタク、もしくはオタクになる素質があると予想している。

 青鬼さんが以前言っていた。運命の相手とはつまるところ、相性が良いのだと。こいつと相性が良いのに、オタクが嫌いなんてことはないだろう。もし現時点で好きじゃなくても、好きになるポテンシャルは秘めているはずだ……と思う。お願いだ、そうであってくれ!こいつがオタクであることを隠し通して春風さんと親密になれるビジョンがまるで沸かないんだよ!

 ぼくは心の中で強く神に願った。鬼には祈らない。絶対に。


「なにやってるの?」
「神に祈りをささげてるんだ。おまえも祈っとけ」
「ええ、やだよ。なんかの宗教みたいで怖いし」
「馬鹿野郎、誰のために祈ってやってると思ってんだ!」

「自分が地獄に落ちないためではないか。それに神よりももっと身近にありがたき格上の存在がいるだろうに。私は閻魔大王様だぞ?私に祈れ私に」

「ほれほれ、くるしゅうないぞ」と閻魔ちゃんがドヤ顔でぼくの目の前を小バエのように飛び回る。

「閻魔様に祈っちゃおしまい、みたいなところがありますからね。最後の手段というか」
「だからおまえはもうちょっと歯に衣を着せてだなあ」

 閻魔ちゃんが青鬼さんの言葉にぐすんと涙ぐむ。人のことはボロカスに言うくせに自分は打たれ弱いとか、格上どころか三下の要素しかないじゃないか。

「あ、そういえばオタクといえばさ、今度コミケがあるじゃない。」

 大助は、唐突にそんなことを言い出した。

「ああ、あの全国のオタクが集結してくるっていう同人イベントか」
「そうそう!あのさ、よかったら一緒に行かない?」
「夏休みだぞ?なぜぼくなんかじゃなく、春風さんを誘えないのか」
「だって、友達と一緒にどこかに遊びにいくってちょっと憧れてたんだ。それに、春風さんをあんな地獄に誘ったりできないよ」
「おまえはぼくを地獄に誘おうとしてるのか?」
「いや漫画やアニメに興味がない人にとってって話だから!」

 その後も必死でコミケの魅力を力説する大助。だからその熱意をなぜ春風さんへ向けられないのか。

 思えば、ぼくにとって夏休みなんてイベントはただ家でゲームをするだけのものだった。一度くらいはぱーっと遊んでもバチは当たらないだろう。これが、ぼくにとって最後の夏休みになるわけだし。

「じゃ、行くか」
「ほんと!?じゃあ日にちとか必要なものはリストにしてあとで連絡するね!」

 大助は楽しみだなあとな笑顔でつぶやいた。

「そういえば、何日目に参加するんだ?」

 コミケは3日ぐらいあって、日によって参加するサークルや、大まかな同人誌のサークルが違うと聞いたことがある。どうせならエロい本が多い日だといいなーと思いながら聞くと、大助は、「え?全部出るつもりだけど?」と答えて、その笑顔をより一層輝かせた。
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