閻魔ちゃんと数えるぼくの罪 ~過去に戻って生前の罪をすべて精算しないと、ぼくは地獄に落ちるらしい~

ジェロニモ

文字の大きさ
14 / 46

彼はおそらく、探偵かストーカーの才能がある

しおりを挟む
 コミケ当日、僕らは朝っぱらから会場へと来ていた。

「ぼく、寝過ごしちゃうのが怖くて全然眠れなかったよ……」
「ぼくは余裕で8時間睡眠だ」
「時間管理しっかりできて羨ましいなぁ」
「まあそれほどでもない」

 ぼくはにやりと笑った。

「母親に起こしてもらっておいてよくもまあ」
「まさか息子を朝起こす作業があと10年以上続くとは、佐藤さんのお母さまも思ってなかったでしょうね」

 目の下に隈を作っている大助と会話中、鬼たちのネチネチとした言葉をいつものように無視する。

「そういえば、カタログ持ってきた?」
「あー、忘れたかも」

 カタログとは、少し前に参加証と一緒に大助に渡された、鈍器のように分厚い、コミケについて書かれた本のことだ。心得とか、参加サークルの場所が書かれた会場のマップみたいのが載ってたのだけど、かさばるので置いてきてしまった。
「じゃあ、これ」

 大助は背中のリュックサックから自分のカタログを取り出した。

「でも、おまえはこれ無くて困らないのか?」
「大丈夫、ぼくは全部暗記してるから」
「お、おう」

 まるで当たり前のように言われた。こいつ、なぜこれでテストの点数が悪いんだろうか。

「あと、これも渡しとくね」

 そう言って、リュックサックをガサゴソと漁る。

「これって、無線機か……?」

 出てきたのは、よく映画とかで軍人とかが使ってるような黒くてごっつい無線機だった。

「コミケの会場って、電波が不安定になるから、はぐれたときとかの連絡用にと思って」
「お、おう。ありがとう……」

 なんだろう。普段はへなへなのへぽっこ野郎の大助が、今日だけはものすごく頼りになるイケメンに見えてきた。

 近所で有名な行列のできるラーメン屋が鼻くそに思えてくるレベルの長蛇の列に並び、しりとりという会話の墓場に足を踏み入れたものの、僕らはやっとのことで会場内に入ることができた。

「えーっと。まず僕がチェックしてるサークルがあってね。佐藤くんも好きなアニメの同人誌を出してるんだけど……あれ?って痛っ」
「いって!急に止まるなよ」

 人がひしめく中でも平然としている、というかむしろ普段より生き生きとした様子の大助の後ろに付いていたら、大助が急に足を止めたせいで、ごつんとその後頭部に鼻をぶつけた。

「痛たたた……。それよりあれ、春風さん……?」

 大助は頭をさすりながらそうつぶやいて、人混みの中、ただ一点を見つめた。

 視線の先をたどると、帽子を深くかぶってサングラスにマスクをした人物がいた。この暑い中、正気を疑う格好だ。

「あれが春風さんだって……?」

 類似点がかけらも見受けられないが。

「なあ、あの不審者が、なにをもって春風さんって思ったんだ?」
「え?いや身長とか歩き方とか、あと露出してる部分の肌とか、耳の形とかでわからない?」

 大助は真顔で早口になりながらそう答えた。いいから瞬きしろ、怖いから。

「わかんねーよ。あと判断材料にしてる情報がナチュラルにキモい」
「ひどいよ!」

 ひどいのはおまえの人物識別方法だ。

「とりあえず仮にあれが春風さんだとして、なんでわかったのか理由を聞かれたら、聞き覚えのある声だったからとか適当にごまかしとけよ。間違っても本当のことは言うな」
「ええ?うん。まあどうせ話しかけないし……」
「は?」

 いや待て。一体こいつはなにを言っているのだ。

「ここは全国のオタクが集う場所だぞ。つまりここに来ている春風さんは99%オタクだぞ!春風さんとオタクトークで話を弾ませられるんだぞ」
「そ、そうだよね。ここで勇気を出せば……」

 大助は自分の頬をパンパンと叩くと、ごくりとツバを飲みこんだ。

「ぼ、ぼく頑張るよ」

 ぼくらは春風さんの、すぐ後ろまで距離を縮めた。

「よし、行ってこい」
「え!?いやついてきてよ!」

 大助はすがるような目で必死でそう訴えた。

「なに言ってんだ。おまえ一人で行くに決まってるだろ」
「でも佐藤くん、コミケ初心者だし、一人だと迷っちゃうかもしれないから……」
「おまえが渡してくれたこれがあるから大丈夫だ」

 ぼくはリュックからカタログを取り出して、大助の逃げ道を潰した。

「くっ、でも……」
「誰かと一緒に来てるのかとでも聞かれたら、別行動してるとでも言っとけ。ほら行ってこい」
「うわあっ」

 うじうじとしている大助の、文字通り背中を押して春風さんの方へと突き飛ばした。

 バランスを崩した大助は春風さんの背中によりかかるようにして転倒を回避した。

 春風さんが「キャッ!」と可愛らしい悲鳴をあげた。ああ、今の声はたしかに春風さんだ。片思い男子の想い人に対するレーダーが高性能すぎて、ぼくは恐怖すら感じた。

「ごごご、ごめん。足がもつれちゃって!わざとじゃ、わざとじゃないんだ」


「えっ!?西宮くん!?」

 不可抗力とはいえ、春風さんの体に触れてしまった大助は、まるで満員電車で痴漢冤罪に怯えるサラリーマンのようにビクビクしているが……まあ春風さんなら笑って許してくれそうだし、大丈夫だろう。

 ぼくは健闘を祈りながら、人混みの中に紛れた。

「いったい、ここはどこだ……?」

 そしてその後、5分で迷った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

処理中です...