閻魔ちゃんと数えるぼくの罪 ~過去に戻って生前の罪をすべて精算しないと、ぼくは地獄に落ちるらしい~

ジェロニモ

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好きな人の前だとまるで別人になるやつっているよね

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 そういえば、ぼくはこの金髪イケメンに聞きたいことがあったのだった。

「なぁ。おまえ、どうやって七瀬のこと誘ったんだ?」

 今回海に来ているメンバーの中には、絶対来そうにない七瀬も参加していた。今は、レンタルしたパラソルの下で体育座りをしている。彼女は学校指定のスク水の上にパーカーを羽織って海の方を見ていた。

「どうって、普通にメンバー伝えて、来る?って聞いただけけど……。確かに俺も断られるだろうなーって思って聞いたから、オッケーされたときは正直ビビったな」
「断られるって思ってたくせに、よく聞けたもんだな」
「どうせダメ元でも、頼むだけならタダだろ?別に何が減るわけでもないし」
「いや、精神がすり減るだろ……」

 そう反論すると、金髪イケメンは「おまえ何言ってんだ?」みたいな顔をしてきた。

 こいつのメンタルが鉄人なのか?それともぼくのメンタルが豆腐すぎるだけなのだろうか。

 七瀬は海を眺めている……というよりも、林さんと話している小川さんのことを見ているようだった。

 金髪イケメンの言うあのふたりについての良くない噂を、七瀬が知っていてもおかしくはない。

 これは僕の勝手な予測だけど、絶対こういう誘いに参加しなさそうな彼女が今日ここにきたのは、ただ単に小川さんのことが心配だったから……なのかもしれない。

 そんなふうに考察していたら、トントンと肩を叩かれる。

「なぁ、あれ俺らに手振ってね?」

 そう言って金髪イケメンが指差す方に目を向けると、水着のナイスボデーなお姉さんを発見した。たしかにこちらに向かって手を振っているように見える。

 逆ナンか。逆ナンなのか!……なんて勘違いはしない。本当に学生時代ならいざ知らず、こっちは精神年齢30歳だ。酸いも甘いも経験して……おかしいな。いくら人生を思い返しても甘い思い出が出てこない。

 背後を振り向くが、あのお姉さんの知り合いらしき人物は見受けられない。だけどぼくはわかっている。どうせ手を振られているのはぼくじゃなくて横にいるイケメンクソ野郎なのだ。

 綺麗なお姉さんがこちらに駆け寄ってくる時、そのスイカみたいな胸がバインバインと激しい上下運動に勤しむ。

 そしてお姉さんはぼくはおろか、鼻を膨らませ、胸の前で小さく手を振り返していたイケメンも素通りした。

 自分ではなかったことに気づいた金髪イケメンの耳が赤く染まる。うわあ、勘違いだったとかめっちゃ恥ずかしいやつ!

 ……しかし、あのお姉さん、近くで見るとなんだか見覚えがある気が……でもぼくは生前もも、死んだあとのやり直しでも、こんな綺麗なお姉さんと知り合いになったことなんてないよなぁ、とぼくは頭をひねらせた。

「ぼたんちゃーん!超奇遇だねえ!なに?今日は学校のお友達と来たのかな?」

 ナイスバデーなお姉さんは、なんとビニールシートの上でダルそうにしている七瀬へと声をかけたのだった。

 七瀬はバッと顔を上げて声をかけてきたのが誰かを視認すると、くいっと口角をあげた。

「柚子さん!本当に奇遇ですね。私はクラスメイトと来たんですけど、柚子さんはどうしたんですか!?」

 いやお前誰やねん。ハキハキとお姉さんに前のめりで話しかける七瀬の様子に、思わず心の中で突っ込んでしまった。

 学校でも学校外でも、おまえはそんなキャラじゃないだろ!

「私は水着キャラのコスプレ撮影しにきたんだよ」
「え?じゃあこれから着替えるんですか!?」
「いや、もう終わったからついでに遊びにきたのさ」
「えー。もう着替えちゃったってことですか!今日撮影するって教えてくれれば見にきたのに!なんで着替えちゃったんですか」

 七瀬はそう聞いて、いかにも残念そうな声をあげた。

「いやー。ただでさえ注目されやすいもんがついてるのに、さらにコスプレなんてしてたら海なんて楽しめやしないからねえ」

 ただでさえ注目されやすいもんというのは、ぼくとイケメンの視線を釘付けにしているお姉さんの胸部のことだろう。その証拠に、彼女はそう発言する際、視線を自分の胸へと落としていた。

「それで?こっちでわたしの胸を凝視してる男子達がそのクラスメイトなのかな?」
「はい!七瀬さんのお友達の島田まさよしです!年上が好みです!」

 聞かれたのは七瀬なのに、隣の金髪イケメンが気をつけの体勢でハキハキといらん情報まで答えやがった。友達っていうほど仲良くないだろうに。このきれいなお姉さんとお近づきになりたくて必死かよ。

「ただのクラスメイトです。ちょっとあんたら、柚子さんのこといやらしい目で見るのやめなさいよっ」

 七瀬は、キッと鋭い眼光でぼくらを睨んだ。ぼくらに対しては普段どおりのようだ。ん?金髪イケメンがいる前で普段どおりって、七瀬としては良いのだろうか。

「ていうか、大丈夫なの?ぼたんちゃん、聞いてる感じと随分違うみたいだけど……」

 お姉さんにそう指摘されて、七瀬は「しまった!」とでも言うように手で口を覆う。

 金髪イケメンはそのやりとりの意味がわからず首をかしげていた。

 おそらく、七瀬の立ち振る舞いについて指摘したのだろう。どうやらこのお姉さんは七瀬が学校内と外で立ち振る舞いを変えているということを知っているようだった。

 ここまでのやりとりを見ると友達……という感じではなく、どっちかっていうと七瀬がお姉さんに懐いているように見える。

 この二人がどういう関係なのか、鬼共に聞けば教えてくれるだろうか。いや、どうせぼくが知らないことは教えられないとか言われるのが関の山である。

 お姉さんの話から察するに、コスプレ仲間あたりかなと予想をつけてみた。

「それにしても、ぼたんちゃんが友達と海にねえ」「だからただのクラスメイトです」

 七瀬がそう反論するが、お姉さんは気にした様子もなく「あのぼたんちゃんがねえ……」とつぶやきながら、品定めするようにぼくらをじろじろと眺めた。

 ぼくはその間、前かがみになったお姉さんのその豊満な体を見ないように務めるのに必死だった。セクハラで訴えられたら一環の終わりである。隣でお姉さんの胸をガン見しながら、イノシシみたいに鼻息を荒くしている金髪イケメンのようにだけはなりなくないものだ。

「んー。健康な男子諸君、ぼたんちゃんの友達ってことだし、胸と尻はダメだけどこっちは触っていいよ?」

 胸に刺さる視線に苦笑いしたお姉さんはそう言うと、自分の髪に手を伸ばした。

 髪を触らせてくれるんだろうか?そう思っていたら、スポンと髪が外れた。そして髪の下から、お坊さんみたいなツルツルした頭皮が顔を出した。

 あまりにも想定外な光景に、思考が数秒停止した。

「いやー初対面の人にこれやったときの反応はやっぱりたまりませんなー」

 お姉さんは外した髪を人差し指でくるくると回しながら、ぽかんと呆けているぼくらを見てケラケラと笑った。

「これウィッグなんだよねー。あ、この言い方だと男の子には分かりづらいのかな。まあいわゆるカツラみたいなもんだよ」

 ウィッグというと、今七瀬が付けている前髪がもったりとした髪もウィッグとか言っていたか。

「ということは、今見えてる頭は地肌なんですか?」
「そうだよー。あ、触っていいよって言ったのは嘘じゃないよ?ぼたんちゃんの友達だし、特別にね」

 お姉さんはウィンクして、ぼくたちが触りやすい様に屈んで、そのツルツルとした頭を突き出した。

 どうする?まずお前から先に行けよ、と金髪イケメンに目で訴えると、向こうの目もお前が先に行けと語りかけていた。

 お姉さんの頭を触りたいかと言われれば、とても触りたい。
 お坊さんのあの頭を触ってみたいというのはどれしも一度は思ったことがあるだろう。少なくともぼく思った。
 しかもおっさんじゃなくてこんな綺麗なお姉さんの頭なのだ。触りたいに決まってるじゃないか。

「じゃあ、失礼します……」

 ぼくは覚悟を決めて手を伸ばした。

 差し出された頭に、ぺたりと手のひらを乗っける。すると、すべすべとした感触が伝わってきた。

 それを見て、金髪イケメンも同じ様にお姉さんの頭を撫で始めた。「おぉ……」となんとも言えない声を漏らしている。

「どう?私のを触ってみた感想は?」
「謎の感動がありますね……」

 ぼくがしみじみとそう答えると、お姉さんは「人の頭に触っただけで感動って、君の人生幸せそうだねえ」と憐れむような目でぼくを見た。

 金髪イケメンは無言で自分の手をじーっと見つめていた。あとで「俺、もう手洗わんぞ」とか言い出しそうで少し怖かった。

 その時、お姉さんが手に持っていたスマホから着信音が流れ出す。

 お姉さんがスマホの画面を確認するなり、「やっばー」とつぶやいて顔を青くさせた。

「どうしよう。撮影で一緒に来てる友達待たせてるのすっかり忘れてた!」

 と、ぼくらに向かって言われても困る。

「とりあえずさっさとその電話に出た方がいいですよ……」

 知り合いなのもあって、七瀬が諭すようにそう提案した。

「間違いなく怒られるやつなのに?」
「出なきゃもっと怒られますよ……」

 お姉さんが嫌そうに、ゆっくりとスマホを「あのー、もしもぉし」と耳元へと押し付ける。

 途端に怒鳴るような声がこっちにまで漏れ出してきて、お姉さんはスマホを耳から遠ざけた。

「……うん、うん。いや忘れてない忘れてない。ちょっと知り合いに呼び止められちゃって!わかったわかったごめんって!すぐ!すぐそっち行くから」

 ちなみにさっき忘れてたとか言ってたし、七瀬に駆け寄ってきたのはお姉さんだった気がするけど、それはお姉さんが罪を軽くするために嘘をついているとは限らず、ぼくの記憶違いという可能性もある。

 通話を切ったお姉さんがふぅーっと安心したような息を吐いた。

「と、いうことでですね……本日はこれにてお別れということで。ぼたんちゃん、今度また一緒にこれ行こうよ」

 お姉さんは七瀬に向けて、ピースサインを作って、それをカニみたいに閉じたり開いたりした。散髪にでも一緒に行く仲だったりするのだろうか。ていうか、スキンヘッドなのに散髪……?あのジェスチャーの意味を読み間違えたのだろうか。じゃあシンプルにカニか?カニを喰いに行くのか?羨ましい!

 お姉さんは「じゃあそういうことで!」とダッシュで去っていった。

「なんというか、すごい人だったな」

 走り去るお姉さんの後ろ姿を眺めながら、七瀬にそう話しかけた。

「そうね。あの人は本当に……本当にすごい人よ」


 なぜだろうか。そう答えた七瀬の声は、どこか憂いを含んでいるように感じた。

「ところでおまえはいつまで自分の手とにらめっこしてるんだよ……」

 ぼくはぼーっとしている金髪イケメンにそう聞いたが、返事はない。金髪イケメンは依然としてグーパーとする自分の手を見つめていた。
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