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時間をかけて作ったものを一瞬で破壊すのは気持ちいい。製作者が自分でないならなおさらだ

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 夏休みももう終盤というところ、ぼくはクラスメイト達と海に来ていた。

 大助はネットでやってるバイトの締め切りがやばいとかで当日にドタキャン。まあ、春風さんも体調不良だとかでドタキャンしたらしいので、別にいいけど。別にいいけど、海でドタキャン組の接近イベントを発生させに来たぼくは、完全にやることがなくなったわけである。

 クラスメイト達が海でちゃぱちゃぱと海水と戯れているのを尻目に、ぼくは砂浜の空いている場所で大の字に寝っ転り青空を仰いでいた。

「泳がねーの?つーかなにやってんだよ」

 急に空が遮られたと思ったら、みんなを海に誘った張本人の金髪イケメンがぼくを見下ろしていた。

「日陰人生だったから、一度くらい思いっきり日焼けしてみようと思って。そっちこそ何してるんだ?」

 こういうとき、いの一番に海に直行しそうな奴に見えたのに。

「海って、砂遊びしてるときが一番楽しい説ないか?」
「なら海じゃなくて公園の砂場にでも行っとけよ」

 視線を足元の方に向けると、それはそれは見事な砂の城が建っていた。ぼくがぼーっとしている間に作り上げたらしい。なんのためらいもなく、ぼくはそれを足で蹴り崩した。

「ああ、俺のまさよし城が!」

 ああ。そういえば確か、まさよしというのが金髪イケメンの下の名前だったなと思い出した。島田まさよしというのが彼のフルネームだったはずだ。自分の名前をつけるなんて結構愛着があったらしい。そんな城を破壊したと思うと、さすがのぼくも気分が最高に良い!

「公園の砂場に誘っても誰もオッケーしてくれねーだろ。それとおまえあとで覚えとけよ……」

 金髪イケメンはそう恨み言を吐いて、まさよし城の修復作業を始めた。

「丹念に探せばOKしてくれる物好きの一人や二人いるだろ」

 おまえのその顔なら女の一人や二人、と心の中で付け足した。

「物好きだけじゃ意味ねーんだよ。林と小川さんを一緒に誘うってのが目的だったんだから、そのふたりがOKしてくれねーとさ」
「つまりおまえがふたりのことを同時に狙ってるスケコマシ野郎ってことでいいのか?」
「ちげーよ!おまえは俺のことをなんだと思ってんだっ」

 今言った通りである。

「……おまえなら、まあ言ってもいいか。林のやつがさあ、「やっぱり小川さんはああいってくれたけどわたしのこと嫌ってるよね」とか、「合わせる顔がない……」、とか、「緊張して話せなくなる……」、とか弱音をちらほらこぼしてたんだよ」
「林さん、一段落したとはいえ結構気にしてたんだな」
「まああいつ、普段変なことしないだけに、より一層気にしてるってのはあると思うわ」

 ところで、ぼくなら言ってもいいと思ったのは、口が固そうだと思ったからか?それとも言いふらすような知り合いが居なさそうだと思ったからか?後者の場合まさよし城は再び木っ端微塵に破壊されることになるが。

「それにほら、最近林と小川さんを悪く言うような声がちらほら出てきただろ?」

 そのあまりおもしろくない話題に、ぼくは眉をひそめた。

「……その話、少なくともまだぼくの耳には届いていないけど」
「ほら俺は敬太と違って交友範囲が広いというか……」今この瞬間まさよし城の破壊が確定した。「いろいろとそういう話がまっさきに耳に入ってきやすいんだよな」
「それで、どんな話が耳に入ってきたんだよ?」
「対立ってわけじゃないけど、林のことを「別に悪くなくね?小川さんがサボってたのが悪いんだし」って声と、「林さん流石にやりすぎだろ、読モの仕事が被ってたんじゃ仕方ないしさ」みたいな声が両方出てきてるわけよ。どっちの話も聞いてて気分がいいもんじゃないだろ。特に、当事者のふたりはなあ……」
「……そうだな」

 当人同士はひと段落ついたのに、ガヤガヤ周りがあることないこと騒ぎ立ててるわけだ。そんなの当事者としてはたまったもんじゃないだろう。

 しかし、小川さんの、読モの仕事が被ってたというのは半分嘘なわけだが、それが知れたらまたひと悶着ありそうである。うっかりバレないように注意しとかないと。

「そんで、俺は考えたわけ。ふたりが仲良くすれば全部まーるく解決すんじゃね?って。で、今回遊びに誘ってみたってわけよ」

 そう言って、金髪イケメンはニカッとその白い歯をのぞかせた。その金髪だけでもキラキラしてるのに、歯まで光らせないでほしい。

 もっと頭の中ウェイウェイしてるかと思ったけど、こいつも色々と考えているようだった。

 林さんは許してくれたとはいえ、仕事を押し付けていたことに対して罪の意識がまだ残っていたのもあるのかもしれない。まあ仮にそうだとしても、林さん達を思っての行動だということに違いはないだろう。

「今のところは上手くいってそうだな」

 ぼくは、ちょうど浅瀬らへんで話している件の二人を見てそう答えた。なんだか両者とも気まずいのか、動きや表情がロボットみたいにぎこちない風に見えるけども。ただ、ぎこちないにも関わらず会話を続けようとしている。

 別に話さないようにしようとすればいくらでもできるし、他のクラスメイトだってたくさんいる。それでもふたりが会話をしようとするということは、両者に歩み寄る気がある証だろう。だから、緊張が解けるのも時間の問題に思えた。

「お?だろだろ。これで学校でも仲良くしてもらって、噂も自然と消滅してくれるのが一番なんだけどなぁ」

 ぼくも同じ意見だった。

「そこは祈るしかないだろ」
「じゃあ神社でも行くか?」

 まさかの金髪イケメンからデートのお誘いである。

「一人でいっとけ」

 当然のごとくぼくは即答した。

「前から思ってたけど、なんかおまえ俺に対して辛辣じゃね?」

 その辛辣さはイケメンで性格も親しみやすいおまえに対する妬みからくるものだよ!とかっこ悪い本心を正直に言えるわけもなく。

 なのでぼくは「気のせいだろ」とだけ返した。「そうかー?」と金髪イケメンは頭をしきりにかしげた。
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