閻魔ちゃんと数えるぼくの罪 ~過去に戻って生前の罪をすべて精算しないと、ぼくは地獄に落ちるらしい~

ジェロニモ

文字の大きさ
27 / 46

すべての元凶はおまえかよ

しおりを挟む
 ……ちょっと待て。待て待て待て。ふざけるな。もっと前に戻せよ。ここに戻すのは、あまりにも性格が悪すぎやしないか。
 僕は視界がチカチカとする中、このタイミングへ戻した閻魔ちゃんへと悪態をつく。今回戻されたのは、小川さんが泣き崩れて謝る数秒前だった。つまり、責め立てられてしまった後だ。これじゃあ未然に防ぐことができないじゃないか!

 慣れてきてもなお辛い頭痛を無視して、ぼくは必死に思考を巡らせる。

 二人の間に割って入って事情を話す。多分それが一番手取り早いのだ。でも、僕はどうにも躊躇ってしまう。

 小川さんは、ランドール様のように、かっこよく振る舞えるよう頑張ってきた。臆病な自分を変えるために。

 でも今林さんを止めるためにすべての事情を話せば、小川さんのしてきた努力が無駄になってしまうような気がしたのだ。「変われると思いますか?」と、震える声で七瀬に尋ねた時の彼女の顔が、脳裏をよぎる。

 くそっ。

「こんなとき、ランドール様ならどうする!?」

 結局、ぼくはただそう叫んだ。

 でも、彼女にはこれだけで伝わるはずだ。

 小川さんが目を見開いてこちらを見ていたが、幸いにも他のクラスメイトたちの視線もこちらに向いていたので、クラスのみんなからしたら小川さんらしくないその様は見られずに済んだようだ。

 彼女は目を閉じて、胸に手を当てた。そしてふぅーっと息を吐くとともに目を開く。すると、彼女の纏っていた雰囲気がそれまでとガラリと変わった。

 とりあえず今の一言で、彼女に一息つかせることはできたらしい。

 あとは、彼女次第だ。でも不思議と不安はなかった。だって、彼女がしてきた努力を僕は知っているから。

 クラスメイトを相手に仮定した会話練習をどれだけしてきたと思ってるんだ。彼女が話のネタに受け答え。それらをノートにびっしりまとめて、反復練習してきたのを僕は知っている。落ち着いてさえいればこのくらいの状況、彼女なら余裕で切り抜けられるに決まっている。

『ここには人間は入れないはずなのに、あなたはどうやってここに来たのかしら?』

 小川さんかの口から出てきたのは、劇のセリフだった。クラス中から見られている状況で、すらすらと、それでいて感情のこもった演技で、彼女は自分に割り振られたセリフを全て演じきってしまった。

 それを見て、思わず笑みが溢れた。まるで雛が巣立った様の親鳥のような、嬉しいけど寂しい様な、そんな気分だ。

「もう、合わせはできる。ただちょっと読モの仕事とかで、予定が合わなかっただけで。みんなごめん。でも、読モの仕事無くして、これからはちゃんと練習に参加できるから。だから心配しないでほしい」

 演技ってすげー。ぼくは今の小川さんの振る舞いと、気の弱い素顔とのギャップに感心した。

「……あの、こっちこそごめんなさい。わたし、小川さんの事情なんて何も知らないのに……。小川さん、ちゃんと練習してくれてたのに、勝手にサボってたなんて決めつけたようなこと言っちゃって。その、私、実行委員の方が忙しくてあんましクラスの準備に参加できなくてさ。わたしもクラスのためになにかしなきゃって思って、暴走、しちゃって……」

 林さんはきまりが悪そうに小川さんへ謝った。

 ああ、おとなしい印象のあった林さんがこんなことをしたというのが引っかかっていたけど、そういう経緯があったらしい。

「謝ることないよ。私が練習に参加できなかったのは本当のことなんだしさ。むしろ、何事もなかったかのようになあなあにして練習に参加する方がおかしいし、嫌だったから。だからちゃんと正直に不満をぶつけてくれてありがとう、林さん」

 小川さんは林さんへと笑いかけた。ぼくはランドール様のことは知らない。だから彼女がランドール様に似ているかは判断できない。でも、今の小川さんはめちゃくちゃに格好良いと思った。

「あり、がとうっ小川さん……」

 今度はさっきと打って変わって、林さんの方が今にも泣きそうになりながらそう答えた。

「もしかして、俺が林に仕事押し付けて過ぎてたっていうのも林が暴走した一因だったりする?」

 よくわからないがうまくいったようだと安堵していると、金髪イケメンがそんなことを耳うちしてきてぶん殴りたくなった。

「おまえ、やけに劇の準備手伝ってくれるなあ、忙しい間をぬってありがたいなあって思ってたのに……」

 林さんに仕事押し付けてサボってただけかよ!おまえがすべての元凶だったのか!

「いやホントすまんて」
「謝る相手はぼくじゃないだろ」
「お、おう。お、おーい、林ぃ」

 金髪イケメンは、本当に謝るべき相手の方へと重たい足取りで近づいていく。

「仕事押し付けて俺だけクラスの方に顔だしてごめんな……」
「え?あー、うん。確かにそれはちょっと思ってたけど、これからちゃんとしてくれれば……」
「はい、今後は実行委員の仕事もサボらないようにさせていただきます……」

 どうやら普通に許されたようだった。林さんも平手打ちの2、3発食らわせてやればいいのに。

「小川さん、衣装についてちょっと話があるんだけど、いい?」
「あ、うん」

 七瀬がそう切り出して、小川さんを連れて教室の外へと出ていった。

 そのやり取りにぼくは違和感を覚える。たしか衣装については家で合わせも済ませていると言っていた気がするのだが……。

 ぼくはこっそりとふたりのあとをついていくことにした。
「お、ストーカーか?」
「うるさい大助と一緒にするな」

 茶々を入れてくる閻魔ちゃんに小声で言い返す。

 彼女たちは化学室の前までくると足をとめた。人気がないらしいここに来るのは、大抵が内緒話をしたい時だ。今回もそうなのだろうか。

 七瀬が、くるりと回って後ろの小川さんの方を見た。

「よく泣かなかったじゃない。あんたにしては、よくやったんじゃない?」
「だって、泣いたら化粧が崩れちゃいますから。ですよね!?」

 七瀬のねぎらいに、さっきまでの凛とした振る舞いが嘘のように、小川さんがニコニコと笑みを浮かべた。

「そんだけよ。合わせる練習しなきゃなんだから、早く戻りなさいよ」
「はい!じゃあまたあとで!」

 小川さんは嬉しそうに返事をすると、駆け足で教室へと戻っていった。

「……犬みたいに尻尾ふって、ランドール様っぽさゼロじゃない」

 小川さんの後ろ姿に悪態をつく七瀬の横顔を覗くと、嬉しそうに頬を緩ませていた。

 きっと小川さんほどじゃなくても、誰しもが理想の自分を演じようとしているのだ。好きな人にかっこよく見られたいだとか、可愛く見られたいだとか。でもそういうのって疲れるんだと思う。

 だから素っ裸な自分をさらけ出せるというのはなによりもの信頼の証で、そんな関係は簡単に作れるもんじゃない。

 つまり小川さんにとって七瀬は特別な存在で。そしてそれに対して満更でも無さそうな反応をしている七瀬にとってもまた、小川さんは特別な存在になっているのだろう。

 ぼくはそろーっと七瀬の前に姿を現した。

「なんというか、まるで雛が巣立った様な心境だよな」
「あとをつけてきた上に盗み聞きとかキッモ。それに加えて親気取りとか更にキモい」

 ぼくを辛辣な言葉の刃でばっさりと切り捨てて、七瀬はスタスタと教室に戻っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

処理中です...