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三十九話:ホリデー当日2
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庭でお茶をしたり、散歩をしたりしているうちにあっという間に時間は過ぎた。ディナーの前にプレゼントを贈りあうことになった。
「はい、僕からリカルドへのプレゼント」
「ありがとう。開けても良い?」
「紫色の石とダイヤモンド?」
黙って頷いた。紫色が僕の瞳の色だとすぐにばれるだろうし、銀色とも言えなくはないダイヤモンドは僕の髪を想起させる。自分で贈っておきながら、恥ずかしさがこみ上げてくる。
「シルヴァ君も粋なことをするね」
リカルドは僕の身につけているイヤリングを手に取った。耳元に顔が近づいたかと思うと、キスされていた。
「ありがとう。毎日つけるね」
「毎日はつけなくてもいいよ」
「それくらい嬉しいってこと。んじゃ今度は俺が渡す番ね」
箱を受け取る。小さく、とても軽い。間違いなく本ではない。文具だろうか。
「開けて?」
包み紙を取って箱を開ける。出てきたのはジュエリーケース。リカルドが急かすような視線を寄越す。その視線で何が出てくるか想像がついたが、いや違うだろうと考えを打ち消す。ケースの中に鎮座していたのは指輪だった。想像していたものではあったが、驚いた。
「婚約指輪、受け取ってくれる?」
「嬉しいけど……気がはやい」
「うかうかして逃げられでもしたら嫌だし。あと、ミブ殿下から将来を不安がっているようだったっていう手紙が来たから、ちゃんと考えてるよって示したくて」
僕の顔を覗き込んできたリカルドの表情は真剣だった。不思議だ。リカルドに真面目な顔でじっと見られると、何もかも見透かされている気になる。
「シルヴァ君の考えてること、なんとなく分かるよ。ディミニスに留学して逃げるつもりだったんでしょ?」
図星だった。返す言葉もない。学院を卒業したらリカルドの前から姿を消すつもりでいた。父上と兄上に僕の行き先や住所を教えないように頼んで、手紙のやり取りもしなければもう会うこともない。
カレンベルク家の跡取りはリカルドになって、殿下からも逃げて万事解決ハッピーエンド。僕は当分リカルドのことを忘れられないかもしれないけど、時間がなんとかしてくれると思っていた。
「……よく分かったね」
「悔しいけど、これもミブ殿下からの口添えだよ。シルヴァ君はきっと逃げるタイプだ、ってね。臆病で、自信がないからどんなに口説いても受け入れられない。そのうち全て投げ打って逃げ出すぞ、って。あの人、自分に勝ち目が無いって思ったのか、俺にいろいろ情報寄越してくれるんだよ」
お茶会で臆病だと言われたのはしっかりと覚えている。さらに自信がないとも思われていたとは。実際のところそうなので、殿下の観察眼には敬服しきりだ。
「だから俺は全力でシルヴァ君の逃げ道をふさぎに行く。まず父上に、シルヴァ君が留学を考えていることを伝えて、どうにかディミニスの魔術回路研究者をこの国の魔術塔に引き抜けないか相談をした」
「そんな無茶な」
まず最初に、という言葉に続いた事の大きさに僕の頭はついていけなくなった。この後に一体何が残るというのだ。
「一人、次の秋からこの国の魔術塔に来ることになったよ」
よくもまあそんな無茶がまかり通ったものだ。
「魔術師御三家筆頭をなめるんじゃない」
そう言ってリカルドは僕のおでこをぴん、と弾いた。
「それにこの国には魔術回路の第一人者はいないけど、ほかの研究なら進んでる分野だって多くあるし、他国から見れば整った環境なんだよ。シルヴァ君の不安材料を少しでも減らせるなら、俺は何だってする。俺は本気だよ」
「……ずるいよリカルド。そんな格好いいこと言われたら断れないじゃんか」
目からぽろぽろと涙がこぼれる。
「お父様、許してくれるかな」
「絶対に説得してみせるから」
「僕には何も無いけど……ほんとに僕で良いの?」
「シルヴァ君が良いんだよ。何も無いなんてことは無い。退屈だった俺を変えてくれたのはシルヴァ君なんだから。俺の隣にシルヴァ君がいないと俺は俺じゃなくなる」
僕は左手を開いた。リカルドは満面の笑顔を咲かせて、指輪を通す。指先に口づけが落とされた。リカルドは嬉し泣きを堪えているような顔をしている。
「シルヴァ君、愛してる」
抱きしめられた。僕も腕を回す。リカルドは鍛えているのか、思ったよりも厚みがあった。
「はい、僕からリカルドへのプレゼント」
「ありがとう。開けても良い?」
「紫色の石とダイヤモンド?」
黙って頷いた。紫色が僕の瞳の色だとすぐにばれるだろうし、銀色とも言えなくはないダイヤモンドは僕の髪を想起させる。自分で贈っておきながら、恥ずかしさがこみ上げてくる。
「シルヴァ君も粋なことをするね」
リカルドは僕の身につけているイヤリングを手に取った。耳元に顔が近づいたかと思うと、キスされていた。
「ありがとう。毎日つけるね」
「毎日はつけなくてもいいよ」
「それくらい嬉しいってこと。んじゃ今度は俺が渡す番ね」
箱を受け取る。小さく、とても軽い。間違いなく本ではない。文具だろうか。
「開けて?」
包み紙を取って箱を開ける。出てきたのはジュエリーケース。リカルドが急かすような視線を寄越す。その視線で何が出てくるか想像がついたが、いや違うだろうと考えを打ち消す。ケースの中に鎮座していたのは指輪だった。想像していたものではあったが、驚いた。
「婚約指輪、受け取ってくれる?」
「嬉しいけど……気がはやい」
「うかうかして逃げられでもしたら嫌だし。あと、ミブ殿下から将来を不安がっているようだったっていう手紙が来たから、ちゃんと考えてるよって示したくて」
僕の顔を覗き込んできたリカルドの表情は真剣だった。不思議だ。リカルドに真面目な顔でじっと見られると、何もかも見透かされている気になる。
「シルヴァ君の考えてること、なんとなく分かるよ。ディミニスに留学して逃げるつもりだったんでしょ?」
図星だった。返す言葉もない。学院を卒業したらリカルドの前から姿を消すつもりでいた。父上と兄上に僕の行き先や住所を教えないように頼んで、手紙のやり取りもしなければもう会うこともない。
カレンベルク家の跡取りはリカルドになって、殿下からも逃げて万事解決ハッピーエンド。僕は当分リカルドのことを忘れられないかもしれないけど、時間がなんとかしてくれると思っていた。
「……よく分かったね」
「悔しいけど、これもミブ殿下からの口添えだよ。シルヴァ君はきっと逃げるタイプだ、ってね。臆病で、自信がないからどんなに口説いても受け入れられない。そのうち全て投げ打って逃げ出すぞ、って。あの人、自分に勝ち目が無いって思ったのか、俺にいろいろ情報寄越してくれるんだよ」
お茶会で臆病だと言われたのはしっかりと覚えている。さらに自信がないとも思われていたとは。実際のところそうなので、殿下の観察眼には敬服しきりだ。
「だから俺は全力でシルヴァ君の逃げ道をふさぎに行く。まず父上に、シルヴァ君が留学を考えていることを伝えて、どうにかディミニスの魔術回路研究者をこの国の魔術塔に引き抜けないか相談をした」
「そんな無茶な」
まず最初に、という言葉に続いた事の大きさに僕の頭はついていけなくなった。この後に一体何が残るというのだ。
「一人、次の秋からこの国の魔術塔に来ることになったよ」
よくもまあそんな無茶がまかり通ったものだ。
「魔術師御三家筆頭をなめるんじゃない」
そう言ってリカルドは僕のおでこをぴん、と弾いた。
「それにこの国には魔術回路の第一人者はいないけど、ほかの研究なら進んでる分野だって多くあるし、他国から見れば整った環境なんだよ。シルヴァ君の不安材料を少しでも減らせるなら、俺は何だってする。俺は本気だよ」
「……ずるいよリカルド。そんな格好いいこと言われたら断れないじゃんか」
目からぽろぽろと涙がこぼれる。
「お父様、許してくれるかな」
「絶対に説得してみせるから」
「僕には何も無いけど……ほんとに僕で良いの?」
「シルヴァ君が良いんだよ。何も無いなんてことは無い。退屈だった俺を変えてくれたのはシルヴァ君なんだから。俺の隣にシルヴァ君がいないと俺は俺じゃなくなる」
僕は左手を開いた。リカルドは満面の笑顔を咲かせて、指輪を通す。指先に口づけが落とされた。リカルドは嬉し泣きを堪えているような顔をしている。
「シルヴァ君、愛してる」
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