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番外編 フィンとカミル1
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それはマティアス君が昇級し、二週間ほど過ぎたある日。寝耳に水だった。
珍しく実家から手紙が届き、何事かと開くと、私は思わず声がでてしまった。
「正気なのか……?」
一言でまとめると、そろそろ結婚をしろ。相手としてフィン・マルクルを選んだから、とりあえずお付き合いをしなさい。既に、相手の家にも話をつけてある。そういうことだった。
先日、同じ部屋になったその相手を凝視する。まあ、悪い人ではないのは確かだ。家の階級も同じで、身分としては妥当。いや、それにしても何でまた急に。
「どったのー。何か顔に付いてる?」
まじまじと見すぎたのか、フィンがこちらの投げる視線に気づく。
「いえ、何も。少し、話したいことがあります」
「え、俺何かやらかした?」
書類作業用の小さな机とセットになった椅子に座り、横を向く。
遠まわしにぼかして話しても何の得にもならない。単刀直入に聞くことにした。
実家から、これこれこういう内容の手紙が届いたが、この件について何か聞いているのか、と。
「いや、何もきいてないよー。まあ、俺もそろそろ結婚しろって言われてたから、今日には同じ内容の手紙が届くのかも」
フィンの話を聞いて、考える。
当人たちを置いてきぼりにして、先に親同士で話をつけてあるというのは、もうほとんど逃げ道がないということだ。完全に外堀を埋められている。
「正直に申し上げますと、とある事件があり、私には恋愛を今後するつもりはありませんでした。ですが、これは逃げ道が無いと受け止めなければいけないでしょう」
「そっかー。んー、俺もこの前、十年の片思いが敗れたばかりなんだよね。でも、これは仕方無いことなんじゃないかな」
「左様でしたか」
さて、どうしたものか。
一度、両家を取り囲む周辺の事情を思い出すことにしよう。何故、このような事態になったのか。急に事が動き出したのには、それなりの理由があるはずだ。
我がフローエ家とマルクル家。どちらも領地運営を任されている地主だ。私には兄と姉がひとりずつおり、どちらも家庭を持っている。姉が嫁いだ先はたしか商社だった。ここに理由がありそうだ。しばらく、情報を得なければこの先は分からない。
「ねー、カミルはぶっちゃけ俺のことどう思ってるの?」
思考が停止したところで、フィンに話しかけられる。
「班の仲間としか思っていませんが」
「そういうことじゃなくてさー」
意思の疎通とはかくも難しいことだ。どういう存在と感じているかではなく、いずれは結婚するであろう相手としてどう見ているか、ということを問われたらしい。
「まあ、それほど大きく年齢に差がありませんし、身分も同等です。妥当なところでしょう」
互いに家に繋がりができれば、単純に考えて、融通の利く土地も増えることになる。
「……なるほど」
「うん?」
「この話の真意が分かったような気がします」
まだ確信はできないが、多分そういうことなのだろう。
分かったところで、いい気はしない話だ。それぞれの人間をただの駒としか考えていない、自分の家族に怒りが沸いてくる。
思わず手紙をぐしゃりと握りしめる。
「……もう一つ言わなければならないことがあります」
「どうしたの?」
あの家族は私のことを何だと思っているのか。あの事件があったことで、両親が私のことを良く思っていないことは痛いほどに分かっていた。それに、姉が悪乗りしたのだろう。
「私からあなたに好意を寄せたことになっているらしく、マルクル家の挨拶をすることになったら、そういう雰囲気に見せなければならないようです」
「それどういうことかな」
「私ははじめ、政略結婚だと思っていました。しかし、手紙を読み進めると、私があなたに好意を寄せ、良い雰囲気になっているらしいから、そろそろ結婚でもしないか、とあなたの家に話を持ち掛けたようなのです」
多分、私の今の顔は苦虫を潰したような表情をしていることだろう。あの家族とは、二度と分かり合えない。そんな気分だ。時がたてば解決してくれると思っていたが、どうやらそう上手くはいかないらしい。
「それは参ったね」
私への当てつけなのだとしたら、一番の被害者はフィンである。
「申し訳ありません。これは私のせいです」
「それは違うでしょ。だから頭を上げてよ」
フィンはただ優しくそう言った。それでもやるせない思いが心の中で渦巻いていた。
珍しく実家から手紙が届き、何事かと開くと、私は思わず声がでてしまった。
「正気なのか……?」
一言でまとめると、そろそろ結婚をしろ。相手としてフィン・マルクルを選んだから、とりあえずお付き合いをしなさい。既に、相手の家にも話をつけてある。そういうことだった。
先日、同じ部屋になったその相手を凝視する。まあ、悪い人ではないのは確かだ。家の階級も同じで、身分としては妥当。いや、それにしても何でまた急に。
「どったのー。何か顔に付いてる?」
まじまじと見すぎたのか、フィンがこちらの投げる視線に気づく。
「いえ、何も。少し、話したいことがあります」
「え、俺何かやらかした?」
書類作業用の小さな机とセットになった椅子に座り、横を向く。
遠まわしにぼかして話しても何の得にもならない。単刀直入に聞くことにした。
実家から、これこれこういう内容の手紙が届いたが、この件について何か聞いているのか、と。
「いや、何もきいてないよー。まあ、俺もそろそろ結婚しろって言われてたから、今日には同じ内容の手紙が届くのかも」
フィンの話を聞いて、考える。
当人たちを置いてきぼりにして、先に親同士で話をつけてあるというのは、もうほとんど逃げ道がないということだ。完全に外堀を埋められている。
「正直に申し上げますと、とある事件があり、私には恋愛を今後するつもりはありませんでした。ですが、これは逃げ道が無いと受け止めなければいけないでしょう」
「そっかー。んー、俺もこの前、十年の片思いが敗れたばかりなんだよね。でも、これは仕方無いことなんじゃないかな」
「左様でしたか」
さて、どうしたものか。
一度、両家を取り囲む周辺の事情を思い出すことにしよう。何故、このような事態になったのか。急に事が動き出したのには、それなりの理由があるはずだ。
我がフローエ家とマルクル家。どちらも領地運営を任されている地主だ。私には兄と姉がひとりずつおり、どちらも家庭を持っている。姉が嫁いだ先はたしか商社だった。ここに理由がありそうだ。しばらく、情報を得なければこの先は分からない。
「ねー、カミルはぶっちゃけ俺のことどう思ってるの?」
思考が停止したところで、フィンに話しかけられる。
「班の仲間としか思っていませんが」
「そういうことじゃなくてさー」
意思の疎通とはかくも難しいことだ。どういう存在と感じているかではなく、いずれは結婚するであろう相手としてどう見ているか、ということを問われたらしい。
「まあ、それほど大きく年齢に差がありませんし、身分も同等です。妥当なところでしょう」
互いに家に繋がりができれば、単純に考えて、融通の利く土地も増えることになる。
「……なるほど」
「うん?」
「この話の真意が分かったような気がします」
まだ確信はできないが、多分そういうことなのだろう。
分かったところで、いい気はしない話だ。それぞれの人間をただの駒としか考えていない、自分の家族に怒りが沸いてくる。
思わず手紙をぐしゃりと握りしめる。
「……もう一つ言わなければならないことがあります」
「どうしたの?」
あの家族は私のことを何だと思っているのか。あの事件があったことで、両親が私のことを良く思っていないことは痛いほどに分かっていた。それに、姉が悪乗りしたのだろう。
「私からあなたに好意を寄せたことになっているらしく、マルクル家の挨拶をすることになったら、そういう雰囲気に見せなければならないようです」
「それどういうことかな」
「私ははじめ、政略結婚だと思っていました。しかし、手紙を読み進めると、私があなたに好意を寄せ、良い雰囲気になっているらしいから、そろそろ結婚でもしないか、とあなたの家に話を持ち掛けたようなのです」
多分、私の今の顔は苦虫を潰したような表情をしていることだろう。あの家族とは、二度と分かり合えない。そんな気分だ。時がたてば解決してくれると思っていたが、どうやらそう上手くはいかないらしい。
「それは参ったね」
私への当てつけなのだとしたら、一番の被害者はフィンである。
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