顔しか取り柄のない俺が魔術師に溺愛されるまで

ゆきりんご

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顔しか取り柄のない俺が魔術師に溺愛されるまで

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 僕を前にした魔術師は、カルテを眺め、こちらに呆れ顔を向けた。

「シャル、これで何度目だ?」
「さあ、数えてないからわからないな」

 魔術師――彼の助手がクロードと呼んでいるのを聞いたことがある――は、人の顔を覚えるのが苦手らしい。たびたびギルド付属の治癒室に運び込まれる俺のことをカルテを見るまですっかり忘れていたようだった。フードを取ると、「ああ、いつものフードを被ってる奴か」とぼやいたのが聞こえた。カルテに「フードの奴」と書いてあるに違いない。

「金があるのか、無いのか分からん奴だ。この一か月に三度も大きな怪我をしていれば、治癒代も馬鹿にならんだろう。いつも言っていると思うが、身の丈に合った依頼を受けるように」

 文句を言いながらも、クロードは片手間に折れた肋骨とひしゃげた左腕を治し終えていた。暗いブラウンの目がこちらを見る。

「あんたは死にたいのか」
「そうかもしれない」

 自分でもよく分からなかった。ただいつもこうして助かってしまうと、死に損なったという感覚があるのは確かだ。
 クロードは最後に具合を確かめるようにぺたぺたと触ると、ふん、と鼻を鳴らした。

「当分、酒は控えるように」

 治癒室を出るまえに、俺はフードを目深に被った。
 酒を控えろ、との注意事項を守らずに、一人で飲み屋に入り浸るのもいつものことだった。夜、ふらふらと流れるようにいつもの店に行く。カウンター席の隅が決まった席となっていた。女性の中では随分な長身のマスターが迎え入れてくれる。この街では珍しい褐色の肌のマスターは豪快で、見ているだけで明るい気分にさせてくれる。

「やあ、いらっしゃい、シャル」
「マスター、いつもの」
「あいよ」

 少し待つと、頼んだものが差し出された。

「どうも」
「シャルは今日もそのフードを被ってるんだな。ギルドの連中には訳アリな奴も多いが、あんたもその口なのかい」
「まあ、そんなところ。何か悪いことをして追われてるとかじゃないから、マスターに迷惑はかけないよ」
「それならいいけどね。追われてるといえば、ずっと行方不明の第二王子様は一体どこに消えてしまったんだろうね」
「そういえばそんな話もあったっけ」
「見つけたら褒賞金が出るんだろう? 一攫千金じゃないか」
「マスターは夢見るタイプだね」
「そりゃそうさ。シャルはそそられないかい?」
「うーん、あんまり」

 のんびりグラスを傾けていると、店内はしだいに賑わってきた。今日は少々、酔っ払いが多いようだ。空いていた隣の席にも人が来た。ちらりと横目に見ると、例の魔術師だった。咄嗟に顔を隠したが、一歩遅かった。

「そのフード、昼間の患者か? 酒は控えるように、と言ったはずだが」
「自分の体をどうしようが、俺の勝手だ」

 酒が不味くなった。これじゃあ楽しめたもんじゃない。そろそろお暇しようかとしたときだった。誰かがぶつかり、フードが取れてしまった。さらに悪いことに、俺はぶつかった人物の方を振り向いてしまった。

「うお、すっげぇ美人。男? でも十分抱けるな。一人だろ。この後どうだ?」
「嫌だね」
「なんだよノリわりぃなぁ。いいだろ、ちょっとだけだ」

 面倒なことになった。

「俺のツレに手を出すな」

 例の魔術師が俺のフードを元に戻し、酔っ払いと対峙していた。長身に切れ長の目、魔術師としては珍しいがっちりとした体系、地の底に響くような低い声は、圧倒的な威圧感を放っており、酔っ払いを追い払うのには充分すぎるほどだった。酔っ払いが尻尾を巻いて逃げると、魔術師は素早く勘定を済ませ、説明もなしに俺の腕を引っ張り、店の外に連れ出した。

「ちょ、ちょっと! あんたも俺の顔狙い?」
「ははっ、面白い冗談だ。随分とその顔に自信があるようだが、あいにく俺は人の顔を区別できない質でな。酒が不味くなった詫びをしてもらうとしよう。ただ、あんたはノンアルコールにすることだ」
「監視するつもりか」
「俺の治癒歴に傷がつくのは避けたいからな」
「なんだそれ」

 別の店に入りなおすと、魔術師は迷いなく店の奥に進んだ。個室である。平民街には珍しい。貴族家出身の俺だって家を飛び出してからは、おいそれと入れないようなところだ。

「ここ、高いんじゃないのか」
「顔を見られるとまずいんだろう」
「まあ……」

 席に着き、頼んだ物が来ると、魔術師は「俺はクロードという。あんたの話を聞いてみたい」とおもむろに言った。どういうことかと聞き返せば、俺の顔と普段の滅茶苦茶なギルドでの活動が関係しているのか気になるとのことだった。

「俺はもともとギルドで依頼を受けて稼がなくたって良い身分だったんだ。子爵家の四男として生まれた」

 社交界デビューを果たすと、顔ばかりを気に入られて次第に嫌気がさした。所作を磨いても知識を付けても剣技が強くなっても、褒められるのは、顔、顔、顔。馬鹿らしくなって家を飛び出した。剣技には多少の覚えがあったから、ギルドで依頼を受けて生活していくことにした。心配性の親は、家出同然に飛び出した俺のことを気にかけていて、なんだかんだと仕送りをしてくれているから、生活に困ることはなかった。ただ自分の居場所を作りたくて依頼を受けていた。仕送りもいつまで続くかわかったものではない。最初はパーティーを組んでいた。しかし、やれ寝取っただのなんだのと難癖をつけられ、パーティーを追放されることが続いた。ここでも顔が邪魔になった。鏡を見るのも、ショーウィンドーの前を通るのも嫌になった。

「それで仕方なくソロで活動してるんだ。こんな顔なんか、ぐちゃぐちゃになればいいのにな……」
「それは……俺には想像の及ばない苦労があったんだな。まだ若いだろうに、いくつだ?」
「24」
「まだ世間知らずの若造だな」

 クロードはわずかに笑った。クロードが笑っているのを見たのは初めてだった。

「そんなことないはずだ」

 俺はむきになって反論した。

「たかが治癒室の魔術師相手に、子爵家の生まれなどと話すのが世間知らずの証拠だ。金をせびられても知らんぞ」

 今度はクロードがこれまでのことを語った。クロードも一昔前まではギルドで依頼を受けて活動していたらしい。人の顔を区別できず、覚えられないために、パーティーを組んでくれる人を探すのも難航したそうだ。ようやく探し出したメンバーと五年ほど二人だけのパーティーを組んでいたが、相手に貯め込んでいたお金を盗られて逃げられてしまったのだという。恋人でもあった相棒の裏切りに絶望し、以来、人を信用できなくなってしまったということだった。

「なんて言葉をかけたらいいか……。クロードはいくつなんだ?」
「32だ。シャルさえよければ、俺とパーティーを組まないか。シャルなら、俺の金を盗る理由がない。俺は人の顔の区別ができないから、シャルが嫌な思いをすることもない」

 悪くない申し出ではある。ソロでの活動に限界を感じているところでもあった。本来ソロでの活動は、勇者と呼ばれるほど腕の立つ人がするものであって、ちょっと腕に自信がある、くらいのレベルの俺がやるものではなかった。だから毎度毎度、治癒室に担ぎ込まれることになる。親の仕送りが無くなった時のことを考えれば、安定して活動できるようにパーティーは組んでいた方がいいことは分かってはいた。

「その話、乗った」

 ◆

 パーティーを組むにあたって、クロードは俺を区別するための目印を寄越した。タグプレートのような形をした首飾りだ。
 宿に向かうと、クロードが「部屋は別がいいだろう」とこちらを気遣ってくれた。

「クロードは俺の顔に興味がないだろ。それなら一緒でも構わない。その方が安くすむ」
「そうは言ってもだな」
「クロードが嫌って言うなら別にするけど」

 結局、同じ部屋になった。他人の目を気にせずに同じ部屋に寝泊まりできるなんて、なんて晴らしいことだろう。用心棒変わりのクロードがいれば、盗みに入ってくる者への防犯にもなる。このあたりは一人だと気を張らなければならず、夜の眠りはどうしても浅くなってしまっていた。
 クロードはかなりの腕利きで、攻撃も補助ももちろん治癒も軽々とこなしていた。

「あんたの魔力、底なしか?」
「魔力量はまあ、多い方だな」

 魔力量が多いということは、クロードもわりといいとこの出身だったりするのだろうか。裕福で食生活に恵まれているほど魔力量が高くなると、一般には言われている。
 おかげで一人だけの時にはてこずっていたレベルの依頼も、難なくこなせるようになった。仲間が一人増えただけで、報酬は二倍以上に増えた。高額な治癒代の出費も減り、仕送りに頼りきりだった俺の生活はだいぶ立て直された。

「すごいな、クロード」

 パーティーを組むことになった飲み屋では来し方を語ってくれたクロードだったが、普段は寡黙で、表情にも乏しい。俺がどんなに褒めても、嬉しそうな反応を示さない。そのくせ、俺がクロードの目の前で着替えようとすると急にうろたえる。顔がわからないなら別に気にしないと言っているのに、なぜかクロードは気にしてくれているようだった。

「シャル、やはり部屋は別にしないか」
「俺はクロードの物を盗ったりしない」
「それは分かっている。その……いびきが気になっていてな」
「そんなにうるさかった? ごめん……」

 寡黙なクロードがわざわざ言うぐらいにはうるさかったのだろう。ちょっとへこんだ。そんなことなら早く言ってくれれば良かったのにという理不尽な怒りと、モヤモヤした気分が広がる。俺の顔を気にしないというクロードの傍は居心地がいい。ただ、必要以上に距離を置かれているような気がしていて、寂しくもあった。自分がこんなに誰かとの距離をもっと縮めたくなる日がくるとは思いもしなかった。

 ◆

 ある日の夜、酔っ払いに絡まれた例の飲み屋に久しぶりに行くことにした。誰かと話したい気分だった。クロードも俺の話を聞いてはくれるが、クロードが何かの反応を示すことは稀だ。人形相手にでも話しているような気分になってきて、それがなんだかむなしくなってくるのだ。

「シャル、久しぶりじゃないか。今日は包帯が無いんだね。元気そうで何よりだ」
「マスター、いつもの。あと、忙しくなかったら話し相手になってくれないかな」
「おうよ。今日は珍しいこと続きじゃないか。何かあったのかい?」
「この前俺が酔っ払いに絡まれた時に咄嗟に助けてくれた魔術師がいたでしょ? 成り行きで彼とバディを組むことになったんだ」
「それはめでたい。君、ずっとその見た目で揉めてきたんだろう? そこらの女性よりもずっと美人という言葉が似合うものな、君。上手くやれそうかい?」
「ああ。彼は人の顔の区別がつかない質でね。気兼ねなく傍にいられるんだけど……」

 差し出されたグラスを揺らす。カラン、と氷が音を立てた。

「気を遣って一歩引いてくれているのがもどかしくって。俺はもっと彼に近づきたいし、近づいてほしいと思ってる」

 信頼できるバディという思いよりも、どろどろとして湿度のある感情だった。こんな感情を誰かに抱いたのは初めてで、この感情の正体がなんであるのかを掴みかねている。
 マスターを見ると、呆けた顔をしていた。

「君、それは……いや、私から言うのは野暮というものかな」

 宿に戻ると、俺の部屋の前にクロードがいた。

「シャル、いないようだったから心配したぞ。飲んでたのか? また酔っ払いに絡まれたりしてないだろうな」
「大丈夫。それよりも何か用?」
「明日の依頼について、確認したいことがあったんだ」

 一通り確認し終えたが、クロードはまだ何か言いたいことがあるような顔をしていた。

「なにかある?」
「いや……なんでもない」
「そう。おやすみ。また明日」
「ああ」

 もしかしたらクロードはバディの解消を考えているのかもしれない。バディを組むことで俺にはたくさんのメリットがあるが、クロードにメリットはあまり無いように思えた。わざわざギルドで依頼を受けなくても、付属の治癒室での仕事があったのだから。それに、ギルドで依頼を受けるにしてもソロで十分やっていけそうなほどにクロードは強い。
 次の日、目的の場所に着くと、以前のパーティーメンバーとかちあってしまった。俺を突然組み敷こうとしてきた、下卑た奴だ。

「よお、シャル。そいつがお前の新しい愛人か? 見た目で決められたくないとか言って、お前も面食いじゃんか」
「違う!」
「違うのか。じゃあ、俺のとこに戻って来いよ。俺は寛大だから前の無礼も許してやるぜ」

 忘れていた。そういえばこいつは、話の通じない奴だった。

「お前のとこには戻らない!」

「シャル、違わないだろう。俺はシャルの恋人だ。シャルは恥ずかしがり屋だからな。お引き取り願おう」

 クロードが、俺の腰に手を添えた。
 奴は舌打ちをして、いなくなった。

「ごめん、クロード。また嘘をつかせてしまった」
「気にするな。これも俺の役目だ」

 以前のパーティーメンバーに会ってしまったのは初めてだったが、似たような嘘は何度もつかせてしまっている。飲み屋での一件依頼、一事が万事、そんな調子だった。俺に寄ってくる虫けらを追い払うのがクロードの役目? そんなわけがない。そこまで頼んだ覚えはない。

「クロード、俺とのバディは面倒だろ」
「そんなことはない」

 本当に付き合えていればこんな苦しいことは無い、などという考えが浮かんできて、俺はようやく掴みかねていた感情の正体に気づいてしまった。俺はクロードが好きなのだ。こんなこと、気づきたくなかった。気づかなければ良かった。
 前に付き合っていたという相手が女性なのか男性なのか分からないし、クロードが相手のどこを好きになったのかも分からないが、俺の顔の良さにクロードは気づけない。変な虫を寄せ付けるだけで、好きな人には気づいてもらえない。顔以外にいいところなんて俺には無いのに。
 俺のメンタルは最悪だったが、依頼の内容はいつも通り滞りなく終わらせられた。それでも身が入っていないのがクロードにも伝わっていたようだ。

「まださっきのこと気にしてんのか」
「ううん」

 宿に戻って一人になると、寂しさでどうにかなりそうだった。8つも年上なのだから、相手がいてもおかしくない。俺は寝静まっているだろうクロードがいる部屋のドアに、「俺とはいないほうがクロードのためになる」という書置きを差し込んだ。理由も添えてある。治癒室での報酬は今よりもずっと良かっただろうし、ソロで活動できた方が取り分は今よりも増える。俺と付き合っているという嘘をつかせたくない。そんなことを書き連ねて眠りについた。次の日、俺はクロードよりも先に起きて宿を後にした。

 ◆

 俺が向かったのは山だった。薬草の採集など、魔物を倒す以外の依頼も多く、人気の場所だ。しかし、久方のソロ活動はやはり困難を極めた。山は体力を持っていかれる。魔物と遭遇した場合の体力は温存しておかなければならない。その塩梅が難しい。
 主に薬草採集をするつもりで山に入ったのだが、俺は今、一体の魔物と対峙していた。魔物は的確に俺の首を狙っていた。クロードから渡された目印のタグプレートは引きちぎられ、魔物の腹の中だ。間一髪のところで首はつながっているが、切り傷ができてしまった。今までの怪我の数々を思えば、まだマシな方だ。補助魔法も攻撃魔法もない戦いが、いかに難しいものだったかを思い知らされている。クロードは俺にとって必要な存在だった。でもクロードにとっては違う。未練を断ち切るためにも、俺はこの魔物を倒さなければいけない。
 剣を強く握り直す。肩に力が入りすぎるのが、俺の悪い癖。息を少し吐く。力をぬいて、魔物の心臓に狙いを定める。――今!
 俺が魔物に剣を突き刺したのと同時に、どこからか魔法が発動していた。

「シャル!」

 真っ黒なローブを翻してやってきたのは、俺が置いてきたはずの人物だった。

「クロード、なんで……?」
「こっちの台詞だ。なんだ、あの書置きは。ギルドの者にシャルがどこに向かったのか問いただすはめになったぞ」
「いや、なんで俺が俺だって分かるの? 首飾り無いのに」
「シャルだけは分かる。顔の区別はつかないが、声や所作で分かる。まったく、また無茶な戦いをしたな。怪我をしている」

 クロードは俺の首筋に手を当てて、治癒魔法を施した。
 俺はクロードの一挙手一投足にどきどきしてしまう。身勝手に置いていったのに、こんな山の中まで追ってきてくれたのも、治癒魔法を施してくれたのも、全部嬉しくなってしまう。
 クロードはほかに俺が怪我をしていないか、くまなく確かめた。

「頼むから、俺にもう心配をかけてくれるな。突然いなくなっていて、肝が冷えた。シャルのことだから盗みはしていないとは思っていたが……」
「うん。もう心配はかけない。バディは解消しよう」
「どうしてそうなる。お前が一人になったら俺は心配しかない」
「……そういう嬉しくなること言うなよ」
「シャル、俺は自惚れてもいいのか。俺ならば、シャルに近づいても拒まれないのか」
「クロードなら平気」

 次の瞬間、俺はクロードの体に包まれていた。

「シャル、好きだ。シャルの声が、仕草が、身のこなし方が、剣の綺麗なさばき方が好きだ。俺には分からないのが心底悔やまれるが、皆が褒めそやすその顔も俺はきっと好きだ」

 今までにない口説き文句が嬉しくて、俺はクロードの腕の中で涙を流した。

 ※

 クロードは俺の肌という肌を撫でまわした。

「……シャルの肌は綺麗だ。傷ができるたびに心を痛めていた」
「でもクロードは治してくれるだろ」
「そういう問題ではない」

 クロードの太い指が、俺の乳首を弾いた。

「ひあっ……」
「声は抑えなくてもいい。防音魔法をかけてあるからな」
「い、いやだっ、きかれたくないっ」

 クロードはしつこいくらいに、後孔をほぐしていた。洗浄魔法をかけられたそこに香油を垂らして、わざと音をたてるようにして弄りまわしている。その香油が安いものではないことを知っている。クロードは一体何者なのだろうか。

「本当にいいのか」
「今更になって聞くな。クロードだったらいいって言ってるだろ」

 クロードのソレが、これでもかというほどに膨張していうのが俺にも見えている。それなのにこちらを気遣ってくるのがもどかしい。

「さっさと覚悟決めて、ソレ、いれろよ」

 俺はクロードの上に跨り、ゆっくりと腰を降ろしていく。

「し、シャル」
「クロードがずっとまごまごしてるのが悪いんだ」

 ソレが俺の中に入っていく。キツイ。でも、弄りまわされただけあって、痛くはなかった。

「うっ、うぅっ……」
「くっ……、シャル、平気か」
「うんっ……あっ」

 一瞬、他とは比べ物にならないくらいに気持ちいい箇所を擦った。

「ここか」

 クロードが腰を動かす。

「あっんあっ、そこ、よすぎるっ……」

 肩を掴む手に力がこもる。クロードも俺の腰を強く掴んで、快楽から逃れることを許してくれない。

「くろーどっ、きもちい、きもちいっ……」

 今までは忌避するだけだったこの行為が、こんなにも気持ちいいものだったなんて。腰を動かすのがやめられない。動くたびに中のモノが擦られて、余計に締め付けてしまう。

「シャル、あまり締め付けるな……」

 クロードは俺の腰を掴んだまま、俺を押し倒した。

「随分と好き勝手動いてくれたな」
「あっ、あぁっ、んあっ……~~っ」

 俺が動いていた時よりもずっと激しい。

「こ、こわれるっ……」
「俺が治してやる」

 剛直が、引いては突き刺してくる。俺はただよがり狂うしかできなくなった。

「ひぅっ、い、いくっ……~~~っ!!」

 クロードはまだ達していないようで、イったばかりの中を容赦なく責め立ててくる。

「うっ、俺もイくっ……~~っ!」

 熱いモノが注がれる。俺はもうぐったりしていた。

「まだ、いけるか」
「む、むり」
「じゃあ、回復魔法かけてやる」
「えっ、あっ、はっ、んああっ……!」

 そうして俺は、回復魔法を使うことによる長時間セックスを強いられることになった。
 ようやくクロードが満足したころには、声がガラガラになっていた。

「少しは手加減しろ……けほっ……」
「すまん」
「き、キスしてくれたら許す」

 軽い口づけを落とされると、すっかり限界だった眠気に耐えられなくなった。

「いびき、うるさかったらごめん」
「気にするな。その話は方便だ」
「はぁ……?」

 深く考える間もなく、俺は瞼が落ちた。

 ◆

 将来を約束しあった俺たちは互いの家に挨拶することになった。クロードが実家に行くと言ってたどり着いたのは王宮だった。

「何かの冗談?」

 クロードが冗談を言う正確でないことは分かっていたが俺は思わず聞いてしまった。

「今まで隠していたが、俺は第二王太子なんだ」
「王太子が同性と結婚していいの……?」
「法律で認められてるんだ。何がダメなんだか分からんな」

 逃げたはずの貴族界。その中でも子爵家なんかよりずっと上の身分になって戻ることになるとは。でもクロードとなら。
 俺はため息を漏らしながらも、先に馬車を降りたクロードの手を取った。
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