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投稿3・催眠術師の告白[鍛冶 英本(仮名)、31歳、男、心理カウンセラー]
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「どうかな?」
男は、対面のソファーに座る少女に問いかけた。女好きのする甘いマスクを被った美形が、笑みを浮かべて。
彼の名前は鍛冶 英本という。つい何ヶ月か前に心療内科として個人の診療所を開業した心理カウンセラーである。
その整った顔立ちや人当たりの良さ、喋りの巧みさに加えたある特技により、彼は何人かのお得意さんを得ることに成功した。眼の前の少女も、その内の1人。
「すっごいです! 本当に、先生の言った通りに皆動きました。催眠術って信じてなかったんですけど」
量産型アイドルを思わせるありきたりな髪型と顔立ちをした少女は、キャッキャ耳障りなほど甲高い声で答えた。人間関係に悩んでいるなどと、一丁前のことを言っていた彼女。子供だましの心理的な詐術を教えてやって、それが少し上手くハマっただけでこの通り他人を信用する。
英本が仕事を順調にこなせるようにそう仕向けたとは言え、なかなかに愚かで滑稽な様子だった。しかし、重要なのは知能ではない。
「それは良かった。あの程度はまだ序の口でね。もっと面白いことができるんだけど、試してみるかい?」
一度貼り付けた笑顔は絶やさず、英本は次の段階へと移るための話を切り出した。ゆっくりと、勿体ぶって。
「そうなんですか? 先生の特技って面白いですから、もっと聞きたいです!」
十分な食いつきだ。少女は、彼の浮かべた笑顔に僅かな変化があったことに気付かなかっただろう。甘い笑みに隠れた、ほくそ笑んだ表情に。
彼は立ち上がると、本棚の上にある香皿に円錐のお香を置いて火をつける。十分に燻ったところでマッチの火を吹き消し、少女に向き直った。漂ってくるのは煙と人工的な整えられた花の香り。
「先生?」
「なに、リラックス効果のあるアロマだよ。気を張っていると、催眠術というのはかかりにくいからね」
「へぇ、そんなんですか」
少し笑顔の混じった真顔で答えてたなら、少女は何の疑いもなく信じてしまう。ただ、言った言葉に嘘はなかった。単なる市販のアルマ線香であり、少し強い目のリラックス効果があるだけのもの。
同じくリラックス効果のあるヒーリング音楽とやらを大きめの音量で、壁に音波が反射するようにしてかける。
「飲み物の用意をしてくるから、心を落ち着けていてくれ」
英本はそう言うと、部屋を出て斜向いの給湯室へと向かった。部屋自体は扉もなく誰でも覗けるが、だからこそ冷蔵庫の直上にある戸棚というのは人に見られ難い。まず変哲もない給湯室を物色する者はいない上、ある程度の背丈がなければ開けられないからである。
戸棚を開くとそこには小さなモニターがあり、先程の部屋の様子を映し出していた。スイッチで切り替え、正面や横手から室内を観察できる。少女はソファーに体を預けて、最初は暇を持て余したように周囲を見渡していた。それも次第に飽きてきたらしく、少し眠そうな締りのない顔で一点を見つめるようになる。こうなったらもう戻っても大丈夫だ。
言い訳の利くように用意していた緑茶をお盆に乗せて、なんでもないように部屋へと戻った。
「おまたせ。粗茶だけど。えー、どうかな?」
「んー、本棚には難しそうな本ばっか。英語の本とか、ブック・オブ・アイ・オー……その、雑誌とかないんですかぁ?」
問いかければ、少女は間延びした声で答えた。なんとも知性に欠いた表情だろうか。
「じゃあ、おいおい始めて行こうか。まず、ボクの目を良く見て。目は逸らさない」
対面に座り直すと、英本は彼女をジッと見据えた。恥ずかしげに視線をずらしてきたが、もとに戻して見つめ合う。次の瞬間、彼女は顔を引きつらせるも別のことに驚いた表情を浮かべた。
もはや、これで彼女は動くことはできない。呂律も回らなくなってきている。
「せん、せい……目、が!」
「青く光っただろう? こうすると、見つめ合っている相手は体が麻痺するんだ。ほら、こうして触っても動けないでしょ」
英本は、獲物をねめつけるかのごとく笑みを浮かべた。アルカイックスマイルとも呼ばれる、作った乾いた笑みだ。そのまま隣へと移動して、同じソファーに腰を下ろす。
そして少女の体を触った。シャツの上から、2つの膨らみになるであろう部分を優しく。彼女は小さく息を吐き出し、嫌悪を露わにして目をうるませる。
「あぁ、泣かないで。君は、喜ぶべきなんだ」
「ヒィッ……。い、や! ひやぁ……」
英本は、彼女の頬を伝う涙を取り出したハンカチで拭き取った。さらなる嫌悪を引き出す行為に、彼女は更に緊張を見せた。
そんなこと構わず、彼は更に言葉を続ける。
男は、対面のソファーに座る少女に問いかけた。女好きのする甘いマスクを被った美形が、笑みを浮かべて。
彼の名前は鍛冶 英本という。つい何ヶ月か前に心療内科として個人の診療所を開業した心理カウンセラーである。
その整った顔立ちや人当たりの良さ、喋りの巧みさに加えたある特技により、彼は何人かのお得意さんを得ることに成功した。眼の前の少女も、その内の1人。
「すっごいです! 本当に、先生の言った通りに皆動きました。催眠術って信じてなかったんですけど」
量産型アイドルを思わせるありきたりな髪型と顔立ちをした少女は、キャッキャ耳障りなほど甲高い声で答えた。人間関係に悩んでいるなどと、一丁前のことを言っていた彼女。子供だましの心理的な詐術を教えてやって、それが少し上手くハマっただけでこの通り他人を信用する。
英本が仕事を順調にこなせるようにそう仕向けたとは言え、なかなかに愚かで滑稽な様子だった。しかし、重要なのは知能ではない。
「それは良かった。あの程度はまだ序の口でね。もっと面白いことができるんだけど、試してみるかい?」
一度貼り付けた笑顔は絶やさず、英本は次の段階へと移るための話を切り出した。ゆっくりと、勿体ぶって。
「そうなんですか? 先生の特技って面白いですから、もっと聞きたいです!」
十分な食いつきだ。少女は、彼の浮かべた笑顔に僅かな変化があったことに気付かなかっただろう。甘い笑みに隠れた、ほくそ笑んだ表情に。
彼は立ち上がると、本棚の上にある香皿に円錐のお香を置いて火をつける。十分に燻ったところでマッチの火を吹き消し、少女に向き直った。漂ってくるのは煙と人工的な整えられた花の香り。
「先生?」
「なに、リラックス効果のあるアロマだよ。気を張っていると、催眠術というのはかかりにくいからね」
「へぇ、そんなんですか」
少し笑顔の混じった真顔で答えてたなら、少女は何の疑いもなく信じてしまう。ただ、言った言葉に嘘はなかった。単なる市販のアルマ線香であり、少し強い目のリラックス効果があるだけのもの。
同じくリラックス効果のあるヒーリング音楽とやらを大きめの音量で、壁に音波が反射するようにしてかける。
「飲み物の用意をしてくるから、心を落ち着けていてくれ」
英本はそう言うと、部屋を出て斜向いの給湯室へと向かった。部屋自体は扉もなく誰でも覗けるが、だからこそ冷蔵庫の直上にある戸棚というのは人に見られ難い。まず変哲もない給湯室を物色する者はいない上、ある程度の背丈がなければ開けられないからである。
戸棚を開くとそこには小さなモニターがあり、先程の部屋の様子を映し出していた。スイッチで切り替え、正面や横手から室内を観察できる。少女はソファーに体を預けて、最初は暇を持て余したように周囲を見渡していた。それも次第に飽きてきたらしく、少し眠そうな締りのない顔で一点を見つめるようになる。こうなったらもう戻っても大丈夫だ。
言い訳の利くように用意していた緑茶をお盆に乗せて、なんでもないように部屋へと戻った。
「おまたせ。粗茶だけど。えー、どうかな?」
「んー、本棚には難しそうな本ばっか。英語の本とか、ブック・オブ・アイ・オー……その、雑誌とかないんですかぁ?」
問いかければ、少女は間延びした声で答えた。なんとも知性に欠いた表情だろうか。
「じゃあ、おいおい始めて行こうか。まず、ボクの目を良く見て。目は逸らさない」
対面に座り直すと、英本は彼女をジッと見据えた。恥ずかしげに視線をずらしてきたが、もとに戻して見つめ合う。次の瞬間、彼女は顔を引きつらせるも別のことに驚いた表情を浮かべた。
もはや、これで彼女は動くことはできない。呂律も回らなくなってきている。
「せん、せい……目、が!」
「青く光っただろう? こうすると、見つめ合っている相手は体が麻痺するんだ。ほら、こうして触っても動けないでしょ」
英本は、獲物をねめつけるかのごとく笑みを浮かべた。アルカイックスマイルとも呼ばれる、作った乾いた笑みだ。そのまま隣へと移動して、同じソファーに腰を下ろす。
そして少女の体を触った。シャツの上から、2つの膨らみになるであろう部分を優しく。彼女は小さく息を吐き出し、嫌悪を露わにして目をうるませる。
「あぁ、泣かないで。君は、喜ぶべきなんだ」
「ヒィッ……。い、や! ひやぁ……」
英本は、彼女の頬を伝う涙を取り出したハンカチで拭き取った。さらなる嫌悪を引き出す行為に、彼女は更に緊張を見せた。
そんなこと構わず、彼は更に言葉を続ける。
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