エッチィ用語を現代語訳するエッセイ「顔・射」

AAKI

文字の大きさ
5 / 11
5.「私達を白濁に染めて」

しおりを挟む
「これで、後は起動するだけか」

 古市 タカヒロは、ベッドに横たわった女性を模した人形を前にため息混じりに呟いた。友人というほどではないまでも大学で付き合いのある知り合いから、男子としての助け合いを求められ譲られるに至ったモノだ。

「なぁにがちょっと故障したからもらってくれだ」

 愚痴など言いつつも、再起動に挑戦するぐらいにはタカヒロは期待してしまっていた。

 そう思うのも、目の前で眠るソレはただの人形ではなく『トークロイド』と呼ばれるアンドロイドだからである。大学生のタカヒロには過ぎた代物ではあるが、明確な使い道があるのであれば高い買い物でもない。

 言葉で仕事するのであれば補佐も可能な程度の人工知能AIを搭載している。

「旧式とは言ってもここまで精巧なら十分か。ゴクリ……」

 うなじにある起動ボタンを押し込んでから独りごちること数度、『トークロイド Y2ver.1』ことユーツーがまぶたを開いた。切れ長の目に鼻筋の通った顔立ち。それでいて幼さを残すアンドロイドの顔に、生唾を飲んでしまうのは仕方のないこと。

 日本人向けモデルとして作られた黒いセミロングのストレートヘアーを揺らし、ユーツーはゆっくりと上体を起こす。

「新規マスター、所有者登録をお願いします。姓名、望む呼称、生年月日、住所ならびに電話番号が最低限必要です」

 タカヒロの姿を確認すると同時に、ユーツーは整流のせせらぎにも似たソプラノの音色で要求してくる。

「あ、えっと、あー。リセットしてあるっていうのは本当みたいだな」

 緊張のあまり必要な情報が出てこなかったため、前の持ち主から聞いていた話を口にしてしまう。業者を通さない不正式の譲渡はあまり良いことではないので、誰かに聞かれては事だ。

「マスター?」

「あ、ごめん。えっと――」

 小首をかしげるユーツーの仕草が可愛らしくも催促しているように感じ、タカヒロは気持ちを落ち着かせて必要事項を伝えた。

「――電話番号は言ったから、住所が――」

 問われた項目を思い出しながら順不同で答えていく。AIのおかげか、ちゃんと識別してくれるのは助かった。

「――ハイツ・ふるいち、通称霊外れいがいアパート。あ、最後のはなし!」

「はい。はい?」

 タカヒロは発した言葉を取り消そうとした。ユーツーは、一瞬だけ受理しかけて決定を取り消した。

 都内郊外の端に立てられた古アパートを、知る人はそう呼んだ。

「とりあえず、ハイツ・ふるいちとして登録します。では、よろしくおねがいします、マスター」

「マスターって呼称も変えるべきか。とりあえず、さっそくだがちょっと部屋を出てくれ」

 登録などに時間をかけたため、日こそまたいでいないが時刻はそこそこの夜中。タカヒロとて処理しておきたいことがあるのだ。

 特に――生殖機能のないアンドロイドとはいえ――女性の前ではできないことなど特にである。

 しかし、ユーツーからは予想外の答えが返ってくる。

「そのような指示、軽蔑します、マスター」

「はい?」

 女性に本気でにらまれるという経験に戸惑い、最初何を言っているのかとタカヒロは思案した。そしてすぐに理解する。

「チィッ! アイツ、『トークロイド』に何をやらせようとしている!」

 大学の知人がどうしてユーツーを譲ったのか。それは、モテない男としては一度くらい夢見るしゃべるダッチなワイフあつかい。その残骸であった。

「アンドロイド権利法に従ってください」

「いや、今のは普通の指示だろ。壊れてたって、こんなんになるまで何を命令しようと……」

 生殖器もなければホログラムの衣装も脱がすことはできない、そんなアンドロイドにさえ人権に当たるものがある。それを無視しようとすればこうなるわけだ。

「お願いだから、ちょっと出ていって」

「そのような指示、軽蔑します、マスター」

「どんな命令も指示もお願いも、こうなるのか……」

 タカヒロは、言い方を変えても無駄だと理解してため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...