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カオルちゃんないちゃった
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カオルちゃんは、ワンワーンと泣きながら道を歩きます。
学校からの帰り道で、ちょうど町の交番の前を通ります。
それを見つけて呼び止めるのは、この町でおまわりさんをしているコウジさんという男性です。
「カオルちゃん、どうして泣いているんだい?」
コウジさんにたずねられて、カオルちゃんは交番の前で立ち止まってグスグスと鼻を啜ります。カオルちゃんはうつむかせていた顔を上げて、心配そうにしているコウジさんを見ました。
泣いている理由自体は、友達のうっかりした一言のせいでした。
「……ちゃんがね、言ったの」
「うん? 友達がどうしたんだい?」
うまく聞き取れないものの、コウジさんは推測から聞き直しました。
「グスッ……。コウジさん……ウェッ」
その問いで、友達の言葉を深く思い出してしまったのでしょう。おさえようとしていた涙が、ブワッと溢れ出してしまいました。
また、カオルちゃんは泣き出しました。
これにはコウジさんも慌てました。
「わぁぁ! カオルちゃん、困るよ!」
コウジさんは周りへのめいわくも考えて、カオルちゃんを交番の中へと案内しました。
椅子に座らせて、お茶なんかも出しながらカオルちゃんが泣き止むのを待ちます。コウジさんの先輩で上司にあたる老齢のおまわりさんは、代わりにパトロールへ行ってくれました。
10分ほどしてようやく、カオルちゃんはなんとか落ち着きをとり戻しました。
「ズズッ……コウジさん、ごめんなさい」
カオルちゃんは、グシグシと涙などを拭ってまともな言葉を発しました。謝ることも忘れません。
「大丈夫だよ」
コウジさんは謝罪を受けて、ほほ笑みながら応えました。
カオルちゃんは、出された少し温かいお茶を飲みます。
「それで、お友達が何を言ったんだい? 困っていることがあれば力になるよ」
コウジさんは、タイミングを見て話の続きを聞こうとしました。イジメなどでないことを信じたいのです。
「その……えっと……一週間くらい前なのですが」
カオルちゃんは、どこから話せば良いかを考えた後、最初に起こった事件について話し始めました。
コウジさんはその話をまじめな顔で聞きます。
「お父さんが、お酒を飲んで家に帰ってきたのです。げんかんで寝てしまいそうになりました」
働くお父さんの良くある日常です。
「あ母さんはお父さんを起こそうとしましたが、よっぱらっていてちょっとだけ暴れたのです」
カオルちゃんは気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと話を続けました。
コウジさんには経験はありませんが、先輩のおまわりさんなどはお酒を飲みすぎるとときどきそうなります。
「お母さんも怒ってしまって、お父さんのことを爪で引っ掻きました。そこからは、困っている私を放って2人ともケンカを始めました」
「犬も食わないという奴だね」
「犬、ですか?」
カオルちゃんの話を聞いて、コウジさんは苦笑を浮かべました。
けれど、カオルちゃんには分かりづらいことだったようです。
「ごめん、ごめん。夫婦のケンカほどくだらないものはないってことかな」
「そうなんですか?」
コウジさんの言葉に、カオルちゃんは首を横にかしげました。
「その日のことについては、確かに、お父さんもお母さんも仲直りしました」
仲直りまでにもいろいろと問題があったようですが、なんとか治まったようです。カオルちゃんが言うには、
お父さんがお母さんに「危ない爪なんて切ってしまえ」と怒鳴ったのです。さらに、「別れよう」とも言ったらしいです。
それでも、次の日にはお父さんがお母さんにプレゼントを買ってきて、なんとかなったようでした。
しかし、それで終わればカオルちゃんが泣いたりはしません。
「仲直りしたなら良いじゃないか」
「それが、つい一昨日にも、同じようなことでケンカを始めてしまったのです」
コウジさんの言葉に、カオルちゃんはまた泣き顔になってしまいました。
なんとか涙を堪えますが、発される言葉は見えて少なくなります。
「今度も、お父さんが謝って、プレゼントで仲直りすると……」
「思っていたけど、違った?」
カオルちゃんの言葉の続きを、コウジさんが口にします。
カオルちゃんはうなづきます。
「……ちゃんに、相談したら」
カオルちゃんは、言葉を詰まらせながらも少しずつ話していきました。
友達は、なぐさめるつもりだったのか、ただ軽口のつもりだったのか、もっともカオルちゃんが心配していることを言ってしまったのです。
「お父さんと、お母さん、離婚してしまうのではないかって……」
今度こそ、両親の仲直りが叶わない可能性を、話してしまったのです。
事情を知ったコウジさんは、とても困ってしまいました。
なぜなら、カオルちゃんをなぐさめる言葉はかけられても、その両親に対して何かできるわけではないからです。
「そうか。そうなると、内政不干渉があるからおまわりさんじゃどうしようもないね……」
「ないせい? なんです?」
「ごめん、難しかったね。ないせい、ふかんしょう、て言ってね」
カオルちゃんではわからない言葉を使ってしまったので、コウジさんは簡単に説明します。
「わかりやすく言うと、ご両親が仲直りするかどうかは、家族の人以外にはどうしようもないってこと」
その程度の説明ですが、カオルちゃんはなっとくした様子でした。
しかし、それと同時にカオルちゃんを落ち込ませることになります。
「ヒクッ……うぅ……昨日、家を出て、ヒコーキで」
こらえていた涙が、また流れ始めてしまいました。ポロポロと、真珠のような粒が握りしめた手の上に落ちました。
カオルちゃんのお母さんは、ついに実家へ帰ってしまったようです。
コウジさんは慌てて、なぐさめるための言葉を探します。
「あー、えっと、そう。『ねこふんじゃった』みたいなものだよ」
「ねこ……?」
良くわからない例えですが、カオルちゃんの顔を上げさせることには成功しました。
「あの歌の中で、猫がどうなったのかは知ってるかな?」
コウジさんはたずねます。
ピアノ独奏曲の変ト長調または嬰ヘ長調を示す音楽のことです。作者は不明で、国によって『いぬのポルカ』や『いぬのワルツ』、『ノミのワルツ』『ノミのマーチ』など多数の名前があります。
カオルちゃんにそこまで細かいことは知りませんが、コウジさんの言う曲名はわかります。
「えっと、音楽は知っていますけど歌詞、までは……」
カオルちゃんは、コウジさんの問いに対して答えられませんでした。
歌詞の内容はおかしくて理解の難しいものです。なので、代わりにコウジさんが歌詞を言います。
「ネコは踏まれて、踏んだ相手を爪でひっかくんだ」
「えっと、確か、仲直りするんでしたよね?」
「そう、一度目はカツオブシを与えて仲直りする」
説明される内容は、まるでカオルちゃんの両親のことを表しているように思えました。
コウジさんが先ほど言った通り、『ネコふんじゃった』のように両親の関係も進むのではないかとも思えます。
「それで、最後にはどうなるのです?」
「まぁ、落ち着いて。歌の中でも、2度目のケンカをするのさ」
歌詞を読み解くと、ふまれたネコが2度目のケンカで空へ飛んでいったとあります。
これはヒコーキに乗って、それを皆が見送ったのだとコウジさんは言います。
「けど、最後には、次の朝には戻ってくるよう言っているんだ」
コウジさんの言葉通りならと、カオルちゃんは考えます。
「お母さんは、戻ってくるのですか?」
「戻ってくるとも!」
カオルちゃんの問いに、コウジさんはこたえました。
そのこたえが確実なものではないと知っているのは、カオルちゃんもです。
けれどカオルちゃんにはそれが嬉しかったのです。例え、それが本当にならなくてもです。
「……ありがとうございます」
そう言って、カオルちゃんは涙をふきました。
泣き止んでくれて、コウジさんも一安心したようです。
「さて、遅くなっても駄目だから、今日は帰ったほうが良いよ」
「はい。お世話になりました」
コウジさんに言われて、カオルちゃんもイスから立ち上がってお礼を言います。
カオルちゃんは交番を出て、家への帰り道を進みました。
そして翌日のことです。学校の帰り道、交番の前に立つコウジさんをカオルちゃんは見かけると、駆け寄っていきます。
「コウジさん、昨日はありがとうございました」
カオルちゃんはとても嬉しそうに言うと、頭を下げました。
「問題は解決したみたいだね」
何があったのかをだいたい察したコウジさんは、笑顔を返しました。
「はい、昨日の夜にお母さんから電話がありました」
「ふんふん、それでなんて?」
カオルちゃんが喜んでいるので、たずねなくてもわかったかもしれません。
「後数日、お爺ちゃんお婆ちゃんの家で羽根を伸ばしたら帰ってくると、言っていました」
「それは良かったね」
「本当に、ありがとうございました」
何故かカオルちゃんにお礼を言われてしまいました。
けれど、コウジさんは別に話を聞いてあげて、『ネコふんじゃった』の歌詞を教えてあげただけです。お礼を言われるようなことなど何一つありません。
「いやいや、大したことはしていないよ」
「そんなことはありません! コウジさんがいなければ、どうして良いかわからなかったと思います……」
カオルちゃんは首を横に振るとそうこたえました。
交番でのおまわりさんの仕事は、平穏そのものです。なので、町の人たちのためになっている実感は少ないようです。
それを考えれば、カオルちゃんの言葉はコウジさんのやる気に火をつけます。
「それでは、これからも頑張ってください」
「あぁ、気をつけておかえり」
カオルちゃんは頭を下げて別れの挨拶をしました。コウジさんも、カオルちゃんの後ろ姿を見送りました。
いつも以上に、カオルちゃんの歩く姿が弾んでいるように見えたことでしょう。
そこへ、クラスメイトらしき女の子が近づいていきます。
どうやら、昨日、うっかりカオルちゃんを傷つけることを言ってしまった友達のようです。
女の子は何かを謝ったようで、カオルちゃんはそれを笑って許します。
そして、2人仲良く帰っていきました。
学校からの帰り道で、ちょうど町の交番の前を通ります。
それを見つけて呼び止めるのは、この町でおまわりさんをしているコウジさんという男性です。
「カオルちゃん、どうして泣いているんだい?」
コウジさんにたずねられて、カオルちゃんは交番の前で立ち止まってグスグスと鼻を啜ります。カオルちゃんはうつむかせていた顔を上げて、心配そうにしているコウジさんを見ました。
泣いている理由自体は、友達のうっかりした一言のせいでした。
「……ちゃんがね、言ったの」
「うん? 友達がどうしたんだい?」
うまく聞き取れないものの、コウジさんは推測から聞き直しました。
「グスッ……。コウジさん……ウェッ」
その問いで、友達の言葉を深く思い出してしまったのでしょう。おさえようとしていた涙が、ブワッと溢れ出してしまいました。
また、カオルちゃんは泣き出しました。
これにはコウジさんも慌てました。
「わぁぁ! カオルちゃん、困るよ!」
コウジさんは周りへのめいわくも考えて、カオルちゃんを交番の中へと案内しました。
椅子に座らせて、お茶なんかも出しながらカオルちゃんが泣き止むのを待ちます。コウジさんの先輩で上司にあたる老齢のおまわりさんは、代わりにパトロールへ行ってくれました。
10分ほどしてようやく、カオルちゃんはなんとか落ち着きをとり戻しました。
「ズズッ……コウジさん、ごめんなさい」
カオルちゃんは、グシグシと涙などを拭ってまともな言葉を発しました。謝ることも忘れません。
「大丈夫だよ」
コウジさんは謝罪を受けて、ほほ笑みながら応えました。
カオルちゃんは、出された少し温かいお茶を飲みます。
「それで、お友達が何を言ったんだい? 困っていることがあれば力になるよ」
コウジさんは、タイミングを見て話の続きを聞こうとしました。イジメなどでないことを信じたいのです。
「その……えっと……一週間くらい前なのですが」
カオルちゃんは、どこから話せば良いかを考えた後、最初に起こった事件について話し始めました。
コウジさんはその話をまじめな顔で聞きます。
「お父さんが、お酒を飲んで家に帰ってきたのです。げんかんで寝てしまいそうになりました」
働くお父さんの良くある日常です。
「あ母さんはお父さんを起こそうとしましたが、よっぱらっていてちょっとだけ暴れたのです」
カオルちゃんは気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと話を続けました。
コウジさんには経験はありませんが、先輩のおまわりさんなどはお酒を飲みすぎるとときどきそうなります。
「お母さんも怒ってしまって、お父さんのことを爪で引っ掻きました。そこからは、困っている私を放って2人ともケンカを始めました」
「犬も食わないという奴だね」
「犬、ですか?」
カオルちゃんの話を聞いて、コウジさんは苦笑を浮かべました。
けれど、カオルちゃんには分かりづらいことだったようです。
「ごめん、ごめん。夫婦のケンカほどくだらないものはないってことかな」
「そうなんですか?」
コウジさんの言葉に、カオルちゃんは首を横にかしげました。
「その日のことについては、確かに、お父さんもお母さんも仲直りしました」
仲直りまでにもいろいろと問題があったようですが、なんとか治まったようです。カオルちゃんが言うには、
お父さんがお母さんに「危ない爪なんて切ってしまえ」と怒鳴ったのです。さらに、「別れよう」とも言ったらしいです。
それでも、次の日にはお父さんがお母さんにプレゼントを買ってきて、なんとかなったようでした。
しかし、それで終わればカオルちゃんが泣いたりはしません。
「仲直りしたなら良いじゃないか」
「それが、つい一昨日にも、同じようなことでケンカを始めてしまったのです」
コウジさんの言葉に、カオルちゃんはまた泣き顔になってしまいました。
なんとか涙を堪えますが、発される言葉は見えて少なくなります。
「今度も、お父さんが謝って、プレゼントで仲直りすると……」
「思っていたけど、違った?」
カオルちゃんの言葉の続きを、コウジさんが口にします。
カオルちゃんはうなづきます。
「……ちゃんに、相談したら」
カオルちゃんは、言葉を詰まらせながらも少しずつ話していきました。
友達は、なぐさめるつもりだったのか、ただ軽口のつもりだったのか、もっともカオルちゃんが心配していることを言ってしまったのです。
「お父さんと、お母さん、離婚してしまうのではないかって……」
今度こそ、両親の仲直りが叶わない可能性を、話してしまったのです。
事情を知ったコウジさんは、とても困ってしまいました。
なぜなら、カオルちゃんをなぐさめる言葉はかけられても、その両親に対して何かできるわけではないからです。
「そうか。そうなると、内政不干渉があるからおまわりさんじゃどうしようもないね……」
「ないせい? なんです?」
「ごめん、難しかったね。ないせい、ふかんしょう、て言ってね」
カオルちゃんではわからない言葉を使ってしまったので、コウジさんは簡単に説明します。
「わかりやすく言うと、ご両親が仲直りするかどうかは、家族の人以外にはどうしようもないってこと」
その程度の説明ですが、カオルちゃんはなっとくした様子でした。
しかし、それと同時にカオルちゃんを落ち込ませることになります。
「ヒクッ……うぅ……昨日、家を出て、ヒコーキで」
こらえていた涙が、また流れ始めてしまいました。ポロポロと、真珠のような粒が握りしめた手の上に落ちました。
カオルちゃんのお母さんは、ついに実家へ帰ってしまったようです。
コウジさんは慌てて、なぐさめるための言葉を探します。
「あー、えっと、そう。『ねこふんじゃった』みたいなものだよ」
「ねこ……?」
良くわからない例えですが、カオルちゃんの顔を上げさせることには成功しました。
「あの歌の中で、猫がどうなったのかは知ってるかな?」
コウジさんはたずねます。
ピアノ独奏曲の変ト長調または嬰ヘ長調を示す音楽のことです。作者は不明で、国によって『いぬのポルカ』や『いぬのワルツ』、『ノミのワルツ』『ノミのマーチ』など多数の名前があります。
カオルちゃんにそこまで細かいことは知りませんが、コウジさんの言う曲名はわかります。
「えっと、音楽は知っていますけど歌詞、までは……」
カオルちゃんは、コウジさんの問いに対して答えられませんでした。
歌詞の内容はおかしくて理解の難しいものです。なので、代わりにコウジさんが歌詞を言います。
「ネコは踏まれて、踏んだ相手を爪でひっかくんだ」
「えっと、確か、仲直りするんでしたよね?」
「そう、一度目はカツオブシを与えて仲直りする」
説明される内容は、まるでカオルちゃんの両親のことを表しているように思えました。
コウジさんが先ほど言った通り、『ネコふんじゃった』のように両親の関係も進むのではないかとも思えます。
「それで、最後にはどうなるのです?」
「まぁ、落ち着いて。歌の中でも、2度目のケンカをするのさ」
歌詞を読み解くと、ふまれたネコが2度目のケンカで空へ飛んでいったとあります。
これはヒコーキに乗って、それを皆が見送ったのだとコウジさんは言います。
「けど、最後には、次の朝には戻ってくるよう言っているんだ」
コウジさんの言葉通りならと、カオルちゃんは考えます。
「お母さんは、戻ってくるのですか?」
「戻ってくるとも!」
カオルちゃんの問いに、コウジさんはこたえました。
そのこたえが確実なものではないと知っているのは、カオルちゃんもです。
けれどカオルちゃんにはそれが嬉しかったのです。例え、それが本当にならなくてもです。
「……ありがとうございます」
そう言って、カオルちゃんは涙をふきました。
泣き止んでくれて、コウジさんも一安心したようです。
「さて、遅くなっても駄目だから、今日は帰ったほうが良いよ」
「はい。お世話になりました」
コウジさんに言われて、カオルちゃんもイスから立ち上がってお礼を言います。
カオルちゃんは交番を出て、家への帰り道を進みました。
そして翌日のことです。学校の帰り道、交番の前に立つコウジさんをカオルちゃんは見かけると、駆け寄っていきます。
「コウジさん、昨日はありがとうございました」
カオルちゃんはとても嬉しそうに言うと、頭を下げました。
「問題は解決したみたいだね」
何があったのかをだいたい察したコウジさんは、笑顔を返しました。
「はい、昨日の夜にお母さんから電話がありました」
「ふんふん、それでなんて?」
カオルちゃんが喜んでいるので、たずねなくてもわかったかもしれません。
「後数日、お爺ちゃんお婆ちゃんの家で羽根を伸ばしたら帰ってくると、言っていました」
「それは良かったね」
「本当に、ありがとうございました」
何故かカオルちゃんにお礼を言われてしまいました。
けれど、コウジさんは別に話を聞いてあげて、『ネコふんじゃった』の歌詞を教えてあげただけです。お礼を言われるようなことなど何一つありません。
「いやいや、大したことはしていないよ」
「そんなことはありません! コウジさんがいなければ、どうして良いかわからなかったと思います……」
カオルちゃんは首を横に振るとそうこたえました。
交番でのおまわりさんの仕事は、平穏そのものです。なので、町の人たちのためになっている実感は少ないようです。
それを考えれば、カオルちゃんの言葉はコウジさんのやる気に火をつけます。
「それでは、これからも頑張ってください」
「あぁ、気をつけておかえり」
カオルちゃんは頭を下げて別れの挨拶をしました。コウジさんも、カオルちゃんの後ろ姿を見送りました。
いつも以上に、カオルちゃんの歩く姿が弾んでいるように見えたことでしょう。
そこへ、クラスメイトらしき女の子が近づいていきます。
どうやら、昨日、うっかりカオルちゃんを傷つけることを言ってしまった友達のようです。
女の子は何かを謝ったようで、カオルちゃんはそれを笑って許します。
そして、2人仲良く帰っていきました。
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