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けっきょく子ネコちゃんはどうなったのか
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カオルちゃんの前から自転車に乗ってやってくるのは、制服を着たおまわりさんです。
この町にやってきたすぐに、引っこし先をたずねたとき、やさしくていねいにおしえてくれた人です。町の交番の、りっぱなおまわりさんです。
チリンチリンと自転車のベルをならして、コウジさんはカオルちゃんに手を振ります。
自転車は止まりました。ただ、あまり不ひつ要なときに自転車のベルをならすのはやめたほうが良いです。コウジさん自身が言っていたのを思い出して、カオルちゃんは少し笑ってしまいました。
短く切りそろえた黒い髪が、ふわふわと揺れます。
「フフッ。こんにちは、コウジさん」
カオルちゃんはコウジさんにあいさつしました。
「こんにちは、楽しそうだね。カオルちゃんは散歩かな?」
コウジさんもカオルちゃんにあいさつをしてから、たずねました。
「はい。町のことを知りたいですから」
カオルちゃんは答えました。
こちらの学校に通うことになって、一週間くらいがたちました。今日は、学校への道とは別の道を見て回ることにしています。
「それは嬉しいな。でも、迷子にならないよう気をつけてね」
コウジさんも笑い返してくれました。そして、さらに言葉を続けます。
「その迷子のことなんだけど、僕も女の子を探しているんだ」
「迷子がさらに迷子になったのですか?」
「電話をするのに少し目をはなしたすきにいなくなってしまったよ
「それは大変ですね」
「白いお洋服を着た子だよ」
「見つけたら交番につれていきますね」
「助かるよ」
カオルちゃんとコウジさんは会話を終わらせて、手をふり合って別れました。
コウジさんが自転車をこいで去ったのを見送って、カオルちゃんも町を見て回るために歩を進めます。
向かう先を決めていたわけではありませんが、公園があると学校の友達から聞いていました。
公園へ向かうとちゅう、なんとなく歌を歌ってしまいます。
「まいごの~♪ まいごの~♪ 子ネコちゃん~♪」
『犬のおまわりさん』という子供向けの歌です。
カオルちゃんは小さいころからぎもんをかんじていたことがあります。
歌のさいごで、まいごの子ネコちゃんはどうなったのでかというものです。
お父さんは、子ネコちゃんがお家に帰れずに、歌が終わると言っていました。お母さんは、お家に帰ることができたと言います。
どちらが本当なんでしょうか?
ぎもんについて考えている間に、公園にたどり着きます。
「あれは?」
公園を見ると、白いお洋服を着た少女がいることにカオルちゃんは気づきました。
うぇーんうぇんと泣いていますが、周りに大人の人はいません。
幸いにも交番からは遠くないので、コウジさんとの約束どおりカオルちゃんが連れて行くことにします。
「ねぇ、あなた」
カオルちゃんは女の子に近づいて話しかけました。
女の子は振り向きますが、お母さんでもお父さんでもなかったことがわかって、泣くのを続けます。
「……泣き止んでくれないかしら?」
「ひっぐ……うわぁん、うわぁんっ」
カオルちゃんは何とかなだめようとしますが、泣き止んでくれませんでした。
カオルちゃんはどうして良いかわかりません。犬のおまわりさんではありませんが、困ってしまって「うーん、うーん」とうなります。
「お家は近くなのかしら?」
カオルちゃんは住所を聞きますが、女の子はグズグズと泣きながら首を横に振りました。
「そうなのね」
「ヒック……」
「お名前を聞いても良いかしら?」
「……」
女の子だとか、あなただとか、呼ぶような年の差でもないのでカオルちゃんは名前を聞こうとしました。
やっぱり女の子は首を横に振って答えません。これでは犬のおまわりさんが困ってしまうのもわかります。
しかし、コウジさんと約束したので交番まで送り届けなければなりません。
カオルちゃんは女の子の手をソッと握ってみます。怖がられないことを確認した後、ゆっくりと歩き出します。
「交番へ行きましょう」
「……ヒクッ」
できるかぎり安心させるために、カオルちゃんはニッコリと笑って見せました。
「おまわりさんがお父さんやお母さんを見つけてくれますよ」
カオルちゃんは、つないだ手をしっかりと握り直します。
女の子をつれて、カオルちゃんは交番のある方向へ向かって進みます。
進んでいくのですが、気がつくと見おぼえのないところに出ていました。
まるで50年くらい昔に戻ったような気がする町並みが広がっています。カオルちゃんは、おじいちゃんやおばあちゃんの家で、アルバムの中でしか見たことしかありませんが。
「これはどういうことでしょう?」
カオルちゃんは周囲を見渡しました。
「ぐすん……」
女の子は、その様子を見てまた泣き声を大きくし始めます。
カオルちゃんは慌てて、女の子を泣き止ませようとがんばって笑顔を浮かべます。
「大丈夫、ですよ……!」
女の子をそう安心させて、古い町を歩きます。
家をかこむカベが木の板でできている家庭は、さいきんはそれほど多くみません。
けれど、カオルちゃんたちが進む道は木の板でできたカベにはさまれています。
そのとちゅう、カオルちゃんたちは黒いお着物の人を見つけました。カオルちゃんのお父さんやお母さんより、少し若いくらいに見える女の人でした。
「そこのおねえさん、この子がどこの子か知りませんか?」
歩いている町がどの辺りなのかを聞きたかったのですが、グッとこらえました。
交番のある方向はわかっていますし、女の子が不安になってしまうと思ったからです。
「……わからないわ」
着物の女の人は少し考えました。
けれど、知らないようです。
「すみませんでした」
カオルちゃんは頭を下げてから、着物の女の人からはなれました。
カオルちゃん達はさらに町を進んでいきます。
すると、黄色のような茶色い髪の毛と、こげ茶色のティーシャツを着た男の人を見つけます。
「あの、おたずねして良いでしょうか?」
カオルちゃんは、その後姿に話しかけました。
女の子は、男の人が怖いのか手を強く握ってきます。けれど、ぐずってはいても泣き出しそうな様子はありません。
「なに?」
茶色が目立つ男の人は振り向きました。
「……あの、この子のことを知りませんか?」
カオルちゃんも、男の人が少しだけ怖かったです。しかし、勇気を出してたずねました。
「えーと、知らないな」
男の人は、女の子をジッと見てから答えました。
カオルちゃんが頭を下げるよりも早く、男の人はさっさと歩き去ってしまいましす。
「急いでいるところ、すみませんでした」
遠くへ行ってしまう男の人の背中に、カオルちゃんはしっかり頭を下げました。
やっぱり女の子については何もわかりません。
カオルちゃん達は再び歩き出します。
しばらく見知らぬ町並みを進んで行くと、今度は町のゴミを清掃している人達を見かけます。
ゴミ捨て場らしいところの前で、車を止めています。
背の低いおじさんは、ホウキを持って道路をそうじします。
若い男性は、ちりとりでゴミを集めます。
ゴミ袋に白いかたまりを放り込みました。
「すみません、この子について知りませんか?」
男の人たちの仕事が止まったところで、カオルちゃんは声をかけました。
「えーと」
最初に、背の低いおじさんが振り向きました。
続いて若い男の人です。
「その子のことね」
男の人たちは女の子を見て、少し考えるような仕草をしました。
10秒ほどしてから、男の人たちは同じ意味の言葉を話しました。
「わからないね」
「知らないよ」
やっぱり、女の子の家も名前もわかりませんでした。
男の人たちが、カオルちゃんたちに「ごめんよ」と言って車に乗り込みます。
ブロロロと軽トラックくらいの車が走り去っていきました。
カオルちゃんは考えます。
もう、女の子のお家はわからないのかもしれないと。コウジさんや他のおまわりさんに、女の子についてしらべるのをまかせる必要があると。
カオルちゃんは諦めました。
交番へ向かおうとした瞬間、去った車の影に女の人が立っています。
いつの間にいたのかはわかりません。
女の人は、女の子と同じ白い服を着ています。
女の人の顔も、女の子と似ているような気がしました。
「あの……」
「お母さん!」
カオルちゃんが話しかけるよりも早く、女の子が手を振りほどいて走り出しました。
女の人へとかけ寄って行って、とてもうれしそうに抱きつきます。
「私のかわいい、かわいいむすめちゃん、ぶじで良かったわ」
女の人はしゃがむと、女の子を抱きしめて言いました。
「お母さん、もう会えないと、思った……グスッ」
「ひとりにしてごめんなさい」
女の子が言うと、女の人はぐずる女の子を慰めます。
やっぱり女の子のお母さんのようです。
そして、カオルちゃんがジッと見ていることに気づきます。
「かわいい私のむすめちゃんをつれてきてくださって、本当にありがとうございます」
女の子のお母さんは頭を下げて、カオルちゃんにお礼を言いました。
「ありがとう」
女の子も言いました。
「どういたしまして」
カオルちゃんは女の子たちに短くこたえました。
女の子のお母さんはこしを上げると、女の子をつれて歩いて行ってしまいます。
カオルちゃんは、それを少しの間だけ見送りました。
そして、もと来た道を戻ろうとしたところで、カオルちゃんはだいじなことを思い出します。
迷子の女の子が見つかったことを、交番へ行ってコウジさんに伝えなければなりません。
カオルちゃんは振り返って、交番のある方向へ向かおうとしました。
「あれ?」
しかし、そこには女の子もそのお母さんもいなかったのです。
既に突き当りの角を曲がってしまったのかもしれません。それなりに距離があるはずなのですが。
すると、どこからか声が聞こえたような気がしました。
「にゃーん」
「なーお」
ネコの鳴き声です。
カオルちゃんが周囲を見渡しても、近くにネコはいませんでした。
そして、カオルちゃんは気づきました。
「そういう、ことでしたか……」
つぶやいて、カオルちゃんは交番へ向かいます。
子ネコちゃんがどうなったのかを、コウジさんにも教えてあげなければいけません。
カオルちゃんは歩いていると、気がつけば見覚えのある交番周辺の道に出ていました。
余談ですが、それ以来どんなに歩き回っても、古い町並みの場所を見つけることはできませんでした。
交番にたどり着いたカオルちゃんは、コウジさんと『犬のおまわりさん』を合唱します。
「あなたのお家はどこですか~♪」
「お家~を聞いてもわからない~♪」
「名前~を聞いてもわからない~♪」
「にゃんにゃにゃ~ん、にゃんにゃんにゃにゃ~ん♪」
このように一通り歌い終わった後、コウジさんは聞きます。
「それで、子ネコちゃんはどうなったんだい?」
「子ネコちゃんは、母ネコのところへいきました」
カオルちゃんは答えました。
「それは良かっ……良くないのかな?」
コウジさんは首を傾けて考えました。
「いえ、ありがとうって言ってましたから良かったんだと思います」
「そうか」
「そうです」
この町にやってきたすぐに、引っこし先をたずねたとき、やさしくていねいにおしえてくれた人です。町の交番の、りっぱなおまわりさんです。
チリンチリンと自転車のベルをならして、コウジさんはカオルちゃんに手を振ります。
自転車は止まりました。ただ、あまり不ひつ要なときに自転車のベルをならすのはやめたほうが良いです。コウジさん自身が言っていたのを思い出して、カオルちゃんは少し笑ってしまいました。
短く切りそろえた黒い髪が、ふわふわと揺れます。
「フフッ。こんにちは、コウジさん」
カオルちゃんはコウジさんにあいさつしました。
「こんにちは、楽しそうだね。カオルちゃんは散歩かな?」
コウジさんもカオルちゃんにあいさつをしてから、たずねました。
「はい。町のことを知りたいですから」
カオルちゃんは答えました。
こちらの学校に通うことになって、一週間くらいがたちました。今日は、学校への道とは別の道を見て回ることにしています。
「それは嬉しいな。でも、迷子にならないよう気をつけてね」
コウジさんも笑い返してくれました。そして、さらに言葉を続けます。
「その迷子のことなんだけど、僕も女の子を探しているんだ」
「迷子がさらに迷子になったのですか?」
「電話をするのに少し目をはなしたすきにいなくなってしまったよ
「それは大変ですね」
「白いお洋服を着た子だよ」
「見つけたら交番につれていきますね」
「助かるよ」
カオルちゃんとコウジさんは会話を終わらせて、手をふり合って別れました。
コウジさんが自転車をこいで去ったのを見送って、カオルちゃんも町を見て回るために歩を進めます。
向かう先を決めていたわけではありませんが、公園があると学校の友達から聞いていました。
公園へ向かうとちゅう、なんとなく歌を歌ってしまいます。
「まいごの~♪ まいごの~♪ 子ネコちゃん~♪」
『犬のおまわりさん』という子供向けの歌です。
カオルちゃんは小さいころからぎもんをかんじていたことがあります。
歌のさいごで、まいごの子ネコちゃんはどうなったのでかというものです。
お父さんは、子ネコちゃんがお家に帰れずに、歌が終わると言っていました。お母さんは、お家に帰ることができたと言います。
どちらが本当なんでしょうか?
ぎもんについて考えている間に、公園にたどり着きます。
「あれは?」
公園を見ると、白いお洋服を着た少女がいることにカオルちゃんは気づきました。
うぇーんうぇんと泣いていますが、周りに大人の人はいません。
幸いにも交番からは遠くないので、コウジさんとの約束どおりカオルちゃんが連れて行くことにします。
「ねぇ、あなた」
カオルちゃんは女の子に近づいて話しかけました。
女の子は振り向きますが、お母さんでもお父さんでもなかったことがわかって、泣くのを続けます。
「……泣き止んでくれないかしら?」
「ひっぐ……うわぁん、うわぁんっ」
カオルちゃんは何とかなだめようとしますが、泣き止んでくれませんでした。
カオルちゃんはどうして良いかわかりません。犬のおまわりさんではありませんが、困ってしまって「うーん、うーん」とうなります。
「お家は近くなのかしら?」
カオルちゃんは住所を聞きますが、女の子はグズグズと泣きながら首を横に振りました。
「そうなのね」
「ヒック……」
「お名前を聞いても良いかしら?」
「……」
女の子だとか、あなただとか、呼ぶような年の差でもないのでカオルちゃんは名前を聞こうとしました。
やっぱり女の子は首を横に振って答えません。これでは犬のおまわりさんが困ってしまうのもわかります。
しかし、コウジさんと約束したので交番まで送り届けなければなりません。
カオルちゃんは女の子の手をソッと握ってみます。怖がられないことを確認した後、ゆっくりと歩き出します。
「交番へ行きましょう」
「……ヒクッ」
できるかぎり安心させるために、カオルちゃんはニッコリと笑って見せました。
「おまわりさんがお父さんやお母さんを見つけてくれますよ」
カオルちゃんは、つないだ手をしっかりと握り直します。
女の子をつれて、カオルちゃんは交番のある方向へ向かって進みます。
進んでいくのですが、気がつくと見おぼえのないところに出ていました。
まるで50年くらい昔に戻ったような気がする町並みが広がっています。カオルちゃんは、おじいちゃんやおばあちゃんの家で、アルバムの中でしか見たことしかありませんが。
「これはどういうことでしょう?」
カオルちゃんは周囲を見渡しました。
「ぐすん……」
女の子は、その様子を見てまた泣き声を大きくし始めます。
カオルちゃんは慌てて、女の子を泣き止ませようとがんばって笑顔を浮かべます。
「大丈夫、ですよ……!」
女の子をそう安心させて、古い町を歩きます。
家をかこむカベが木の板でできている家庭は、さいきんはそれほど多くみません。
けれど、カオルちゃんたちが進む道は木の板でできたカベにはさまれています。
そのとちゅう、カオルちゃんたちは黒いお着物の人を見つけました。カオルちゃんのお父さんやお母さんより、少し若いくらいに見える女の人でした。
「そこのおねえさん、この子がどこの子か知りませんか?」
歩いている町がどの辺りなのかを聞きたかったのですが、グッとこらえました。
交番のある方向はわかっていますし、女の子が不安になってしまうと思ったからです。
「……わからないわ」
着物の女の人は少し考えました。
けれど、知らないようです。
「すみませんでした」
カオルちゃんは頭を下げてから、着物の女の人からはなれました。
カオルちゃん達はさらに町を進んでいきます。
すると、黄色のような茶色い髪の毛と、こげ茶色のティーシャツを着た男の人を見つけます。
「あの、おたずねして良いでしょうか?」
カオルちゃんは、その後姿に話しかけました。
女の子は、男の人が怖いのか手を強く握ってきます。けれど、ぐずってはいても泣き出しそうな様子はありません。
「なに?」
茶色が目立つ男の人は振り向きました。
「……あの、この子のことを知りませんか?」
カオルちゃんも、男の人が少しだけ怖かったです。しかし、勇気を出してたずねました。
「えーと、知らないな」
男の人は、女の子をジッと見てから答えました。
カオルちゃんが頭を下げるよりも早く、男の人はさっさと歩き去ってしまいましす。
「急いでいるところ、すみませんでした」
遠くへ行ってしまう男の人の背中に、カオルちゃんはしっかり頭を下げました。
やっぱり女の子については何もわかりません。
カオルちゃん達は再び歩き出します。
しばらく見知らぬ町並みを進んで行くと、今度は町のゴミを清掃している人達を見かけます。
ゴミ捨て場らしいところの前で、車を止めています。
背の低いおじさんは、ホウキを持って道路をそうじします。
若い男性は、ちりとりでゴミを集めます。
ゴミ袋に白いかたまりを放り込みました。
「すみません、この子について知りませんか?」
男の人たちの仕事が止まったところで、カオルちゃんは声をかけました。
「えーと」
最初に、背の低いおじさんが振り向きました。
続いて若い男の人です。
「その子のことね」
男の人たちは女の子を見て、少し考えるような仕草をしました。
10秒ほどしてから、男の人たちは同じ意味の言葉を話しました。
「わからないね」
「知らないよ」
やっぱり、女の子の家も名前もわかりませんでした。
男の人たちが、カオルちゃんたちに「ごめんよ」と言って車に乗り込みます。
ブロロロと軽トラックくらいの車が走り去っていきました。
カオルちゃんは考えます。
もう、女の子のお家はわからないのかもしれないと。コウジさんや他のおまわりさんに、女の子についてしらべるのをまかせる必要があると。
カオルちゃんは諦めました。
交番へ向かおうとした瞬間、去った車の影に女の人が立っています。
いつの間にいたのかはわかりません。
女の人は、女の子と同じ白い服を着ています。
女の人の顔も、女の子と似ているような気がしました。
「あの……」
「お母さん!」
カオルちゃんが話しかけるよりも早く、女の子が手を振りほどいて走り出しました。
女の人へとかけ寄って行って、とてもうれしそうに抱きつきます。
「私のかわいい、かわいいむすめちゃん、ぶじで良かったわ」
女の人はしゃがむと、女の子を抱きしめて言いました。
「お母さん、もう会えないと、思った……グスッ」
「ひとりにしてごめんなさい」
女の子が言うと、女の人はぐずる女の子を慰めます。
やっぱり女の子のお母さんのようです。
そして、カオルちゃんがジッと見ていることに気づきます。
「かわいい私のむすめちゃんをつれてきてくださって、本当にありがとうございます」
女の子のお母さんは頭を下げて、カオルちゃんにお礼を言いました。
「ありがとう」
女の子も言いました。
「どういたしまして」
カオルちゃんは女の子たちに短くこたえました。
女の子のお母さんはこしを上げると、女の子をつれて歩いて行ってしまいます。
カオルちゃんは、それを少しの間だけ見送りました。
そして、もと来た道を戻ろうとしたところで、カオルちゃんはだいじなことを思い出します。
迷子の女の子が見つかったことを、交番へ行ってコウジさんに伝えなければなりません。
カオルちゃんは振り返って、交番のある方向へ向かおうとしました。
「あれ?」
しかし、そこには女の子もそのお母さんもいなかったのです。
既に突き当りの角を曲がってしまったのかもしれません。それなりに距離があるはずなのですが。
すると、どこからか声が聞こえたような気がしました。
「にゃーん」
「なーお」
ネコの鳴き声です。
カオルちゃんが周囲を見渡しても、近くにネコはいませんでした。
そして、カオルちゃんは気づきました。
「そういう、ことでしたか……」
つぶやいて、カオルちゃんは交番へ向かいます。
子ネコちゃんがどうなったのかを、コウジさんにも教えてあげなければいけません。
カオルちゃんは歩いていると、気がつけば見覚えのある交番周辺の道に出ていました。
余談ですが、それ以来どんなに歩き回っても、古い町並みの場所を見つけることはできませんでした。
交番にたどり着いたカオルちゃんは、コウジさんと『犬のおまわりさん』を合唱します。
「あなたのお家はどこですか~♪」
「お家~を聞いてもわからない~♪」
「名前~を聞いてもわからない~♪」
「にゃんにゃにゃ~ん、にゃんにゃんにゃにゃ~ん♪」
このように一通り歌い終わった後、コウジさんは聞きます。
「それで、子ネコちゃんはどうなったんだい?」
「子ネコちゃんは、母ネコのところへいきました」
カオルちゃんは答えました。
「それは良かっ……良くないのかな?」
コウジさんは首を傾けて考えました。
「いえ、ありがとうって言ってましたから良かったんだと思います」
「そうか」
「そうです」
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