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9睡目・ビター・ゴングとシュガーストップ
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溜めのすきを突いて、カホーが理語を唱え始める。
「ケェビピッド エルジー(水よ) ケェビピッ。って、くそ!」
攻撃される前にそれを察したのか、破壊しすぎないように調整するより早くエアールが動いてしまった。
完全に溜めきって居ない突進ではあるものの、肉体的には脆いファリッバがそれに耐えられる保証はない。通常の突進だって、並の人間なら骨折覚悟だからな。
「なん、の! のじゃ!」
ここでファリッバは守りではなく攻撃に転じた。
最強の防御とでも言うのだろうか。その選択が間違いだったのか適切だったのかはさておき、放った青鋼の糸は虚空を通り過ぎていった。
いや、これはわざと外したのだ。
後方樹上に糸を巻きつけ、飛び上がると同時に足でエアールの角を受け止める。もちろん、勢いに負けて後退するが、張り詰めた糸に引っ張られる形で宙に射出される。
ファリッバ、行きますのじゃ!
「カホーさん、魔法の準備するのじゃ! そして!」
「えっ? あっ!」
そう言われて、カホーも少し驚いた様子。しかし、ファリッバが新たに糸を放ったのを見て理解した。
その糸はエアールに巻き付くわけでもなく、ただ木と木に引っかかっるだけ。何を企んでいるのかは、エアールが通り抜けようとした先で何かにぶつかったときにわかる。
鋼糸で結界を張り巡らしたのだ。ファリッバが足で角を受け止めたことにより、エアールに対抗心が生まれたことで判断が鈍ったのだろう。
「ケェビピッド エルジー ケェビピッド エルジー ハネエムド アワ ワイアイジー ケェビピッド(水よ水よ跳ねる泡の水)」
カホーが生み出したのは、フヨフヨブニャブニャと揺れる水の球体だった。無重力状態の水玉にシャボン玉の挙動を足すとこんな感じ。
それを結界の中に産み落とすことで、青鋼にぶつかる度にゆっくりながらもバウンドを繰り返すようになる。
元から反射するよう作り出した魔法の水玉は、青鋼の性質に対して更に跳ね返りやすくなっているらしい。その代わりに魔力を徐々に消耗して小さくなっていく。
「後は、奴が脱出しないよう適宜打ち込んでおけば良いな」
カホーの言う通り、後は反射する水球を回避し続けるエアールが疲労するのを待つだけだ。
動き自体は緩いものの、その魔法は弾けると巨体に多少のダメージを与えるぐらいの威力はある。カホーでなければ水遊びが限度の魔法だろう。
とりあえず、3人とも無事で良かった。
こうしてエルフ達の紙芝居が終わり、俺は待機改めヤブ蚊との戦闘を開始する。ちなみに、シジット達は無事に脱出したとの報告も受けている。
「こっち は まだ ビィシィジィダー は ない わ」
「監視サンキュー」
ラフの方でも砦に動きがないことを教えてくれた。
しかし、俺達なんて別にカモフラージュして隠れていたわけじゃない。あちらさんにも見張りや巡回がいることぐらいは予想して然るべきだった。
「ダイナ ジーエムビーエフダー」
「……すまん。ここまで近づかれたのは俺のミスだ」
ラフの指摘で背後の茂みに何かが潜んでいることに気づいた。エルフ達もちょうど、そのことを伝えるための絵を描き終えたところだ。
さてどうすると脳内会議。
既にこちらの動きが砦側に伝わっている可能性があり、気づかない振りをして逃げるのは得策じゃない。追跡されたりすれば、この場だけの危機ではなくハァビーや学園への脅威になる。
じゃあ、ここで返り討ちにする?
例え砦への伝達が終わっていたとしても、現状さえ切り抜けてしまえば尾行の恐れは少ないだろう。そもそも、俺とラフで切り抜けられるなら悩みはしない。
「とりあえず、俺が初動を受け止めてみる」
「うん」
俺はそう言って、青鋼の棍を袋から取り出した。ここで俺がどうしようもなければ、できることなら逃げて欲しい。
希望的観測など考えている間に、潜んでいた何者かも同時に動き出す。俺達が存在に気づいたことに気づいたのである。
「シャッ!」
飛び出してきた人影が、マントのような何かを大きく広げた。
その襲撃の仕方は雑魚怪人のアレだ。
鉤爪の付いた何かを棍で受け止め、押し返して何とかファーストコンタクトに成功する。
「うおッ!」
飛びかかってくるような重い一撃を容易く防御できるわけもなく後ろに転げた。推定敵はほとんど音もなく着地を決めた。
武器とかじゃなくて徒手空拳か? そうなると、何とか有利に戦いを進められる。
「何者だ?」
一度目の攻防を終えて、一段落したところで敵さんが話しかけてきた。余程のギャップがなければ女性の声だ。
「えーと、まず、お邪魔してます」
「……」
挨拶は大事。古事記にもそう書いてある。
当然、いきなり挨拶をしてくる敵に気を許してくれるわけもない。あまり争いたくないというのは本当だが。
「できれば、こんなところに砦を作った理由を教えて貰いたい。穏便にことが進むならこっちとしても助かるんだ」
「ハッ」
俺が尋ねると、敵さんは誰が教えるかとばかりに鼻で笑った。まぁ、そうだよね。
「ケェビピッド エルジー(水よ) ケェビピッ。って、くそ!」
攻撃される前にそれを察したのか、破壊しすぎないように調整するより早くエアールが動いてしまった。
完全に溜めきって居ない突進ではあるものの、肉体的には脆いファリッバがそれに耐えられる保証はない。通常の突進だって、並の人間なら骨折覚悟だからな。
「なん、の! のじゃ!」
ここでファリッバは守りではなく攻撃に転じた。
最強の防御とでも言うのだろうか。その選択が間違いだったのか適切だったのかはさておき、放った青鋼の糸は虚空を通り過ぎていった。
いや、これはわざと外したのだ。
後方樹上に糸を巻きつけ、飛び上がると同時に足でエアールの角を受け止める。もちろん、勢いに負けて後退するが、張り詰めた糸に引っ張られる形で宙に射出される。
ファリッバ、行きますのじゃ!
「カホーさん、魔法の準備するのじゃ! そして!」
「えっ? あっ!」
そう言われて、カホーも少し驚いた様子。しかし、ファリッバが新たに糸を放ったのを見て理解した。
その糸はエアールに巻き付くわけでもなく、ただ木と木に引っかかっるだけ。何を企んでいるのかは、エアールが通り抜けようとした先で何かにぶつかったときにわかる。
鋼糸で結界を張り巡らしたのだ。ファリッバが足で角を受け止めたことにより、エアールに対抗心が生まれたことで判断が鈍ったのだろう。
「ケェビピッド エルジー ケェビピッド エルジー ハネエムド アワ ワイアイジー ケェビピッド(水よ水よ跳ねる泡の水)」
カホーが生み出したのは、フヨフヨブニャブニャと揺れる水の球体だった。無重力状態の水玉にシャボン玉の挙動を足すとこんな感じ。
それを結界の中に産み落とすことで、青鋼にぶつかる度にゆっくりながらもバウンドを繰り返すようになる。
元から反射するよう作り出した魔法の水玉は、青鋼の性質に対して更に跳ね返りやすくなっているらしい。その代わりに魔力を徐々に消耗して小さくなっていく。
「後は、奴が脱出しないよう適宜打ち込んでおけば良いな」
カホーの言う通り、後は反射する水球を回避し続けるエアールが疲労するのを待つだけだ。
動き自体は緩いものの、その魔法は弾けると巨体に多少のダメージを与えるぐらいの威力はある。カホーでなければ水遊びが限度の魔法だろう。
とりあえず、3人とも無事で良かった。
こうしてエルフ達の紙芝居が終わり、俺は待機改めヤブ蚊との戦闘を開始する。ちなみに、シジット達は無事に脱出したとの報告も受けている。
「こっち は まだ ビィシィジィダー は ない わ」
「監視サンキュー」
ラフの方でも砦に動きがないことを教えてくれた。
しかし、俺達なんて別にカモフラージュして隠れていたわけじゃない。あちらさんにも見張りや巡回がいることぐらいは予想して然るべきだった。
「ダイナ ジーエムビーエフダー」
「……すまん。ここまで近づかれたのは俺のミスだ」
ラフの指摘で背後の茂みに何かが潜んでいることに気づいた。エルフ達もちょうど、そのことを伝えるための絵を描き終えたところだ。
さてどうすると脳内会議。
既にこちらの動きが砦側に伝わっている可能性があり、気づかない振りをして逃げるのは得策じゃない。追跡されたりすれば、この場だけの危機ではなくハァビーや学園への脅威になる。
じゃあ、ここで返り討ちにする?
例え砦への伝達が終わっていたとしても、現状さえ切り抜けてしまえば尾行の恐れは少ないだろう。そもそも、俺とラフで切り抜けられるなら悩みはしない。
「とりあえず、俺が初動を受け止めてみる」
「うん」
俺はそう言って、青鋼の棍を袋から取り出した。ここで俺がどうしようもなければ、できることなら逃げて欲しい。
希望的観測など考えている間に、潜んでいた何者かも同時に動き出す。俺達が存在に気づいたことに気づいたのである。
「シャッ!」
飛び出してきた人影が、マントのような何かを大きく広げた。
その襲撃の仕方は雑魚怪人のアレだ。
鉤爪の付いた何かを棍で受け止め、押し返して何とかファーストコンタクトに成功する。
「うおッ!」
飛びかかってくるような重い一撃を容易く防御できるわけもなく後ろに転げた。推定敵はほとんど音もなく着地を決めた。
武器とかじゃなくて徒手空拳か? そうなると、何とか有利に戦いを進められる。
「何者だ?」
一度目の攻防を終えて、一段落したところで敵さんが話しかけてきた。余程のギャップがなければ女性の声だ。
「えーと、まず、お邪魔してます」
「……」
挨拶は大事。古事記にもそう書いてある。
当然、いきなり挨拶をしてくる敵に気を許してくれるわけもない。あまり争いたくないというのは本当だが。
「できれば、こんなところに砦を作った理由を教えて貰いたい。穏便にことが進むならこっちとしても助かるんだ」
「ハッ」
俺が尋ねると、敵さんは誰が教えるかとばかりに鼻で笑った。まぁ、そうだよね。
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