絶滅危惧種の子なら隣で寝てるけど? ~異世界で保護飼育は難しい~

AAKI

文字の大きさ
72 / 77
10睡目・残酷な天使のベーゼ

12

しおりを挟む
『……むぅぅぅぅッ』

 しかし、ファリッバにとっては納得できても認められるというわけじゃない。あの冷静沈着な子が、顔を赤くしてふくれっ面になるのも珍しかった。

『怒ったか? これでは、お前達の言う聖人とやらも程度が知れるなぁ!』

 ピユさんの言い様に、流石のファリッバも堪忍袋の緒が切れたか。

『我だって、我だって……!』

 怒る時ぐらいはあるようだ。

 けど、俺のためなんかに怒らないでくれ。と言っても、エルフ達にそう伝えるようお願いしても、今回ばかりは彼女らは激おこのようだ。

『相変わらず羨ましいね』

『そろそろ始めよう』

 その様子を見ていたカホーが呆れ、痺れを切らしたケェヌが臨戦態勢に入った。

 それに伴ってハルピュイアさん達も武器を構え、理語を唱え始めて対応する。

 合図もなく、一斉に魔法やクロスボウの矢がケェヌ達に向かって放たれた。

『タテ ワイアイジー ダビィエッチビ エレジー(盾の土よ)』

 迫りくる有象無象の力と、ケェヌ達の間に円筒形の土塊が生まれ出た。直撃の寸前までは一本だった中ぶくれた筒は、まるで分身するかのように左右へ展開した。

 盾となった土は轟音とともに弾け飛び、ホコリを巻き上げて煙幕を広げる。カホーやファリッバへ向かって飛び散る塊を、煙の中でケェヌが的確に刀で叩き落とす。その銀線だけをエルフ達は捉えて報告してくれた。

『晴れた。たたみかけよ!』

 砂のベールがなくなったところを、ピユさんの指示で武器を持ったハルピュイアさん達が動き出した。剣などの接近をメインとした部隊だ。

 広めの部屋で三次元的に陣形を組み迫るも、半ばで身動きを止めた。いや、止められた。

『な?』『これは?』『なん……だ?』『ぬぅッ?』

 見えない何かに進攻を阻まれたことで口々に驚く。

 直ぐに細い意図のようなものが妨害していることに気づくが、だからといって青鋼の壁をどうにかする術はない。時間こそかければ並大抵の武器で断ち切ったり、高温で溶かせるかもしれないけど。

『あの視界が悪い中で……!?』

 ファリッバの指先で光る糸を見て、ピユさんは真っ先に何が起こっているのか理解した。

 陣形の下方で既にハルピュイアさん数名を倒しているケェヌをまとめて閉じ込めるように、鋼糸を張り巡らせたのである。加えて、ハルピュイアさん達の逃げ場を封じている。

『クッ! だが、仲間まで閉じ込めてどうする!? もう逃げられんぞ!』

 しかし、ピユさんも背後のことまで気づいていない様子だ。

『逃げられないのはそっちなのじゃ!』

 ファリッバがガチ切れじゃないですかぁ。

 果たして他の2人はというと。楽しんでいるとも取れるか?

『そちらがこないならこっちから行く』

『こっちも追加だ! ケェビピッド エルジー ケェビピッド エルジー ハネエムド アワ ワイアイジー ケェビピッド(水よ水よ跳ねる泡の水)!』

 一言と共にその場からケェヌが消えた。カホーも、山でエアールを疲労させたときの魔法を鳥網の中に放り込んだ。

 糸をバネに跳ね回り、ぶつかれば弾けて衝撃を与える水玉。その陰に隠れて空地を自在に飛び回る黒い襲撃者に、戦々恐々としない者がいるだろうか。

 否。

 目の前にケェヌが出現して、ハルピュイアさんの顔が恐怖に引きつった後には直ぐ意識を失う。

 ときには背後から、ときには頭上から、文字通り縦横無尽だ。

 制空権というアドバンテージを失ったハルピュイアさん達に、この漆黒の残像から逃れる術はない。

『あ』

『何が』

『どうし』

『逃げ』

 もはや何が起こっているのかさえわからない様子だった。エルフ達もわからない。

 ただただバタバタと倒れていって、逃げ惑うという光景が俺のところに送られてくるだけだ。ホラーだっけ、これ?

 俺も少し止めに入ろうかと思ったものの、シービンの方で足止めが順調だったから挟み撃ちを考えてしまった。

『こ、降参!』

『命だけは!』

『ごめんなさい!』

 武器を投げ出して投降する者が出始める。

 しかし、1部隊のリーダーであるピユさんが引き下がるわけにはいかなかったのだろう。いや、引き際をわかってこその隊長だろうが。

『逃げるな!』

 逃亡を阻止しようにも声は届かず、総崩れも良いところだ。

 ただまぁ、大人しく引き下がるようなら最初からこんな争いを起こしたりしないし、挑発だってしないだろう。

『こっの、ウアァァァァァッ!! ビーカレムダー ビーカピダス エルジー ハピビケムダー ビーカピダス エルジー(怒れる雷よ弾ける雷よ)!』

 ヤケっぱちになったピユさんが雄叫びを上げて雷球を作った。この間の魔法と同じかと思ったが、大きさや数が前とは違う。

 それは霧散したかに思えた次の瞬間、ピユさんを包み込んでヒゲ根の如く雷閃を広げた。

 雷は高速で室内を網羅する。

 如何にケェヌが神速を誇ろうとも稲妻の速度を上回れるはずもなく、さらに無形の全方位攻撃を受ける術などない。

 絶体絶命のピンチに、ケェヌ達が取った行動とは!

『……バカ、な……』

 閃光が止んだ後、ピユさんは絶望した表情を浮かべた。自らの身を焼きながらも放った決死の一撃を防がれたことを知ったから。

 ファリッバは以前にも仲間の青鋼蚕の手を借りた手段と同じだ。

 カホーの周りに散った土埃は、彼自身が風魔法で吹き上げたものだ。雷なんてものは本来、電荷を伝うことしかできないのだから、障害物に直ぐそらされてしまう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...