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10睡目・残酷な天使のベーゼ
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『……むぅぅぅぅッ』
しかし、ファリッバにとっては納得できても認められるというわけじゃない。あの冷静沈着な子が、顔を赤くしてふくれっ面になるのも珍しかった。
『怒ったか? これでは、お前達の言う聖人とやらも程度が知れるなぁ!』
ピユさんの言い様に、流石のファリッバも堪忍袋の緒が切れたか。
『我だって、我だって……!』
怒る時ぐらいはあるようだ。
けど、俺のためなんかに怒らないでくれ。と言っても、エルフ達にそう伝えるようお願いしても、今回ばかりは彼女らは激おこのようだ。
『相変わらず羨ましいね』
『そろそろ始めよう』
その様子を見ていたカホーが呆れ、痺れを切らしたケェヌが臨戦態勢に入った。
それに伴ってハルピュイアさん達も武器を構え、理語を唱え始めて対応する。
合図もなく、一斉に魔法やクロスボウの矢がケェヌ達に向かって放たれた。
『タテ ワイアイジー ダビィエッチビ エレジー(盾の土よ)』
迫りくる有象無象の力と、ケェヌ達の間に円筒形の土塊が生まれ出た。直撃の寸前までは一本だった中ぶくれた筒は、まるで分身するかのように左右へ展開した。
盾となった土は轟音とともに弾け飛び、ホコリを巻き上げて煙幕を広げる。カホーやファリッバへ向かって飛び散る塊を、煙の中でケェヌが的確に刀で叩き落とす。その銀線だけをエルフ達は捉えて報告してくれた。
『晴れた。たたみかけよ!』
砂のベールがなくなったところを、ピユさんの指示で武器を持ったハルピュイアさん達が動き出した。剣などの接近をメインとした部隊だ。
広めの部屋で三次元的に陣形を組み迫るも、半ばで身動きを止めた。いや、止められた。
『な?』『これは?』『なん……だ?』『ぬぅッ?』
見えない何かに進攻を阻まれたことで口々に驚く。
直ぐに細い意図のようなものが妨害していることに気づくが、だからといって青鋼の壁をどうにかする術はない。時間こそかければ並大抵の武器で断ち切ったり、高温で溶かせるかもしれないけど。
『あの視界が悪い中で……!?』
ファリッバの指先で光る糸を見て、ピユさんは真っ先に何が起こっているのか理解した。
陣形の下方で既にハルピュイアさん数名を倒しているケェヌをまとめて閉じ込めるように、鋼糸を張り巡らせたのである。加えて、ハルピュイアさん達の逃げ場を封じている。
『クッ! だが、仲間まで閉じ込めてどうする!? もう逃げられんぞ!』
しかし、ピユさんも背後のことまで気づいていない様子だ。
『逃げられないのはそっちなのじゃ!』
ファリッバがガチ切れじゃないですかぁ。
果たして他の2人はというと。楽しんでいるとも取れるか?
『そちらがこないならこっちから行く』
『こっちも追加だ! ケェビピッド エルジー ケェビピッド エルジー ハネエムド アワ ワイアイジー ケェビピッド(水よ水よ跳ねる泡の水)!』
一言と共にその場からケェヌが消えた。カホーも、山でエアールを疲労させたときの魔法を鳥網の中に放り込んだ。
糸をバネに跳ね回り、ぶつかれば弾けて衝撃を与える水玉。その陰に隠れて空地を自在に飛び回る黒い襲撃者に、戦々恐々としない者がいるだろうか。
否。
目の前にケェヌが出現して、ハルピュイアさんの顔が恐怖に引きつった後には直ぐ意識を失う。
ときには背後から、ときには頭上から、文字通り縦横無尽だ。
制空権というアドバンテージを失ったハルピュイアさん達に、この漆黒の残像から逃れる術はない。
『あ』
『何が』
『どうし』
『逃げ』
もはや何が起こっているのかさえわからない様子だった。エルフ達もわからない。
ただただバタバタと倒れていって、逃げ惑うという光景が俺のところに送られてくるだけだ。ホラーだっけ、これ?
俺も少し止めに入ろうかと思ったものの、シービンの方で足止めが順調だったから挟み撃ちを考えてしまった。
『こ、降参!』
『命だけは!』
『ごめんなさい!』
武器を投げ出して投降する者が出始める。
しかし、1部隊のリーダーであるピユさんが引き下がるわけにはいかなかったのだろう。いや、引き際をわかってこその隊長だろうが。
『逃げるな!』
逃亡を阻止しようにも声は届かず、総崩れも良いところだ。
ただまぁ、大人しく引き下がるようなら最初からこんな争いを起こしたりしないし、挑発だってしないだろう。
『こっの、ウアァァァァァッ!! ビーカレムダー ビーカピダス エルジー ハピビケムダー ビーカピダス エルジー(怒れる雷よ弾ける雷よ)!』
ヤケっぱちになったピユさんが雄叫びを上げて雷球を作った。この間の魔法と同じかと思ったが、大きさや数が前とは違う。
それは霧散したかに思えた次の瞬間、ピユさんを包み込んでヒゲ根の如く雷閃を広げた。
雷は高速で室内を網羅する。
如何にケェヌが神速を誇ろうとも稲妻の速度を上回れるはずもなく、さらに無形の全方位攻撃を受ける術などない。
絶体絶命のピンチに、ケェヌ達が取った行動とは!
『……バカ、な……』
閃光が止んだ後、ピユさんは絶望した表情を浮かべた。自らの身を焼きながらも放った決死の一撃を防がれたことを知ったから。
ファリッバは以前にも仲間の青鋼蚕の手を借りた手段と同じだ。
カホーの周りに散った土埃は、彼自身が風魔法で吹き上げたものだ。雷なんてものは本来、電荷を伝うことしかできないのだから、障害物に直ぐそらされてしまう。
しかし、ファリッバにとっては納得できても認められるというわけじゃない。あの冷静沈着な子が、顔を赤くしてふくれっ面になるのも珍しかった。
『怒ったか? これでは、お前達の言う聖人とやらも程度が知れるなぁ!』
ピユさんの言い様に、流石のファリッバも堪忍袋の緒が切れたか。
『我だって、我だって……!』
怒る時ぐらいはあるようだ。
けど、俺のためなんかに怒らないでくれ。と言っても、エルフ達にそう伝えるようお願いしても、今回ばかりは彼女らは激おこのようだ。
『相変わらず羨ましいね』
『そろそろ始めよう』
その様子を見ていたカホーが呆れ、痺れを切らしたケェヌが臨戦態勢に入った。
それに伴ってハルピュイアさん達も武器を構え、理語を唱え始めて対応する。
合図もなく、一斉に魔法やクロスボウの矢がケェヌ達に向かって放たれた。
『タテ ワイアイジー ダビィエッチビ エレジー(盾の土よ)』
迫りくる有象無象の力と、ケェヌ達の間に円筒形の土塊が生まれ出た。直撃の寸前までは一本だった中ぶくれた筒は、まるで分身するかのように左右へ展開した。
盾となった土は轟音とともに弾け飛び、ホコリを巻き上げて煙幕を広げる。カホーやファリッバへ向かって飛び散る塊を、煙の中でケェヌが的確に刀で叩き落とす。その銀線だけをエルフ達は捉えて報告してくれた。
『晴れた。たたみかけよ!』
砂のベールがなくなったところを、ピユさんの指示で武器を持ったハルピュイアさん達が動き出した。剣などの接近をメインとした部隊だ。
広めの部屋で三次元的に陣形を組み迫るも、半ばで身動きを止めた。いや、止められた。
『な?』『これは?』『なん……だ?』『ぬぅッ?』
見えない何かに進攻を阻まれたことで口々に驚く。
直ぐに細い意図のようなものが妨害していることに気づくが、だからといって青鋼の壁をどうにかする術はない。時間こそかければ並大抵の武器で断ち切ったり、高温で溶かせるかもしれないけど。
『あの視界が悪い中で……!?』
ファリッバの指先で光る糸を見て、ピユさんは真っ先に何が起こっているのか理解した。
陣形の下方で既にハルピュイアさん数名を倒しているケェヌをまとめて閉じ込めるように、鋼糸を張り巡らせたのである。加えて、ハルピュイアさん達の逃げ場を封じている。
『クッ! だが、仲間まで閉じ込めてどうする!? もう逃げられんぞ!』
しかし、ピユさんも背後のことまで気づいていない様子だ。
『逃げられないのはそっちなのじゃ!』
ファリッバがガチ切れじゃないですかぁ。
果たして他の2人はというと。楽しんでいるとも取れるか?
『そちらがこないならこっちから行く』
『こっちも追加だ! ケェビピッド エルジー ケェビピッド エルジー ハネエムド アワ ワイアイジー ケェビピッド(水よ水よ跳ねる泡の水)!』
一言と共にその場からケェヌが消えた。カホーも、山でエアールを疲労させたときの魔法を鳥網の中に放り込んだ。
糸をバネに跳ね回り、ぶつかれば弾けて衝撃を与える水玉。その陰に隠れて空地を自在に飛び回る黒い襲撃者に、戦々恐々としない者がいるだろうか。
否。
目の前にケェヌが出現して、ハルピュイアさんの顔が恐怖に引きつった後には直ぐ意識を失う。
ときには背後から、ときには頭上から、文字通り縦横無尽だ。
制空権というアドバンテージを失ったハルピュイアさん達に、この漆黒の残像から逃れる術はない。
『あ』
『何が』
『どうし』
『逃げ』
もはや何が起こっているのかさえわからない様子だった。エルフ達もわからない。
ただただバタバタと倒れていって、逃げ惑うという光景が俺のところに送られてくるだけだ。ホラーだっけ、これ?
俺も少し止めに入ろうかと思ったものの、シービンの方で足止めが順調だったから挟み撃ちを考えてしまった。
『こ、降参!』
『命だけは!』
『ごめんなさい!』
武器を投げ出して投降する者が出始める。
しかし、1部隊のリーダーであるピユさんが引き下がるわけにはいかなかったのだろう。いや、引き際をわかってこその隊長だろうが。
『逃げるな!』
逃亡を阻止しようにも声は届かず、総崩れも良いところだ。
ただまぁ、大人しく引き下がるようなら最初からこんな争いを起こしたりしないし、挑発だってしないだろう。
『こっの、ウアァァァァァッ!! ビーカレムダー ビーカピダス エルジー ハピビケムダー ビーカピダス エルジー(怒れる雷よ弾ける雷よ)!』
ヤケっぱちになったピユさんが雄叫びを上げて雷球を作った。この間の魔法と同じかと思ったが、大きさや数が前とは違う。
それは霧散したかに思えた次の瞬間、ピユさんを包み込んでヒゲ根の如く雷閃を広げた。
雷は高速で室内を網羅する。
如何にケェヌが神速を誇ろうとも稲妻の速度を上回れるはずもなく、さらに無形の全方位攻撃を受ける術などない。
絶体絶命のピンチに、ケェヌ達が取った行動とは!
『……バカ、な……』
閃光が止んだ後、ピユさんは絶望した表情を浮かべた。自らの身を焼きながらも放った決死の一撃を防がれたことを知ったから。
ファリッバは以前にも仲間の青鋼蚕の手を借りた手段と同じだ。
カホーの周りに散った土埃は、彼自身が風魔法で吹き上げたものだ。雷なんてものは本来、電荷を伝うことしかできないのだから、障害物に直ぐそらされてしまう。
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イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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ファミ通文庫大賞 一次選考通過
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