4 / 31
初心者イベント編
1-3
しおりを挟む
グレイザさんよりも頭半分ほど低いが、少し天然パーマの入った金髪と細く切れ長の碧眼をした少年。
「セルシュ、どうした?」
グレイザさんも弟の名前を呼んで問う。
そこに含まれるニュアンスは、どうしてこんなところまで、という具合かしら。
「どうしたもこうしたも、お兄さんが! 輸送隊が襲われてるって、"クランチャット"を貰った直ぐに飛び出していったからじゃないか!」
セルシュさんは純白の手甲ついた両腕を振り上げ、飄々とした態度のお兄さんに不満をぶつけた。私達がいなければ、一発ぐらい殴っていそうな勢いだわ。
それなりに心配している様子から、特別に仲が悪いというわけではない。とは思うのだけれど。
「襲撃の位置や状況から考えて、居ても立ってもいられなくなってな。大事な荷を台無しにされても困るだろうが」
グレイザさんが変わらない様子で答えた。
その点、私もちょっとビックリしてるわ。いくらサブマスターのセルシュさんがいるからといって、クランマスターが救援に駆けつけてくるとは思わないじゃない。
駆けつけてくれたこと自体は嬉しいのだけれど、人員を気にしたのではなく荷物が大事だったからというのはモヤモヤとする。
「……はぁ。まぁ、後で話そう。皆も、お疲れ様」
文句を言っても通用しないことは既にわかっているのか、虚しいことはやめてグレイザさんに変わり皆を労うセルシュ。
「いえ、こちらこそすみませんでした。私達だけで対処できる確信があれば良かったのですが」
私も、助けを求めたという点では片棒を担いでいるため、一応は謝っておいた。あまり過ぎればまたグレイザさんに怒られるので、セルシュさんが大丈夫だよと手を振るのを見て引き下がった。
悪徳ニヒルなお兄さんに比べて、弟さんは笑うと愛嬌がある。『BUGUウサギ』という作品のキャラクターみたいで癒やされるわ。グレイザさんみたいなカッコいいキャラもいるんだけどね。
「私達も力不足ですみません。って、メリーさんはまーた何か浸ってる……」
ハッ! いかん、また後輩達に引かれる。
「その分、仕事を全うして欲しい。まだ物資を金庫本部へ持っていかなければならないはずだよね?」
「そうですね。では、私達はこれにてこれらを本部へ輸送しますので」
セルシュの言う通り、私達の仕事は荷物をクラン金庫の本部へと持っていくまでは責務だ。
馬車を引いて門をくぐった。そこからはグレイザさん達とは別れ、さっきまでの4人でスナンドニー首都"アキュイロ”の南東へと向かう。
クランマスターとサブマスターはこれから、北東の元老議場――国会議事堂みたいなもの――でお説教会が始まるんでしょう。
「いやぁ、それにしてもメリーさんは愛されてますね」
「は?」
「え?」
「え?」
グレイザさんのことを哀れんでいると、銃手の子がいきなりおかしなことを言い出した。おかしすぎて、唐突過ぎて、変な声しかでなかったわ。
「キミは、何に言ってるんです?」
「いえ、ですから"クランマスター"や"サブマスター"に大事にされてるわよねって……?」
なんだ。そんなことかー。
「アハハハ、そういう意味ですか。特異な感情でもあるってことかと思いましたよ」
私は苦笑交じりに否定した。ただまぁ、クランメンバーとして重用されているという意味でなら、確かに私は大切にされているわ。贔屓にされているというべきかしら?
私の持つ特別な魔法スキルだけが目的だもの。それがなければ、世界一と謳われるクランのメンバーではいられないでしょうね。
内心、自分でも呆れてしまう。
「別の街で見せた通り、アレがなかったらただの"知力"と"魔対"をカンストさせただけの寄生"マジックユーザー"よ」
初心者である3人に専門用語を並べるとわからなくなりそうだけれど、そのような感じで説明するしかなかった。
私のステータスを見ればわかる通り、魔法攻撃力と魔法対抗力に関する数値だけ上限に振ってある。このせいで、ソロで活動することができないことからチームなどに頼らざるを得ないわけ。
「あぁ、【暗号施錠】でしたか?」
今度は馬車の荷台に乗っている拳闘士が尋ねるように言った。
そうよ。私は答える意図で首を縦に振る。
宝箱型のものには例外なく錠が付けられており、まるで光のアート映像を貼り付けたかのような『0000』が並んでいる。ワイプすれば感覚で、それらが0~9の数字を揃えるダイヤル錠だとわかると思う。
「破壊もできず、【解錠】とかでも数字がわからないと開けない。確かに、この仕事とは相性が良いですね」
「ですよね。私も、最初は警備輸送業務なんて"NPC"……あー、ノンプレイヤーキャラクターでも良いと思ってました。護衛さえつければ、人力で賄う必要があるのかって」
続く拳闘士の言葉に、私は素直な感想を述べた。
専門用語を省略しすぎると混乱すると思って言い直したけど、それほど初心者でもなかったか?
「あぁ、そういう理由でしたか」
納得してくれたようだ。
ゲームで遊ぶプレイヤーが、NPCに任せておけば良い業務をわざわざやる必要はない。そう思っていた時期が私にもありました。
『ソウル・カンパニー』のメンバーや、周辺の6都市の同盟クランから預かった貴重な金品アイテムを預かる上で、リスク管理は必要なことだったのよ。
NPCだと、まとめて運ぶと損失は大きくなるし補償も利かない。小分けにすればお金がかかる。
「まぁ、それだとデメリットが勝ってしまうんですよね」
「あー、小難しい話は苦手なんですけど?」
おう、戦士が黙っていたのはそういうこと。
「フフフッ。グレイザさんが、それだけ優れた都市の運営をしているということですよ。戦士さん」
端的に答えておいた。
「セルシュ、どうした?」
グレイザさんも弟の名前を呼んで問う。
そこに含まれるニュアンスは、どうしてこんなところまで、という具合かしら。
「どうしたもこうしたも、お兄さんが! 輸送隊が襲われてるって、"クランチャット"を貰った直ぐに飛び出していったからじゃないか!」
セルシュさんは純白の手甲ついた両腕を振り上げ、飄々とした態度のお兄さんに不満をぶつけた。私達がいなければ、一発ぐらい殴っていそうな勢いだわ。
それなりに心配している様子から、特別に仲が悪いというわけではない。とは思うのだけれど。
「襲撃の位置や状況から考えて、居ても立ってもいられなくなってな。大事な荷を台無しにされても困るだろうが」
グレイザさんが変わらない様子で答えた。
その点、私もちょっとビックリしてるわ。いくらサブマスターのセルシュさんがいるからといって、クランマスターが救援に駆けつけてくるとは思わないじゃない。
駆けつけてくれたこと自体は嬉しいのだけれど、人員を気にしたのではなく荷物が大事だったからというのはモヤモヤとする。
「……はぁ。まぁ、後で話そう。皆も、お疲れ様」
文句を言っても通用しないことは既にわかっているのか、虚しいことはやめてグレイザさんに変わり皆を労うセルシュ。
「いえ、こちらこそすみませんでした。私達だけで対処できる確信があれば良かったのですが」
私も、助けを求めたという点では片棒を担いでいるため、一応は謝っておいた。あまり過ぎればまたグレイザさんに怒られるので、セルシュさんが大丈夫だよと手を振るのを見て引き下がった。
悪徳ニヒルなお兄さんに比べて、弟さんは笑うと愛嬌がある。『BUGUウサギ』という作品のキャラクターみたいで癒やされるわ。グレイザさんみたいなカッコいいキャラもいるんだけどね。
「私達も力不足ですみません。って、メリーさんはまーた何か浸ってる……」
ハッ! いかん、また後輩達に引かれる。
「その分、仕事を全うして欲しい。まだ物資を金庫本部へ持っていかなければならないはずだよね?」
「そうですね。では、私達はこれにてこれらを本部へ輸送しますので」
セルシュの言う通り、私達の仕事は荷物をクラン金庫の本部へと持っていくまでは責務だ。
馬車を引いて門をくぐった。そこからはグレイザさん達とは別れ、さっきまでの4人でスナンドニー首都"アキュイロ”の南東へと向かう。
クランマスターとサブマスターはこれから、北東の元老議場――国会議事堂みたいなもの――でお説教会が始まるんでしょう。
「いやぁ、それにしてもメリーさんは愛されてますね」
「は?」
「え?」
「え?」
グレイザさんのことを哀れんでいると、銃手の子がいきなりおかしなことを言い出した。おかしすぎて、唐突過ぎて、変な声しかでなかったわ。
「キミは、何に言ってるんです?」
「いえ、ですから"クランマスター"や"サブマスター"に大事にされてるわよねって……?」
なんだ。そんなことかー。
「アハハハ、そういう意味ですか。特異な感情でもあるってことかと思いましたよ」
私は苦笑交じりに否定した。ただまぁ、クランメンバーとして重用されているという意味でなら、確かに私は大切にされているわ。贔屓にされているというべきかしら?
私の持つ特別な魔法スキルだけが目的だもの。それがなければ、世界一と謳われるクランのメンバーではいられないでしょうね。
内心、自分でも呆れてしまう。
「別の街で見せた通り、アレがなかったらただの"知力"と"魔対"をカンストさせただけの寄生"マジックユーザー"よ」
初心者である3人に専門用語を並べるとわからなくなりそうだけれど、そのような感じで説明するしかなかった。
私のステータスを見ればわかる通り、魔法攻撃力と魔法対抗力に関する数値だけ上限に振ってある。このせいで、ソロで活動することができないことからチームなどに頼らざるを得ないわけ。
「あぁ、【暗号施錠】でしたか?」
今度は馬車の荷台に乗っている拳闘士が尋ねるように言った。
そうよ。私は答える意図で首を縦に振る。
宝箱型のものには例外なく錠が付けられており、まるで光のアート映像を貼り付けたかのような『0000』が並んでいる。ワイプすれば感覚で、それらが0~9の数字を揃えるダイヤル錠だとわかると思う。
「破壊もできず、【解錠】とかでも数字がわからないと開けない。確かに、この仕事とは相性が良いですね」
「ですよね。私も、最初は警備輸送業務なんて"NPC"……あー、ノンプレイヤーキャラクターでも良いと思ってました。護衛さえつければ、人力で賄う必要があるのかって」
続く拳闘士の言葉に、私は素直な感想を述べた。
専門用語を省略しすぎると混乱すると思って言い直したけど、それほど初心者でもなかったか?
「あぁ、そういう理由でしたか」
納得してくれたようだ。
ゲームで遊ぶプレイヤーが、NPCに任せておけば良い業務をわざわざやる必要はない。そう思っていた時期が私にもありました。
『ソウル・カンパニー』のメンバーや、周辺の6都市の同盟クランから預かった貴重な金品アイテムを預かる上で、リスク管理は必要なことだったのよ。
NPCだと、まとめて運ぶと損失は大きくなるし補償も利かない。小分けにすればお金がかかる。
「まぁ、それだとデメリットが勝ってしまうんですよね」
「あー、小難しい話は苦手なんですけど?」
おう、戦士が黙っていたのはそういうこと。
「フフフッ。グレイザさんが、それだけ優れた都市の運営をしているということですよ。戦士さん」
端的に答えておいた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる