幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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初心者イベント編

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 最初は、空気がブワブワと揺れて飛んでいくように感じられただけだ。が、それがゴリアテにぶつかった瞬間、何か見えないものが巨体へ向かって行く。

「ガァ――!」

 私からは魔法の性質が見えているけど、わからない人からすれば見えないボールで四方八方からフルボッコにしている感じかしら。

「――ギィ――グゥ――ゲェ――!」

 悲鳴を最後まで発させない程度の速度で、空気の砲弾がゴリアテをリンチ、リンチ。うーん、風は弱点属性だから使ったけどエグいわ……。ガードする暇も与えないもの。

 私は心の中で謝る。

「――ゴォォォォッ!」

 そして10発ほど耐えたところで、漸く全身に打撲痕を着けた体が横たわる。ズズズーンと地面の悲鳴と断末魔の声がハーモニーを奏でた。

 一切身動きが無いことを確認して、私は小さく息を吐く。

「ほっ……終わったわね」

 安堵とともに戦いの終了を告げた。

 すると、後方に避難していた3人の仲間から声が上がる。

「うおぉぉぉぉッ!」「さっすがー!」「メリーさんカッコイー!」

 歓声。

 銃手の女の子は私の名前を呼んで、皆が皆褒め称えてくれた。

「も、もぉ、そんなに褒めても何もでませんよ? "クラン"一、いいえ、世界一の"大賢者ハイ・ウィザード”だとか、アイドルの中のアイドルとか、まじ卍とか、恥ずかしいじゃないですかぁ」

「誰もそこまで言ってねぇよっ。最後とか全然意味わかんねぇから……」

「キャアァァァァッ! いつの間にいらしたので!?」

 突如として隣に湧いた男の姿に、私は幽霊でも見たときのように驚いたわ。ついさっき支離滅裂しりめつれつなことを言ったような気がするのは気の所為よ。

 私は悪くない! いきなり現れるのがいけないのよ! そもそも私、幽霊なんて見たこともないじゃない。

「俺を差し置いてクランナンバーワンを自称しようとはおこがましい。って、そういうことじゃなくてだな」

 応援こそ呼んだものの戦闘終了後にいきなり現れて、ナンバーワンは俺だとドヤりだす男。ノリツッコミも忘れない律儀さ良いわぁ。

「荷物の安否を確かめろ。後、怪我人などの被害状況の確認。よくやったと言いたいが、これでは褒められねぇぞ」

「うぇッ。ご、ごめんなさい!」

 油断していたところに彼の的確な指摘を受け、私は慌てて馬車や馬、それと荷物の確認に走った。

 流石はクランマスター、手厳しいわね。もう少し言い方があるんじゃないかとも思うけど。

 その凛々しく雄々しい顔立ち立ち振舞い。どれをとっても女性のみならず男の憧れにもなる格好良さに、古風な和装の鎧を身に着けた姿は畏敬さえ感じられる。漆黒の外装は『ブラック・プリンス』などと噂されるだけの意義はある。私には、背中を追うぐらいしか出来ない人。

 故に文句があっても口には出せない。などと評している間に、私は問題がないことを確認し終えた。

「怪我の浅いものはカバーに入れ。敵が一体だけ、殲滅せんめつしたなどと油断はするな」

「ひゃ、ひゃい!」「すみません!」「あわわわッ!」

 目の前でみる自分達の長に見惚れていた3人も、続く指摘にてんやわんやで馬車へと駆け寄ってきた。

「流石は凄腕の経営者ね……。グレイザさん、こっちは問題ありません!」

 数社の社長も務めていると噂のクランマスター、グレイザさんに報告したところで改めて皆にも向き直る。そして、頭を下げた。

 この中で一番の熟練者である私が敵の存在を見逃して、さらに馬車を安全な場所に移す時間を要したのがそもそも悪いのだ、と思うから。

「ごめんなさい。私がちゃんとしないと行けなかったのに。もうちょっと早く参加できていれば、被害が抑えられたかもしれなかったわ……」

「や、やめてくださいよッ。反応できなかったのは俺もですし」

「ありゃ、仕方ありませんって。こんな都市の近くでゴリアテに強襲されるとは思いませんから」

「荷物が優先ですから、メリーさんの判断は間違ってなかったわ」

 3人は各々がそう言って、私のミスを許してくれた。それで良いのかと言えば、簡単に納得できるものではない。

 危うく、皆の大事なお金やアイテムならずクランの信用まで貶めることになりかけたのである。

「でも……」

「そこまでだ。謙虚は美徳だが、卑屈になって反省しすぎれば業務に支障が出てしまうだろうが」

 私が反省の意を示そうと思案したところで、グレイザさんが制止をかけて改めてお説教だ。そんなお叱りを頂いたのでは、私も引き下がらざるを得ない。

「はぁい……」

「さて、遅くなる。出発だ」

「はい!」

 気を取り直せと暗に言って、グレイザさんを先頭に再出発するのであった。私もいつまでもクヨクヨしていられないため、気合を入れ直して馬に鞭を入れた。

 怪物の姿はその場に残っているが、いずれなくなってしまうので放置する。獣が近寄ってくる心配もない。

 さておき、そこから――体感だけで言えば――10分ほどで到着したのは、我らがクラン『ソウル・カンパニー』の管理する国家"スナンドニー"の首都である。

 牧草と農耕地の古びた匂いが石とレンガに変わり、街道の終わりを伝えた。そして、牧歌的な空間には似合わない巨大な城壁が立ちはだかる。

 その巨大な壁の上に立っていた見張りの兵士は、グレイザさんの姿を見るやいなや門へと声を掛けた様子だ。すぐさま、堀として作られた河には橋が降ろされる。

 合わせて、ギギギッと板材を金属板で補強した城門が重苦しい音を立てて開かれた。

 まるで待ちわびていたとばかりに、門から飛び出してくる人影が一つ。

「兄さん!」

 そう呼んでグレイザさんへと駆け寄ってきた。
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