9 / 31
初心者イベント編
1-8
しおりを挟む
『レベル120以上のクランメンバーについて、初心者イベントへの参加を差し控えるよう通達する』
そのような、クランマスターのグレイザさんからのゲーム内メールで、私のアゲアゲな気持ちはアビスへと堕落した。
目が死んでいるのが自分でもわかる。
「ど、どどどど、どーういうことですか!? 私のBUGUウサグッズは!? コンプリートの夢は!?」
私は通達の内容を確認して、理解すると同時に執務室へと走った。大賢者というジョブに似合わない、剣幕なのか絶望なのかわからない表情で。
通りがかりに他のクランメンバー達とすれ違ったけどドン引きしていたのにも後で気づいたわ。
「詳細も書いてあっただろ?」
MJさんがいたら暴走を止められていたでしょうけど、今日は来ていないのかすんなり部屋に入れた。返ってくるグレイザさん言葉はそれだけだ。
確かに、理由らしきものも書いてあったわ。
冷静な物言いで凛とした目で睨まれると、MJさんとは違う意味で冷静にならざるを得ない。
「初心者向けだから、熟練者が出張ると楽しめなくなるってことですよね?」
「あぁ。別に強制こそしないが、わざわざ参加する必要もないだろ?」
そう言われてしまうと、理由の上では納得できる。命令ではなくお願いである以上、これまた文句の言いようがなかった。
言葉に詰まる私へ、グレイザさんはさらに続ける。
「それでも、初心者がつまらないと思って居着かなかったら、ゲームが衰退していくだろ。好きなゲームの人気がなくなるのは困る」
そういうグレイザさんの本心に間違いはないと思った。利益第一の営利主義に走った大人の目ではなく、純粋に好きな作品を語る人の輝きだったわ。
私もスフィファンのことは好きだし、BUGUウサギが人から忘れられていくのは見たくない。
「案外、子供っぽいところもあるんですね……」
「欲しい物が手に入らなくて、凄い血相で駆け込んでくる奴には言われたくないぜ」
私が指摘すると、呆れて言い返された。
そこへセルシュさんがフォローするように付け加える。
「イベント装備を一つ手に入れて見て、中盤の120レベルぐらいまで使うのが精一杯だと判断したんだよ」
「そんなに欲しいなら、ダブった分を分けて貰えば良い。俺達の業務はそういうことを目的とした相互扶助だ」
「うぐ……」
2人に説得され、私は諦めるしかなかった。
全種全キャラの装備をコンプリートできるかわからないけど、必要分が揃えば初心者達もイベントから離れるはずよね。その間に、なんとか手に入れれば良いわ。
それに、レベルが上がって必要なくなったらプレイヤー商店に並ぶから買える。今は、我慢よ。
「それにしても、本当に好きなんだな」
「好きですけど、何か……?」
何故か、グレイザに改めて確認された。少し苦笑を浮かべている様子なので、もしかしてからかわれているのかしら?
思わず、ムッとなって言い返してしまった。
「いいや」
なんでも無いとばかりに短く返されたのも、なぜか頭にカチンときた。
何か言ったところで意味はないため、大人しく引き下がることにする。
「そうですか。では、私は銀行の方へ」
イベントから数日は金庫の業務も少なくて直ぐに暇になりそうだけれど、何もしないよりは我慢ができると判断した。
新しくやることになった会社の仕事を進めるかとも考えて、少し踏みとどまる。
「こっちも、大事な仕事だものね」
聞こえない程度に言ったつもりだったけれど、直ぐ側にいるセルシュさんには気づかれたみたい。
「何か言ったかい? そうだ。せっかくなら、品の整理から入ってもらえるかな?」
「内業からですか? えー、まぁ、構いませんが」
意外な申し出だ。
応援も頼まれていないのに大丈夫かと、一瞬だけ迷うも直ぐに説明してくれる。
「僕が応援に行く予定だったのだけど、別の仕事が立て込んでいてね」
私のような下っ端とは違って、管理者の2人は忙しいようね。私は、癒やしてくれるセルシュさんの代わりを務めるべく快諾した。
金庫内での作業も慣れておかないといけないと思っていたところだもの。
私は執務室を出てクラン金庫へと向かう。
「やぁ、メリー。最近、店に来てくれないけど不漁かい?」
通りがかりに、アイテム屋の店主に声を掛けられた。
骨と皮だけの萎びたキノコみたいな老婆。失礼だけど、そういう説明しかできないキャラだから仕方ないでしょ。
「アイテム屋のお婆ちゃん、こんにちは。最近は、なかなか冒険もなくて」
「そうかい。ま、腐らず頑張りな」
「うん。じゃ、またね」
短いやり取りだけして、私は手を降って別れた。
商店街側の大通りを過ぎて主要施設地区へと入って、銀行の建物内を通り金庫へと近寄る。古風な銀行には似合わない、重厚な鉄扉を着けた壁である。
「こんにちはー」
「これは、これは……えー」
「あら、ごめんなさい」
本当の支配人はグレイザさんなので、初老の支配人代行に声を掛けるとやや迷いを見せるた。軽く誤りつつ、私はインタフェースのスフィアを表示した。
そこからステータス画面へと移動して、いくつもの数字を確認した。
そのような、クランマスターのグレイザさんからのゲーム内メールで、私のアゲアゲな気持ちはアビスへと堕落した。
目が死んでいるのが自分でもわかる。
「ど、どどどど、どーういうことですか!? 私のBUGUウサグッズは!? コンプリートの夢は!?」
私は通達の内容を確認して、理解すると同時に執務室へと走った。大賢者というジョブに似合わない、剣幕なのか絶望なのかわからない表情で。
通りがかりに他のクランメンバー達とすれ違ったけどドン引きしていたのにも後で気づいたわ。
「詳細も書いてあっただろ?」
MJさんがいたら暴走を止められていたでしょうけど、今日は来ていないのかすんなり部屋に入れた。返ってくるグレイザさん言葉はそれだけだ。
確かに、理由らしきものも書いてあったわ。
冷静な物言いで凛とした目で睨まれると、MJさんとは違う意味で冷静にならざるを得ない。
「初心者向けだから、熟練者が出張ると楽しめなくなるってことですよね?」
「あぁ。別に強制こそしないが、わざわざ参加する必要もないだろ?」
そう言われてしまうと、理由の上では納得できる。命令ではなくお願いである以上、これまた文句の言いようがなかった。
言葉に詰まる私へ、グレイザさんはさらに続ける。
「それでも、初心者がつまらないと思って居着かなかったら、ゲームが衰退していくだろ。好きなゲームの人気がなくなるのは困る」
そういうグレイザさんの本心に間違いはないと思った。利益第一の営利主義に走った大人の目ではなく、純粋に好きな作品を語る人の輝きだったわ。
私もスフィファンのことは好きだし、BUGUウサギが人から忘れられていくのは見たくない。
「案外、子供っぽいところもあるんですね……」
「欲しい物が手に入らなくて、凄い血相で駆け込んでくる奴には言われたくないぜ」
私が指摘すると、呆れて言い返された。
そこへセルシュさんがフォローするように付け加える。
「イベント装備を一つ手に入れて見て、中盤の120レベルぐらいまで使うのが精一杯だと判断したんだよ」
「そんなに欲しいなら、ダブった分を分けて貰えば良い。俺達の業務はそういうことを目的とした相互扶助だ」
「うぐ……」
2人に説得され、私は諦めるしかなかった。
全種全キャラの装備をコンプリートできるかわからないけど、必要分が揃えば初心者達もイベントから離れるはずよね。その間に、なんとか手に入れれば良いわ。
それに、レベルが上がって必要なくなったらプレイヤー商店に並ぶから買える。今は、我慢よ。
「それにしても、本当に好きなんだな」
「好きですけど、何か……?」
何故か、グレイザに改めて確認された。少し苦笑を浮かべている様子なので、もしかしてからかわれているのかしら?
思わず、ムッとなって言い返してしまった。
「いいや」
なんでも無いとばかりに短く返されたのも、なぜか頭にカチンときた。
何か言ったところで意味はないため、大人しく引き下がることにする。
「そうですか。では、私は銀行の方へ」
イベントから数日は金庫の業務も少なくて直ぐに暇になりそうだけれど、何もしないよりは我慢ができると判断した。
新しくやることになった会社の仕事を進めるかとも考えて、少し踏みとどまる。
「こっちも、大事な仕事だものね」
聞こえない程度に言ったつもりだったけれど、直ぐ側にいるセルシュさんには気づかれたみたい。
「何か言ったかい? そうだ。せっかくなら、品の整理から入ってもらえるかな?」
「内業からですか? えー、まぁ、構いませんが」
意外な申し出だ。
応援も頼まれていないのに大丈夫かと、一瞬だけ迷うも直ぐに説明してくれる。
「僕が応援に行く予定だったのだけど、別の仕事が立て込んでいてね」
私のような下っ端とは違って、管理者の2人は忙しいようね。私は、癒やしてくれるセルシュさんの代わりを務めるべく快諾した。
金庫内での作業も慣れておかないといけないと思っていたところだもの。
私は執務室を出てクラン金庫へと向かう。
「やぁ、メリー。最近、店に来てくれないけど不漁かい?」
通りがかりに、アイテム屋の店主に声を掛けられた。
骨と皮だけの萎びたキノコみたいな老婆。失礼だけど、そういう説明しかできないキャラだから仕方ないでしょ。
「アイテム屋のお婆ちゃん、こんにちは。最近は、なかなか冒険もなくて」
「そうかい。ま、腐らず頑張りな」
「うん。じゃ、またね」
短いやり取りだけして、私は手を降って別れた。
商店街側の大通りを過ぎて主要施設地区へと入って、銀行の建物内を通り金庫へと近寄る。古風な銀行には似合わない、重厚な鉄扉を着けた壁である。
「こんにちはー」
「これは、これは……えー」
「あら、ごめんなさい」
本当の支配人はグレイザさんなので、初老の支配人代行に声を掛けるとやや迷いを見せるた。軽く誤りつつ、私はインタフェースのスフィアを表示した。
そこからステータス画面へと移動して、いくつもの数字を確認した。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる