幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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初心者イベント編

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『レベル120以上のクランメンバーについて、初心者イベントへの参加を差し控えるよう通達する』

 そのような、クランマスターのグレイザさんからのゲーム内メールで、私のアゲアゲな気持ちはアビスへと堕落した。

 目が死んでいるのが自分でもわかる。

「ど、どどどど、どーういうことですか!? 私のBUGUウサグッズは!? コンプリートの夢は!?」

 私は通達の内容を確認して、理解すると同時に執務室へと走った。大賢者というジョブに似合わない、剣幕なのか絶望なのかわからない表情で。

 通りがかりに他のクランメンバー達とすれ違ったけどドン引きしていたのにも後で気づいたわ。

「詳細も書いてあっただろ?」

 MJさんがいたら暴走を止められていたでしょうけど、今日は来ていないのかすんなり部屋に入れた。返ってくるグレイザさん言葉はそれだけだ。

 確かに、理由らしきものも書いてあったわ。

 冷静な物言いで凛とした目で睨まれると、MJさんとは違う意味で冷静にならざるを得ない。

「初心者向けだから、熟練者が出張ると楽しめなくなるってことですよね?」

「あぁ。別に強制こそしないが、わざわざ参加する必要もないだろ?」

 そう言われてしまうと、理由の上では納得できる。命令ではなくお願いである以上、これまた文句の言いようがなかった。

 言葉に詰まる私へ、グレイザさんはさらに続ける。

「それでも、初心者がつまらないと思って居着かなかったら、ゲームが衰退していくだろ。好きなゲームの人気がなくなるのは困る」

 そういうグレイザさんの本心に間違いはないと思った。利益第一の営利主義に走った大人の目ではなく、純粋に好きな作品を語る人の輝きだったわ。

 私もスフィファンのことは好きだし、BUGUウサギが人から忘れられていくのは見たくない。

「案外、子供っぽいところもあるんですね……」

「欲しい物が手に入らなくて、凄い血相で駆け込んでくる奴には言われたくないぜ」

 私が指摘すると、呆れて言い返された。

 そこへセルシュさんがフォローするように付け加える。

「イベント装備を一つ手に入れて見て、中盤の120レベルぐらいまで使うのが精一杯だと判断したんだよ」

「そんなに欲しいなら、ダブった分を分けて貰えば良い。俺達の業務はそういうことを目的とした相互扶助だ」

「うぐ……」

 2人に説得され、私は諦めるしかなかった。

 全種全キャラの装備をコンプリートできるかわからないけど、必要分が揃えば初心者達もイベントから離れるはずよね。その間に、なんとか手に入れれば良いわ。

 それに、レベルが上がって必要なくなったらプレイヤー商店に並ぶから買える。今は、我慢よ。

「それにしても、本当に好きなんだな」

「好きですけど、何か……?」

 何故か、グレイザに改めて確認された。少し苦笑を浮かべている様子なので、もしかしてからかわれているのかしら?

 思わず、ムッとなって言い返してしまった。

「いいや」

 なんでも無いとばかりに短く返されたのも、なぜか頭にカチンときた。

 何か言ったところで意味はないため、大人しく引き下がることにする。

「そうですか。では、私は銀行の方へ」

 イベントから数日は金庫の業務も少なくて直ぐに暇になりそうだけれど、何もしないよりは我慢ができると判断した。

 新しくやることになった会社の仕事を進めるかとも考えて、少し踏みとどまる。

「こっちも、大事な仕事だものね」

 聞こえない程度に言ったつもりだったけれど、直ぐ側にいるセルシュさんには気づかれたみたい。

「何か言ったかい? そうだ。せっかくなら、品の整理から入ってもらえるかな?」

「内業からですか? えー、まぁ、構いませんが」

 意外な申し出だ。

 応援も頼まれていないのに大丈夫かと、一瞬だけ迷うも直ぐに説明してくれる。

「僕が応援に行く予定だったのだけど、別の仕事が立て込んでいてね」

 私のような下っ端とは違って、管理者の2人は忙しいようね。私は、癒やしてくれるセルシュさんの代わりを務めるべく快諾した。

 金庫内での作業も慣れておかないといけないと思っていたところだもの。

 私は執務室を出てクラン金庫へと向かう。

「やぁ、メリー。最近、店に来てくれないけど不漁かい?」

 通りがかりに、アイテム屋の店主に声を掛けられた。

 骨と皮だけの萎びたキノコみたいな老婆。失礼だけど、そういう説明しかできないキャラだから仕方ないでしょ。

「アイテム屋のお婆ちゃん、こんにちは。最近は、なかなか冒険もなくて」

「そうかい。ま、腐らず頑張りな」

「うん。じゃ、またね」

 短いやり取りだけして、私は手を降って別れた。

 商店街側の大通りを過ぎて主要施設地区へと入って、銀行の建物内を通り金庫へと近寄る。古風な銀行には似合わない、重厚な鉄扉を着けた壁である。

「こんにちはー」

「これは、これは……えー」

「あら、ごめんなさい」

 本当の支配人はグレイザさんなので、初老の支配人代行に声を掛けるとやや迷いを見せるた。軽く誤りつつ、私はインタフェースのスフィアを表示した。

 そこからステータス画面へと移動して、いくつもの数字を確認した。
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