幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

文字の大きさ
18 / 31
レイド・ダンジョン編

2-3

しおりを挟む
 一度出遅れれば、前を行くチームがミスしない限りは追い抜けなくなる可能性があるわけね。

 完全に倒せないヴァンパイアというモンスターだからこそ成立したレイドダンジョンを、競争という形で運用するには上手いやり方である。

「まぁ、今までよりはマシなやり方ですね。一匹を休みなく入れ替わり立ち代わりいたぶるとか、どうなのかと考えていましたし?」

「おい、まるで俺達が非人道的みたいに言うんじゃねぇ……」

「当然、あんなの全員が共犯ですよ!」

「モンスター相手だから不可抗力だ! 不可抗力!」

「そんなこと言って、一体何回ヴァンパイアロードを倒したのッ?」

「それはお前が言って良いことじゃねぇよ! ヴァンパイアが言うことだからな!?」

 大企業の管理者とは思えない程度にわかっていらっしゃるようだ。

 しかし、本当に私達ってことごとく反りが合わないわ。

 周りからも、仲の悪さをクスクスと笑われてしまう。グレイザさんも顔を赤くして手を振る。

「全く……やめやめッ。さぁ、急いで"ネプトノス”へ」

 ため息一つとそれだけの叱咤で場を収め、皆を首都南西の都市へと進むよう促した。

 行く先はスナンドニーの港湾交易都市であり、国外に出ていくならちょうど良い場所である。本当ならここアキュイロの"冒険者の店"で仕事を請け負うのだけど、リスポーン地点が遠くなってしまうので避けるのだろう。

 今回は自由国"ロムフィード"ではなく共和国"プリキュバー"だからね。

「他の人達は、各々の国で依頼を受注して合流ですか」

 チーム全体を見渡し、24人もいなさそうなため私は聞いた。

「そうだ。共和国と王国は別に受けないと駄目らしいぞ。多分、共和国の冒険者の店が混んで騒ぎにならないようって配慮だろ」

「なるほど」

 こういう細かいところに気遣いするから、このゲームは人気が高いのだ。

 ゲーム運営の頑張りはさて置き、私達は交易都市へとやってきた。移動? いや、10人を超える団体様に手を出す輩はそうそういないし、そこらのボス級モンスターでも敵うわけもなく何事もなく到着よ。

 南北にある要塞都市に継ぐ大きな壁を越えて、風に運ばれてくる潮の香りを胸いっぱいに吸い込む。磯か魚かの生臭さに顔をしかめつつ、多くの人々で賑わう街を進む。

「セルシュ、港で話を付けておいてくれ。俺達は依頼の受注をしてくる」

「わかったよ」

 装甲任せで"AGI敏捷"に振っていないセルシュさんが港へ。グレイザさんが冒険者の店へと向かうことになった。

「待って、俺達って?」

 依頼なんて1人いれば十分なのに、まるで複数人で行くかのようなことをおっしゃった。当然のように嫌な予感がして、私は意義を申し立てた。

 グレイザさんは彼自分を指差し、続けて私を指差す。

 私も指し返して、次に自分へと指先を向ける。

 グレイザさんはうなずく。

 私笑う。

 嫌ぁ!

「そんなに嫌がらなくても良いだろう……」

「なんて一緒に行かないと駄目なんです!? 1人でお遣いぐらいできるでしょう!? 子供じゃないんですから!」

「ちげーよ! いざってこともあるんだから1人なんて危ないだろうが。それに、前に言ってただろ」

 何をッ? あ……。

 ちょっと前に、仕事の調子を聞かれて答えたことがあった。それを思い出す。

『ネプトノスには何度か行ってますけど、観光はしたことないですね。まぁ、どの街もですけど』

 そういえばそんなことを言った。

「ネプトノスの構想と建造指揮をしたのが兄でね」「セルシュ」

 へぇ。

「っと、行ってくるよ」

 セルシュさんがフォローめいたことをするも、お兄さんに睨まれてそそくさと退散していった。

「あぁ、そーういうことですか。自慢がしたかったわけですね」

 逆転。グレイザさんの考えを看破して、私の方が有利になった。この機にちょっとからかってやろっと。

「あーあーっ、それで良いよ。ったく」

 負けを認めて、先に歩いて行ってしまった。その後を、私はニヤニヤと笑いながら着いていく。

 男が子供みたいに自分の作ったものを見せびらかしたいのは、まぁなんとなくわかるというもの。こういう男の子男の子したところは、やっぱり憎めないのよね。

「あっちは海鮮市場になっているから見ものだぞ。む、あの仕入れは危なっかしいな」

 私が考えながら歩いていると、グレイザさんはあそこはどうだ、ここのなんだ、と話していった。なんだかお上りさんみたいになっているわ。

 中央までくると、釣り上げた大物の競りが独占法だのなんだの呟きながら向かおうとする。

「あんまりうろちょろすると迷子になりますよ~」

「そこまで間抜けじゃねぇさ。お前とは違うからな」

「そんなこと言ってー。私だって子供では……なんだか、人が集まって?」

 市場に出品する漁師も増え、競りに注目が集まってきたせいか混み合ってくる。気がつけばいつの間にか人集りに囲まれていた。

 そんなタイミングでグレイザさんが市場を牛耳る親元に介入していくものだから、騒ぎは一気に可燃して爆発する。

「散れッ! 誰か衛兵を! 元首権限にて捕縛する!」

 こうなったら、人の流れは恐慌により外へと流出する。当然、私は人波に逆らうことなどできず飲まれるのだ。

「イヤァャァァァァァァァッ――!」

 聞き取ってもらえる私の悲鳴が無情に響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

処理中です...