幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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レイド・ダンジョン編

2-6

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 黒曜の鎧が尾を引き、漆黒の稲妻は大地を統べる。

 振り抜かれた太刀は如何いかなる鉤爪よりも美しく、そして冷酷だった。

 袈裟懸けさがけけの一撃はキチン質の外皮を切り裂くも、倒し切るだけのダメージには至っていない。しかし、どこからともなく振り下ろされたもう一つの刃が寸分違わず傷を追従して、"キャプテン・クックローチ”を追撃した。

 肩から2つの大傷を受けた暗黒物体は、ズルリと地面に崩れ落ちる。

「ふぅ……無事か?」

 太刀を腰の鞘に収め、グレイザさんは私に向き直った。

「はい」

 まぁ、私ができるのは生返事なのだけどね。

 今、皆の感心はグレイザさんの私への態度よりその武器に注がれている。

 "大業物おおわざものかさね"。ユニーク・アイテムでこそないものの、課金で手に入る超レア武器である。マネー・イズ・パワーというわけね。

「なら良い。お前達、見てないで隊列を組め。行くぞ」

 ザワザワと太刀を眺めている仲間に、グレイザさんは指示を出した。皆直ぐに、お金で敵を叩くシステムから目を離して道を進んだ。

 クランの皆はそこから何度となく集団発生する虫の大群に、"HPヒットポイント"とも言える体力と、"MPマナ・ポント"と呼ぶ魔法・戦闘スキルの使用回数制限を示した数値が削られていく。

 そして、私は精神ココロを。

「【火炎槍ファイア・スピア】!」

 ほとんど無意識ながらも、魔法スキルぐらいはなんとか使えた。本能的な動作に任せて、爆散する炎の槍で虫モンスターを蹴散らした。

 爆発点では有象無象が灼熱に包まれ、飛散した火の礫で雑魚はビビって散っていく。

「……ふぅ、これで何度目だ? サンキュー、メリーさん」

「最大湧き数と速度をかなり多く早く設定してあるんだろ。他チームもそれなりに進行している証拠だな」

 エクスカリバーな戦士が一息ついて、私にサムズアップしてみせた。その疑問に答えるように、グレイザさんは状況について推察した。

 これからまだ襲撃が続くことに反吐が出そうだけど、立ち止まってもいられず再び進む。

 そんな折、どこからか悲鳴が聞こえてくる。

「悲鳴? あっちの方からだ」

「悲鳴ばかりで助けは呼んでなさそうね」

 グレイザさんが先に気づき、続けて銃手の子。全員で近づきつつ様子を伺って、プレイヤーの誰かが上げている悲鳴ではないことを確認した。

 助けを呼ぶでもなく声の上げ方が一定なのである。

「NPCか。となると、やはり探している奴だな」

 そう言われて、自分達の目的を思い出した。

 サービス期間のダンジョンクリア条件は、このNPCを連れて行くことなのよね。

 そのキャラクターはというと、蛇に襲われていた。

「……」

 私はその光景を見た瞬間、完全に思考がロックされた。

 全長20メートルはあろうかという常識外の存在が、背中に薄羽を付けた女性を襲っているのだ。他種族なんて実装されていないから、明らかに木々の向こうで怯えているNPCで正解だろう。

 今はなんとか、巨大蛇が圧し折った大木が上手く組み上がって、それに阻まれる形で凌いではいるけれど……。

「キャァァァァァァァッ!」

 ついには尻尾による一撃が樹上からバリケードの上半分を吹き飛ばし、妖精のような女性から悲鳴が上がった。

 もう持ちこたえないであろうことは明白で、電信柱ほどはある尻尾の一薙にも臆さず皆は臨戦態勢に入る。

「展開! 【賦活陣形】!」

 グレイザさんの指示が飛び、生命力を分け合い増幅した前衛が広く蛇を取り囲んだ。

「ジャァァァァァァァッ! 我はこの密林のヌシなり! 早々に立ち去れ!」

 敵が近づいたことに気づいたピンクの鱗に黒玉柄の蛇は、大口とトサカを広げて威嚇した。ワァシャベッタァ!?

 鋭い牙の先端からは粘性のある液が滴り、地面に落ちると10センチほどに渡って植物をしなびさせる。

 女性っぽい声で会話できる知性があり半月の白眼に愛嬌があるとも評されそうな全体像とは裏腹に、猛毒の持ち主というシュールさがもはや神経を逆撫でする。

 ゾワッと鳥肌が立ち、ストレスというどす黒く汚れた使用済み潤滑油が胸の中で流動する。生理的に無理などといった言葉はもはや遠い昔に通り過ぎた。

 もう駄目……。

 虫偏がついてて長くてニュルニュルなら容赦しなくて良い。それが世の理よ。

「来るぞ!」

 グレイザさんが声を上げた。

 魔道術者の【能力走査】により判明した名前は"ジャングル・イーター"である。機敏にして攻撃力が高く、防御もかなりのもので攻撃範囲も非常識とのこと。『AGI220 DEF125 DEX192 MR51 INT123 VIT180 STR202 HP100000 MP200』というステータスと言えばわかりやすいかな?

 いや、もはやそんなことはどうでも良いのだ。

 なんで、私がこんな苦しい思いをしてついてこないといけなかったのかッ? もっと事前に情報としてわかっていたはずだし、偵察を出しても良かったはず! 提案しなかった私も言えた義理ではないかもしれないけど……!

「あ」

「どうした?」

 私の漏らした声に、グレイザさん含む何人かが振り返った。

「アーハッハハハハハァッ!」

 私の中で何かが切れて落ちた。
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