幻想球 ~ユニーク・スキルは一国守護の要です~

AAKI

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レイド・ダンジョン編

2-15

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 私は意を決し、迫りくるサソリのハサミによる攻撃を意識することもなく、手を突き出して最強の魔法を解き放とうとした。

 それよりも早く目の前に躍り出て、太刀を振りかざす漆黒の王太子。

「――さ」

「【剛破切ジャイアント・キリング】!」

 横薙ぎに走る斬撃の残線。ガキィィィィィンッと、遺跡を破壊しそうな重たい高音が鳴り響いた。

 一太刀はかさねにより2条となって、死神の鎌の如く黒光りするハサミを弾き飛ばす。

 黒と黒の相対。

「ぬぅおっ!」

 強固な鎧でもある外殻を破壊するのには足りなかったけど、ヒビを入れることはできた。

 ヌシが声を上げたのも、驚愕というより驚嘆だろう。

「グレイザさん!?」

 私は、復帰を遂げたグレイザさんの名前を呼んだ。

 胸にくるものがあるけど、それは多分、図ったかのようなタイミングであることへの怒りでしょうね。

 もちろん、この気持ちをぶつける時間など与えてくれはしない。

「やりおる! だが、もう一度痺れてもらおう!」

「【剛雨ストーム】! 【双覇切ラッシュ】!」

 ヌシサソリは、一撃では仕留められないと思ってか尻尾の針で攻撃をしかけた。対するグレイザさんは、戦闘技能で肉体を強化したところで素早い斬撃を繰り出した。

 2重どころではない。3重、4重の剣閃が尻尾を削っていく。

「ぬおぉッ!」

 弾き返されるだけでなく、装甲を切り飛ばされるのだから驚くのも無理はない。2重に斬撃を発生させる太刀による連続斬り。それが通じないはずなかった。

 親の仇かってぐらいに先端を刻んだところで、少し息を切らせて手を止める。

「はぁ。どうだ? これで自慢の尻尾は使えねぇだろ」

「ぐぬ……やってくれる。若造が」

「ハッ、ありがとよ」

 横柄な態度はどちらも同じだけど、果たして実力はいかに。

 ここまで五分と言ったところ……あ、私は考え違いしていたわ。

「土の属性で何か、適当にぶち込め。物理攻撃が通じにくい代わりに、魔法はそこそこいける」

 こちらは2人いるという事実である。

 そう、これはレイド・ダンジョンなのだ。

「名案ですね! やっぱり、受けた属性で変化するタイプでしたか」

「フッ。その正々堂々って言葉がないところは嫌いじゃないぜ」

「はいはい、お褒め預かり光栄です」

 グレイザさんに褒められたので皮肉を返した。最も正々堂々という言葉から遠い人間に褒められて、嬉しいわけがないでしょう。

 嬉しいわけないんだから。

「ふぅ……。す、【石走狗】」

 私は気持ちを落ち着かせようとしながらも、虫に怯えているときとはいささか違う声で魔法を解き放った。石床から作り出した犬が数体、ハサミや節足を掻い潜って腹下の珠玉へと向かって駆けた。

 そして、緑から黄色に変わった玉へと噛み付く。

「グオッ!」

 弱点の攻撃で急所を突かれ、ヌシサソリはたまらず体を仰け反らせた。全身を揺すり複数の足で払い落とそうとするも、逆に余計な隙を作る羽目になった。

 無駄だと悟ったところで遅く、もがくのを止めたところでグレイザさんは動く。体を下ろす瞬間、確実にその動きを読めるタイミングで。

「【雷走】!」

 俊足を得て懐に飛び込んだ。

「【剛雨】!」

 さらに強化した力をもって、フルパワーの一撃を叩き込む。

「【剛破切】!」

「ガアァァァァァァァァァァァッ――!」

 力づくの斬撃を受け、ヌシサソリの断末魔の悲鳴が響いた。黄金に輝く胸の核には最初に小さなヒビが入り、次第に傷口が広がっていく。

 さらにかさねが加わり、数秒もしない内に2つに砕けた。

 ズズズーンと巨体が砂埃を巻き上げながら崩れ落ち、響く轟音が抜け去った。その後に、ドロップアイテムをシステムが伝えて終わりがきたことを理解する。

「はぁ~……ここで終わりかと思いました」

 私はヘナヘナと力が抜けて、腰を床に降ろした。

「問題は……なさそうだな」

「え? あ、あぁ、えっと、なんとか」

 グレイザさんの言葉に答えるも、どんな顔をすれば良いかわからないので愛想笑いを浮かべてみせた。

 直ぐに真顔に戻す。きっと、無茶をしたことを怒るでしょうからね。もしかしたら、グレイザさんが回復するだけの時間を稼げず倒れていたかもしれない。それこそ、共倒れになってしまうところだった。

 先制を取って謝罪する。

「すみません」「すまなかった」

 おかしい。声は反響するかもしれないが、男性の声まで木霊するとは予想していなかった。

「えーと?」

 私は小首を傾げて、意図せず上目遣いにグレイザさんを見上げた。

 何を恥ずかしがっているのか、思春期の子供みたいにプイッと視線を逸してしまう。

「あー、あー……ごほん」

 私は喉の調子を確かめて、少し這うようにグレイザさんの正面に回り込んだ。

 謝るなら正面からじゃないとね。

「ごめんなさい」

 今度こそちゃんと謝れた。

「いや、こちらこそ悪かった」

 すると、返ってくるのは予想外のセリフだった。

 馬鹿な! こいつ偽物か!?
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