「阿藤零士の心霊事件ファイル ~名探偵は美少女助手と除霊を頑張る~」

AAKI

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FILE1.痴漢幽霊騒動

その4-10

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 驚愕の言葉に明可は衝撃を隠せなかった。

「本当に、愛華、なの……?」
『……お姉、ちゃん……。ごめ……邪魔しない……で……』

 幽霊、いや、九十九 愛華は正体をい暴かれ悲しみをにじませて訴えた。

「どうして?」
「どうして……?」

 双葉と明可の同音の問いはそれぞれ意味を違えていた。片や幽霊の正体が愛華だとわかったのか。もう片や亡くなった妹がなぜ殺人に手を染めているのか。

「六味のセリフがな。自分が痴漢だと自白してたろ」
「えぇっ? じゃあ、明可さんの依頼ほうの犯人って六味さん?」
「他にもいる可能性はあるが、この様子だとそうだろうな」

 推理に驚く双葉の視線を状況証拠に向けさせた。
 次は愛華が明可に答える番だ。しかし復讐に焦がれた冷気が確かなことを話せるわけもなく。

『こいつだけは……殺さないと……』
「うぐぐ……お願い、許して……」

 聖雄と同じように六味の首を握り宙へ引き上げる。そして、彼も零士の推理を肯定するかのように命乞いした。

「愛華! その……ごめんなさい!」

 明可の口からは、制止ではなく心底の謝罪が発された。

『お姉ちゃん……?』
「気づいて上げられなくて、ごめん! 進学のことで追い詰めて、勝手に期待を背負わせて、それなのに何に本当は悩んでいたのか気づいて上げられなかった……」

 姉は妹の怒りの原因を知っている。痴漢行為について相談できなかったからではなく、その場を用意しない、些細な行き詰まりと切り捨てる明可そのものである。形なき良心の拘束が今なお愛華を現世に縛り付けている。

「だから、殺すなら私だよ。六味さんはちゃんと生きてる人の理屈で裁かないとダメ」

 使命感の裏返しで手を汚すことはもないのだと伝えた。持っていた役立たずの武器を落とすと前へ進み出ていく。

「……」
『……』

 六味が身動きしなくなったところで、愛華は彼から手を話して明可に近寄っていく。自分の首に幽霊の手が伸びてきても抵抗を示さなかったのは、恨まれているのは当然だという諦めである。

「ダメだ! 九十九さん!」
「明可さん!」

 零士と双葉は扉と格闘しながら明可に呼びかけた。
 そして――。

「あ……」

 愛華は明可に抱きつき停止した。

「愛華……?」
『ごめんね……。お姉ちゃんが、苦しんでたのに、私も気づかなかった。それなのに……自分のことばかり……』
「大丈夫。大丈夫だから。わかってくれたなら、もう良いんだよ」
「うん……。うん……」

 零士達が心配したようなことは起こらず、姉妹の間ですべてが片付いたらしい。
 すると、固く閉じていた扉が新築のようにアッサリと開く。

「おっと」
「ひ、開いた!? あ、愛華さんが……!」

 部屋の中に転がり込んだ零士と双葉は、幽霊の姿が少しずつ薄れていくのを目撃する。ただ、ここで感動的に見送れないのがバカ上司だ。

「くそっ、空気が読めないとか言われても良い! 殺人犯なのがわかってるなら償っていけ!」
「その性格、もう嫌いですらないですよ……!」

 零士が犯罪者を見逃すことを嫌い、双葉が呆れながらも泣き笑いを浮かべる。そして、止めるのも聞かずに愛華の姿は霧散して消えてしまった。

「お、おい!」
「零士君、もう手遅れです。今は亡くなった人やパニックになってる子達なんとかしましょう」

 副所長兼秘書は冷静だった。聖雄の遺体や恐慌状態にある六味や無央をどうにかしなければならない。
 明可は……妹との今生の別れで感傷に浸っている。邪魔するのも野暮というものだろう。

「う、うぅ……ごめんなさい。ごめんなさい……」
「今、警察に連絡してますから。ちゃんと償ってください」
「落ち着くころには到着するだろうから、ここで待つとするか」

 いつの間にか携帯電話もつながるようになり、窓もすんなりと開くようになっていた。
 警察もパトカー数台で乗り付けてきて、いくつかの事件は終わりを迎えることとなる。巷でこの事件がどのように報じられたのかといえば、零士――ほぼ双葉や愛華の口裏合わせによって――痴漢の罪を苦にした自殺という形で幕を閉じる。
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