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投稿5・とある探偵助手の報告書[八月朔日 翠華(仮名)、23歳、女、探偵助手]
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残暑のきつい中、1人の女性がスーツの上着を肩にかけて電車を降りた。
首都を出て東北の端へとやってきたというのに、ここ最近の日和はまだ人々の体を苛む。迎えの車内はクーラーが利いていると良いななどと、女性は汗で張り付いたシャツの胸元を引っ張る。少しだけ風が通った。
たわわな胸元に向けられる通行人達の不快な視線を、いつものことと耐えながら駅の改札を潜る。すると、依頼人が待っていてフェリーでT海峡を渡ってくれるという話。そこから目的地の町だか村まで半日ぐらいだということを、先に調べてあった。
「あれね」
小さな駅には似合わない白いワゴンタイプの車を見つけ、女性は小さく呟くと早足に向かってドアをノックした。直ぐにスライドドアが開き、家族と思しき三名が顔を見せた。運転席と助手席、真ん中の列の座席に一人ずつ。
少し大仰な出迎えに身を強張らせるが、行方不明の息女を探すともなれば必死なのだろう。そう考えることにして、女性はショートカットの髪を縦に振って挨拶する。
「ご依頼人の……関係者の方々ですね? 私、八月朔日 翠華と申します」
更にはハンドバックから名刺ケースを取り出し、改めて『はづき探偵事務所』の職員であることを伝えた。本当は探偵助手という雑務を主にする立場なのだが、デスクワークは性に合わずいつもこうして率先して仕事へと駆け出してくるのである。
「は、はい。娘を、どうか娘を……うぅ」
真ん中の座席にいた女性が、母親が涙ながらに頼んできた。
「全力を尽くさせていただきます」
確証などないとは言え、少しでも安心させてやりたくて翠華は言った。他の家族であろう男性2人も、沈痛な面持ちをして彼女のことを見ていた。
見た目の年から、運転席の男性が父親で、助手席の人物が息子さんだろう。目的地へ到着するまでに、電話では確認できなかった部分を訊くことにする。村だか町だかでどういう状況で息女がいなくなったのか、そういったことを絵に書くなどして整理していくのだ。
しかし、訊けば訊くほど里山に入って居なくなったようには思えない。
「けれど、そこの人達は娘さんを見ていないと言うんですね?」
「はい……。彼らが嘘をついているようにしか思えませんッ」
母親の言う通りなのだが、まずはそれも含めて集落の人達にも話を訊かなければならない。家族はそのショックによって記憶に相違が出ているかもしれないし、物事は公平に、多面的に見なければならない。小さな集落では往々にして排他的で、他所の人間には冷たく対応することがある。
警察はそんな話を信じてもくれず、家族が手を出すことをあまり良しとしていないらしい。探偵なんぞに依頼がくるわけである。
「わかりました。その方面も重点的に捜査させていただきます」
「お願い、します……」
「言ってはなんですが、警察はあてにならない」
「皆で妹を隠してるに決まってる……!」
母親がもっとも心労を溜めているようだが、他の家族も良い状態とは言えなかった。大体の方針は決まったので、到着直ぐに調査を開始することにした。時刻はもう夕方に迫っていたが、少しは足を使っておかないと車を出してくれた彼らに悪い。
翠華を降ろすと車は集落の外で待機することになり、連絡を入れたら迎えに来てくれるという取り決めだ。こうして、このどこか寂れて見える黄昏の町を調査することになる。物陰に何かが潜んでいそうなほどに薄暗く、静まり返っており、通りかかる住人は一様に険しい視線を向けてくる。
少し排他的な反応なのだと考え、翠華は愛想笑いなど浮かべてすれ違っていく。
「すみません」
まず息女が居なくなる直前に立ち寄ったという公園で遭遇した、男性に声を掛けた。こんな時間に1人でベンチに座っているのを見れば、なんとなく気になるというもの。
「なんですか?」
50代ぐらいに見える顔を上げて、手元で操作していたスマフォを仕舞った。声音は少し不機嫌そうだ。しかし、翠華の立派なものを見た瞬間に少し表情が変わった。
「お伺いしたいことがありまして。一週間前、午後三時ごろにこの公園にいらっしゃいましたか? あっと、私こういう者です」
翠華は愛想笑いを浮かべ、息女のいなくなった時間の公園の様子を訊いた。ちゃんと身元を明かして。
「探偵事務所……? もしかして、ここらでお嬢さんが1人、行方不明になったって言う話ですか?」
「えぇ、もしよろしければ当事務所をよろしくお願いします。それで、ここにいらっしゃいましたか?」
男性は察しが良いようなので、度々この公園を利用していると推察した。そして、周囲を観察したのも合わせて、人為的な何かが働いたのだろうと考えた。確かに里山に近いものの、親に無断で道路を渡って坂道を100メートルほど進んだ先の、人工林の中へと入っていくというような年齢でもない。
地図で道を確認している間に、暇を持て余した少女が視界の悪い公園内で消えるとすればどこか。
「誰かと話しているのを見たとか」
連日報道されているため、顔写真などなくともわかると思った。
「知らないね」
しかし、返ってきた言葉は酷くつっけんどんなものだった。もうこれ以上は関わるなと言わんばかりの、追い払うようなジェスチャーまで。無理に訊き出そうとすれば他の住人にまで悪い噂を広められそうなので、翠華はそこで引き下がることにする。
「お時間を取らせてすみません。何か思い出したら、名刺の連絡先までお願いします」
言い残してその場を離れた。その後は、周辺数百メートルの民家の住人に訊いて回る。
庭先で、犬小屋に赤いペンキを塗っている男性を見つけた。
「すみません。お時間、よろしいですか? 私、こういう者なんですが」
さっきと同じ感覚で声を掛け、身元を明かした。170を超える長身ということもあって、女だてらに舐められることは少ない。
「あぁ? なんですか……?」
「お邪魔しても? 最近、この辺りで行方不明になったという子のことなんですけど」
生け垣越しも大変なので、断って敷地内に入れて貰った。老いた犬との一人暮らしという、なんとも寂しそうな男性に翠華の豊満な体は少し刺激的だったようだ。断る様子もなく、名刺と彼女を交互に少しの間だけ眺めてから思案する。
首都を出て東北の端へとやってきたというのに、ここ最近の日和はまだ人々の体を苛む。迎えの車内はクーラーが利いていると良いななどと、女性は汗で張り付いたシャツの胸元を引っ張る。少しだけ風が通った。
たわわな胸元に向けられる通行人達の不快な視線を、いつものことと耐えながら駅の改札を潜る。すると、依頼人が待っていてフェリーでT海峡を渡ってくれるという話。そこから目的地の町だか村まで半日ぐらいだということを、先に調べてあった。
「あれね」
小さな駅には似合わない白いワゴンタイプの車を見つけ、女性は小さく呟くと早足に向かってドアをノックした。直ぐにスライドドアが開き、家族と思しき三名が顔を見せた。運転席と助手席、真ん中の列の座席に一人ずつ。
少し大仰な出迎えに身を強張らせるが、行方不明の息女を探すともなれば必死なのだろう。そう考えることにして、女性はショートカットの髪を縦に振って挨拶する。
「ご依頼人の……関係者の方々ですね? 私、八月朔日 翠華と申します」
更にはハンドバックから名刺ケースを取り出し、改めて『はづき探偵事務所』の職員であることを伝えた。本当は探偵助手という雑務を主にする立場なのだが、デスクワークは性に合わずいつもこうして率先して仕事へと駆け出してくるのである。
「は、はい。娘を、どうか娘を……うぅ」
真ん中の座席にいた女性が、母親が涙ながらに頼んできた。
「全力を尽くさせていただきます」
確証などないとは言え、少しでも安心させてやりたくて翠華は言った。他の家族であろう男性2人も、沈痛な面持ちをして彼女のことを見ていた。
見た目の年から、運転席の男性が父親で、助手席の人物が息子さんだろう。目的地へ到着するまでに、電話では確認できなかった部分を訊くことにする。村だか町だかでどういう状況で息女がいなくなったのか、そういったことを絵に書くなどして整理していくのだ。
しかし、訊けば訊くほど里山に入って居なくなったようには思えない。
「けれど、そこの人達は娘さんを見ていないと言うんですね?」
「はい……。彼らが嘘をついているようにしか思えませんッ」
母親の言う通りなのだが、まずはそれも含めて集落の人達にも話を訊かなければならない。家族はそのショックによって記憶に相違が出ているかもしれないし、物事は公平に、多面的に見なければならない。小さな集落では往々にして排他的で、他所の人間には冷たく対応することがある。
警察はそんな話を信じてもくれず、家族が手を出すことをあまり良しとしていないらしい。探偵なんぞに依頼がくるわけである。
「わかりました。その方面も重点的に捜査させていただきます」
「お願い、します……」
「言ってはなんですが、警察はあてにならない」
「皆で妹を隠してるに決まってる……!」
母親がもっとも心労を溜めているようだが、他の家族も良い状態とは言えなかった。大体の方針は決まったので、到着直ぐに調査を開始することにした。時刻はもう夕方に迫っていたが、少しは足を使っておかないと車を出してくれた彼らに悪い。
翠華を降ろすと車は集落の外で待機することになり、連絡を入れたら迎えに来てくれるという取り決めだ。こうして、このどこか寂れて見える黄昏の町を調査することになる。物陰に何かが潜んでいそうなほどに薄暗く、静まり返っており、通りかかる住人は一様に険しい視線を向けてくる。
少し排他的な反応なのだと考え、翠華は愛想笑いなど浮かべてすれ違っていく。
「すみません」
まず息女が居なくなる直前に立ち寄ったという公園で遭遇した、男性に声を掛けた。こんな時間に1人でベンチに座っているのを見れば、なんとなく気になるというもの。
「なんですか?」
50代ぐらいに見える顔を上げて、手元で操作していたスマフォを仕舞った。声音は少し不機嫌そうだ。しかし、翠華の立派なものを見た瞬間に少し表情が変わった。
「お伺いしたいことがありまして。一週間前、午後三時ごろにこの公園にいらっしゃいましたか? あっと、私こういう者です」
翠華は愛想笑いを浮かべ、息女のいなくなった時間の公園の様子を訊いた。ちゃんと身元を明かして。
「探偵事務所……? もしかして、ここらでお嬢さんが1人、行方不明になったって言う話ですか?」
「えぇ、もしよろしければ当事務所をよろしくお願いします。それで、ここにいらっしゃいましたか?」
男性は察しが良いようなので、度々この公園を利用していると推察した。そして、周囲を観察したのも合わせて、人為的な何かが働いたのだろうと考えた。確かに里山に近いものの、親に無断で道路を渡って坂道を100メートルほど進んだ先の、人工林の中へと入っていくというような年齢でもない。
地図で道を確認している間に、暇を持て余した少女が視界の悪い公園内で消えるとすればどこか。
「誰かと話しているのを見たとか」
連日報道されているため、顔写真などなくともわかると思った。
「知らないね」
しかし、返ってきた言葉は酷くつっけんどんなものだった。もうこれ以上は関わるなと言わんばかりの、追い払うようなジェスチャーまで。無理に訊き出そうとすれば他の住人にまで悪い噂を広められそうなので、翠華はそこで引き下がることにする。
「お時間を取らせてすみません。何か思い出したら、名刺の連絡先までお願いします」
言い残してその場を離れた。その後は、周辺数百メートルの民家の住人に訊いて回る。
庭先で、犬小屋に赤いペンキを塗っている男性を見つけた。
「すみません。お時間、よろしいですか? 私、こういう者なんですが」
さっきと同じ感覚で声を掛け、身元を明かした。170を超える長身ということもあって、女だてらに舐められることは少ない。
「あぁ? なんですか……?」
「お邪魔しても? 最近、この辺りで行方不明になったという子のことなんですけど」
生け垣越しも大変なので、断って敷地内に入れて貰った。老いた犬との一人暮らしという、なんとも寂しそうな男性に翠華の豊満な体は少し刺激的だったようだ。断る様子もなく、名刺と彼女を交互に少しの間だけ眺めてから思案する。
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