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15話・『アズマ視点』・サトリ妖怪は悟りたくない
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変わらない朝と少し早い目の起床。トースターがこんがりきつね色に焼けた食パンを吐き出し、ポンッというホップアップ音を目覚まし時計に目を開いた。
今朝はパン食か。と俺は期待しつつ、眼鏡を探しだしていつもの定位置へと装着する。
「あ、おはようございます。もうソーセージも焼けますよ」
ベッドから出ている最中にも、相変わらず朝食を作ってくれているスズが声をかけてくれた。
俺は急ぎ手洗い洗顔と終わらせ、用意の終わった食卓へと着く。
「いただきます」
マーガリンの香るトーストと肉汁の滴るソーセージ、スクランブルエッグ&レタスの彩り、素晴らしい朝食を前に感謝を述べた。当然、スズへと命へ。
まずメインのソーセージを一口。
熱で皮が裂けていてもパリッと弾け、噛み砕く度に合い挽き肉が脂の中で解れながら旨味とともに喉へと流れ込む。
うっかり完全に飲み込んでしまいそうになったが、俺は慌ててトーストを頬張った。パンの耳が肉汁を捉え、滑り落ちそうだったソーセージを掴み取りランデブーを開始する。
「ん~」
口内で維持された洋のコラボレーションに思わず唸ってしまった。
うまい!
「ありがとうござます」
スズはにっこりと微笑んでくれた。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
何やら違和感があったものの、スズが嬉しそうだったので頭からすっぽ抜けてしまった。
「あ、スクランブルエッグはマヨネーズですか? それともタルタルソースにします?」
もう一品に何もかかっていないことへの反応とみなしたようだ。朝の時間のないタイミングで、そこまで作っていたとは驚きだ。
「昨日から、なんだか気分で仕込んでいたんです。ピクルス、上手くできてますか?」
「へぇ。そういうことか」
なんてことのない事実を伝えられたが、わざわざ用意してくれたことが嬉しい。スズにつられて頬がほころんでしまいそうになるのを抑え、俺はタルタルソース掛けの卵とレタスを口にする。
きゅうりのピクルスまでわざわざ作って混ぜ込んでいるのだから、前もって作ってあったという事実など些細なことである。
主張しすぎず、けれど爽やかな酸味がマヨネーズとスクランブルエッグとレタスをつなぎとめていた。これにパンを混ぜ込めば、ソーセージに負けず劣らずの一品になる。
「もぐもぐ」
美味しい。俺はシンプルにそう評価した。
「ありがとうございます」
またしても、スズは笑みを浮かべて答えた。
そして、やはりというべきか俺は違和感の正体に気づき始める。
俺は先程、声に出しただろうか?
「あれ? あッ」
俺の疑念に対して、スズもおかしな事実を理解し反応を示した。
もしかしなくとも、スズは妖力により俺の心を悟っているのだ。由々しき事態である。
「すみません……。ここのところ、誰の心も読んでいなかったもので……」
「い、いや、わざとじゃないんだから仕方ないさ……」
謝るスズをなだめるも、互いに視線を逸した状態では説得力などなかった。妖力の暴走のことどころか、スズがサトリ妖怪であること自体を忘れていたのが敗因か。
スズは妖力が元から弱いため、無意識とは言えあまり顔を突き合わせていなければなんとかなると言っていた。が、どうだろうか。
最たる問題は、心を悟ることではない。
「あの、その……先生のお考えを読み取るのは、学業としても良くはないので。えっと、クラスの誰かにお願いしますから、先に出掛けますね」
「あ、あぁ……いってらっしゃい」
「片付けは帰ってきてからやりますから、桶に水を貼って」
「大丈夫。大丈夫だから」
スズは食べかけの朝ごはんにラップを張り、そそくさと出掛けていこうとした。俺が引き止められなかったのは、サトリ妖怪の本質は読み取った内容をもって相手を挑発することにある事実を知っているからだ。
昔話にも語られている通りである。
どこまで読み取れるかは知らないが、スズが遠慮するのであれば仕方ない。俺は思考や怒りなどを自制できると思っていたが、誰も信じないし保証もできるはずもなし。
「今、自分の心を過信しましたハッ……」
スズが少し気を抜いた瞬間に、暴走の本領が表出してしまった。本人も慌てて言葉を留める。
罪悪感に苛まれているのが、口を手で抑えている顔からも伺えてしまう。そんな健気な姿に俺の気持ちもうずき、過信した舌の根も乾かないうちに考えてしまった。
あぁ、やっぱりスズのことがす……ってスタァァァァァップ!
慌てて思考を誤魔化してみるも、スズを見やれば頭から煙を吹いているじゃないか!
「あ、あの……今、私のことを……いえ、読み間違え、ですよねッ」
俺は慌てて、自分の気持ちにウソをつこうとするスズの言葉を否定した。
「そう! 何らかの混線だ! 生徒に特別な感情を抱くなんてことなどあるはずがない!」
あ、語るに落ちた……。
「でででで、では、行ってきます!」
スズはもはや、居ても立っても居られず部屋を飛び出していった。
すまない……。
今朝はパン食か。と俺は期待しつつ、眼鏡を探しだしていつもの定位置へと装着する。
「あ、おはようございます。もうソーセージも焼けますよ」
ベッドから出ている最中にも、相変わらず朝食を作ってくれているスズが声をかけてくれた。
俺は急ぎ手洗い洗顔と終わらせ、用意の終わった食卓へと着く。
「いただきます」
マーガリンの香るトーストと肉汁の滴るソーセージ、スクランブルエッグ&レタスの彩り、素晴らしい朝食を前に感謝を述べた。当然、スズへと命へ。
まずメインのソーセージを一口。
熱で皮が裂けていてもパリッと弾け、噛み砕く度に合い挽き肉が脂の中で解れながら旨味とともに喉へと流れ込む。
うっかり完全に飲み込んでしまいそうになったが、俺は慌ててトーストを頬張った。パンの耳が肉汁を捉え、滑り落ちそうだったソーセージを掴み取りランデブーを開始する。
「ん~」
口内で維持された洋のコラボレーションに思わず唸ってしまった。
うまい!
「ありがとうござます」
スズはにっこりと微笑んでくれた。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
何やら違和感があったものの、スズが嬉しそうだったので頭からすっぽ抜けてしまった。
「あ、スクランブルエッグはマヨネーズですか? それともタルタルソースにします?」
もう一品に何もかかっていないことへの反応とみなしたようだ。朝の時間のないタイミングで、そこまで作っていたとは驚きだ。
「昨日から、なんだか気分で仕込んでいたんです。ピクルス、上手くできてますか?」
「へぇ。そういうことか」
なんてことのない事実を伝えられたが、わざわざ用意してくれたことが嬉しい。スズにつられて頬がほころんでしまいそうになるのを抑え、俺はタルタルソース掛けの卵とレタスを口にする。
きゅうりのピクルスまでわざわざ作って混ぜ込んでいるのだから、前もって作ってあったという事実など些細なことである。
主張しすぎず、けれど爽やかな酸味がマヨネーズとスクランブルエッグとレタスをつなぎとめていた。これにパンを混ぜ込めば、ソーセージに負けず劣らずの一品になる。
「もぐもぐ」
美味しい。俺はシンプルにそう評価した。
「ありがとうございます」
またしても、スズは笑みを浮かべて答えた。
そして、やはりというべきか俺は違和感の正体に気づき始める。
俺は先程、声に出しただろうか?
「あれ? あッ」
俺の疑念に対して、スズもおかしな事実を理解し反応を示した。
もしかしなくとも、スズは妖力により俺の心を悟っているのだ。由々しき事態である。
「すみません……。ここのところ、誰の心も読んでいなかったもので……」
「い、いや、わざとじゃないんだから仕方ないさ……」
謝るスズをなだめるも、互いに視線を逸した状態では説得力などなかった。妖力の暴走のことどころか、スズがサトリ妖怪であること自体を忘れていたのが敗因か。
スズは妖力が元から弱いため、無意識とは言えあまり顔を突き合わせていなければなんとかなると言っていた。が、どうだろうか。
最たる問題は、心を悟ることではない。
「あの、その……先生のお考えを読み取るのは、学業としても良くはないので。えっと、クラスの誰かにお願いしますから、先に出掛けますね」
「あ、あぁ……いってらっしゃい」
「片付けは帰ってきてからやりますから、桶に水を貼って」
「大丈夫。大丈夫だから」
スズは食べかけの朝ごはんにラップを張り、そそくさと出掛けていこうとした。俺が引き止められなかったのは、サトリ妖怪の本質は読み取った内容をもって相手を挑発することにある事実を知っているからだ。
昔話にも語られている通りである。
どこまで読み取れるかは知らないが、スズが遠慮するのであれば仕方ない。俺は思考や怒りなどを自制できると思っていたが、誰も信じないし保証もできるはずもなし。
「今、自分の心を過信しましたハッ……」
スズが少し気を抜いた瞬間に、暴走の本領が表出してしまった。本人も慌てて言葉を留める。
罪悪感に苛まれているのが、口を手で抑えている顔からも伺えてしまう。そんな健気な姿に俺の気持ちもうずき、過信した舌の根も乾かないうちに考えてしまった。
あぁ、やっぱりスズのことがす……ってスタァァァァァップ!
慌てて思考を誤魔化してみるも、スズを見やれば頭から煙を吹いているじゃないか!
「あ、あの……今、私のことを……いえ、読み間違え、ですよねッ」
俺は慌てて、自分の気持ちにウソをつこうとするスズの言葉を否定した。
「そう! 何らかの混線だ! 生徒に特別な感情を抱くなんてことなどあるはずがない!」
あ、語るに落ちた……。
「でででで、では、行ってきます!」
スズはもはや、居ても立っても居られず部屋を飛び出していった。
すまない……。
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