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16話・『スズ視点』・妖パワー
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少し時間を戻ったところから話さねばなりません。
あれは、登校もほぼ終わりを迎え校庭へと足を踏み入れたときのことです。
私がベルちゃんとリンリンちゃんの二人と一緒に校門をくぐり、少し前にはクラスメイトであるウコちゃん背中。さらに前では、男子生徒と女子生徒が言い争いをしていました。
たまには見かける珍しくもない登校風景ですが、今回は少しだけ様子が違いました。
「またやってるみたいね。鰐瀬くんとアメは」
ベルちゃんが、男子生徒こと鰐瀬 光晴くんと雪女のアメちゃんの口喧嘩について呆れたように言いました。
「あれで実は痴話喧嘩だから、犬も食わねぇってもんだぜ」
続いてリンリンちゃんが二人のことを笑いました。
「そういう言い方はメッですよ……」
私はリンリンちゃんを軽く叱りつけますが、事実と言われれば事実なので悩みました。
良く、人間が偉い妖が偉いと言い合ってはいるものの、実は二人とも仲が悪いなんてことはなかったりします。それは、私の妖力が暴走した際の手助けをしてくれた鰐瀬くんから……あぁ、これは秘密の話でしたね。
秘密をしゃべると雪女は怒ってしまうのでお口にチャックです。
「うおッ!」
そうこうしているうちに、鰐瀬くんが声を上げたんです。
声の方をみると、何やらウコちゃんが鰐瀬くん達ににじり寄っているのが見えます。
「なによ、ウコ……」
アメちゃんも反応を示しましたが、ただ言い争いを止めようと近づいたのとは違うようです。
「フーッ! モォーッ!」
ウコちゃんはただならぬ様子で鳴き声を張り上げました。
その場にいた誰もが、すぐさま妖力の暴走だと理解します。
「暴走してやがる! うおぉッ!」
ウコちゃんのパンチがドゴンッと地面をえぐったのを、鰐瀬くんはギリギリのところで避けました。
「妖力というより膂力だわね!」
アメちゃんもなんとか反応して飛び退ると、鰐瀬くんを助け起こしてその場を離れます。
多分、鰐瀬くんが赤いTシャツを着ていることに反応したのでしょう。闘牛のように鰐瀬くんを追いかけようとするウコちゃん。
「クソッ、こっちにきやがった!」
「私は先生達を読んでくるわ! なんとかひきつけておいて!」
悪態をつく鰐瀬くんに、ベルちゃんは伝えると校舎へと走って行きました。
簡単に言っていましたが、並大抵の人間や妖に止められるほどウコちゃんの怪力は甘くありません。寸前のところで鰐瀬くんが避けてウコちゃんが突っ込んでいった野球用のバックネットが、突進の衝撃でグワングワンと揺れた上にやや傾きました。
腕を一振りすれば、地面に1メートル半径のクレーターが出来上がります。
私や、肩で何やらモゾモゾしているリンリンちゃんを除いて、生徒は全員逃げたようです。
「ハァハァ! くそっ、いつまで! 走りゃ!」
ここで鰐瀬くんの足がもつれて転びました。鰐瀬くんも決して運動能力で同年代と劣ることはありませんが、さすがに全力で5分の闘牛のマネごとができるほどでは……。
もうダメだと思い、ウコちゃんの足が大きく上げられたところで目を閉じてしまいました。
が、リンリンちゃんが肩から降りたのが伝わり、突風が周囲の軽いものを手当り次第に巻き上げたのがわかりました。
「モゥォッ!!!」
次の瞬間、ウコちゃんの叫び声が響き渡ったのです。
何事かと目を開ければ、リンリンちゃんがバク宙を決めて着地するところでした。そして、更にはウコちゃんまでもが数メートルほどよろけているではありませんか。
そう、まさかですがリンリンちゃんは30センチもない体で2メートル強を蹴り飛ばしたんです。
「もういっちょ!」
だけにとどまらず、走り寄ったかと思えば垂直に飛び上がりウコちゃんの胸のあたりを蹴りつけました。
さらに、よろけるウコちゃんへたたみかけるように、着地から倒れる先へと回り込んでの背面へアッパーカット。
男子生徒の皆がたまに読んでいる漫画にでもありそうな光景が、目の前で繰り広げられているのです。
「すごい……」
もはやそう言わざるを得ないほど、私はリンリンちゃんの動きに見惚れてしまいました。果たして、あの人形みたいな姿のどこにこれほどの力があるのかと。
ほどなくして勝負とも言えない決着は出て、地面に倒れていたのはウコちゃんです。
先生達がやってきたことで、まだ1分も経過していないのだという現実を理解しました。
「さすがね」
ウコちゃんが寝ている側にリンリンちゃんが佇み砂埃を払っている姿を見ただけで、戻ってきたベルちゃんは状況を理解したようです。何やら言いしれない気持ちが込み上がりました。
私はそれを飲み込み、起こったことをアズマ先生や教頭先生に話しました。
これらの結果は、ベルちゃんもウコちゃんの暴走を伝えてくれていたおかげか大きな騒ぎにはなりませんでした。
最大の功労者曰く。
「アイ・アム・ナンバーワン」
とのことです。
あれは、登校もほぼ終わりを迎え校庭へと足を踏み入れたときのことです。
私がベルちゃんとリンリンちゃんの二人と一緒に校門をくぐり、少し前にはクラスメイトであるウコちゃん背中。さらに前では、男子生徒と女子生徒が言い争いをしていました。
たまには見かける珍しくもない登校風景ですが、今回は少しだけ様子が違いました。
「またやってるみたいね。鰐瀬くんとアメは」
ベルちゃんが、男子生徒こと鰐瀬 光晴くんと雪女のアメちゃんの口喧嘩について呆れたように言いました。
「あれで実は痴話喧嘩だから、犬も食わねぇってもんだぜ」
続いてリンリンちゃんが二人のことを笑いました。
「そういう言い方はメッですよ……」
私はリンリンちゃんを軽く叱りつけますが、事実と言われれば事実なので悩みました。
良く、人間が偉い妖が偉いと言い合ってはいるものの、実は二人とも仲が悪いなんてことはなかったりします。それは、私の妖力が暴走した際の手助けをしてくれた鰐瀬くんから……あぁ、これは秘密の話でしたね。
秘密をしゃべると雪女は怒ってしまうのでお口にチャックです。
「うおッ!」
そうこうしているうちに、鰐瀬くんが声を上げたんです。
声の方をみると、何やらウコちゃんが鰐瀬くん達ににじり寄っているのが見えます。
「なによ、ウコ……」
アメちゃんも反応を示しましたが、ただ言い争いを止めようと近づいたのとは違うようです。
「フーッ! モォーッ!」
ウコちゃんはただならぬ様子で鳴き声を張り上げました。
その場にいた誰もが、すぐさま妖力の暴走だと理解します。
「暴走してやがる! うおぉッ!」
ウコちゃんのパンチがドゴンッと地面をえぐったのを、鰐瀬くんはギリギリのところで避けました。
「妖力というより膂力だわね!」
アメちゃんもなんとか反応して飛び退ると、鰐瀬くんを助け起こしてその場を離れます。
多分、鰐瀬くんが赤いTシャツを着ていることに反応したのでしょう。闘牛のように鰐瀬くんを追いかけようとするウコちゃん。
「クソッ、こっちにきやがった!」
「私は先生達を読んでくるわ! なんとかひきつけておいて!」
悪態をつく鰐瀬くんに、ベルちゃんは伝えると校舎へと走って行きました。
簡単に言っていましたが、並大抵の人間や妖に止められるほどウコちゃんの怪力は甘くありません。寸前のところで鰐瀬くんが避けてウコちゃんが突っ込んでいった野球用のバックネットが、突進の衝撃でグワングワンと揺れた上にやや傾きました。
腕を一振りすれば、地面に1メートル半径のクレーターが出来上がります。
私や、肩で何やらモゾモゾしているリンリンちゃんを除いて、生徒は全員逃げたようです。
「ハァハァ! くそっ、いつまで! 走りゃ!」
ここで鰐瀬くんの足がもつれて転びました。鰐瀬くんも決して運動能力で同年代と劣ることはありませんが、さすがに全力で5分の闘牛のマネごとができるほどでは……。
もうダメだと思い、ウコちゃんの足が大きく上げられたところで目を閉じてしまいました。
が、リンリンちゃんが肩から降りたのが伝わり、突風が周囲の軽いものを手当り次第に巻き上げたのがわかりました。
「モゥォッ!!!」
次の瞬間、ウコちゃんの叫び声が響き渡ったのです。
何事かと目を開ければ、リンリンちゃんがバク宙を決めて着地するところでした。そして、更にはウコちゃんまでもが数メートルほどよろけているではありませんか。
そう、まさかですがリンリンちゃんは30センチもない体で2メートル強を蹴り飛ばしたんです。
「もういっちょ!」
だけにとどまらず、走り寄ったかと思えば垂直に飛び上がりウコちゃんの胸のあたりを蹴りつけました。
さらに、よろけるウコちゃんへたたみかけるように、着地から倒れる先へと回り込んでの背面へアッパーカット。
男子生徒の皆がたまに読んでいる漫画にでもありそうな光景が、目の前で繰り広げられているのです。
「すごい……」
もはやそう言わざるを得ないほど、私はリンリンちゃんの動きに見惚れてしまいました。果たして、あの人形みたいな姿のどこにこれほどの力があるのかと。
ほどなくして勝負とも言えない決着は出て、地面に倒れていたのはウコちゃんです。
先生達がやってきたことで、まだ1分も経過していないのだという現実を理解しました。
「さすがね」
ウコちゃんが寝ている側にリンリンちゃんが佇み砂埃を払っている姿を見ただけで、戻ってきたベルちゃんは状況を理解したようです。何やら言いしれない気持ちが込み上がりました。
私はそれを飲み込み、起こったことをアズマ先生や教頭先生に話しました。
これらの結果は、ベルちゃんもウコちゃんの暴走を伝えてくれていたおかげか大きな騒ぎにはなりませんでした。
最大の功労者曰く。
「アイ・アム・ナンバーワン」
とのことです。
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