サトリ妖怪ちゃんは悟らない。これは恋ですか?いいえ、余計なお世話です。

AAKI

文字の大きさ
17 / 21

16話・『スズ視点』・妖パワー

しおりを挟む
 少し時間を戻ったところから話さねばなりません。

 あれは、登校もほぼ終わりを迎え校庭へと足を踏み入れたときのことです。

 私がベルちゃんとリンリンちゃんの二人と一緒に校門をくぐり、少し前にはクラスメイトであるウコちゃん背中。さらに前では、男子生徒と女子生徒が言い争いをしていました。

 たまには見かける珍しくもない登校風景ですが、今回は少しだけ様子が違いました。

「またやってるみたいね。鰐瀬くんとアメは」

 ベルちゃんが、男子生徒こと鰐瀬わにぜ 光晴みつはるくんと雪女のアメちゃんの口喧嘩について呆れたように言いました。

「あれで実は痴話喧嘩だから、犬も食わねぇってもんだぜ」

 続いてリンリンちゃんが二人のことを笑いました。

「そういう言い方はメッですよ……」

 私はリンリンちゃんを軽く叱りつけますが、事実と言われれば事実なので悩みました。

 良く、人間が偉い妖が偉いと言い合ってはいるものの、実は二人とも仲が悪いなんてことはなかったりします。それは、私の妖力が暴走した際の手助けをしてくれた鰐瀬くんから……あぁ、これは秘密の話でしたね。

 秘密をしゃべると雪女は怒ってしまうのでお口にチャックです。

「うおッ!」

 そうこうしているうちに、鰐瀬くんが声を上げたんです。

 声の方をみると、何やらウコちゃんが鰐瀬くん達ににじり寄っているのが見えます。

「なによ、ウコ……」

 アメちゃんも反応を示しましたが、ただ言い争いを止めようと近づいたのとは違うようです。

「フーッ! モォーッ!」

 ウコちゃんはただならぬ様子で鳴き声を張り上げました。

 その場にいた誰もが、すぐさま妖力の暴走だと理解します。

「暴走してやがる! うおぉッ!」

 ウコちゃんのパンチがドゴンッと地面をえぐったのを、鰐瀬くんはギリギリのところで避けました。

「妖力というより膂力だわね!」

 アメちゃんもなんとか反応して飛び退ると、鰐瀬くんを助け起こしてその場を離れます。

 多分、鰐瀬くんが赤いTシャツを着ていることに反応したのでしょう。闘牛のように鰐瀬くんを追いかけようとするウコちゃん。

「クソッ、こっちにきやがった!」

「私は先生達を読んでくるわ! なんとかひきつけておいて!」

 悪態をつく鰐瀬くんに、ベルちゃんは伝えると校舎へと走って行きました。

 簡単に言っていましたが、並大抵の人間や妖に止められるほどウコちゃんの怪力は甘くありません。寸前のところで鰐瀬くんが避けてウコちゃんが突っ込んでいった野球用のバックネットが、突進の衝撃でグワングワンと揺れた上にやや傾きました。

 腕を一振りすれば、地面に1メートル半径のクレーターが出来上がります。

 私や、肩で何やらモゾモゾしているリンリンちゃんを除いて、生徒は全員逃げたようです。

「ハァハァ! くそっ、いつまで! 走りゃ!」

 ここで鰐瀬くんの足がもつれて転びました。鰐瀬くんも決して運動能力で同年代と劣ることはありませんが、さすがに全力で5分の闘牛のマネごとができるほどでは……。

 もうダメだと思い、ウコちゃんの足が大きく上げられたところで目を閉じてしまいました。

 が、リンリンちゃんが肩から降りたのが伝わり、突風が周囲の軽いものを手当り次第に巻き上げたのがわかりました。

「モゥォッ!!!」

 次の瞬間、ウコちゃんの叫び声が響き渡ったのです。

 何事かと目を開ければ、リンリンちゃんがバク宙を決めて着地するところでした。そして、更にはウコちゃんまでもが数メートルほどよろけているではありませんか。

 そう、まさかですがリンリンちゃんは30センチもない体で2メートル強を蹴り飛ばしたんです。

「もういっちょ!」

 だけにとどまらず、走り寄ったかと思えば垂直に飛び上がりウコちゃんの胸のあたりを蹴りつけました。

 さらに、よろけるウコちゃんへたたみかけるように、着地から倒れる先へと回り込んでの背面へアッパーカット。

 男子生徒の皆がたまに読んでいる漫画にでもありそうな光景が、目の前で繰り広げられているのです。

「すごい……」

 もはやそう言わざるを得ないほど、私はリンリンちゃんの動きに見惚れてしまいました。果たして、あの人形みたいな姿のどこにこれほどの力があるのかと。

 ほどなくして勝負とも言えない決着は出て、地面に倒れていたのはウコちゃんです。

 先生達がやってきたことで、まだ1分も経過していないのだという現実を理解しました。

「さすがね」

 ウコちゃんが寝ている側にリンリンちゃんが佇み砂埃を払っている姿を見ただけで、戻ってきたベルちゃんは状況を理解したようです。何やら言いしれない気持ちが込み上がりました。

 私はそれを飲み込み、起こったことをアズマ先生や教頭先生に話しました。

 これらの結果は、ベルちゃんもウコちゃんの暴走を伝えてくれていたおかげか大きな騒ぎにはなりませんでした。

 最大の功労者曰く。

「アイ・アム・ナンバーワン」

 とのことです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...